サイレントうつを防ぐ、テレワークのコミュニケーション術
在宅テレワークで働いた結果、誰にも気づかれない・相談できないままメンタルに不調をきたす「サイレントうつ」。医療の観点から「サイレントうつ」を分析した前回に続き、株式会社ニットが2021年3月に開いたオンラインセミナー「【サイレントうつ】の実態と未然に防ぐ方法 ~テレワーク・産業医・食・身体の専門家が語る~」に基づいて、今回はテレワークの専門家視点での防止策をまとめます。
ライター
テレワークのプロだからこそ気が付いた「サイレントうつ」の社会問題化
フルリモートで400人が働くHELP YOUを運営する株式会社ニット。今回のセミナーで講師を勤めた小澤美佳は、自身もフルリモートワークで働きながら同社広報兼オンラインファシリテーターとして活動しています。SNSや各種メディアへの寄稿を通し「サイレントうつ」の啓発を行う小澤は「テレワークになってさぼってるんじゃない?という声も聞きますが、危険なのは頑張りすぎてしまう人です」と話します。
真面目な人ほど「頑張ってる姿」を見せなければ、と素早いレスポンスのために常に気を張っていたり、家事などを終えた後も仕事をして長時間労働となってしまったり仕事のオンオフが曖昧になってしまいがちです。特に、テレワークに不慣れだったり、新年度の部署移動など新しい職場環境だったりという場合は、まず慣れるためにも負担がかかります。結果、周りは「頑張りすぎている」「その人の許容量以上に仕事をしている」ということに気が付きにくく、いつの間にか「サイレントうつ」に…というケースが増えているといわれています。
同社でも、以前は就業後間もないメンバーから「休むタイミングがわからない」「オンオフの切り替えが難しい」「ちょっとした相談がしにくい」という声がありました。だからこそ、徐々に改善し、体系化・仕組化してきた経緯があり、いち早く「サイレントうつ」という問題に気が付くことができました。
テレワークのマネジメントは「成果」で判断&「性善説」で信頼関係を
さて、「マネジメント」というとどういう手法を考えますか?「マネジメント=管理」と考え「就業時間中はずっとデスク前に居なければならない」となってしまうと、その時間デスクにいるかどうか、さぼっていないか「監視」する必要が出てきます。テレワークの場合でこのような考え方をしていると、マネジメントする側される側両者が大変になってしまいます。「テレワークの場合、『仕事は成果』と切り替えていく必要がある。マネージャーは『メンバーの能力を最大化し、最小の時間と労力で業務推進すること』を意識すべき」と小澤。
また、テレワークの際にどうしても減少しがちなのがコミュニケーション量です。小澤は「部下はさぼっているかもと考えるくらいであれば、1日1褒めできるぐらい部下を見るべき。そうすれば本人も周りも自然に『見られている』ことを意識する。自分から積極的にコミュニケーションをとって信頼関係を」と呼びかけます。
オンラインで、オフィスと同じ質のコミュニケーションをとるには
テレワークになって「オフィスで仕事をしていた時と違う」「コミュニケーションが減った」と感じる人は多いかもしれません。しかし、オフィスで仕事をしている際も、仕事の上でのコミュニケーションは「業務の話」「ちょっとした相談」「雑談」の3種類だけだったはずです。この3つをオンラインでも実現することで、テレワークでも円滑なコミュニケーション環境を築くことができます。特に「雑談」は軽視されがちですが、雑談によって人間性を知り、親しくなっておくことで、心理的安全性が確保されるため「ちょっとした相談」やトラブル時の報告のしやすさにつながります。そのため同社は定例の雑談会を設定しているほか、節目節目でweb飲み会を開いています。
テキストコミュニケーションにも一工夫を
オンラインで仕事をしていると、必然的に増加するテキストコミュニケーション。雑談やweb飲み会などのイベントだけでなく「普段のテキストコミュニケーションでちょっとしたひと工夫をするだけで全然受け取り方が変わる」と小澤はいいます。
そのポイントは、語尾とこまめな共有です。特に、テキストコミュニケーションの場合は対面でのコミュニケーションに比べ、言葉の温度感が非常に伝わりにくくなっています。そのため、軽い注意や指摘でも必要以上に相手が深刻にとらえてしまい、大きなストレスを感じてしまう場合も。
さらに、押さえておくべきポイントとして
①緊急時に使用しない
②議論をしない
③ネガティブな情報(注意や指摘等)の扱いには細心の注意を
という3つがあります。
特に②については、3往復以上のチャットが発生している場合、テキストでコミュニケーションを続けるよりビデオチャットや通話をしたほうが効率的に進む場合も多いそうです。
また、③については前述の通りテキストの伝わり方に配慮すべきなのはもちろん、複数人のチャットで「公開処刑」状態にならないよう気を付ける必要があります。
テレワーク促進のために意識すべきポイントは
現在、テレワークが次第に長期化している企業が増えているのではないでしょうか。ニューノーマルと呼ばれる働き方に適応していくためには、オフィスでしていた仕事をテレワークで回すだけではなく、テレワークを有効活用したうえで企業を発展させていく、という視点が必要となります。そのためには、まず次の3つのポイントを意識する必要があります。
①会社理念やグループ像を口癖に
オンラインになると、難しくなることの一つが企業独自の「文化醸成」です。オフィスでは、オフィスの雰囲気や掲示物等で見える形で文化を演出し沁み込ませることが可能です。また、ふとした拍子に業務上関わりがないような役職者との交流があったり、先輩の働きぶりを横目で見たり聞いたりすることができます。オンラインでは意図して作らない限り、これらは発生しません。そのため、社長が意識的に社員全体の前で発言する、広報が社風を意識しながら複数手段で発信する等の工夫が必要となります。
②事業・チームの役割の明確化+メンバー間の連携
オフィスにいれば、フロア内で他の部署がどんな動きをしているのか、意識していなくても目に入ってくる場合が多いと思います。しかし、オンラインではチャットの部屋を分けてしまうと全く知ることができません。そのため、お互いの業務内容を知るために、意図的に見える化し、連携する必要があります。
③マネージャー育成
テレワークになって、働く全員が環境の変化にさらされていますが、特に働き方の変化が大きいと考えられるのがマネージャー等の管理職です。そのため、マネージャーの経験や部下の業務習熟度に合わせて、さらに上長がマネージャーをサポートする必要があります。
業務だけならオンラインで可能!だからこそのオフラインの活かし方「ワーケーション」
ここまで、テレワーク・オンラインでの業務について説明しましたが、オンラインでの業務で孤独感を深めている人も存在し、顔を合わせて仕事をすることの価値も上がっています。そこで、新しい働き方のひとつとして注目したいのが、企業としての「ワーケーション」の導入です。通常の業務環境と違う場所で対面の業務を行ったり、異なるプログラムを取り入れたりすることで、業務やメンバー同士の関係性に新しい気付きを吹き込むことができます。
また、現地で寝食を共にしたうえで思い出をつくることで、企業と社員とのエンゲージメントを高めることにつながるでしょう。
まとめ
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