「無理なく働く」を実感できた!―国分寺「ママインターン」成果報告会

ブランクのある主婦が再就職に踏み出した

子育てと両立し地域で無理なく働く。昨年、東京都国分寺市が、NPO法人Arrow Arrowとの市民活動団体提案型協働事業として「ママインターン」事業を行いました。ママインターンとは、結婚や出産を機に離職した女性たちが再び働き始めるために職場体験を行う、というもの。参加者や、受け入れた企業の想いを聞きたいと、2月に開かれた成果報告会にお邪魔してきました。

ライター

吉岡 名保恵
女性の働き方や教育など多方面での取材多数。仕事実績はこちら→ http://officenaoe.her.jp/ 記者や編集職出身の女性ライターでつくるユニット「Smart Sense」(http://smartsense-press.com/)代表も務めています。

キャリア講座と職場体験がセット

働きやすい雇用環境にある街づくりを目指し、子育てをしながら地域で仕事をしたい女性もサポートする体制づくりを進める国分寺市。市内には再就職を希望する女性が約4,150人いるという試算結果がある一方、市内の中小企業や団体などは人手不足に悩んでいる、という現状があります。

そこで中小企業向けに働き方コンサルティングを行い、全国の自治体でママインターン事業を行っているNPO法人Arrow Arrowと協働。子育てと両立しながら自宅の近くで働きたい女性と、働き手を探す市内の企業・団体をマッチングさせる取り組みとして2014年度に初めてのママインターン事業を行いました。

ママインターンではまず、3回にわたってキャリア講座やワークショップを開催。「子育てを通して身に付けたスキルは仕事でも役に立つ」、「今は働き方が多様化していて、自分に合ったワークスタイルを見つけやすい」といったことを、みんなで考えていきます。そのうえで参加者の希望を聞いて、受け入れ企業の中から職場体験先を決定。半日の職場体験を2日間にわたって行い、双方の希望が合えば継続して就業することもできます。

あえて無くした職場体験中の託児

2回目の開催となった2016年度は、昨年11月から12月にかけ、2期にわたって市内在住の女性、40人を募集。実際に参加した女性は計10人でしたが、ママインターンの受け入れ企業や団体は2014年度の5社から10社に増加しました。Arrow Arrow共同代表で、講師を務める海野千尋さんは、ママインターンの趣旨に賛同し、子育て中の女性を応援したいと考える企業が増えている結果だと言います。また、受け入れ企業や団体にとっても、ママインターンを通じて活動内容を知ってもらいたい、という想いもあるとか。

一方で参加者が定員の4分の1にとどまったことについて、Arrow Arrowでは理由を分析。2014年度はキャリア講座でも、職場体験でも「託児あり」にしていたものを、今年度はキャリア講座だけに託児を限定したことが参加を躊躇する要因の一つになったのではないか、と考えています。

しかし、職場体験中の託児を無くしたのには理由がある、という海野さん。2014年度の経験として、職場体験後、参加者と受け入れ企業の双方に継続就業の意思疎通ができていたにも関わらず、子どもの預け先の目途がたたず、断念した例があった、と言います。

「再び働きたいと思ったら、当然、子どもの保育の部分が担保されていないと、エンジンは全開になれないんだ、ということがよく分かりました。それで今回は、職場体験のタイミングまでには、お子さんの預け先を確保してほしい、と説明会の段階からきちんと話をして、市内で利用できる一時保育のサービスなども紹介しました。保育環境を整えておけば、職場体験のあともスムーズに働き続けることができるからです」(海野さん)。

参加人数は少なかったものの、職場体験後に継続して就業している人は3人いて、再就職率は全体のおよそ30%。平成26年度の就業継続者は5人で、再就職率が16%だったのに比べると、その割合は倍増しています。

キャリア講座で働く感覚を取り戻す

キャリア講座の終了後、参加者に実施したアンケートでは、「“子育て中に得たスキル”があると思えた」や、「これまで仕事で培ったスキルの棚卸しができた」、「働くうえでのコミュニケーションの感覚を取り戻せた」といった項目で、ほぼ全員が「非常に当てはまる」もしくは「当てはまる」という回答がありました。

キャリア講座ではパソコンの使い方や名刺の渡し方といった、ビジネスマナーやスキルアップの講座は行われていません。これは子育てで離職する前に培われたスキルレベルが、もともと高い参加者が多いから。海野さんは「一定期間、何らかの形で働いていた人たちなので、チューニングさえすれば、もう一度、ちゃんと仕事に戻れるんです」と話し、模擬会議などを行って、組織の中でのコミュニケーションの取り方などを思い出してもらう取り組みに重点を置いている、と言います。

さらに一見、仕事にはつながらないと思いがちな子育て中の経験が、新しいスキルとして役に立つことを伝えるのも、ママインターンの大きなポイント。今年度の例では、離職前は大企業で働いていた女性が、子育てを通して誰かをサポートする力が養われ、地域社会にも目が向いた、として知的障害のある人の施設で職場体験を希望。ママインターン後も継続して就業しているそうです。

海野さんは「離職前は大きな企業でバリバリと働いていた女性でも、ママインターンの開始時には“自信がない”と言っていました。でもキャリア講座のあと、実際に職場体験までを経験すると、働くイメージが付いて、ブランクに対する不安も払しょくされるようです」と話していました。

職場体験は“ジャッジの期間”

ママインターンの職場体験中の就労については無償です。このことについて、報告会に参加した女性からは、「面接を受けて採用され、働き始めてから、何か違う、やっぱり無理、ってなることもあると思うんです。だからこそ、無償で職場体験してみる期間がとても大事だと思いました」という感想が述べられました。一方の受け入れ企業の担当者も、「通常は採用してから研修の流れになるけれど、ママインターンの期間中に性格やスキルを目の前で見て、この人なら一緒にこれからも仕事をしたい、と思ってから採用できるのはありがたい」と言います。

海野さんは「職場体験をしてみて、何とか仕事はできたけれど、自分が働く場所はここじゃないかも、と気づく人もいます。受け入れ企業の側も同じで、職場体験は“ジャッジの期間”。参加者にとっては“自分に必要な仕事か”、企業にとっては“組織に必要な人か”、相互に確認できるんです」として、この関係を保つためには無償での職場体験が有効だと話していました。

男性側の意識も変えていきたい

報告会では、パートナーの協力についても話が及びました。国分寺市市民生活部 文化と人権課の人権・男女共同参画担当係長・桜井隆二さんは「女性が働くことで、育児や家事など、家のことがおろそかになるのはやめてほしい、と考えるような男性も少なからずいます。このような男性側の意識を変えないと、女性が活躍していくことはできません」とコメント。文化と人権課として、男性の意識改革をはかる取り組みを今後も続けていきたい、と話していました。海野さんも、「女性が働き始めたら、家族の生活は変化せざるを得ないんです。家のことを変わりなくやってほしい、というのは絶対に無理。だからこそ、協力体制を家族の中でどう作るのか、まずはじっくり話し合ってほしい」と言います。

参加者からは「女性がいきいきと働く姿は、家族にとってもプラスになるはず。だから、ママインターンのチラシを男性の目に触れるところにも置いて、パートナーの側から、こんなものがあるらしいよ、って勧めるようになったらいいなと思います」という提案もありました。

子育て中の女性を応援してくれる地域で働くこと

前回に引き続き、今年度もママインターンの受け入れを行ったNPO法人Ann Beeの木下るみ子さんが「これからの社会を支える子どもたちを育てているお母さんたちは地域の宝。だからお母さんたちは自信を持ってほしいし、私たちもサポートしたい」とコメントしていたのが印象的でした。ほかの受け入れ企業や団体の方々からも、子育て中の女性を応援したい、という温かい言葉が寄せられ、地域の中で無理なく働ける環境が整いつつあることを実感しました。このような想いを持つ企業や団体と、子育てと仕事を両立させたい女性がマッチングすれば、暮らしやすい街づくりにもつながっていくことでしょう。地道な取り組みですが着実に成果が出ていることに期待し、これからもママインターンの輪を広げていってもらいたいと思います。

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