海辺でパソコンを開くアドレスホッパー

33都府県90拠点に滞在、アドレスホッパーが選択する理想のくらし

あなたにとって、「理想のくらし」とは何ですか? 改めて問われると即答するのは難しいと感じる方もいるかもしれません。株式会社ニットでコミュニティマネージャーとして組織活性に取り組む西出裕貴さんも、その問いへの答えを追求し続けている人の一人です。西出さんは、月定額で全国210か所以上の契約施設に住み放題の「ADDress」というサービスを利用して、定住先を持たない多拠点生活をしています。津々浦々90拠点に滞在し、さまざまな出会いを通じて、人々の理想のくらしが千差万別であることを実感した西出さんに、「自分が理想とする未来を選択する」ことへの想いを伺いました。

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ライター

齊藤由佳
山口県出身。大学進学で上京後、食品メーカーで営業職として勤務。その後結婚を機に、機械専門商社の営業事務に転職。
娘を0歳から保育園に入れて働き続けていたが、70歳まで働く時代。娘の小さい時くらいそばにいてあげたいと思いHELP YOUにジョイン。
いろいろな仕事に挑戦できるHELP YOUでスキルアップを目指し修行中。→執筆記事一覧

「好き」への情熱が引き寄せた人生の転換点

寝転んでパソコンをする男

西出裕貴さん
大阪府出身。2019年4月に株式会社ニットにジョイン。ニットでは、コミュニティマネージャーとして組織活性やインナーブランディングに関わる各施策を展開しており、他社ではチーフコミュニティビルダーとして街づくりに従事するパラレルワーカー。月定額で全国住み放題のサービス「ADDress」を利用し、定住する家を持たず、日本中を渡り歩くアドレスホッパー。

現在は「コミュニティ」や「組織活性」に関わるお仕事を専門としている西出さんですが、学生時代は一人が好きだったとか?

そうですね。一人が大好きでしたし、すごく人見知りでした。初めて出会った人と話が続かずに訪れる沈黙に耐えられなくて、新たな出会いは極力避けていましたね。その上「石橋を叩いて『壊す』」ような性格でした。新しいことに慎重になりすぎて、結局チャレンジできないタイプ。とにかく、超がつくほどの安定志向で、変化することを嫌い、恐れていました。

イベントの企画運営や街づくりを手がけている今の西出さんからは想像できないですね! 性格を変えるターニングポイントは何だったのでしょう?

高架下音楽祭
きっかけは、大阪市中津で「高架下音楽祭」という街フェスを主催したことです。学生時代、友人と数人で行った「朝霧JAM」というフェスにものすごい衝撃を受け、それ以来フェスの魅力に取りつかれてしまいました。以前はライブを含め何かイベントコンテンツがあると、それを「100%楽しまないといけない」という思いが強かったのですが、「朝霧JAM」では、世界的に有名なアーティストが目の前で歌っているのに、フットサルしている人がいたり、芝生で昼寝している人がいたり、みんな自由に楽しんでいるんです。その光景を見て「もっと自分の好きなように楽しめばいいんだ!」と、それまでの価値観が覆りました。

それから、もっと同世代の人にも自分が感じたようなフェスの魅力を伝えたいと思うようになり、一緒にフェス巡りをしていた友人と協力して中津の街で「高架下音楽祭」を主催したんです。それまで文化祭の実行委員すら経験したことのない自分が「好き」という想いだけで、ゼロから街フェスをつくったことで、「困難なことでも情熱があれば何とかなる!」という自信が生まれました。

当時は何の人脈もなかったんですよね?

はい、全く(笑)。本当にただのフェス好きの若者。計画段階での予算は200万円だったのに、共同で主催した友人と私の貯金を合わせても40万円くらいしかありませんでした。でも「フェスやりたいです!」っていろいろな人に話をしていくと、最初は難色を示しながらも「若者が何か頑張ってるな」という感じで、協力してくれる大人がいるんですよね。「あの人に話を聞いてみれば?」とか「あのフェスにちょっと手伝いに行ってみたら?」とかアドバイスを下さって。そうやって人脈を辿り、たくさんの方に助けていただきながら、開催を実現できました。心配していた収支もとんとんで赤字にはならずに済んで良かったです。

西出さんたちの熱意が、周りを動かしていったんですね! 人見知りの性格はその経験の過程で変化していったのですか?

そうですね。一緒に主催した友人がイケイケなタイプで、当時の私とは真逆の性格だったんですよね。まずは街フェスの舞台となる商店街にごあいさつに行こう、となった時も、「今日はやっぱりやめた方がいいんじゃないか」とか、私は考えすぎて尻込みしてしまうのですが、待ち合わせに遅れてきた友人は「よし、じゃあいくぞ!」って何のためらいもなくお店に入って、どんどんコミュニケーションを取っていくんです。そういう姿を見ていると、自分も、もうやるしかないなって。

それまでの自分は、やりたいと思うことがあっても、できない理由をあれこれ探してチャレンジを諦めていました。それに、やりたいかどうかというより、社会的にどうか、周りの反応はどうか、という視点にばかり囚われていて、自分の素直な気持ちに向き合っていなかったんです。

友人のように自ら積極的にコミュニケーションを取りにいくようになって、今までいろいろなチャレンジを避けチャンスを見逃していた自分も、「失敗しても死ぬことはない」と腹をくくれば、だいたい何でもできると思えるようになりました。

多拠点生活で得たさまざまな人との出会い

青空の下で談笑する男性たち

渡米前のご友人と大好きな白馬で合流したときの一枚。塩尻や鎌倉から駆け付けたご友人も。

西出さんがニットに入社した理由を教えてください。

場所に囚われない働き方を求めていたこともありますが、最終的な理由はニットの掲げる「未来を自分で選択できる社会をつくる」というビジョンに共感し、仕事内容やメンバーに魅力を感じたからです。

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なぜ場所に囚われないお仕事を探されていたのですか?

社会人になってからはずっと東京で働いていましたが、2018年の年末に父親が末期がんで余命1年と宣告され、実家がある大阪で家族と過ごす時間をもっと増やしたいと思うようになったのが理由です。しかし東京では会社員として働いているだけでなく、休日にはイベントやフェス、コミュニティのコンサルやプロデュースをしていたので、プライベートでの活動を続けていくには、東京にも拠点を置いておきたいという思いもありました。

2つの拠点を行き来しながらできる仕事を条件に転職活動をしていたところ、メンバー全員がフルリモートで働くニットに出会ったのです。ただリモートワークができるからという理由だけでニットを選んだのではなく、メンバーが個性的で自分の軸を持っているところに惹かれ、仕事も自身の経験が生かせるような内容だったのでジョインを決めました。

ニットに入社した当初は大阪と東京の2拠点で生活されていたんですよね? 現在のような多拠点生活を始めた理由は何ですか?

一番大きな理由はコストメリットがあったからです。現在は「ADDress」というサービスの、月額44,000円で全国の契約施設に住み放題のプランを利用していますが、それ以前の東京滞在時はホテル暮らしでした。1泊5,000円としても2週間滞在すれば70,000円です。「ADDress」の月額利用料には、電気代・ガス代・水道代のほかネット回線料金も全て含まれているので、移動費を考慮してもホテル暮らしよりは安上がりだな、と思いました。「ADDress」には、同じ拠点に連続して滞在できるのは最大2週間までというルールがあるのですが、月の半分は大阪の実家で過ごすので問題はないな、と。

しかも利用を検討していた時に参加した説明会で、最初の2か月間は半額というキャンペーンを実施中だと知り、「22,000円だったら一回試してみて、もし合わなかったらホテルに切り替えればいいな」と思い切ることができました。

多拠点生活を始めるにあたって、いろいろな場所で人脈を広げたいという思いもあったのでしょうか?

ありましたね。イベント企画や街づくりに携わる仕事もしているので、滞在地で自分がイベントを開催したりコミュニティに参加したりすることで人脈を広げていくというイメージがありましたし、それも多拠点生活の魅力だと思っていました。

ただ、「ADDress」で滞在する家でも人との交流があるとは思っていなかったので、その点は予想外でした。住まいをシェアするので、自分の他にも滞在者はいるのですが、あいさつ程度の会話で終わるんだろうな、と思っていたんです。でも意外と深いコミュニケーションに発展することもあるんですよね。

この2年半で、人とのつながりがものすごく広がりました。滞在する先にどんな人がいるか、実際に行ってみるまで分からないので、普段自分が生活している環境では出会わないような人との出会いもあります。上は80代の方から下は大学生まで。子育て中の方とも出会いました。年齢層も生活スタイルもバラバラな人たちとの出会いは新鮮だし、いろいろな価値観に触れることができて刺激を受けています。

もちろん、出会った人全員とつながりが続くわけではないですが、数回しか会っていなくても意気投合して、深い話までするような親友になることもあるんですよ。

2年半で90拠点に滞在ってすごいことですよね。滞在先はどのように決めているのですか?

いろいろなパターンがあります。よくあるのは、その地域に住んでいる人たちと一緒にプロジェクトをやるなどの仕事を兼ねて滞在先を決める場合。最終の目的地までが遠いときは、中継地点に滞在することもあります。面白いのが、同じ「ADDress」というサービスを利用していても、関東とか、関西とか、九州とか、エリアによって、出会う人の雰囲気が全く違うんですよ。だから、ちょっとした異文化交流を楽しむ感覚で、仕事で用事があるエリアとは全く別のエリアにも意図的に滞在するようにしています。

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他者を思いやりながら自分のやりたいことに素直に生きる

白馬バレーで談笑する二人の男性

西出さんが尊敬する白馬バレー在住の俊さんとの一枚。今年の夏は一緒に「ガチャガチャを回せば、白馬のローカル民と友達になれる!」という「村ガチャ_プロジェクト」の立ち上げを行ったそう。

2年半の多拠点生活の中で、どのようなことを感じましたか?

いろいろな人に出会って、いろいろな生き方があることを知って、人生ってどうにでもなるんだなって思うようになりました。

東京で働いていた頃は、朝から晩までがっつり仕事をして稼いで出世して…というような価値観が一般的かのように錯覚していましたが、そんなことは全然なくて。自分のくらしの中で大切にしていることや価値観は、人によって全然違うということを、この目で見て、改めて実感しましたね。

この2年半で、西出さんが理想とするような生き方をしている方に出会いましたか?

そうですね。今すぐに思い浮かぶ方は2人います。その2人に共通しているのは、やりたいと思ったことや好きなことを突き詰めて徹底的にやりきるという強い信念を持っているところです。その上、彼らの活動は決して自分本位なものではなく、他者への思いやりにあふれています。謙虚だし、相手の話をしっかり聞いて考え方を尊重してくれるし、人柄もとても尊敬しています。

他者を思いやりながらも、情熱と信念を持って自分のやりたいことにまっすぐに向き合っている2人のような生き方を、自分もしていきたいですね。

自分の人生がワクワクする選択を

ガチャガチャの機会を抱える男性

白馬村で始めた「村ガチャ_プロジェクト」。まさかこの年齢でガチャガチャ本体買うとは思わなかった(笑)。白馬村のLUCE by ARISUE SPICEにて設置しているので、ご興味ある方はぜひ!(西出裕貴)

「未来を自分で選択できる社会をつくる」というビジョンを掲げるニットですが、働き方だけでなく来週住む場所でさえも「選択」を続けている西出さんにとって、「選択」するときに大切にしていることは何ですか?

今の自分の基準でいえば「自分がワクワクするかどうか」ですね。AとBの選択肢があったとして、昔なら、より社会的評価の高い方だったり、稼げる方だったりを選んでいたかもしれませんが、今は毎日楽しく生きていけることを重視して選択しています。

あとは、選択することをあまりオーバーに考えすぎないのも大切ですね。やっぱり違った、と思ったら引き返したり方向転換したりすればいいと考えています。以前は、継続は力なりと思っていたこともあり、Aを選択したらAにフルコミットしなきゃいけない! みたいな気持ちがありましたが、今は「あ、違うな。次行こ!」と切り替えられるようになりました。

現状に満足できず別の選択をしたとしても、状況が改善するとは限りませんよね。そう考えて選択を迷う方はたくさんいると思います。そういった方へのメッセージはありますか?

守るべきものがあって選択をためらう方もいると思いますが、取り返しがつくところまで、一回チャレンジしてみるのも良いんじゃないかな、と思います。例えば、今の仕事以外にやりたいことがある場合、いきなり現職を辞めるのではなく、副業から始めてみるのも一つの方法です。副業が禁止されているのであれば、プロボノ(※)でやってみるとか。まずは、お試し感覚でできるところまでやってみて、その選択に進んだときのイメージを具体的に描いてから、本格的にチャレンジするかを決めれば失敗するリスクを減らすことができると思います。

誰に強制されたわけでもなく、自分の意志で進みたい道があるなら、ぜひチャレンジしてほしいですね。

※プロボノ:職業上のスキルや専門知識を無償提供し社会貢献するボランティア活動のこと。「公共善のために」を意味するラテン語” pro bono publico”の略。

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まとめ

今でこそ、コミュニティや人とのつながりを大切に活動されているアドレスホッパーの西出さんですが、学生時代は一人が大好きで変化を嫌う安定志向の持ち主でした。しかし、自分のやりたい気持ちに素直になって、好きという情熱だけで挑戦した街フェスを成功させたことによって、新たな価値観を持つようになりました。
現在は、自分の「行きたい」という気持ちを軸にさまざまな価値観に出会う旅を続け、ご自身の理想のくらしを追求しています。
インタビューの最後に「自分の価値観が凝り固まって守りに入っているような私にも、自分を変えるような転換点があると思いますか?」と西出さんに聞いたところ、「ある。絶対にあると思います!」と力強く答えてくれました。そして、「もし変わりたいという気持ちがあるのなら、場所や環境を変えることは無理でも、会う人や時間の使い方を変えるだけで、違った視点が生まれるかもしれませんよ」とアドバイスを頂きました。
もし、あなたが自分の今の生き方に満足していないなら、小さなところから、新しい価値観や理想のくらしを見つける旅を始めてみませんか?

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アイキャッチデザイン/今泉香織

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