複業で輝く!どちらの仕事も全力投球、より良いライフワークバランスに

平日はIT業界の会社で、それ以外の時間は書道家として仕事をしている葛谷葵さん。収入を増やすための副業ではなく、どちらの仕事も本業ととらえて「複業」を称しています。忙しいながらもふたつの仕事に全力で取り組み、「人に喜んでもらえることが自分のモチベーションにつながる」と語ります。複業を持つようになったきっかけや仕事のバランスの取り方についてお聞きしました!

ライター

鈴木せいら
札幌市出身。横浜国立大学大学院工学修士修了。2007年夏より、函館へ移住。制作会社でライティング・編集業務を行い、実用書・フリーペーパー等のコンテンツ制作を担当、2011年よりフリーランスに。現在、「HELP YOU」プロフェッショナルライター。理系の知識を活かしたサイエンスやアカデミー系の文章から暮らしにまつわるエッセイ、インタビューなど幅広く手がける。

新卒1年目で硬直的な働き方に疑問 自分らしい働き方を模索

新卒で入社された会社では、どんな仕事をされていたのですか?

新卒ではSP(セールス・プロモーション)の会社に入りました。例えばペットボトル飲料に小さなおまけがついていることがありますよね?ああいったもののデザイン提案をしていました。

念願のSP会社への就職だったのですが、入社直後から違和感を感じたというか。企業への飛び込み訪問なので、とにかく朝から晩まで足で営業を稼がなくてはいけない。営業で回るための企業リストは他の人とかぶってはいけないルールだったのですが、同期は同行や引き継ぎがある中、私は引き継ぎもほぼない状態で、飛び込みを続けていたので厳しい状況を毎日感じていました。

また、地方から就職で上京する人が多いので会社に寮があったのですが、大学から東京で生活していた私は入寮しませんでした。そのために、寮内で情報交換しているようなことでも、私は知らなかったり……。当時、社員120人中、9割ほどが、営業というような会社だったので、社内の競争も熾烈でした。勤務も朝7時半には出社しなくてはならず、体力的にきつかったんですね。営業にパソコンを持って行ってはいけないなど、非効率的なルールも多かったと思います。

入社後早い時期から働きづらさと体力の限界を感じていました。それでも「とにかく、最低でも1年は頑張ろう!」と自分で決めて、2011年4月からまる1年働きました。

 

それから今の会社に転職されたんですね?

1社目で心身ともに疲弊してしまったので、社会人1年目としては早い決断だったように思いますが、いろいろな社会人経験のある先輩方にアドバイスをいただき、退職の決断をしました。そもそも社会人としてできていないのか、仕事や職場があっていないのかなどを判断するには、まだまだ未熟な時期だったとは思いますが。自己都合退職の失業保険の出る半年間は、スポットでの仕事を世の中を知る意味でも経験しながら、休んでいました。徐々に再就職活動を始めたのは、2012年9月ごろから。

第二新卒の扱いで、結果として5社から内定をいただきました。その中で今の会社に入る決め手となったのは、エージェンシーの方が「この会社はあなたに合っていると思いますよ」と勧めてくれたこと、ソーシャルメディアの可能性に興味があったこと、1社目とは社風も仕事の仕方もガラッと違っていたことが私には新鮮で、会社が出版している書籍を読んでみて入社したい気持ちが高まったこと……いろいろあります。それで、その年の11月から現在の会社で働き始めました。

 

現在の仕事は前職と180度雰囲気が違う

現在は、どんなお仕事をされているんですか?

ITソーシャル系の会社で、カスタマーサクセス(CS)の仕事をしています。自社のツールをお使いいただいているお客様に使い方の説明をしたり、アップセルのご提案をしたりしています。業務のボリュームはありますけど、やりがいを感じていますね。自分自身もともとSNSが好きなので、楽しく業務に携わっています。現在の会社では、定時は10時から19時まで。時々、緊急対応などで帰宅が終電のときもありましたが、1社目の時のような辛さを感じていないです。

今の会社は、1社目の殺伐とした感じとはまったく雰囲気が違うんです。社内はコミュニケーションが活発で、あだ名で呼び合ったりFacebookでつながっていたり。実は複業を始めたのも、社内の人とのコミュニケーションがきっかけでした。

 

転職されて、何年になりますか?その間、部署異動は?

現在の会社では、昨年11月で7年目になりました。自分の希望もあって、ずっとジョブローテーションすることなく今に至ります。チームの中でカスタマーサクセスとしてお客様のフロントに立つ、責任ある仕事を任せてもらっていると思います。人に喜んでもらいたいという気持ちが強いので、業務を通してお客様の役に立てますし、仕事の特徴としてお客様のその先にはSNSユーザーがいますから、世の中が少し変わることに貢献できることが、面白くうれしいです。「ありがとう」という言葉をいただくと、モチベーションが上がります。

 

勤続5年が経つと、会社から1カ月の有給休暇がもらえるのだとか?

はい、創立から10年以上で、私が入社した当時は30名ほどでしたが、現在は100名以上の規模となっている会社で、いろいろな制度がある中のひとつでした。満5年勤続した社員が、1カ月のリフレッシュや普段できないような体験をすることが推奨されていたので、取得させてもらいました。海外旅行に行きましたし、地元に帰省したり、普段なかなか会えない方に連絡して再会したり…。複業の打ち合わせにも時間を使えたりと、有意義でしたね。

 

複業のはじまりは偶然の産物

 複業ではどんなことをされているのですか?

書道家「葛谷綺仙(きせん)」として活動しています。一般的には「副業」という言い方をしますけど、私は平日の仕事と書道家の仕事、どちらも本業として全力で取り組んでいるので、「複業」と呼んでいます。最近では、パラレルキャリアという働き方になりますね。

複業の書道で「これは仕事になるかもしれない」と思ったのは、会社の人に頼まれて書いたことがきっかけでした。SNSコンテンツ提案の部署の担当者が、Facebookで私が書道をやっていることを知っていて、「お正月の字を書いてくれない?」と。クライアントからの評価も良かったそうです。

※葛谷さんが実際に制作された命名書

それから、同じぐらいのタイミングでやはりFacebookで私の書道を見た会社の先輩が、お子様さんが誕生したので「子どもの命名書を書いてほしい」と。「これは親がもらったら嬉しいよね」と周囲の反応も良くて。それから筆を持つ時間を意識的に作って、知人から話をいただいては書くようになりました。

そんな風に3~4年が経ち、本格的に書道を仕事にしようと決心したのは2016年のことです。前職のお客様でお世話になっていた方から「クラウドファンディングの書き初めイベントがあるから、おいでよ!」と呼んでもらいました。そこで出会った書道家の方に、年に1回東京ビッグサイトで開催される「クリエイターexpo」への出展をすすめてもらったんです。CSの仕事がある中イベントへの出展申し込みをすることさえ無理だ、と思ったのですけど、たまたま「会社を15時に帰れる」権利をもらったんです。

当時、会社でいろいろな取り組みをしているひとつに、同僚からの「ありがとう」の数が一番多かった社員に、「15時退社が1回できる権」がプレゼントされました。それで15時退社権をもらって、「クリエイターexpo」の申し込みに行きました!申込み時期と券のタイミングが合っていたのも、運が良かったです。それからイベントのために有給を取ることにして、名刺やチラシを作って…。このイベント出展が、書道家としてのスタートになりました。

 

※葛谷さんのお仕事道具

 

書道家の仕事をするにあたって、どういう風に仕事を受けているんですか?

特に営業活動はしていませんが、Instagramで発信していることと、年に一度の「クリエイターexpo」への出展を毎年続けていることが仕事の依頼につながっています。expoで名刺をいただいた方々にお礼のメールを送っているので。1年後のイベントに出ることを自分の中で成果発表のような位置づけにしてモチベーションを高めています。できる限り、出逢いを大事にする、次につなげるという点では、営業経験が活きているかもしれません

 

書道の仕事では、これまでにどんな依頼がありましたか?

お子様の誕生の際の命名書のご依頼はよくあります。生まれたばかりの赤ちゃんの名前は、皆さんにお知らせするまではトップシークレットですよね。大切なことをお預かりする、人生の記念すべき瞬間のお手伝いをさせてもらえることは書道家冥利につきます。幸せのおすそわけだと思ってます。

それから、文字を書くことが苦手という人に教えることもあります。ちょっとしたコツをつかんで字がうまく書けるようになり、「ありがとう」と喜んでくれる様子を見て、私もまたうれしくなります。字ひとつで、気持ちも他者からの印象も大きく変わりますので、人生を変えるきっかけになっていると思うとやりがいがあります。

オランダにオープンするラーメン屋さんのロゴを現地に行き、書かせてもらったことも。海外の街に自分の書いた書が掲げられているのを見て、感無量でした。

 

複業をすることでライフワークバランスを保っている

書道の仕事では「とにかく仕事を増やそう」というスタンスではないのですね。CSのお仕事と両立できるバランスを保っているのでしょうか?

もちろん、そういう時間やリソース上の理由もありますし、書道家としてやりがいがあるかどうかという点でも考えています。やはり「書を書く人なら誰でもいいから」という仕事よりは、葛谷綺仙を選んでくださった方の依頼を受けていきたいですね。

平日の仕事とバランスを取るためには、いくつか自分の中でルールを設けています。複数案件が平行して動いているなか、最低でも月に1件は、仕事の実績として書の作品をリリースする、メール対応は通勤中・ランチタイムに、打ち合わせは夜や休日にするなどです。1社目の営業経験からの視点や、平日の仕事で培ったSNS上でのブランディング力が書道の仕事にも活かせていると思います。

 

今後こうしていきたいという展望はありますか?

新卒で憧れの職業に就いたものの、挫折してしまった経験から、自分の中で「仕事をおろそかにしたくない、真剣に取り組みたい」という思いがあります。書道を仕事にできるかもしれないと思ってから、本格的に活動を始めるまでにタイムラグがあったのはそのためです。今の自分は、CSも書道もどちらも本業と考えて、本気で向き合っています。

これからも自分の引き出しを増やして、何かを生み出す時間を大切にしたいですね。それが誰かの心に響いたらうれしいです。海外での仕事も、オランダ、イギリスに続いて、増やしていきたいと思っています。日本人としてせっかく生まれたので文化を知ってもらうことにも貢献していきたいです。

 

葛谷綺仙(Kisen KUZUYA)

1988年静岡県出身。9歳で書に出逢う。2011年SP会社入社。販促企画・グッズ製作の企画営業職を経て、現在、コンサルティング会社にて、クライアントサクセススペシャリスト。転職を機に改めて、書道と向き合う時間を作り、第34回産経国際書展秀作受賞等。

J-culturefestの書道ゾーン/書初めイベントの講師、ロゴ、命名書、Tシャツ、キンコーズアーティスト年賀状、オランダアムステルダム「Ramen-Kingdom」の店舗ロゴ、Japan Airlines正月SNS投稿出演等多数。

取材後記

副業を認める企業が増え、やってみたいと思う人またはすでに実行している人も多いと思います。ですが、実際にリソースをやりくりしながらふたつの仕事を続けることは、決してラクではないでしょう。お話を聞きながら、葛谷さんのように自分なりのルールを設けながらモチベーションを保っていくことが成長を持続させるコツなのだと感じました。