台風で電車が止まっても出勤?「働き方改革」のさなかに取り残される企業 変化する社会

この秋は大きな台風が相次いで日本を直撃し、各地で甚大な被害をもたらしました。一方で、「不要の外出を控えて命を守る行動を」をと呼びかけられている中でも仕事が休みにならず、普段通りに営業しようとする会社と普段通りに出勤しようとする人々があまりにも多いことについて、疑問の声も数多く聞かれます。

そこで、今回の台風に際して企業はどのように対応し、社員は実際にどのように行動したのか、そして自然災害時に危険を冒して出社する慣習がなぜいっこうになくならないのかについて考察してみましょう。

ライター

佐々木康弘
札幌市出身、函館市在住。大手旅行情報誌やニュースサイト、就活サイトなど多数の媒体と契約するフリーランスライター。店舗・商品・人物の取材記事やニュース・芸能記事作成、広告ライティングや企業紹介など幅広いジャンルで年間100万字以上を執筆するほか、校閲も行う。「HELP YOU」ではプロフェッショナルライターとして活動。→執筆記事一覧

台風に備えて休業した企業も

台風19号が上陸した10月12日、小売店では臨時休業が相次ぎました。イトーヨーカ堂は関東と東海地方の全124店舗を臨時休業とし、コンビニ大手3社も関東を中心に合わせて5000軒以上が臨時休業に

外食チェーンでも同様の動きがあり、ガストやバーミヤンなどを運営するすかいらーくホールディングスは、関東・東北の約2100店舗を休業としました。このほか、関東にある自動車工場やビール工場も台風に備えて操業を停止したと報じられています。

産経新聞はこうした動きについて、「休業に対する企業の抵抗感も低下してきた」とする専門家のコメントを紹介。同じ記事ではスーパー関係者も「これまで社会的責任として営業継続にこだわってきたが、最近は従業員への配慮を重視する空気がある」と語っています。

 

台風に備えなかった企業が多数派

とはいえ、台風に備えて会社や店舗を休みにした企業はごく少数派。大多数の企業は台風が来るとわかっていても、なおかつ計画運休が事前に発表されていても、何の手も打つことができませんでした。このことは、都市防災が専門の東京大学の廣井悠准教授が実施した調査によって裏付けられています。

廣井准教授は関東在住の約9500人を対象に、計画運休についての意識を尋ねました。するし、計画運休そのものについては9割以上が賛成で、運転再開を待つ人で駅が大混乱した台風15号の際の計画運休についても、9割弱が「適切だった」答えました。自然災害時には交通機関といえども安全を優先するのは当然だ、と考える人が多いことがうかがえます。

そこで、今度は台風15号の日の出勤状況を尋ねたところ、「いつもどおり出社した」「遅れて出社した」が合わせて約85%に達するという結果に。交通機関が運休するのと会社を休むのとは話が別、という日本の“常識”がくっきりと浮かび上がってきました。

当日出勤や登校の予定があった約500人にさらに詳しく質問したところ、いつも通り出勤(通学)した理由として「出勤を控える指示が出なかったから」との回答が多かったとのこと。「各自で自主判断するように」との指示を受けた人もそれなりにおり、結果として明確な指示を受けなかった人は半数弱を占めていたことがわかりました。そもそも災害時の出勤や登校について明確なルールがないと答えた人も4割に上りました。

このような状況では、従業員が自分の判断で「今日は出社しない」とスパッと決断できるはずがありません。下手をすれば無断欠勤扱いされてしまいます。災害時に長時間かけて出社する光景が繰り返されてきたのは、ひとえに「企業が事前に仕組みを作って対応してこなかったせいである」といえるでしょう。

 

企業に意識の変化が求められている

日本の企業にはまだまだ「何があっても出社するのがやる気のある社員」といった古い精神論がまかり通っているかもしれませんが、ここ何年かで世の中の空気は確実に変わっています。

コンビニ本部とオーナーの対立に端を発した「24時間営業問題」では、「別に24時間営業する必要はないのでは」との声が意外に多く聞かれました。また、スーパーやコンビニ、外食チェーンなどの元日休業も2018年からじわじわと広がりを見せており、これも意外と消費者に好意的に受け止められています。

今回の台風に際しては、「台風なので明日は休みます」と社長にLINEしたところ、「いやそんなの報告しないでよ」「死ぬ可能性あるんだよ?」「命と会社どっちが大事かちゃんと考えて」と返信が来たというTwitterの投稿がネット上で話題になり、「最高の社長」「ここで働きたい」などと絶賛するコメントが集まりました。

このように、仕事に関する日本人の意識は徐々に変化しつつあります。ひと昔前は、何があっても休まずに猛烈に働くビジネスマンがかっこいいとされましたが、今はバランスを取って無理なく働ける企業や働き方こそが人々に「かっこいい」と評価される時代。企業イメージの点から言っても、台風の日に無理やり社員を出社させるより、「社員を大切にする会社」と消費者に認知されることのほうがメリットが大きいといえるのではないでしょうか。

 

思い切って休んだほうが生産性も上がる?

別の観点として、台風など自然災害の際に無理をして会社に行くよりも、思い切って休んだほうが生産性が上がるかもしれないことに触れておきたいと思います。

残念ながら根拠となるデータはありませんが、交通機関が丸一日混乱した台風15号の際に出社した首都圏の方なら、「ようやく会社に着いた頃には疲れ切っていた」との感想を実感として持っているのではないでしょうか。そんな状態では十分なパフォーマンスを発揮するのも難しいはず。

また、モチベーションの低下も無視できない要素です。つまり、昔と違って今は、前述の通り台風に備えて休む企業が増えつつあります。台風でいち早く休業・自宅待機を決断する企業が報道されれば、それと比較して「うちの会社はダメだ」と社員の士気が下がってしまいます。こうしたことの積み重ねがじわじわと不満として溜まっていき、ただ仕事をこなす姿勢や転職意向につながっていく可能性も否定できません。一日休んで台風が抜けてから次の日にそろって出社したら、台風通過後の空のようにまた晴れやかな気持ちで仕事に取り組むことができるのではないでしょうか。

まとめ

相次いで日本を襲った台風に関連して、企業の対応が分かれました。いち早く臨時休業を決めた企業がある一方で、社員になんの指示も出さず、結果的に交通機関の大混乱が発生する事態となりました。近年は社会全体の意識が変化しつつあり、自然災害時の臨時休業に対して消費者の理解が得やすくなっていると思われます。今後は企業側にも意識の変化が求められているといえます。

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