「くるみん」マークは信用できない? 働きやすい企業を見分けるヒント

国から「子育てをサポートする働きやすい企業」と認定された証である「くるみん」マーク。長時間労働による過労自殺が起きた電通が過去3回に渡って認定を受けていたことが問題視され、同社はこれを辞退しました。「結婚や出産などで環境が大きく変わっても長く勤めたい!」そんな女性にとって働きやすい企業はどうやって見分ければよいのでしょうか?

出産を機に仕事をやめるか、続けるか。これは働く女性にとって大きなテーマです。10月29日に内閣府が発表した「男女共同参画社会に関する世論調査」の中で一般的に女性が職業をもつことについてどう考えるか聞いたところ、「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」と答えた人の割合が54.2%となったことが明らかになりました。これについて、日本経済新聞では「2年前の前回調査から約10ポイント上昇し、1992年の調査開始以来、初めて5割を超えた。」と報じています。(「産後も働く」初の過半、内閣府調査 旧姓「使いたい」3割

 

 

子どもができても、ずっと働き続けるためには「結婚・出産後も働き続けられる環境」が整っているかどうかが、重要になってくるでしょう。

 

ライター

西谷じゅり
女性に求められる役割が多い中、仕事・家事・育児それぞれのフィールドをより楽しむために試行錯誤中。ライフスタイルに合った働き方を模索しています。趣味はピアノと読書。

「働きやすい企業」として認定されていた電通

 

働きやすい職場かどうかを考える一つの指標として、「くるみんマーク」というマークがあります。これは「子育てをサポートする働きやすい企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証です。

 

認定を受けるには、各企業が策定した行動計画期間の中で「女性従業員の育児休業取得率が75%以上であること」や「男性従業員のうち育児休業を取得した者が一人以上いること」など一定の基準をクリアすることが必要です。(参考:厚生労働省による認定基準等の説明パンフレットパンフレット「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、くるみん認定・プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!」

 

これは、少子化の改善を推進する次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき厚生労働省が取り組みを進めているもので、平成28年6月末時点で、2,570社が認定を受けています。

 

その中に、新入社員の過労による自殺が起きるほどの長時間労働が問題となっている電通も含まれていたことが、波紋を呼んでいます。2007年、2013年、2015年の過去3回にわたって認定を受けていましたが、今回の問題を受けて電通は、11月1日に厚生労働省・東京労働局に認定の辞退を申請し、承認されました。

中には真摯に取り組んでいる企業もあるとは思いますが、認定が必ずしも信頼できるとは言えない状況であることが明るみになってしまいました。

 

誰のための認定なのか

この「くるみんマーク」は、求職者だけでなく企業にとってもメリットがあります。

 

求職者にとってのメリット

・企業研究の指標の一つとして活用できる

 

企業にとってのメリット

・世間一般に対するイメージ向上(採用力につながる)

・税制優遇措置(くるみん税制)を受けることができる

・公共調達や入札に参加しやすくなる

 

本来は、求職者にむけての取り組みだったものが、企業にとってのメリットも大きいだけに、認定取得が目的になってしまうという本末転倒の事態は他にもありそうです。実態と異なる「男性育児休業取得」の実績を作らされた例として、おおたとしまさ著『ルポ父親たちの葛藤 仕事と家庭の両立は夢なのか』ではこのような話が取り上げられています。

 

白井和子さん(仮名、30代)の夫は大手生命保険会社に勤めている。男性の育休取得100%をうたっており、たびたびメディアでもホワイト企業として紹介される。
(中略)
「白井さんが第3子を出産したその年の年末、正月の休みに入るという年の瀬に、人事部から連絡があった。「白井さんは今年お子さんが生まれたのに育休を取っていませんよね。では年末に1日育休を取得したことにしておきます」というのだ。

 

この方は、奥さんの妊娠中に異動を命ぜられ、単身赴任を余儀なくされた上、最も休暇を取ってほしかった、産後間もないタイミングでは休むことができなかったそうです。それなのに、ずいぶん日が経ってからもともと休もうとしていた年末の1日を育休とさせられたと、妻の憤りが語られています。

 

 

本当に働きやすい企業かどうかを見分けるには?

 

マークより、もう少し具体的な数字で企業の取り組みを見ることができるのが、厚生労働省の「女性活躍推進企業データベース」です。「女性活躍推進法」の施行により、従業員301人以上の企業は「自社の女性の活躍に関する情報の公表」が義務付けられているのです。データベースの掲載情報としては、

 

・採用した労働者に占める女性労働者の割合

・採用における男女別の競争倍率

・男女の平均継続勤務年数の差異

・男女別の育児休業取得率

・長時間労働是正のための取組内容

・管理職に占める女性労働者の割合

 

など多岐に渡ります。企業によって公表している項目、公表していない項目がそれぞれあり、どの項目を公表して「いないか」は、一つの判断材料になるでしょう。また、残業時間など注意が必要な項目もあります。

 

例えば、電通のデータはこちら。

当ホームページは、企業における女性の活躍状況に関する情報を一元的に集約したデータベースです

「雇用管理区分ごとの一月当たりの労働者の平均残業時間」は正社員32.1時間、有期雇用社員17.8時間となっています。公表されている数字と実態とは乖離している(サービス残業など)ことがままあるので、公表されているデータを鵜呑みにするのは危険だと言えるでしょう。

 

実際の社内の雰囲気をつかむには「VORKERS」など、社員の口コミ情報を集めているサイトなどがより参考になります。

VORKERS 「社員による会社評価」就職・転職クチコミリサーチ

 

今どきのサービスも活用し、生の情報を得よう

大企業・中小企業に関わらず、本当に参考になるのは実際に働いている人に会って生の声を聞くことです。現在は個人情報の関係で大学からOB・OGの情報を手に入れるのは難しいようですが、SNSの活用・友人知人のつながりからその会社の人や業界の人に繋がる可能性はあります。Cofee MeetingやWantedlyなどで、話を聞かせてくれる人を探すのも良いでしょう。

 

筆者は前述の「くるみんマーク」を過去数回取得している企業から、小さい規模の職場に転職をしています。転職時には面接で直属の上司と話すことができたこと、またその上司は女性であったこと(私の場合、当時最終面接に女性がいること自体が稀なケースでした)、などは行ってみないとわからないことでした。小さい規模ならではですが、そういった実際の雰囲気から判断できたことが、後々働く上での納得感に繋がったことは間違いありません。

 

先に引用したおおたとしまささんは、見せかけの育休100%の問題に対して「踏み台に利用された家族としてはたまったものではないし、私もこの方法には半信半疑ではある」と述べながらも「形だけでも必ず育休を取ることにしていれば、そのうち「どうせなら」と本当に育休を取る男性が増えてくるかもしれない。現場に何が何でも育休を押しつけることは、男性の育休を普及させていく過渡期には必要なプロセスなのかもしれない。」と書いています。

 

今がまさに過渡期だとしたら、数字には出てこないたくさんの背景もあるでしょう。データはヒント、目安であり就職先を決める決定的なものではありません。

 

生の声を聞き、比較・検討することで、「あなたにとっての働きやすい企業」を探す強力なサポーターとして、データがよりいきてくるのではないでしょうか。

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