すべての働く人に選択肢を。途上国で見た「選べない」現実と憤り

スーダン、スウェーデン、ケニア、エルサレム、ルワンダ。株式会社ニットで人事・労務チームを牽引する宇治川紗由里さんは、パートナーの仕事の都合でさまざまな国を渡り歩きながらフルリモートで仕事をしています。そうした生活のなかで働き方や生き方を「選べない」人を目にする機会があり、現実を変えるためにニットへジョインしたそうです。どのような思いで日々社内メンバーや採用候補者に向き合っているのかを聞きました。
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ライター

三代知香
飛騨在住のフリーライター/編集。IT企業でセキュリティ製品のマーケティングや、ビジネスアプリのPMを経験し、2018年にライターの道へ。メディアの立ち上げ・運営担当としてサイト設計やアクセス解析を経験。企業や人の「思い」に焦点を当てたインタビュー記事や、IT系のハウツー記事を手がける。

ルワンダへの移住で感じた生活の変化

宇治川紗由里さん ニットの人事・労務をリードする社員。20か国以上で海外リモートワークを実践中。新卒で入社した企業で事業立ち上げを経験した後、世界1周バックパック旅行を実施。その後、日本企業でECサイトの運営や中途採用事業に従事していたが、パートナーの海外駐在をきっかけに退職 。スーダン共和国に滞在中に、どこにいても働き続けられるニットへジョイン。

 

灼熱の国スーダンに夫とくらし、オンラインアウトソーシング(在宅ワーカー)として輝く毎日

最近、お引っ越しをされたとか?

はい、2019年頃から3年ほどエルサレムに住んでいましたが、2022年1月に、夫の仕事の都合でアフリカのルワンダへ移住しました。

生活に変化はありましたか?

がらりと変わりましたね。エルサレムには日本人と同程度の所得層の方も多かったのですが、ルワンダは貧富の差が激しいと感じます。もちろん、高所得層の方もいますが、なかには月数万円でくらしている人も。アフリカを訪れたのは久々だったこともあり、環境の変化に戸惑っています

つい最近も、口の開いたトートバッグを持って道を歩いていたら、下校中の子どもたちに囲まれてしまいました。中身は空のお弁当箱と水筒だったのですが「欲しい」と言われてしまい……。荷物の中身を見せながら歩くなんて気が緩んでいたな、と反省しています。

以前、ケニアに住んでいた時は気を付けていたのですが、いつしか忘れてしまっていました。スマートフォンも、堂々と持ち歩いていると注目を集めてしまうので、できるだけ往来での使用は控えるようにしています。

途上国だからこそ気を付けるべき点があるんですね。環境が変わったことで仕事にはどんな影響がありましたか?

もともとフルリモートで働いているので、これまでと変わらず仕事を続けることはできています。冬季に関しては、エルサレムもルワンダも日本との時差は変わらないため、日本在住メンバーとやりとりをする際のハードルも感じませんでした。

ただ、ルワンダに越してきてから3日間は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためホテルに隔離されており、インターネット環境が良くなかったのでZoom会議ができず困りました。主に私のような外国人、ルワンダの基準でいうと”高所得層”が利用するようなホテルだったのですが……。日本やエルサレムと比較すると、スマートフォンを持っている人自体が極端に少ない国なので、ある程度予想はできたことなのですが私の準備が足りませんでした。

結局、予定していた会議は全てキャンセルし、議事録と会議資料、テキストでのやりとりだけでしのいでいました。

それは大変でしたね。

はい。ルワンダ生活2日目にスマートフォンの契約が完了し、ようやくインターネットが使えると思ったら、今度はテザリングが機能しないという事態に。そのため、Zoom会議はスマートフォン、テキストでのやりとりはパソコン、という形で仕事をしました。

ホテルに滞在して3日目でPCR検査をして陰性だったため外を出歩けるようになり、急いでインターネット環境が整っている場所を探し、今利用しているシェアオフィスと契約しました。

宇治川さんが利用しているシェアオフィス。

宇治川さんは、これまでもスーダン、スウェーデン、ケニアなど、さまざな国を渡り歩きながらフルリモートで仕事をしていますが、何か困ったことはありましたか?

ニット(旧・合同会社レインボー)に入社した当初は、書類仕事がスムーズに運ばず困りましたね。労務の仕事をしている都合上、役所と書類のやりとりが発生するケースが多いのですが、海外に住んでいては郵便物を出すことも受けとることもできません。

まだオフィスもなかった時期で、郵便物は全て秋沢(ニット代表取締役社長、秋沢崇夫)の自宅に届いていました。ただ、秋沢も忙しくて自宅を空けることが多かったので、なかなかうまく事が運ばず……。できるだけ秋沢に負担をかけないよう、役所への提出書類は印刷するだけの状態にまで整え、タイムラグが発生しないよう常に前倒しで作業を進めました。

ただ、今は一人で労務の仕事を担っていた当時と異なり、日本にいる労務メンバーが実務を遂行してくれているので、書類仕事で困るケースはありません。

仲間との連携で実現する海外リモートワーク

シェアオフィスから眺めるルワンダの首都キガリ。

現在も、人事・労務として、社内環境の整備から採用まで幅広く仕事をされていますが、チーム内における宇治川さんの役割は何でしょうか?

他のメンバーが実務のほとんどを担当してくれているので、私は大枠の方針決めやイレギュラー対応をしています。ニットに新しくフリーランスとして入ったメンバーが活躍できる場を整えるのもミッションです。

イレギュラーな事態の例として、最近、予算申請システムの大幅な改修を行ったのですが、リリース当初はエラーが出てしまい社内メンバーにご迷惑をかけてしまいました。

時差もあるなかで、イレギュラー対応をするのは大変ではないですか?

もちろん大変な時もありますが、日本の昼過ぎには私も起床しているので、対応が大きく遅れることはありません。それに、チームメンバーには時差を気にせず連絡するよう伝えてありますし、万が一私と連絡がつかない時には、他のメンバーが代わりに判断をする体制が整っています。たくさんの仲間がいるからこそ実現できることですね。創業当初、私一人で人事・労務の仕事を回していた時には考えられませんでした。

日本在住メンバーとZoomミーティング。

イレギュラー発生時にかかわらず、人事・労務として社内全体へメッセージを発信するケースも多いかと思います。リモートだと意図が伝わりにくく苦労することもあるのではないでしょうか?

そうですね、ニットも今では400人の会社なので、一つのメッセージに対してさまざまな解釈が生まれます。ゼロにするのは難しいかもしれませんが、誤解が生じるケースを減らせるよう、他チームと連携して入念に推敲を重ねたうえで発信しています。一人の頭で考えた文章はどうしても主観に寄ってしまいがちなので、他チームの観点も取り入れることが重要です。

人を動かすためには「思い」は大事ですが、この規模の会社になると「思い」だけではだめなんです。組織として一貫性のあるメッセージを出していくとともに、個人に依存しない体制をつくっていくことが求められます。

面談を通してベストな働き方を選んでほしい

シェアオフィスで働く様子。

人事として、社内だけではなく社外の人と接する機会もありますが、どのようなことを意識していますか?

採用面談では、相手の方にとってベストな選択かを常に意識しています。ニットに入社することが、希望の条件で採用試験に受かることだけが、必ずしも相手にとっての正解とは限りません。だからこそ、相手が「本当にやりたいこと」「実現したい未来」を時間をかけて尋ねるようにしています。

例えば、面談に来てくれた方が「フルタイムで働きたい」とおっしゃっても、詳しく話を伺うと、本心では「子どもとの時間を大切にしたい」「家庭を大事にしたい」と思っていらっしゃるケースもあります。だとしたら、社員ではなくフリーランスとして働くことも選択肢の一つです。

「リモートワークをしたい」という理由で面談に来てくれる方もいます。私自身、リモートワークの価値を実感している人間の一人ですが、全ての人に強くおすすめするつもりは毛頭ありません。

「未来を自分で選択できる社会をつくる」というニットのビジョンにもあるように、大事なのはその人に合った働き方を選ぶことです。ニットが採用したいと思った人材だとしても、無理に勧誘することはしません。「強く勧誘されたから」「誰かに勧められたから」という理由ではなく、自分の意思で入社を選択してほしいからです。

採用、不採用にかかわらず、面談を通して相手の方がより良い選択にたどり着くお手伝いができればと思っています。そのためにも、面談ではニットの良いところも悪いところも隠さずきちんと伝えることを大事にしています。

400人の仲間がいるから実現できるビジョン

首都キガリの並木道。

そのような思いを持って面談に向かう理由は何でしょう?

夫に帯同してさまざまな国を巡るなかで、働き方や生き方を「選べない」人を多く目にしました。能力はあるのに、生まれた環境が理由で働き方を選べない。学校に行って可能性を広げることすらできない。海外で活躍したいと思っても、出身地によってはパスポートも取得できない。さまざまな制限を受ける人があまりにも多い現実を目の当たりにし、世界に対する憤りを感じました

日本国内を見ても、妊娠・出産や育児、介護、パートナーの転勤にともなう地方移住などが理由で、働きたくても働けない人が多くいます。そのような方々が選択の機会を奪われるようなことがあってはならない。そのような方々が活躍できる場をつくりたいという思いで、ニットへジョインしました。

私自身が海外リモートワークを実践し続けることで「どこにいても働ける」というモデルケースになれたらと考えています。人事・労務の仕事を海外からフルリモートで行うなんて、常識的に考えて無理だと感じる人も多いかもしれません。そうじゃない、ということを自ら示していって「地方在住だから」「夫が転勤族だから」とキャリアを諦めている人の希望になれたら良いですね。

今は、日本語を母国語レベルで話せて、かつ日本国内に銀行口座を持っている方に限定して募集をしていますが、ゆくゆくは海外の方も当たり前に働ける組織にしていくことが自分の中での野望です。

一人では実現は難しいかもしれませんが、今、ニットにはビジョンに共感して集まった400人の仲間がいます。そのうち23パーセントは私と同じ海外在住メンバーで、33か国からフルリモートで働いています。これからさらに増えていくことでしょう。

たくさんの仲間が集まることで、できることの幅も広がっていきます。人事として仲間を増やすことが、ビジョンの実現、そして個人の夢の実現につながると信じています。

創業期を知っているからこそ、仲間が増えたことが何より嬉しいと話す。

では、今後は海外在住者を積極的に採用していくのでしょうか?

必ずしもそうとは限りません。もちろん、海外在住の方からの応募は大歓迎です。

でも、「やりたいこと」をベースに人を採用するのは、多様性を欠くことになりかねないと個人的に思うんです。企業として「こういう人と働きたい」という軸は持ちながらも、住む場所や経歴を限定せず人を採用することが多様性のある組織をつくるのではないでしょうか。

「この人、こんなことができるんだ、知らなかった!」という発見が、新たな可能性につながります。だからこそ、多様なバックグラウンドを持つ方に応募してもらえたら嬉しいですね。

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まとめ

ニットの社内メンバーや採用候補者に対する思いを語るなかで、何度も「仲間」という言葉が登場したのが印象的でした。ニット創業当初は、海外からリモートで働くメンバーは宇治川さん一人で、仕事を進める難しさや孤独を感じた経験があるからこそ、400人もの仲間がいる現状に感謝しているといいます。多様なメンバーが集まることで組織としての幅も広がっていく。人事・労務として「人」による小さな可能性を着実に増やしていくことが、宇治川さんが思い描く理想の実現につながるのではないでしょうか。
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