AIでは補えない、人の力が活きる議事録作成とは
ビジネスマンであれば、議事録は誰もが一度は触れたことのある仕事でしょう。
その一方で「議事録なんて、AIに任せれば十分」と思っている方もいるはず。
確かに、ここ最近のAIの進化は著しく、多くの場面で利活用が進んでいます。
議事録作成においても、単なる記録だけならAIで対応できるかもしれません。
しかし、議事録には会議の文脈を整理し、誰が何に合意したかを明確に記録することで、組織の意思決定を支える重要な役割があります。
この記事では、オンラインアウトソーシング「HELP YOU」(※1)で、長年議事録作成に携わってきた清水由美子さんにインタビュー。
表面的な記録ではなく、価値を生む議事録とはどのようなものか、お話を伺いました。
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目次
インタビュイー
ライター
議事録作成で身につくキャリアの基礎――「まとめる力」と「理解力」

議事録作成で、クライアントのコア業務をサポート
──3年以上司会進行と議事録作成を続けていますが、なぜこのお仕事を引き受けたのでしょうか?
議事録作成を引き受けることで、「少しでもクライアント様の負担を減らせるなら」というお手伝いの気持ちで始めました。
ベテラン社員さんや専門職の方は、本業が多忙で議事録作成を負担に感じることが多いものです。
HELP YOUは、「企業のノンコア業務を引き受け、お客様がコア業務に集中できるようにする」ことをミッションとしています。
議事録作成はまさに、そのミッションを体現する仕事だと考えています。
プロセスの記録こそが、価値ある議事録への第一歩
──議事録を作成する上で気をつけていること、心がけていることはありますか?
特に決定事項や数字は、正確に記録することを心がけています。
日付や場所、具体的なアクションなどですね。
また、「誰がどのタイミングで合意して決定したのか」など、前提となる話から順を追って記録するようにしています。
「なぜその結論に至ったのか」という経緯を明確にしておくことで、後に振り返ったときに結論がぶれることを防ぎます。
新人の業務と言われるのはなぜ?議事録作成で身につくスキル
──長く議事録作成を担当してきて、「ここは奥深い!」と感じる点はありますか?
やればやるほど、「話を整理してまとめる力」が磨かれるところでしょうか。
議事録はただの「会議メモ」ではありません。決定事項・合意事項・次回への課題・ネクストアクションなどを整理し、物事の進め方を明確にする役割があります。
「議事録作成は新人の仕事」とよく言われますが、業務理解を深める上で非常に有効な業務だと改めて思います。
議事録作成で感じるAIの限界と人間の役割

AIは記録ツール。会話の正確な理解には手書きメモが必須
──AIを議事録や文章作成に活用したことはありますか?
会議の記録ツールとして活用しています。ただ「記録する」という観点で見ればAIは便利だと思います。
しかし、すべての会話を拾えるわけではなく、発言者を取り違えることも少なくありません。
そのため、私は必ず手書きメモも併用します。会話の流れや意図を正確に理解するには、自分の手で書き留める作業が欠かせないからです。
AIの進化は速く、精度は高まっていると感じますが、それでも現状では「補助的なツール」という位置づけにしています。
AIが支える合理性と、人が届ける温度感
──今は記録ツールとして活用する程度とのことですが、AIの存在をどのように捉えていますか?
便利な反面、現時点ではすべてを任せられるわけではないと考えています。
セキュリティ面から、AIの使用を認めていないという大手企業もまだまだあります。
「人間の仕事はAIに置き換えられ、今後無くなっていく」などという話題も良く耳にします。
以前、社会学者の大澤真幸さんが、とある雑誌で「アメリカでは、裁判ですらAIに任せる動きがある(※2)」というお話をされていました。
人間よりもAIの方が、外部の印象に左右されず基準に沿って確実に判断できるため、冤罪のリスクを下げられるそうです。
思わず「なるほど!」と思いましたし、合理的な判断を優先するアメリカらしい事例ですよね。
しかし、だからといって、議事録のような業務をすべてAIに置き換えるのは難しいと考えています。
一般的な回答や、多角的な視点からの情報提供はAIの得意分野です。
しかし、生身の人間が抱く思いや、現場やチームの状況を深く考えるようなことはできません。
人間同士の話し合いには曖昧さや不確実さがつきもので、それを踏まえて「その場で合意をつくる」ことこそ人間が果たすべき役割だと思います。
もしAIに合意形成を委ねてしまえば、データの改ざんによって結論が意図的に誘導される危険性もあります。だからこそ、AIはあくまで補助的な役割にとどめ、人間がファクトチェックや最終的な判断を行うことが欠かせません。
議事録作成を自動化するツールは増えてきていますが、会議の文脈や人の思いまで考慮に入れて「合意形成を支える記録」を残すことは、今後も人間だからこそできる大切な仕事だと考えています。
まとめ上手になる秘訣は、相手の靴を履くこと?

ゼミでは時に、街を歩きながらお互いの意見を交換し合うことも
ゼミで学んだ「多様性を受け入れる視点」
──議事録作成で「話を整理してまとめる力が磨かれた」と言っていましたが、もともと要約したりまとめたりするのは得意でしたか?
大学時代から、ゼミでのレポート作成や発表などを通じて、自分の考えをまとめて人に伝える訓練をしてきました。
また、2019年から現在まで、6年ほど社会学ゼミに参加しています。
これは、大学時代の恩師が社会人向けに開催しているもので、今は主催者として運営にも携わっています。
ゼミでは、各自が日ごろ経験したことを題材に、社会問題や時事問題などさまざまなテーマについて議論します。
みんなで一つひとつの話を膨らませて、今この社会で何が起こっているのかをアンラーン(Unlearn)(※3)していくのがゼミの目的です。
このゼミを6年も続けたことで、常識を疑い新たな視点を持つことを学びましたし、何より多様性を受け入れる姿勢が培われました。
第三者だからこそできる、相手の意図をくみ取る力
──普段から、多様な考えに触れる訓練を重ねてきたんですね。その経験は議事録作成や話を整理する力にどのように活きていますか?
私はもともと、人の発言に対する理由を考えるのが好きです。
加えて「エンパシー」という考え方の影響も大きいと思います。
シンパシーが「それ、わかる!」のような感覚的な共感だとすれば、エンパシーは「相手の行動の背景を理解しようとする知的な作業」です。
理解しがたい行動にも理由を見つけようとすること、それがエンパシーです。
──なぜそのような発言をしたのか、発言者の代わりに頭の中を整理してあげるようなイメージでしょうか。
そうですね。質問を投げかける時には、「今〇〇とおっしゃいましたが、それは△△という理由からでしょうか?」とよく聞きます。
すると、相手から「そうじゃなくて」と直されることがあります。
それがとても重要で、話を整理するためには、むしろ相手の「そうじゃなくて」を引き出すことが大切だと考えています。その訂正の中に、真意が含まれているからです。
「そうじゃなくて」をどうやって引き出すか、腕の見せどころですね。
以前、作家のブレイディみかこさんが「エンパシーは相手の靴を履くこと」と表現していました。気持ち悪いけれど、何とか理解する・慣れる必要があるという意味だそうです。
ただ、当事者として会議に参加していると、どうしても自分の視点に偏りがちで、この「相手の靴を履く」作業は実践しにくいものです。
私の場合は、第三者として会議に参加するからこそ、相手の立場や考えを整理しながら発言の背景を理解しようと意識的に行動できるのだと思います。
信頼を築く議事録は、AI×人間のバランス感覚がカギ。
──清水さんにとって、議事録とはなんでしょうか?
私とって議事録は、「信頼を得るための手段」です。
この3年間、1つのクライアント様の会議に週2~3回のペースで参加してきました。
開催された会議の数は、何百回にも及ぶのではないでしょうか。
時には、話がうまくまとまらない難しさと向き合いながらも、「一度引き受けたからには最後までやり抜く」という気持ちで、ここまで続けてきました。
──最後に、これから議事録作成を武器にしていきたいと考えている方へ、一言メッセージをお願いします。
いいパートナーとして活用しつつ、最終決定には自分が責任を持つ。
そのバランス感覚こそが、これからの議事録作成に求められる力だと考えています。
まとめ
会議の流れを整理し、合意形成を支え、信頼関係を築く──議事録には、キャリアの土台を築くうえで大切な要素がつまっています。
清水さんの議事録は、AIと人間それぞれの強みを組み合わせることで、より高い価値を生んでいます。
あなたもぜひ、次の会議では「ただの記録係」ではなく、「合意形成や信頼構築を支える存在になっているか?」を意識してみてください。
議事録を「信頼を得る手段」として捉えることで、あなた自身の成長とキャリアの可能性を広げる第一歩となるはずです。
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