学術論文執筆と企業ライティングの違いとは?ライター歴8か月の元理系研究員が解説! くらしと仕事

学術論文執筆と企業ライティングの違いとは?ライター歴8か月の元理系研究員が解説!

本、新聞、ニュース、ブログなど、日常でよく目にする文章には、コラムニスト、記者、ライターなどと呼ばれる、「書く人」が必ずいます。

では、どうすれば「書く人」になれるのでしょうか?
「文章を書くのは文系の人がやること」
「私は理系だから、文章を書くのは苦手」
そう考える人も多いと思います。

そこでこの記事では、学術論文執筆と企業ライティングの違いについて触れながら、理系の経験を元にライターとして活動していく方法を解説します。

実はあなたも、高いライター適性を持っているかもしれません。
これからライターを目指す方にとって、手掛かりをつかむヒントになれば幸いです。

ライター

岩下直人
千葉県船橋市出身。新卒でスポーツ用品メーカーに就職後、研究員として10年間勤務。退職と同時に家族4人で北海道下川町へ移住。役場職員として勤務していたが、子供と過ごす時間を増やしたいとの思いから再び退職し、HELP YOUにジョイン。現在はフリーランスのWEBライターとして活動しながら、さまざまな業務代行を請け負っている。→執筆記事一覧

学術論文執筆と企業ライティング、両者の違いとは

学術論文と企業発信のWeb記事。同じ文章でも、両者の間には大きな違いがある。

学術論文執筆と企業ライティングの違いについて説明する前に、まずは両者の概要に触れておきましょう。
なお、この記事では、企業ライティングの中でもWeb記事の執筆を主に扱います。

学術論文は、研究者が行った実験や調査の結果をまとめた文書を指します。
企業が発信するWeb記事は、自社ブログやオウンドメディア、ニュースサイトなどに掲載されるさまざまなコンテンツを指します。

ここからさらに、目的、読者、文章の長さという3つのポイントに絞って、両者の違いを詳しく説明していきます。

①目的

学術論文の目的は、研究成果を客観的かつ詳細に報告し、他の研究者と新たな知見を共有することです。その分野のさらなる発展を目指して、みんなで新しい知見を共有し合うという考えがあります。
また、正確さが重要視されるため、専門家による査読(審査)というステップが公開前に必ず入ります。

企業が発信するWeb記事の目的は、読者の知りたい情報を提供し、疑問を解決することです。
内容の審査は必要なく、各社の判断のもと事実確認を行い記事を公開します。
また、読者の心を動かし、行動を促す工夫が求められます。

②読者

学術論文の読者は、同じ分野の専門家(研究者)たちです。
そのため、誤解を与えないよう、日常生活では聞き馴染みのない専門用語も積極的に使います。

企業発信のWeb記事は、インターネットを介して不特定多数の人に届く可能性があり、中にはその記事で扱う分野に詳しくない読者もいます。
そのため、専門用語をかみ砕き、誰にでもわかりやすい表現であることが求められます。
加えて、読者が何を知りたいのか、どのような情報に興味があるのかを考え、関心を惹きやすい構成にすることも大切です。

③文章の長さ

学術論文は、膨大なデータや理論的背景を含んだ内容になるため、長い文章になりやすいです。
掲載される分野や学術雑誌の種類にもよりますが、英語の場合は8,000〜12,000語(日本語だと16,000〜36,000字)といわれています。

企業発信のWeb記事は、読者が途中で離脱しないよう、簡潔かつ読みやすい構成であることが求められます。
掲載するメディアや記事の種類(ブログ、コラム、インタビューなど)にもよりますが、3,000〜5,000字といわれています。

理系の経験をどう企業ライティングへつなげるか

キャリアチェンジにおいて、「これまでの経験をどう次の仕事へつなげていくか」を考えることはとても大切。

ここまでの説明で、学術論文執筆と企業ライティング、両者の違いについてはお分かりいただけたのではないでしょうか。

一方で、両者には共通点もあります。
それは、読む人によって解釈が分かれてはいけないということ。
この共通点と、先ほど説明した違いを理解することで、プロの企業ライターにグッと近付くことができます。

では具体的にどうすれば、理系の経験を企業ライティングへうまくつなげられるのでしょうか。
そのコツは、論理的思考、データや数値の活用、感情に訴えることの3点にあります。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。

①論理的思考

技術者や研究員として仕事をしていくうえで、分析力や論理的思考は必要不可欠です。なかでも論理的思考力は、企業ライティングを行ううえでも大いに役立ちます。

その代表例として挙げられるのが、結論を先に述べるということです。これはPREP法とも呼ばれ、分かりやすい文章構成を作るモデルとして広く知られています。

PREPは、Point、Reason、Example、Pointの略です。
まず結論を述べ、その結論に至った理由と具体例を説明し、最後にもう一度結論を伝えることを指します。
はじめに話の要点(結論・主張)を示すことで、相手が話の内容を理解しやすくなるといわれています。

ただし、一つだけ注意点があります。それは、すぐに本文を書き始めてはいけないということ。
まずはしっかりと自分の中で話の要点を整理し、それから本文を書くようにしましょう。

ここで、要点を整理する際に、普段から私が活用しているツールをご紹介します。
それは、マインドマップです。

本記事の構成を練る段階で実際に作成したマインドマップ。このように階層分けをしながら整理していくことで、話にまとまりができる。

マインドマップというと、何かアイデアを生み出す際に使うイメージが強いと思いますが、頭の中を整理したいときにもオススメです。
基本的な使い方は、伝えたいことを箇条書きや短文で書いていく、というシンプルなもの。
ですが、「簡単に文章を入れ替えられる」というマインドマップならではの特長が、要点の整理に役立ちます。

文章全体を眺め、「この文章はここに移動した方がいいな」「これらの意見は一つに集約できそうだな」といった具合で整理していきます。
階層分けもでき、何より文章全体を見ながら構成を考えられるため、話がちぐはぐしている箇所にも気付きやすいです。

無料で使えるものも多いので、ぜひ一度、頭の整理に使ってみてください。

②データや数値の活用

2つ目は、データや数値の活用です。
学術論文の執筆においては、さまざまなデータや数値を活用しながら、自分の主張が正しいかどうかを裏付ける必要があります。

これは企業ライティングにおいても有効です。
ここ最近、「エビデンス」という言葉を耳にしますが、それはまさに「根拠」や「裏付け」という意味を指します。
一般読者に向けた企業ライティングでも、その考えや主張が正しいかどうかの裏付けが求められるようになりました。

特に、商品・サービスの効果やメリットを示す場面で、数値データを使うことは有効です。
それにより、話の説得力をさらに増すことができます。

③感情に訴える

3つ目は、感情に訴えることです。
これまで説明してきた論理的思考やデータの活用を取り入れることで、分かりやすく正しい文章を書くことができるでしょう。

しかしそれだけでは、企業ライティングの記事としては不十分です。
企業ライティングでは、読者に納得感を持ってもらいつつ、行動を起こしてもらう(商品やサービスの購入へつなげる)ことが求められるからです。
つまり、読者が「自分ごと」として捉えられるように、うまく導くことが重要です。

そのためには、話の「分かりやすさ」を保ちつつ、「興味を惹く」形へとアレンジすることが求められます。
興味を惹く、すなわち感情に訴えるためには、エピソードや具体例を盛り込むことが有効だといわれています。
それには、顧客の声(いわゆる口コミ)を活用する方法が一般的です。
時には、SNSなどを活用して、世間の声を引用することもあります。

このように、商品やサービスの価値をただ述べるだけではなく、エピソードや具体例を盛り込むことで、記事としての厚みが増していきます。
加えて、感情に訴える表現が読者の共感を生み、行動を促すことにもつながります。
論理的かつ読者の感情に訴える記事執筆を心がけることで、より多くの人へ価値のある情報を届けられるようになるでしょう。

なぜ理系研究員が企業ライターへ?

どうやって自分の強みや得意分野を活かした仕事を選ぶか。未経験の業界や職種にチャレンジするのは、誰でも勇気がいること。

最後に、なぜ理系研究員だった私が企業ライターになろうと考えたのか、少しだけお話しさせてください。

研究員としてキャリアを積む中で培われた、論理的思考力

以前書いたコラム記事でも触れましたが、私はかつてスポーツ用品メーカーの研究員として働いてきました。

慣れ親しんだ町を離れ、家族で移住。行き先に下川を選んだワケ

振り返ってみると、論理的思考は日々の研究業務の中で培われたと感じます。
ただ、それ以上に「分かりやすく伝えること」に対する関心が高かったと思います。

例えば、毎月の進捗報告に用いるプレゼン資料ひとつでも、「どうすれば自分の考えや主張が伝わるか」を考え、文字や図表の配置や見せ方を細かく調整していた記憶があります。
もちろん、そこに時間をかけすぎて肝心の研究そのものの進捗が遅くなるのは本末転倒ですが、人よりも「伝わる言い方、見せ方」に重きを置いていたと思います。

職種を変えても変わらなかった、「伝える」ことへの意識

その後、会社員を辞めて公務員となり、事務というまったく異なる職種を選ぶことになりました。
関わる人々も、商社や専門業者から住民の皆さんへと大きく変わりました。

それでも研究員時代と変わらず、自分の言葉で、丁寧に分かりやすく説明することを心がけていました。
この考え方も、今のライターとしての向き合い方につながっていると感じます。

コラム執筆から広がった、技術系ライターとしての道

そして今年からフリーランスとして独立しますが、当初はライター活動をしていませんでした。
そんな私がライティングの道へ進むきっかけとなったのが、HELP YOU(※1)が運営するメディア「くらしと仕事」編集部の新人ライター向け「ステップアップ企画」です。

※1 オンラインアウトソーシング「HELP YOU」とは在宅でインターネットを活用し、業務サポートを行うサービス。サポート内容はライティングに加え、営業事務、秘書、経理など多岐にわたり、サービス品質向上の一環として自社メディア「くらしと仕事」を基盤にライター育成にも取り組んでいる

ライター業に挑戦!私の可能性を引き出してくれた「くらしと仕事」の初心者向けステップアップ企画

この企画で執筆した自身の移住コラムがきっかけで、ライターとしての道が拓けたと感じます。
当時の私は特に意識もせず、自分の書きたいことを並べていく感覚で執筆を進めていきました。
ただ、周りから「分かりやすい」「読みやすい」と言われることが多く、予想外の反響にとても驚きました。
私自身も「伝える」ことに興味はあったので、この出来事をきっかけにライターとして活動する考えが固まっていきました。

現在は、コラムやインタビューなどさまざまな記事を執筆していますが、その中で次の2点を常に心がけています。

  • 誰にでも伝わる言葉か
  • 読んでみて引っかかる点はないか

執筆後は、原稿を頭の中で読み上げるようにしており、時には声に出して読むこともあります。
このプロセスを踏むことで、執筆時には見逃していたミスや変な言い回しに気付くことが多いです。

加えてここ最近では、元々の経歴である理系という特長を活かして、技術系ライターとしても活動し始めています。
具体的には、

  • 業界雑誌に掲載されている技術資料を元にしたWeb記事の作成
  • 産業界向け商品紹介記事の作成
  • 設備導入事例のインタビュー記事作成

など、内容は多岐にわたります。

今後はさらなるスキルアップを目指し、サイエンスコミュニケーター(※2)の資格取得も考えています。

※2 サイエンスコミュニケーターは、理系分野の専門家と一般人の間に立ち、科学技術の有用性や面白さを伝える役割を持つ。ブログなどを通して情報発信を行うほか、一般向けイベントの企画・制作や、実際にイベントで実演を担当することもある

理系分野のコンテンツは、専門用語も多くとっつきづらい内容になりがちです。
そこでサイエンスコミュニケーターとして、世の中で日々研究が進められているものを「分かりやすく」伝える。
そんな活動を通して、少しでも理系分野に興味を持つ方を増やしていけたら嬉しいです。

加えてライターとしては、コラムをはじめインタビュー、まとめ記事、レポートなどさまざまな記事にチャレンジし、執筆の幅を拡げていきたいと考えています。

まとめ

記事タイトルにもあるように、私はライターとしてデビューしてからまだ8か月です。
私自身、8か月前に今の自分を想像できたかと言われると、決してそうではありません。

もちろん、人に説明したり、分かりやすく伝える工夫を考えたりするのが好きなので、元々ライターとの相性が良かったのかもしれません。
ただ、私のような理系研究職をはじめ、アカデミックな経歴を持つ人の中には、学術論文の執筆で身につけた「型」と論理的思考により、ライター適性が高い人も多くいると感じます。

加えて今後は、技術系の分野に関する知識を持ち、かつ分かりやすい文章を書くことのできる人材がもっと必要になると感じています。

この記事を通して、私のような理系出身ライターが少しでも増えてくれたら嬉しいです。

▶ 理系の私がライターデビューしたHELP YOUはこちら

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