「やらされる」ではなく「やりたい!」が飛び交い実現する組織 くらしと仕事

インナーブランディング葛藤記#03
-組織は「変える」ではなく「変わる」-

皆さん、はじめまして!株式会社ニットの西出です。インナーブランディング葛藤記では、2021年7月より組織活性・インナーブランディングを担当することになった西出が、日々仕事を進めていく中での葛藤を連載コラム形式で書いていく企画。インナーブランディングを知らない・全く異なる業務をされている方でも、自分の仕事を内省できるきっかけ記事になればと思います。

第三回目は『組織は「変える」ではなく「変わる」』。一般的に、組織が大きくなるほど運営は難しくなります。さまざまな価値観を持つ人が集まるため、対立を生んだり、意志疎通が困難になったりするからです。

ニットの場合は400名のフリーランスで構成されている、世界33ヵ国にメンバーが在籍していて働く時間・場所もバラバラである、そして直接会った事のない人達が大半の中で、チームを組んでオンラインで仕事を進めている。このような特殊環境です。

社会は今後、モビリティ化や5Gの台頭により、ニットのような組織が当たり前になってくるでしょう。そして、組織はこのような変化に対して、どのように向き合えば良いのでしょうか?

● HELP YOUとは?
HELP YOUは株式会社ニットが提供するオンラインアウトソーシングサービスです。2015年にサービスの提供を開始して以降、フルリモートでの運営を貫いています。現在、33の国や地域でくらす約400名のフリーランスが、HELP YOU事業を支えるメンバーとしてリモートで活躍中です。

ライター

西出裕貴
株式会社ニットにてインナーブランディングを担当。幸福度診断を活用した組織活性や企業理念・ビジョン・バリューの浸透と体現に取り組む。また月額定住サービスADDressを活用しながら多拠点生活中。パラレルキャリアでも活動し、各種フェスやイベントのコンサルや立ち上げ・運営の他、街づくり案件に従事。→執筆記事一覧

組織は生き物。様々な意見があがってくる。

明確なビジョン・目的をシェアしている組織であっても、組織が常に同じ意見を持ち続けることは難しい。複数のメンバーが所属し、年齢や性別はもちろんのこと、暮らしてきた場所や経験も誰一人として同じ人はいないからだ。

そして仮に同一人物であっても、「昨日はラーメンが食べたかったけど、今日は和食が食べたい」というように、その時のシチュエーションやコンディションによっても意見が変わる。

このように考えると、組織は絶えず変化する「生き物」だ。また所属する人数が増えるほど、組織にはさまざまな意見があがってくる。

みんな正しく、みんな間違っている

意見を一つ一つ見ていくと、悩ましいことが多々ある。そのうちの最たる例が「みんな正しく、みんな間違っている」だ。たとえば、テレワーク or 出社の選択。

資料作成するならテレワーク派?それとも出社派? くらしと仕事

資料作成の業務をする際、Aさんにとっては「テレワークの方がはかどるし、出社は考えられない!」と思う。一方でBさんは「出社した方がはかどる」と思っている。自分の目線に立てば「正しい」と思うことでも、相手の目線に立てば「間違い」になる。

もちろん法律やルールといった決まり事があり、「正解は決まっているのでは?」と思う人もいるが、その決まりは所属する社会のこの時代に置いて有効なだけで、時間や場所、組織が変われば意味をなさない。

そのため対立が生じた場合や、さまざまな意見が出てきた時には、「正解」「間違い」で議論するのではなく、「何故そう思ったのか?」各々の立場に立って細かく丁寧に聞くこと。つまり、相手を理解することが一番の解決につながる。

そして組織制度は1つに固定するのではなく、働くメンバーが自ら状況に合わせて選択できる状態を作ることが理想なのかもしれない。

「正論を言う」と「正論を実現する」は雲泥の差

さまざまな意見を聞き、多角的に物事を捉えることが出来たとしても、解決には至らないことが多い。問題となるのが、「正論を言う」と「正論を実現する」の壁だ。正直なところ、正論を言う事は誰でも出来る。問題は、その正論に対してどのように賛同を得て人を動かし、実現するかにある。

たとえば、ある正論が、Aさんにとってはメリットがあるものの、Bさんにとってはデメリットになる。あるいは、組織全体としてはメリットがあると認識していても、人間にはそれぞれ感情を持っており、妬みや嫉妬で反発することもある。

また、正論を進めていく中で状況が変化し、実現することが困難となったり、妥当な判断でない場合も出てくる。したがって実現するには、多角的に見る事はもちろんのこと、俯瞰して捉えることや柔軟性も必要となるため、誰もができることではない。

「変える」では上手くいかない。「変わる」を目指す

特に、一枚岩となって中長期的に高い目標を達成しないといけないような組織の場合、「変える」というアプローチは、高圧的な場面を生む可能性もあり、反発などネガティブな状況に陥りやすい。そこで大事になることが「変わる」アプローチをとることだ。

トイレのアプローチ くらしと仕事

A・B・Cと3つのアプローチがある。「変える」が外的要因によって変化を促すものであるのに対し、「変わる」は内的要因によって変化が起こるものだ。そしてこの「変わる」は、選択する者にとってより納得度、主体性が高いもの程、効果が高くなる。

だからといって複雑に考える必要はなく、より簡単に考えられる視点がある。一番効果的なものが「楽しそうか否か」の観点だ。「正しいことをやりなさい」だと人間は動かない。日々の生活でよくあることだが、人間は「嬉しいからやる、楽しいからやる」ものだ。この視点が行動変容のコツかもしれない。

組織の流れを変えるにはスモールスタートから。

まずは5%に影響を与えることだけ考える

社会変革のプロである鈴木寛さんによると、世の中の変容は指数関数的な動きをする。そして下記の記事で話されているように、全体母数の5%の変革を目指す。ただし、いきなり変化を促す必要はなく、まずは「私は●●しているよ。皆はどう?」のように、表明や呼びかけから始めるとよいそうだ。

■参照記事:
Yahoo!JAPAN SDGs.“「5%変われば、社会は変わる。人は微力だが無力ではない」社会変革のプロが語る”
2022年4月18日
https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/86.html

この5%のメンバーの熱量や濃度を濃くしていくことがポイントとなる。ニットで言えば、400人のうちの5%、つまり20人の熱量を上げて変容の道筋を作っていくことになる。そしてこの20人に仕事等で関わる他のメンバーが影響を受けて、指数関数的に組織の色が形成されていく。
確かに、この考え方はよく的を得ている。ニットの中でも今では組織に欠かせないコミュニティ運営において、まさにこの指数関数的な動きが当てはまる。

85%以上の方がオンラインコミュニティに所属 くらしと仕事

最初、20人近くのメンバーが所属するコミュニティを作った。その中で自身のやりたいことや、興味のあるテーマでつながりあい、結果として組織全体でコミュニティの数が爆発的に増えた。そして現在では、85%以上のメンバーが何かしらのオンラインコミュニティに所属している。

組織や社会を変える熱源は、最小2人いれば実現できる

また社会運動の観点ではあるが、デレク・シヴァーズがTEDで紹介した「社会運動の始め方」が、組織や社会を変えるのに参考になるだろう。

■参照記事:
co-media“【TED】「社会運動の起こし方」~発起人に次ぐ2人目の重要性~”2022年4月18日
https://www.co-media.jp/article/9411

このTEDでは、社会運動の始め方を音楽イベントで起こった3分間の光景で説明している。社会運動が始まる際のポイントは3点ある。

社会運動の始まり方 くらしと仕事

1つ目は、社会運動を始める一番初めの人(踊り出す人)が「勇気を持って嘲笑されなければならない」こと。

2つ目は、社会運動に追随する人(1人目の踊り出す人を見て一緒に踊り始める2人目)がいること。ちなみにこの「2人目」という存在によって、「1人のバカがリーダーに変わる」。

最後3つ目が、リーダーについて行く勇気を持ち、他の人達にもその参加方法(ここでは「一緒に踊っても大丈夫」や「面白そう」といった気持ちを生み出し、「一緒にやらないか」と誘うこと)を示すこと。そこから集団ができ始める。

この考えを踏まえると、組織設計の時に重要となる事は2人目の存在だ。だからといって難しく考える必要はない。まずはアイデアベースで組織内でシェアし、熱量高く賛同してくれるメンバーを1人見つけることから始める。

そして3人目以降が続くように、参加方法や「楽しそう!」を示していく。そうすることで組織の変化が生まれる。

自律型組織を実現するために意識すること

ニットが目指している組織運営 くらしと仕事

ニットでは自律型組織を目指している。メンバーが組織の掲げる目標を実現するために、何をすべきか自分達で考え、実行していく。つまり「やらされる」ではなく、メンバー自らが「やりたい!」を実現する組織のことを意味する。

そのため、1人目・2人目の存在を組織内のメンバーから生まれる状態を作る必要がある。この時、組織を運営するメンバーが、いかに2人目の役割を担っていけるかが非常に重要となる。もし2人目の存在に困らなければ、1人目は自信を持って新しい事にチャレンジをする流れとなる。また自ら支えてもらう経験をすると、返報性の法則により、他の誰かがチャレンジしようとしている場面に遭遇したとき2人目の存在に変化する。これにより組織で最も重要となる熱源が生み出される。

インナーブランディング葛藤記#01– 自分の役目って何だろう?-

インナーブランディング葛藤記#02-企業理念/パーパスって向き合うべき?-

まとめ

自律した活気のある組織作りは焚火に似ている。薪や炭に火を付ける際、全体に火を付けるのではなく、まずは火だねから燃え続ける部分を作って火を移していく。組織作りにおいても、熱源を作り、その熱源から派生して全体にいきわたるようにする方が、小さな力でより持続的な組織を作ることができる。
全体に強力な熱を加えることもできるが、想像以上にパワーがかかり、力も分散して火がつきにくいからだ。そして薪や炭に火が完全に移るまでのデザインを設計し、実行できれば、小さなチューニングは必要であるものの実現できる。

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