配偶者控除の見直しで何が変わる?家計と働き方を考える機会に

現在、政府は女性の働き手を増やすことを狙って、それを抑制していると考えられている「配偶者控除」の見直しを検討しています。この機会に今後の働き方やライフプランについて、今一度考えてみませんか?

※本記事は、2016年10月7日時点の内容です。配偶者控除見直しの議論については、以下の記事もご覧ください。
配偶者控除の変更でくらしと働き方はどう変わる?「2017年度税制改正大綱」解説&所得税額シミュレーション
130万円?150万円?「配偶者控除の収入上限見直し」に賛否両論

ライター

西谷 じゅり
女性に求められる役割が多い中、仕事・家事・育児それぞれのフィールドをより楽しむために試行錯誤中。ライフスタイルに合った働き方を模索しています。趣味はピアノと読書。

103万円の壁って本当にあるの?

厚生労働省の「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」によると、何故パート労働者が就業調整(年収の調整や労働時間の調整)を行うのかという問いに対して、配偶者のいる女性では「自分の所得税の非課税限度額(103万円)を超えると税金を支払わなければならないから」という回答が63.0%で一番高い割合を占めています。確かに、この103万円を超えなければ妻自身が所得税を払う必要はありません。しかし、税制面のみについて言えば「配偶者特別控除」というしくみがあるため103万円を超えたからといって、世帯全体の税引き後手取り額がいきなり減少してしまうという逆転現象は解消されるようになっています。
(参考:働く主婦要チェック!103万円の壁・130万円の壁、そして106万円の壁とは

それでもなお、「103万円の壁」を意識されている方は多いかと思います。それは税制面以外での問題、例えば夫の勤務先から配偶者手当が支給されなくなったり、社会保険制度上保険料を負担しなければならなくなったりするという問題があるからでしょう。

扶養控除から配偶者控除、そして夫婦控除へ?

所得控除の意味

そもそも「所得控除」とは何かというと、税金の軽減策です。個人が納める所得税や住民税は収入額を元に税率をかけて計算されますが、本人や家族が大病をするなどして医療費が多くかかった場合には、一定額以上支払った金額を収入から差し引いた上で納税額を計算します(医療費控除)。また、子どもや年をとった親など、養う家族がいれば、その分生活費がかかるという考え方から、収入から一定額を差し引いてから納税額を算出します。これを「扶養控除」と言います。つまり、所得控除には、健康上の理由や家族の人数などで生活のためにお金がかかる人の負担を軽減しようという意図があるのです。

時代に合った制度へ

かつては、妻も「扶養控除」の対象でしたが、昭和36年度に扶養控除から独立した「配偶者控除」が創設されました。これは、同年に自営業者が妻を含む家族従業員に支払う給料が必要経費と認められ、課税対象にならないという制度が導入されたのに際し、「サラリーマンは妻に給料を支払うことができないので不公平だ」とならないように、という意図からだそうです。このような経緯から、「配偶者控除」は専業主婦家庭の税金負担を軽減するという意図があることがわかりますが、経済の状況が変わり、共働き家庭がどんどん増えている現代の状況にフィットしにくい制度であるのは確かでしょう。この度の見直しの背景には、今以上に女性へ社会進出してほしいという政府の狙いが見受けられます。現在は配偶者控除に代えて、「夫婦控除」という夫婦世帯に対して配偶者の収入にかかわらず適用される、新たな控除の案が出ています。しかし、その内容次第で今よりも増税になる家庭もあるでしょう。そうすると「増税となる専業主婦世帯などの反発を招きかねない」との批判もあり、年明けにあるかもしれない衆院解散や来夏の東京都議選への影響を恐れ、自民党や公明党は慎重になっています。10月6日には、自民党の宮沢税制調査会長が「来年度の税制改正での、配偶者から夫婦控除への移行は難しい」という認識を示しました。代わりに、「103万円」という配偶者控除の要件となる年収上限を引き上げるという案も出ています。今後の議論に注目しておきたいですね。

意識の壁

女性が就労調整しないで働ける環境には税制のみならず、社会保険の問題や賃金の問題も複雑にからみあっています。更に平成26年の経済財政会議で麻生大臣が「依然として根強い」と触れた、「意識の壁」があることも大きいのではないでしょうか。子どもが小さいうちは母親が子育てに専念すべきという考え方であれば、子育てが終わってから夫の扶養の範囲で働くという働き方はとても自然なものです。今まで家庭で女性だけが担っていた役割を夫婦または社会で担っていくとすれば、保育園や男性の育休取得支援等の整備が必要ですし、男性も女性自身も無意識に刷り込まれている家族の姿という固定観念を捨てる必要があるのかもしれません。また、「配偶者控除」が見直されることで、自社の福利厚生制度を見直す企業が増えることも予想されます。今ある恩恵がいつまでも続くと考えない方が良いでしょう。

簡単なライフイベント表を作ってみよう

そうは言っても実際配偶者控除が廃止になれば現在控除を受けている家庭にとっては、厳しいですね。今できることとして、ライフイベント表を作り、将来の家計の状況を目に見える形にするのがおすすめです。今までより収入減になると将来の資産にどのぐらい影響がでるのか。その穴埋めをするとしたらどんな対策があるのか考えてみてはいかがでしょうか。もしも結婚や出産を機に家庭に入るべきか迷っているというような方であれば、自分が現在の仕事を持って5年働くのと、子供が○年に生まれたとしてここから何年パートで働いて…と数字に出してみることで、どういう風に働いていきたいのかというイメージが湧いてくるでしょう。今後の対策としては、働き方を変える、現在加入している保険の見直しをする……、など様々ありますが、老後の資産ということであれば、つい最近「iDeCo」という愛称が決定した「個人型確定拠出年金」は、2017年1月から対象範囲が拡大され60歳未満であればすべての人が加入できるようになりました。原則60歳まで引き出すことができませんが、受け取る時には税制優遇措置がありかなりメリットの多い仕組みになっています。

今日では資産形成は個人の自助努力でと叫ばれるようになってきました。家庭においても日頃から情報収集を重ねて、新しい制度を取り入れながら幅広い選択肢を検討していく必要がありそうです。

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