産業医から見た【サイレントうつ】の実態と未然に防ぐ方法
コロナウイルスの影響で、変化を続けている働き方。急遽、在宅テレワークへ移行した結果、誰にも気づかれないままメンタルに不調をきたす「サイレントうつ」をご存知でしょうか。フルリモートで400人が働くHELP YOUを運営する株式会社ニットは2021年3月にオンラインセミナー「【サイレントうつ】の実態と未然に防ぐ方法 ~テレワーク・産業医・食・身体の専門家が語る~」を開きました。セミナーでは、今後の社会で問題となっていくであろう「サイレントうつ」の実態と未然防止策について医療、テレワーク、食生活、健康の各専門家である株式会社Dr.健康経営 鈴木健太さん、株式会社ニット 小澤美佳さん、株式会社OKAN 中川充康さん、整体にこにこスタイル 出戸啓介さんの4人が解説。今回は医療の専門家・鈴木さんのお話をレポートします。
目次
ライター
誰にも気づかれないままメンタル不調に?「サイレントうつ」とは
長引く新型コロナ禍の影響で、フルリモートワークとまではいかずとも在宅テレワークを取り入れた企業は多いのではないでしょうか。例えば東京都だと、2021年1月時点で従業員30人以上の企業でのテレワーク導入率は57.1%、 緊急事態宣言期間中のテレワークの実施回数が週3日以上の企業が約6割となっています。
テレワークというと「仕事状況が見えない=見えないからサボっているのではないか」「管理しにくい」という管理視点の話題が多く見られます。
しかし、在宅、つまり自宅で働いているためオンオフの切り替えができず働きすぎてしまう、気持ちが休まらない、自分の成果に不安を感じた結果長時間働いてしまう、という人も多く存在しています。出社と比べコミュニケーションが減少し困りごとが発生しても相談できず抱え込んでしまい、業務によるストレスが雪だるま式に増えていってしまう人も。加えて、自宅から出ないことによる運動不足、食生活の乱れなどもメンタルには大きな影響を及ぼします。
これらの影響で、出社しないからこそ誰にも気づかれないままメンタル不調に陥ってしまうことを株式会社ニットは「サイレントうつ」と呼び警鐘を鳴らしています。
考えられるメンタル不調とメンタルヘルスケア
今回は医療の専門家として、全国の企業へ産業医やストレスチェックサービスを提供し、自身も産業医として経験豊富な株式会社Dr.健康経営代表取締役の鈴木健太さんにお話をうかがいました。病院にいる「病気を治療する」主治医とは異なり、働く人の健康を社会的にもサポートすることで「病気を予防する」産業医の立場から見た「サイレントうつ」とはどのようなものなのでしょうか。
「サイレントうつ」は誰にとっての「サイレント」?
鈴木さんが考える「サイレントうつ」は2パターン。それは、誰からみて「サイレント」なのかという違いです。
①上司や会社から見た「サイレント」
→テレワークで体調や様子が見えないことにより、気が付かないうちに「うつ」状態に
②本人にとっての「サイレント」
→つながりが希薄化し、相談できないため、誰にも気付かれない間に「うつ」状態に
この気が付かない、気が付いてもらえないことで発生し、進行するメンタル不調が「サイレントうつ」。原因のひとつとしては、コロナ禍により大きく変わった生活・仕事様式という「外部環境の変化」に適応できないことが挙げられます。乗り越えていくためには、この変化に適応し、テレワークのメリットを活用していくことが必要だといいます。
ストレスは悪いものじゃない。問題は「過度のストレス」
メンタルヘルスには、ストレスが大きく関わってきます。ただ「ストレス=悪いものと皆さん捉えていますが、それは実は違います」と鈴木さん。ストレスはあくまで「外部環境からの刺激」であり、それ自体が悪いわけではありません。許容量を超えて「ストレスをためすぎない」ことが大切だといいます。
仕事に関係するストレスは3種で、職場での人間関係や業務内容等の「仕事上の要因」、介護や子育てなど「仕事外の要因」、性格や性別などの「個人要因」。これらが上司や家族などのサポート「緩衝要因」でどれだけ和らげられるかによりストレスが溜まる量が変わります。その結果、許容量を超えるストレスが溜まってしまった場合にストレス反応として、抑うつ、頭痛や腹痛等が起こり、休職や離職につながる場合が多いそうです。
企業ができるストレスとメンタル不調の予防策
鈴木さんは、企業ができる対策として
①従業員個人のストレスが過度にたまらないようにする
②ストレス反応が出始めた時に早く気付き対応する
③休職の人に対し、企業がしっかり復職に向けたフォローをする
の3つを挙げています。
①従業員個人のストレスが過度にたまらないようにする
企業には、従業員の健康や安全を守る「安全配慮義務」があります。そのために企業としてできることはストレスやメンタルヘルスに関する正しい「情報の提供」、従業員が自身のストレス状況に気が付くためのストレスチェック等「機会の提供」、ストレスを和らげるための雑談会やコミュニティづくり、上司と部下のメンター対談等「場の提供」の3つ。特にコロナ禍でのテレワークで雑談や気軽な相談のハードルが上がっているので意識的に取り入れる必要があるといいます。
個人でできることとしては、自分が感じているストレスは「なくす(ストレスの原因から遠ざかる)」「逃がす(考え方を変える)」「抜く(息抜き)」「跳ね返す(短期的に耐える)」という4つのパターンが挙げられていました。
②ストレス反応が出始めた時に早く気付き対応する
「周囲が早期発見・早期対応するためには、普段から様子を見ている事が必要」と鈴木さん。コロナ禍でテレワークとなっている現在、もっとも普段と勝手が違う部分でもあるのではないでしょうか。普段の会話や本人がストレスを感じた時に、気軽に話せる相談体制をつくることが大切だといいます。
「いつもと違う」に周囲が気が付くためのポイントも。
部下がいる管理職は、常にアンテナを張っておく必要があるのではないでしょうか。
③休職の人に対し、企業がしっかり復職に向けたフォローをする
メンタル不調による休職の場合、休職者は休職開始時、休職中、復職時、復職後の4段階に分けられます。中でも復職時は「本人が復職を希望し、主治医の診断書を持ってきたとしても、よく話を聞いて判断する必要がある」と鈴木さん。休職が長引くことで収入面やキャリアに焦りを感じ、完全に回復しないまま復職を希望するケースも多いそうです。このような場合に復職を許可してしまうなど、しっかりとしたフォローアップをしなかった場合、3分の1は再発してしまうといいます。
また、復職の場合のテレワークについても気を付けるべき点があります。確かにテレワークだと、通勤や人間関係の面で復職者の負担は軽くなるかもしれませんが、「業務を遂行できる状態まで完全に回復したか」「体調がまた悪くなっていないか」という管理側の判断が難しくなるため、鈴木さんは「週一回以上は出社してもらい、周りの目がある場で仕事をするのも1つの改善策です」と話します。
まとめ
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