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株式会社プチトリアノン 代表取締役社長 デザイナー 山内美穂さん
大手都市銀行へ新卒就職するも1年で退社、ファッションデザインを1から学び大手アパレルメーカーにデザイナーとして就職。
夫の海外赴任に伴い2年で退職した後、2005年ウェディングペーパーアイテムのオンラインショップARARS(アラース)を立ち上げる。
2008年12月に株式会社となり、2018年年末に10周年を迎えた。起業から13年の間に3人の母となり、女性起業家の先駆け的存在として子育てと会社経営に奮闘している。

ARARS設立の経緯。ホームページ制作を一から自分で作り上げた日

ARARSのペーパーアイテム

-ARARSの会社設立のお話から教えていただけますか?


山内美穂さん(以下、山内):大学を卒業して最初は銀行に入ったのですけど、1年で退職したんです。というのも、本当はものづくりをやりたかったんですね。私がいたのは4年制大学の文学部だったので、専門的に学んでいなかったため就職につなげるのは難しくて。それで銀行に就職し、事務作業も好きだったので、それなりにこなしていたと思います。 しかし、「もし自分から動かなかったら、ずっとこの生活が続いていくんだな」と思うと、怖くなりました。やはり私は、デザインやモノを作る仕事がしたかったんです。


辞めてすぐに、1年間でデザインの基礎から勉強できる学校へ。入学してほどなく就職活動を始め、卒業後の春からフランドルというアパレル企業にデザイナーとして就職することが決まりました。

ところがその矢先に、当時付き合っていた彼、現在の夫がサウジアラビアへ転勤することが決まったんです。おそらく20代半ばで海外に赴任する人たちは結婚して妻を帯同するのが前提だったのだと思いますが、夢が叶ってデザイナーとして就職する直前だったので、一緒に行く選択をしませんでした。

それで、4月からデザイナーとして仕事を始めたら、うそみたいに楽しくて(笑)。好きなことを仕事にできる喜びをそこで実感しました。


その後思いのほか夫の中東駐在が長くなり、話し合った結果、デザイナーとして2年仕事をした末に辞めることを決心しました。デザイナーをしている間に結婚もしたんですね。

その時点で、起業することは全然頭になかったのですけど。2005年の夏に、その頃夫の赴任していたクウェートと日本を行き来する生活の中で、突然起業することを思いつきました。ちょうどネットショッピングがメジャーになってきた頃で、ネットショップで何か販売できるんじゃないか?と思い立って。雑貨を売ることも考えたのですが、それよりも結婚式の招待状であれば、まとまった数の注文をいただけるからビジネスとして成立するのでは?と。

思いついてからはあっという間でした。サンプルを作って自分で撮影して、ホームページを作るための本を買ってきて、自分でサーバーを借りて……。クウェートの家のリビングで、インターネット上にARARSのホームページを立ち上げた瞬間のことはすごく覚えています。「やった、インターネットで見られた!」って。

3人の子育てとARARSの事業の両立に奮闘する、葛藤の日々

-山内さんは起業後に3人のお子さまを出産されていますが、産休は取られたのですか?


山内:オフィスに出勤しない時期は1カ月ほどありましたけど、完全に仕事から離れたことはありません。出勤しなくても、家でパソコンを触ってスタッフから連絡がきて、どういう注文が入っているか確認して……。 特に長男を出産した頃は、会社の成長期で、同時に初めて私が会社から少し離れてスタッフたちに仕事を任せる仕組みを作り始めた時だったので。入院中、それこそ陣痛の合間にも会社のスタッフからのメールに返信していた記憶があります。

2人目を出産した時も、ちょうどスタッフも出産ラッシュを迎えていて、新しい人を入れなくてはいけない時期だったんです。出産した病室に、スタッフが「新しい人の履歴書が届いてました」って持って来てくれたり。でも、私が長女を出産した日に届いていた履歴書のスタッフが、現在もまだ仕事を続けてすごく頼りになる存在になっているんです。感慨深いですね。



-困難を乗り越える原動力になっているのは、好きな仕事だからという思いの強さですか?


山内:そうですね。それに、私が長男を産んだのが2011年なので、会社の方が長男より6年ぐらい年上というか。会社が私の1人目の子どものような気持ちです。私がいないと成長できないし、手をかけてあげればその分成長するし。一心同体というか。

子育ては双方の親たちに協力してもらい、子どもたちは育っていますが、会社はそういう訳にいかなくって、私自身がやらないと成長できない存在なので。



-仕事と家庭のどちらも大事という、働く女性だからこその実感ですよね。


山内選ぶことはできないですよね。どちらに対しても大きな責任があって。今、社長としての私の仕事のひとつに、緊急時の対応があります。結婚式というお客様の一生に一度の大切な日に、絶対に商品が間に合わないなんてことがあってはいけない。両立というと難しいですよね。自分でやっている仕事だからこそ、代わりがいないというか……常に葛藤の日々です。



-山内さんのinstagram を拝見すると、育児を頑張っていらっしゃる様子が伝わってきます。


山内:まだ3人とも小さいので、本当に必死です。仕事も、なかなか自分が段取りしていた通りにいかないことも。途中で電話が入ったり、会社を出ようと思ったらメールが来てしまったり。そういう時に男性だったら「これだけ片付けてから帰ろう」とできるでしょうけど、「お迎え」という絶対的なタイムリミットがあると、自分が水を飲む時間も我慢してオフィスを飛び出なきゃいけない。今は、小学校の学童と保育園と幼稚園、3カ所へお迎えに行っているので。その時間までに終わらせなきゃと、指がもつれそうなスピードでメールを打ったり(笑)


ですから、働くお母さんたちが不完全燃焼になってしまう気持ちがすごく分かります。自分がやりたいと思っていることを、どうしてもいろんな事情で取捨選択しないといけない。

急に子どもが体調を崩しても翌日重要な打ち合わせがあったり、夜中に咳きこんで眠れずに朝を迎えたけど重要な要件が入っていたり。仕事をしていてもどこかであきらめる、切り上げないといけないというのが、働くお母さんたちの達成感を得られない理由なのかなって。



-今が一番子育ての大変な時期なのかもしれないですよね。


山内:上の2人に関しては一番大変な時期を抜けたかなと思う年齢になりました。年子なので、上の子が3歳の頃の方が3人いる今よりもっと大変だったと思います。 年子で本当に大変なのに、会社のことも今よりももっと諦めてなかったというか。

今は、子育てという大仕事をしているんだから、仕事はここまでという割り切りができるようになったなって思います。


時の流れで、こうして3人の子育てをしながら会社をやっていることをinstagramなどで公開できる時代に変わったことを感じます。ひとりで立ち上げた小さい会社だということを堂々と言えるようになった。起業したばかりの頃は、個人に対して仕事を依頼することが今のように浸透していなかったので、ARARSも株式会社ではありますが小規模というので、ネガティブにとらえるお客様もいらっしゃいました。

お母さんが仕事をしていると子どもが寂しい思いをする、という固定観念も、以前より言われなくなってきた気がします。仕事のために子どもと一緒に過ごせない時間はもちろんありますけど、子どもたちにはそれで「寂しかった」という子ども時代を過ごしてほしくない。お母さんみたいにイキイキと仕事して、人生を楽しむ人になりたいと感じてほしいなと思っています。



-きっと旦那さまも仕事がお忙しいのではと思いますが、山内さんが起業して仕事していることに関しては、理解を示してサポートしてくれていますか?


山内:夫も会社で責任のある立場で忙しい仕事をしているのでサポートは別として、誰よりも心の応援はしてくれてます。仕事を辞めて欲しいとはまったく思っていなくて。多分、もっと私に有名になってほしいと思っています(笑)

私は夫を「我が家のイベント担当」って呼んでるんですけど、長期休みの旅行の企画、お出かけの計画は夫が自分からしてくれます。私がちょっとでも時間が空けば仕事したいって思う性分なのも分かっていて。家族で非日常の時間を過ごそうと、連れ出そうとしてくれています。

いつしか、全員がママに。ARARSの事業を支える心強いスタッフの存在

-制作スタッフの方は、何名雇用されているんですか?


山内:最初は2人から雇用を始めて、一番人数を増やした時は制作スタッフだけで15人いましたね。最初の数年間は会社をどんどん成長させるにあたって、増員していったんですけど。「こういう仕事がしたかった」と、遠くからわざわざ通ってくれているスタッフもいたんです。

ところが、同世代の人が多かったため、私が長男を出産した頃からぱたぱたと出産ラッシュになってしまって。おめでたい話ではありますが、会社としては頼りにしているスタッフが欠ける影響は大きくて。1人目が落ち着くと、今度は2人目の出産ラッシュが起こったり、30代は会社として女性を雇うことの壁にぶつかっていました。



-スタッフの方に在宅で作業してもらう業務と、オフィスに来てもらう業務と分けているのでしょうか?


山内:出産を機に出勤できなくなった制作スタッフ達も、在宅業務という形で繋がってくれていることが有難いです。日々出勤して来るスタッフが製作物のチェック、出荷作業、製作作業の割り振りをしています。別にお客様対応スタッフもいて、 注文に対する電話・メールのやり取りと出荷までの事務作業を担当してもらっています。


出産ラッシュを経て、スタッフ雇用の視点をちょっと変えた部分が。例えばオフィスの近くに住んでいる人、出産はひと段落している小学生のママとか。自分が母親で無い頃は、子育て中の人を雇うハードルが高く感じられたのですけど。先輩ママを雇うことを試みて、スタッフの方も自宅の近くで子どもの行事がある時は早退できる、途中で抜けたりしても仕事を続けられる状況で楽しく働いてもらえたら良いなと思ったんです。それから5~6年経って、スタッフのお子さんも成長して手がかからなくなり、ずっと仕事を続けてもらえているので正解だったかなと思っています。



-基本は皆さん主婦だったり、お子さんがいたりするのですか?


山内今は全員ママです。当時、私も母親じゃなかった頃に雇用して、ママじゃなかった人も全員ママになりましたね。

例えば、冬の時期はお子さんたちが胃腸炎だインフルエンザだと急に来られなくなることもありましたが、そういう事情もお互い分かり合える。それから、お客様ごとに管理ガイドを作っていて、もしも急に誰かが出勤できなくなっても状況が分かるよう、対策を取ってきました。



-創立から10年の間に、仕組み作りがしっかりできたのですね?


山内:スタッフたちは責任感の強い人たちなので。一人ひとりの小さな力を重ね合わせると、これだけ大きいことができるのかなと感じます。ママたちはみんな家庭という「組織」を担う有能な人たちです。ただ、主婦業は誰かにほめて認めてもらうこと、成果を得ることが難しいので、そういう意味でもARARSがママたちの「自分の居場所」であれば嬉しいと思って。私も子育てをしながら10年会社を続けてきたのは大変でしたが、スタッフたちがいてくれたからこそ続けられたのだと思っています。

今後目指していくママとして、一人の経営者としての「くらしと仕事」

-今後、お仕事の上であるいはママとして、目指していることはありますか?


山内:まずブライダル業界は当たり前ですが、完全にリピーターがいない世界。一般にお客様を相手にしている業種はリピーターに支えられて成長していると思うんですね。自分自身も起業後に母親になり変わっていっているので、ARARSを選んでくださったお客様たちもご結婚されて同じように置かれている立場が変わられていると思うんです。そういう女性たちとつながっていける商品も提供していきたい、と考えています。


母親としては、子どもたちが大きくなってきているので、この時期を大切にしなければと。週に1回でも良いから仕事を早めに切り上げて、平日の午後に子どもたちとの時間を作っていけたらというのが、2019年の目標です。

編集後記

山内さんがARARSのホームページを立ち上げた2005年には、まだ個人がオンラインショップを開くことは珍しく、商品撮影からサイトのSEO対策に至るまでご自分で独学してコツコツと成果を積み上げていったそうです。問題発見と、それに対処するスピードの速さ。華やかなウェディングペーパーアイテムの事業を支える、 山内さんの経営者としてのセンスをお話から感じました。
今後は、子育て時間を増やす一方で、結婚式を終えたお客様とのつながりを続けていける商品を考案中とのこと。ママ経営者の先駆者である山内さんのご活躍を、これからも注目していきたいと思いました。

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