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男性育休取得率100%の2社が語る「育休で組織強化」成功の秘訣【セミナーレポート】

2022年4月から段階的に施行された改正育児・介護休業法により、「男性育休」取得率の向上が期待されています。企業には、男女問わず育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が求められていますが、取り組みがうまく進んでいる企業はまだ少数ではないでしょうか。株式会社ニットでは、6月19日に男性育休で組織活性に成功した2社のオンライン対談を開催しました。人事担当者必見、「育休は組織強化のチャンス」と語る両社のノウハウを公開します。

ライター

齊藤由佳
山口県出身。大学進学で上京後、食品メーカーで営業職として勤務。その後結婚を機に、機械専門商社の営業事務に転職。娘を0歳から保育園に入れて働き続けていたが、70歳まで働く時代。娘の小さい時くらいそばにいてあげたいと思いHELP YOUにジョイン。いろいろな仕事に挑戦できるHELP YOUでスキルアップを目指し修行中。執筆記事はこちら

求められる男性育休の環境整備

男性育休セミナー

夫婦共働き世帯が7割弱を占める現代、子育てと仕事の両立は、働く母親だけの課題ではありません。ところが、2021年度育休取得率は、女性が85.1%に対し、男性は13.97%といまだ大きく乖離があるのが現状です(厚生労働省「雇用均等基本調査」)。そこで男性の育休取得率向上を目指し、育児・介護休業法が改正され、2022年度から段階的に施行されてきました。

2022年4月には、雇用主に対し、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た従業員へ、育児休業制度の周知や利用意向を確認することを義務化。また今年4月からは大企業を対象に育休取得状況の公表が義務付けられています。

しかし法改正への対応のために取り組んでいるだけでは、制度がうまく運用できず、結果として男性育休取得率向上にはつながらないでしょう。労働人口が減少する日本において、人手不足に悩む企業も多い中、男性育休をどのように推進していくか。

今回のセミナーでは、人が抜けても業務を滞らせないような組織の作り方や、企業が男性育休を推進することで得られるメリットについて、男性育休取得率100%の2社に語ってもらいました。

社長も育休を取得!パネラー企業の育休取得状況

パネリスト紹介

ピクスタ株式会社
ピクスタ株式会社
コーポレート本部 人事総務部 部長 竹内 大介さん

【ピクスタ株式会社】画像・動画・音楽素材サイト「PIXTA」、プロカメラマンによる法人向け出張撮影サービス「PIXTAオンデマンド」、家族・子ども向け出張撮影サービス「fotowa」の3つのクリエイティブ・プラットフォーム事業を企画・運営する。
株式会社ニット
株式会社ニット
コーポレート戦略部 人事 リーダー 桒田 里紗

【株式会社ニット】2015年にフルリモートを前提として創業し、オンラインアウトソーシングサービス「HELP YOU」を運営。HELP YOUでは、様々なスキルを持つメンバーがチームを組み企業の業務を完全オンラインでサポート・代行。現在、日本全国・世界35か国から約500人が所属している。

まずは両社の育休取得状況について。ピクスタの従業員数は連結126名(2023年3月末時点)に対し、男性育休取得者は昨年度3名、今年度2名です。取得者の中には、部長や執行役員もおり、役職問わず男性育休取得率は100%。「役職層が育休を取得することに関しても、社内は戸惑うことなくウェルカムムード」と言う竹内さんに対し、司会を務めたニット広報の小澤美佳からは、「男性育休が取りやすい文化があるのでしょうか?」と質問が。竹内さんの回答は、「以前から男女問わず産休・育休はもちろん、休暇を取りやすい文化があったが、2018年に当社代表取締役社長の古俣 大介が育休を取得したことが大きく影響していると思う」とのことでした。

一方ニットの状況は、今年度は対象者がいないものの、昨年度の男性育休取得者は2名で、こちらも取得率100%でした。うち1名は代表取締役社長の秋沢 崇夫が取得しており、両社ともに「社長が育休取得済み」という共通点。しかし小澤からの裏話によると、秋沢は当初「取得しない」と決めていたそう。ところが、管理部のメンバーから「『「働く」を通じてみんなを幸せに』を企業理念に掲げ、多様な働き方を応援しているニットの社長こそ育休をとるべき」と、資料にして数十枚に及ぶプレゼンを受け、1ヶ月間の育休取得に踏み切ったそうです。

社長自らが育休を取得し育児の大変さを実感することで、社員も安心して育休を利用でき、育休について肯定的な風土が生まれるのではないか、というのが両社の見解でした。

ポイントは「つながりを保つ」育休社員への取り組み

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ピクスタでは、社員が育休に入る1ヶ月前に全社員に周知を行い、引継ぎを始めます。男性社員の育休期間は平均2ヵ月ですが、育休中でも情報の分断を防ぎ、会社とのつながりが途切れないようにする工夫が。スラック(※1)に専用のチャンネル(※2)を作って、自由に育休中の状況を発信できるようにしているそうです。竹内さんによると「『産まれました!』『おめでとう!パパがんばれー!!』などのスラック上での何気ないやりとりが、他のメンバーの育休取得への心理的ハードルを下げることができる」という狙いも。現状の男性育休は2ヵ月程度と短期間なので、復帰後は元の役職、業務に戻るのが基本的な流れだと言います。

ニットでは、昨年から1年間の育休を取得している男性社員がおり、4か月に1回面談を実施してコミュニケーションを図っています。またプロジェクトの内容によっては、期間限定で一部業務にたずさわってもらうこともあります。復帰後は元の部署に戻ってもらう予定ですが、本人の希望に沿って決定していく予定とのことです。

(※1)スラック:ビジネス用のメッセージアプリ
(※2) チャンネル:スラックでは、チャンネルと呼ばれる専用の場所で会話を整理することができる。プロジェクトやトピック、チーム別にチャンネルを作成して情報をやりとりする。

人員減でも業務を回すコツは、業務の棚卸と断捨離

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人が抜けても業務は回っているのでしょうか。「業務を円滑に回す方法について」小澤から質問がありました。ピクスタ、ニットともにフルリモートでの勤務体制のため、もともとテキストコミュニケーションが活発、業務をマニュアル化できているなどの共通点があり、前提として「仕事を引継ぎやすい土壌がある」とのこと。

加えてピクスタでは、普段から社内に助け合いの精神があり、育休に限らず誰かが抜けたときの仕事は、できる社員が積極的に担当しているそうです。このような社風が組織としての強みとなっています。

一方ニットは、運営する「HELP YOU」のメンバーに業務をアウトソーシングできるため、オンボーディング(※3)に時間をかけずに仕事を引き継ぐことができるという、同社ならではのメリットがあります。

また、両社が共通して答えたポイントは「業務の棚卸を実施し、やらない業務を決めること」でした。「完全に辞めてしまうのが難しい業務は、頻度を減らしたり、担当者を1人から2人に増やしたりなどの工夫をした」と桒田は補足します。
業務が回らなくなる要因として竹内さんは、「引継ぎの際の業務の棚卸が不十分な場合が多いのでは?」と指摘。「引き継ぐ人は通常業務にプラスして新たな業務が加わるので、業務分配はとても重要。当人同士に任せるのではなく、上司や、必要とあれば人事も介入して業務の棚卸と分配を支援していく体制が必要だと思う」と言います。さらにピクスタではガントチャートで業務の進捗状況を可視化するなどし、業務が滞らないような工夫もしているとのことでした。

(※3)オンボーディング:人事用語では、新しく会社・組織に加わった人材にいち早く職場に慣れてもらい、組織への定着や戦力化を促進するための取り組みのこと。

社員の成長で組織が強くなる

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育休社員への働きかけや、育休社員の業務の回し方のポイントを見てきましたが、企業が男性育休を推進するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ピクスタもニットも以下の3点を挙げていました。

・業務整理の機会となるので、不要な業務や改善すべき業務がわかる
・社員同士の業務理解が進み、新たな仕事を任された社員が成長する
・働きやすい会社だというイメージが伝わる

両社、社員の成長という側面は特に強調しており、社員が新たに任された業務や役割を主体的に担ってくれ、「2ヵ月という短期間でも意見の質が変わる」と竹内さんは感想を語りました。

しかし、社員に主体的に新たに任された業務に関わってもらうには、引継ぎ時の受け渡し方や、期待のかけ方が重要です。桒田は、「『この人の仕事の中でやってみたい業務はある?』など、社員へ押しつけにならないよう、ポジティブな姿勢で声かけすることを意識している。また、本人の成長したい方向性とも照らし合わせ、『自分ならこの業務をどのように担当していくか』を具体的にイメージしてもらった上で任せることが大切」と言います。竹内さんからは、「役職者が育休に入ったときに、役職者のちょっと視座の高い仕事を、部下に少しずつ分散して任せてみると、仕事の視野が広がり、新たな視点を得られる。普段の仕事の延長線上にない業務にたずさわることで、社員が各段に成長する」との気づきも。司会の小澤も昨年8か月ほど産休・育休を取得しており、「休む前は心配もあったが、戻ってきたら本当にみんなが頼もしく成長していた」と実感を語ります。

ピクスタもニットも男性育休について特に人事指標があったわけではなく、「結果的に取得率100%」となったのですが、この実績は、採用面接などで候補者から非常に好感を持ってもらえるそうです。働きやすい会社としての企業イメージの浸透にも期待しています。

男性育休が取りやすい会社にするために

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最後に、「これから男性育休を推進したい企業へのメッセージ」という質問に対し、両社は「利用できる環境・組織の文化がなければ、どんな制度も形骸化してしまう。取得しやすい環境を整えることが何より大事」と強調します。

ピクスタのように、普段から人が抜けても誰かがカバーする風土が根付いていれば理想的かもしれませんが、人手不足で余裕がない企業も多いでしょう。実績がない企業は「まずはロールモデルを作ること」を桒田は推奨します。また、「制度があっても取得が進まない場合、部署やチームの状況が良くないのか、あるいは各メンバーのメンタル面の問題なのか。人事がさまざまな指標で組織をモニタリングすることも必要となってくるのでは?」と続けます。

竹内さんは男性育休を文化浸透させるために「場所・人・もの」を用意するのが有効だと言います。「ここに行けば育休のことがわかる『場所』、この人に聞けば育休のことがわかるという『ロールモデル』、これを読めば育休のことがわかる『資料(もの)』を準備すれば、少しずつ制度を文化として根付かせることができるのではないか」と結びました。

まとめ

少子化対策、ワークライフバランス向上の施策として期待される男性育休。今後は、男性育休の取得率が企業の働きやすさを示すバロメーターともなりそうです。

しかし、当然ながら育休復帰後も育児は続きます。今回登壇したピクスタはコアタイムのないフルフレックス制を導入しており、子育て世代のライフスタイルに合わせた勤務も可能ですが、そのような働き方ができる企業ばかりではありません。

ニットの運営するオンラインアウトソーシング「HELP YOU」では、子育てと仕事の両立を目指してジョインしたメンバーがたくさん活躍中。フルリモートで好きな時間に働くことができるので、子どもの成長に合わせて仕事量を調整できます。「企業の制度充実を待っている時間はない。まさに『今』育児と仕事を両立したい」と思っている方はぜひご応募ください。

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