フリーランス農家って?! 普通の会社員が選んだワークスタイル

家業の農業は弟が継ぐと思っていたので、繁忙期に手伝う他は進んで関わることのなかった農業。そんな中、父のケガをきっかけに大学卒業後から長年福祉の仕事に従事してきた私が農業という全く違う世界に飛び込もうと思いました。そして、フリーランス農家としてやっていこうと決意するまでの経緯や、フリーランス農家としての現在のワークスタイルを紹介します。

ライター

田中麻耶
大阪府岸和田市在住。長年、子育て支援関係や子どもに関わる仕事に従事。自然や土に触れることで人を元気にしたいという思いから、家業である農業を仕事にする。様々なアイディアや視野を広げるために、農業以外でも在宅で働ける柔軟な仕事を求め、2022年5月HELP YOUにジョイン。→執筆記事一覧

フリーランス農家にいきつくまで

ライターさんのご実家の稲畑 くらしと仕事

実家の稲畑。風になびく稲を眺めていると時間を忘れる。好きな風景の一つ

農業が生活の一部として育つ

私は大阪府の南に位置する岸和田市に住んでいます。我が家は代々農業を営んでおり、私は、たけのこ・お米・みかんの手入れや収穫に家族が年中忙しく働いているのを見て育ちました。特に、冬の時期はみかんの出荷に忙しく、私も小さいながらに手伝っていたのを覚えています。

私が中学生になった頃から、手入れが大変だったみかんをやめ、いちじくの栽培を始めました。
現在は、春はたけのこ。夏から秋にかけては、いちじくとお米を主に収穫。小さな畑では、季節の野菜を育て、半自給自足のようなライフスタイルを送っています。

農業は選ばず福祉の道へ

小さい頃は農業を手伝っていたものの「農業は大変…」と両親の言葉を何度も耳にしていたこともあり、農業の道へ進むことなど微塵も考えていませんでした。進学と共に自分の時間が大切になるにつれ、農業を手伝うこともほぼなくなり、家で育てている作物に見向きもしない状態に。
大学では福祉を専攻し、卒業後は児童福祉関係の仕事に就き、全くと言っていいほど農業とかけ離れた生活をしていました。

農業は弟が継ぐはずが

私は、3人きょうだいの二番目。末っ子長男が後継になるから、農業は一切しなくてもいいと思っていたこともあり、仕事に邁進していました。

そして後継である弟は、芸術大学へ進学。映像の世界に入り上京したものの、いずれは農業を継ぐことになるからと30代で帰阪。映像の仕事をしながら農業を少しずつ始めようと準備をしていました。

ちょうどその頃、父が畑仕事中に大怪我をし入院するという大事件が起こりました。しかも、怪我をした時期は、いちじくの収穫が始まったばかり。これからどうするのか…と不安に思いながらも、家族でできる限りのことをしていこうと団結し、早朝にいちじくを収穫、出荷準備をしてから、それぞれが仕事に出かけるという生活を送ることになりました。

農業と会社員のWワークを支えたもの

私の仕事は、毎日とても忙しく残業することもあるような状況。朝5時に起きて、収穫・出荷準備、そして9時に出勤するという生活を送っていました。時には時間休暇をもらって出勤することもあり、職場のメンバーにはすごく助けてもらいましたが、その分会社の残業も増え、休日も農作業をして過ごす毎日。そんな生活を2ヶ月ほど続けました。

最初の1~2週間は「家族みんなが頑張っている」「入院中の父も、怪我をした悔しさや動けない歯痒さを抱きながら回復のために頑張っているから」と、気を張っていたように思います。

少しずつこの生活に慣れてきた頃、これだけ働いているのに疲れが溜まっていないことに気がつきました。むしろ、仕事だけをしていた頃に比べると元気になっているような気さえする。
何がそんなに私を元気にさせているのか、よく考えてみると、自然に触れているからだということに気がつきました。

早朝の収穫時に朝日が登ってくると体がじんわりと暖かくなり太陽の暖かさを感じる。暑い中、汗をかきながら草刈りをしていると、ふいに吹く風に心地よさや草木の香りを感じる。そんな時間に、なんだかものすごく癒され、満たされていたのです

少しずつ心に変化が訪れる

その頃にしていた仕事は、子育てに悩む方の相談に乗るというもの。それぞれが持つ悩みやどうにも解決の難しい相談を受けていると、世の中が便利になりすぎている中で子育ての正解を求め、多くの情報に振り回され、大切な何かを失っているのではないか?と感じていました。
そんな時に、農業で元気になる感覚を覚えた私は、農業を通じて人を元気にできないか?と考え始めたのです

後継になると言って帰ってきていた弟は、これからの農業やこの地域での農業について考えていたものの、やはり農業一本で生活するのは厳しく、映像の仕事をもっとしたいという思いも強かったので、農業をしないという選択をしました。

そんな弟の姿を傍で見ていた私は、自分が農業をすればいいという思いと、農業だけでは生活ができるのか…という不安な気持ちに揺れ動いていました。でも動かないことには何も始まらない。まずは農業と両立ができるような仕事に転職することを決意しました。

農業を仕事にする

田植え体験の様子 くらしと仕事

田植え体験の様子。大人も子どもも泥まみれで楽しんでます

会社員と農業の両立

転職先は、以前の仕事とは違い比較的遅い出勤時間でした。しかし、職場が遠く通勤時間がかかる上に、会社で働く時間は変わらない日々。結局自分が思うような農業ができず、ジレンマを抱えながら仕事をしていました。

以前の職場の友人から「最近農業はどう?」と聞かれても、「農業ができるのは休日だけ。ほとんど農業に関われていないのに何も言えない…」という思いが出てきて、益々モヤモヤした気持ちが募っていました。

転職先の仕事も楽しかったけれども、やはり頭の中には私が思い描く農業ができていないという思いが。このまま何年も同じように悶々とした気持ちを抱えて、自分の気持ちに正直になれず生きていくことが、私にとってはものすごく窮屈に感じていました。そんな思いがあったので、何度も何度も自分がどんな風に生きていきたいのかを考え始めたのです。

農業や自然の素晴らしさを伝えるためのフリーランスという選択

稲を脱穀している様子 くらしと仕事

怪我から復活した父。稲刈りイベントで刈った稲を脱穀している様子

まずは、農業を通じて、どんなことを実現したいのか、どんな風に働きたいのかを考えることにしました。
私が農業をしたいと思ったのは、私が作った農作物を美味しいといって食べてくれると嬉しいという気持ちだけでなく、自然から得られるエネルギーや大地の恵みを大好きな人たちに伝えていきたい。それが、多くの人に広がり伝わってほしいという思いがあるから。

なので、農業が普段体験できないことを経験し、自然に触れて日々の疲れを癒せるような機会になれば、と考え、親子や友人・知人で田植えや稲刈り体験をしてもらえるような農業イベントを少しずつ開催してみました。

体験に来てくれた人たちは、子どもだけでなく大人もイキイキした表情で本当に楽しそうにし、とても満足して「また来たい」と言って帰っていく。そんな姿をたくさん見ていると、自然に触れられる場所やきっかけ作りをしていくことが、私が農業をする上での大きな一つのミッションではないかと感じ始めたのです。そこから、人が自然に触れ、自然に癒され、気持ちがクリアになるような居場所作りがしたいという新たな目標に繋がりました。

また、そういった居場所作りをする上で、農業の世界だけでなくいろんな角度から可能性を広げていきたい。農業だけに没頭するよりも、私には他にも活躍できるような場所があれば、今の農業がさらにおもしろい方向へ発展できるのではないかと考え、会社員ではなく趣味で学んでいたスキルを使ったフリーランスという働き方に行き着いたのです!

フリーランス農家としての私らしい働き方

フリーランス×農家として仕事を始めましたが、最初はフリーランスの仕事がなく、農作業ばかりする毎日を送っていました。そんな中、HELP YOUにジョインし現在は農作業をしながらできる仕事を選択しています。HELP YOUではライティングや写真編集などの案件を担当し、その他にも知人から依頼があれば名刺や広告のデザイン、動画の編集などの仕事をしています。

農作業に時間がかってデスクワークの時間が思うように取れない、PCでの作業に時間がかかりすぎて農作業に影響がある等、働き方のバランスに最初は戸惑っていました。比較的涼しい時間帯の午前中と夕方は農作業をし、日中の暑い時間帯と夜はデスクワークをすると決め、毎日のスケジュールを確認しながら状況に応じて時間を区切って目標を持って仕事をすること、区切りをつけること等を意識しながら働くようになり、少しずつ自分で時間をデザインしながら働けるようになってきたと感じています。

これからの農ライフ

今後は、自然に触れて元気になれるようなコミュニティ作りのために空き家の改装をしたり、農業体験をもっとたくさんの人に参加してもらえるよう工夫をしていきたいと考えています。また、一人では限界があることも仲間を増やしてもっと広げていきたいという思いもあり、家族だけでしていた農業をブランディングして拡大させたいと思っています。

まとめ

フリーランス農家に行き着くまで、たくさん葛藤と模索を繰り返してきました。会社員を辞める決断をするまでは時間がかかりましたが、フリーランスになってからはとても軽やかになり、自由な働き方だけでなく、これまで以上に視野が広がり、たくさんの人との出会いで世界が広がっているのを感じています。

そんな自由な働き方が叶えられるHELP YOUでの繋がりや多種多様な発想を農業へも活かし、またHELP YOUの面白いメンバーともコラボできたらと考えています。

自然の豊かさを体全体で感じ、大地のエネルギーをもらい、そして生活の中で自分たちにできる事を少しずつ地球に還元する。そんな生き方ができるような人が増えてほしいと願い、フリーランス農家としてこれからもたくさんのことに挑戦し続けたいと思います。

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