事実婚も夫婦別姓も、特別な選択ではない。夫婦で向き合って選択したふたりの道

著名人の結婚や、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で世間に知られるようになった「事実婚」。そして日本ではなかなか法律改正が進まない夫婦別姓問題ですが、別姓を選択できないことによって困っている人たちが大勢いるのではないでしょうか?実際に、別姓を望んで事実婚・戸籍婚の通称使用を続けてきた函館市の青果店「すず辰」店主鈴木辰徳さんにお話を伺いました!

ライター

鈴木せいら
札幌市出身。横浜国立大学大学院工学修士修了。2007年夏より、函館へ移住。制作会社でライティング・編集業務を行い、実用書・フリーペーパー等のコンテンツ制作を担当、2011年よりフリーランスに。現在、「HELP YOU」プロフェッショナルライター。理系の知識を活かしたサイエンスやアカデミー系の文章から暮らしにまつわるエッセイ、インタビューなど幅広く手がける。

夫婦が別姓を望んだ経緯

ご夫婦はどのように出会ったのですか?

お互いに京都大学の学生で、水泳部でした。彼女は一年上の先輩で競泳を、私は水球をやっていて。そこで出会いました。

 

鈴木さんは修士課程修了後、東京の会社へ就職された?

青果流通専門のコンサルティング会社に就職しました。妻は博士課程で先に東京へ行ったので、1年だけ遠距離恋愛になりました。

 

結婚を意識されたのはいつ頃?

8年の交際を経て結婚しました。彼女はとてもパワフルで何事にも全力投球なので、「一緒にいたらきっと面白い人生が送れるんだろうな」と思ったんですね。

 

別姓について話し合うようになったのは?

「結婚しようか」「うん」というやり取りがあって、数日後に妻から「私、鈴木にはならないから」と言われたんです。私の方はそれまで、結婚するということはこっちの姓になってくれるものだと当たり前のように思っていたので「えっ、どうゆうこと!?」とびっくり。そこで初めて別姓について意識するようになりました。

ひとりっ子だから、鈴木がよくある名前だから、違う姓になるのが気持ち悪い…妻が姓を変えたくない理由をいくつか挙げられましたが、そのひとつに彼女が研究者だからということがありました。研究実績である論文は、通常名前で検索されます。そこで結婚によって姓が変わってしまうと、別人として扱われてしまう。日本の女性研究者で結婚後に姓を変える・変えないというのは人によりけりですが、他国ではミドルネームに入れるかそもそも名前を変えません。妻は海外の研究者と仕事上交流があり、同世代の研究者の結婚を見てきているので、「結婚しても名前を変えない方が当たり前」という感覚があったんだと思います。

30歳前後で結婚するとして、10年ほどキャリアを積んできた人たちが名前を変えるというのは、それこそブランドが名前を変えてしまうぐらいのインパクトがありますね。

そういう話をして姓を変えたくないのがよく分かり、私も鈴木姓に思い入れがあったので、「だったら別姓でいこう」と。ですから、そのために結婚当初2年ほどは事実婚の形式を取っていました。

 

事実婚というのは、具体的に役所へ何か手続きをするのでしょうか?

まず最初に、それぞれが親の籍から外れてひとりずつ独立した籍をつくりました。その上で、住民票をひとつにする際に「結婚しましたが籍は入れていません」と役所に伝えて「夫(未届)」「妻(未届)」と記載されました。事実婚の場合、よりどころとなるのはこの「住民票」です。同居を始めてほどなく住民票を一緒にしたのですが、私たち夫婦は同居を始めた日=結婚記念日にしています。

 

子どもが誕生!「戸籍婚の通称使用」を選択

 

その後、入籍されたのはどういう経緯だったのですか?

第一子が生まれる直前に妻の姓で婚姻届を出しました。子どもが生まれるにあたって、認知しても事実婚だと「非嫡出子」と戸籍に記載されてしまうからです。それで、子どもが生まれた後ペーパー離婚をして、事実婚の状態に戻りました。

第二子が生まれる前に籍を入れ、また同じようにしばらく時間をおいたら抜こうと思っていました。ですが、夫婦の共同名義で土地を買って家を建てるためのローンを組むことになり、名字が同じ方が都合が良いのでそのままに。そうこうするうちに第三子も生まれたので、今に至ります。私の方は普段仕事で鈴木を名乗っているので、「姓の通称使用」にあたります。

 

「通称使用」というのは、何か手続きなどは必要なのですか?

いえ、役所に書類を提出するようなことはないです。ただ、当時私は独立前で函館の農業資材会社に勤めていました。ですから、第二子の誕生に合わせて入籍した際に、「書類的な名字は変わりますけど、仕事上は今までどおり鈴木姓を使いますので宜しくお願いします」という話をして認めてもらいました。使っていた名刺も鈴木のままで、職場では「鈴木」を名乗り続けましたね。

 

「姓名」についてのこだわり

事実婚と入籍した上での別姓の使用を経験されて、一番不便に思ったことは?

屋号は「すず辰」ですし、生活の多くを鈴木辰徳で通しているので、戸籍上の姓を証明しようとするとなかなか大変。独身時代に使った口座で鈴木名義のものはそのまま使っています。

意外なところで、携帯キャリア会社から「夫婦で同じ名字じゃないとだめだ」と言われたことがあります。1回はクレジット機能のついたポイントカードを家族の分も作ろうとした時、もう1回はそれまで私が支払っていた携帯を妻に名義変更しようとした時です。独身時代に携帯を契約してから、そのまま特に変更しないで使っていたんですね。

ところが、クレジット機能付きカードを家族の分も作るには、たとえ戸籍謄本を出して「結婚しています」と証明しても登録上の夫婦の名字が違うとだめだと言われました。「名字が違っても家族割には入れていたのに、なぜ?」と聞いたら、携帯キャリア会社での家族の定義と、クレジット会社での家族の定義が違うからだと。その時は納得できずに「じゃあいいです」と家族カードは作りませんでした。その後名義変更の際に、結局戸籍上の姓に変更になりました。

 

将来的に、お子さんたちに鈴木姓を引き継いでほしい思いはありますか?

正直なところ、ありました。子どもの誰かひとりが継いでくれないかな、と。私は4人きょうだいの長男で姉も妹も結婚で姓が変わっているので、鈴木の名前がなくなる寂しさはありますね。でも、子どもたちも成長してそれぞれのアイデンティティが芽生えていますから、慣れ親しんだ自分の名前を変えたくないようです。それは無理強いできないな、と。

別姓でいきたい、と妻に言われた時に、「じゃあ自分が相手の姓になったとしたら?」と考えました。声に出してみましたし、紙にも書いてみました。その違和感たるや、ものすごかったですね。「誰これ?」と思いました。自分が自分ではない感じ。だから名前を変えたくなかった妻の気持ちが分かります。よく男性で「名字が変わるぐらい」という声を聞きますが、そういう人は自分ごととして、違う名字でフルネームを呼ばれるざわっとした感覚を想像していないんじゃないかと。

いま、子どもの父親として戸籍姓を呼ばれる場面はありますから、違う名字を呼ばれることには慣れました。ですが、フルネームで呼ばれた時は今でも抵抗感があります。

 

別姓でも普通の家庭。ありのままで幸せな家族のかたち

もし今後選択的夫婦別姓制度(注釈)が法律的に認められたら、手続きしたいと思いますか?

思います。早く法律が改正されることを願っていますね。世の中には、結婚して相手の姓に変わることに喜びを感じる方もいますから、姓を一緒にするか、別々でいくか、「選択できる」ということが大事だと思います。

 

お子さんたちは、ご両親の姓が違うことに疑問を感じている様子はありませんか?

ありません、「どうして違うの?」と聞かれたこともないです。我が家では父だけ名字が違う、それが当たり前のこととして浸透しています。

 

別姓でやっていこうと決めた時に、ご家族から反対されませんでしたか?

私の両親は反対しました。父は、「披露宴に出ない」と言って。同居してから1年後に披露宴を開いたのですが、父が言うには「結婚自体はふたりのことだから、名字が違うのは百歩譲って良いとする。ただ、披露宴というのは結婚を世間にお披露目する場。それなのに一般と違うやり方をするというのは、受け入れられない」と。式の1週間前ぐらいまでかたくなに出席しないと言われましたが、最終的に「いつかは籍を入れるから」と説得して出てもらいました。

意外だったのは、母に反対されたことです。物事を達観していておおらかな母は、いつも味方でいてくれる人なので、反対されるとは思ってもみませんでした。10代で特に反抗期もなかった私が、生まれて初めて母に反抗したのがこの別姓結婚です。

でも、家族のラベル的なものが違うというだけで、普通に夫婦で協力して家庭を営んでいる姿を見て、今は見守ってくれていると思います。

妻は研究者という職業柄、出張や調査のために不在がちです。私は自営業ですから今は家事育児の多くを担っていますが、東京時代は私の方が忙しく飛び回っていたので役割分担が変わっただけ。妻は研究に打ち込み、私も「すず辰を八百屋界の旭山動物園にする」という夢に向かって努力し、こども食堂の活動もしています。お互いのやりたいことを応援しつつ、相談して、労いあって、人生のパートナーとしてやっていけているかなと思います。

 

注釈

選択的夫婦別姓制度(民法等法律上では「選択的夫婦別氏(べつうじ)制度」と呼ばれる)とは、夫婦が望む場合、結婚後も夫婦のそれぞれが結婚前の氏を称することを認める制度のことです。
参考:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について(法務省)

取材後記

女性が結婚や出産などのライフステージを迎えても仕事を続けることが珍しくない世の中になってきたことを考えると、「名前が変わることはブランド名が変わるのと同じ」という鈴木さんの言葉にうなずけます。夫婦別姓が認められて選択肢が増えることで、より多様な生き方ができるようになるのではないでしょうか。