平田麻莉代表理事に聞く~フリーランスのための協会設立に込めた想い~

フリーランス全体のプラットフォームが必要な理由とは?

2017年1月に任意団体として発足した「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」。設立の目的は、フリーランスやパラレルキャリア(副業)をしている人たちが働きやすい環境を作ったり、挑戦しやすいよう情報提供したりすることなど。中でも特筆すべきは、フリーランス支援に携わる企業や団体23社(設立時点)が設立を支援している点です。このように個人と企業が連携して、フリーランスやパラレルキャリアのサポートにあたる団体は日本初。4月以降の社団法人化を目指している同協会で共同代表理事を務め(※)、自身もフリーのPRプランナーとして活躍する平田麻莉さんに、設立に込めた想いなどをお伺いしました。
※インタビューを行った2017年3月時点の肩書。平田さんは2017年4月より代表理事になられました。

インタビュアー(ライター)

吉岡 名保恵
女性の働き方や教育など多方面での取材多数。仕事実績はこちら→ http://officenaoe.her.jp/ 記者や編集職出身の女性ライターでつくるユニット「Smart Sense」(http://smartsense-press.com/)代表も務めています。

始まりは深夜に書き上げた企画書から

平田さんはフリーの立場で、家事代行マッチングプラットフォーム「タスカジ」など、数社の広報を担当されています。普段のお仕事だけでもお忙しい中、協会を設立しようと思ったのはどうしてでしょうか。

いま周りでフリーランスになりたい人が本当に増えていて、昨年、ランサーズが行った「フリーランス実態調査」では、日本におけるフリーランス人口は1,064万人に達したと言われています。「タスカジ」のように、ごく普通の主婦の方がフリーランスとして活躍できるプラットフォームも増えていて、好きな時間に好きな場所で自由に働くスタイルが人気を集めています。ただ、私もこの働き方を気に入っている一方で、フリーランスとして二度の出産と“保活”を経験したことにはじまり、フリーランスならではの苦労も少なからずあって。これまで7年間のフリーランス人生で、自分は「規格外」なんだなと感じることが何度もありました。

こんなにフリーランスが増えているのなら、フリーランスを取り巻く環境や社会も変わらなければいけないはず。そんな問題意識を持っていたところ、2016年10月20日に経済産業省で、副業やフリーランスなど「雇用関係によらない新しい働き方」について実態調査を行う研究会が立ち上がりました。このニュースを見て、思わず「私たちの時代が来た!」って勝手に熱くなったんです。

 

 報道がきっかけだったんですね。

経産省の研究会では、大手のプラットフォームを運営する企業を中心にヒアリングをしていました。実際は私自身を含め、どこのプラットフォームにも所属していないフリーランスも多いですし、「タスカジ」のような新しいシェアリングエコノミーのしくみで働いている人だって増えている中で、その人たちの声はどうやったら届くんだろうとふと疑問に思いました。フリーランス仲間とSNSで意見交換していると、「自分たちだって語りたい!」という声もあって、 せっかくなら、幅広く、漏れなく、どんなフリーランスでも働きやすい社会を作っていきたい、と思うようになりました。

それで11月に「勝手に研究会」と称して仲間と集まって語り合ったところ、フリーランス全体のプラットフォームが必要じゃないか、という話になり、勢いに任せて深夜、協会の設立趣意書を書き上げました。その後、色々な人に相談に行くと、思いのほか賛同してくれる人が多かったんですね。

一緒に共同代表理事になっていただいたWarisの田中美和さんには、真っ先に相談に行きました。ご自身もフリーランスとして活動経験があり、その問題意識に基づいて現在はフリーランスのための人材紹介事業をやっていらっしゃるだけに、大変共感してくださって、すぐに一緒にやりましょうと仰っていただきました。他にも今までお仕事でつながりのあった企業さんにも参画していただき、どんどん輪が広がっていった感じです。

社会を変えるための旗を掲げる

フリーランスの方たちは、もともと独立独歩というか、自己責任で何とかしよう、という人たちが多いですよね。そこであえて協会を作り、取り組みたいと思っていることは何ですか。

やろうと思っていることは、主に4つあります。

まずは情報発信をちゃんと行い、フリーランスに対する正しい理解を広げること。「職種の多様化」や「雇用形態のグラデーション化」といった実態を伝え、柔軟な働き方に挑戦したい方の敷居を下げられたらと思っています。同時に、プロフェッショナル人材としてのフリーランスのブランディングを通じて、発注主から安価な労働力と見られがちな傾向を変えていくことも大切です。

2つ目は保険や医療サービスの優待制度、コワーキングスペース提供、法律や税務の相談など、自分自身も感じてきたフリーランスのニーズに対し、共助の仕組みをさまざまな企業の力を借りて整えること。団体で契約することでボリュームディスカウントを利かせ、年会費を払った人に有意義なサービスを提供する仕組みづくりを考えているところです。

それから3つ目は互助の場を作ること。職種やエリアごとに、フリーランス同士がつながるイベントをやったり、ユニットを組んでもらったり、といったことを考えています。勉強会などスキルアップの機会も提供したいですね。

最後は、公助に対する働きかけです。“保活”の問題だけではなく、報酬の踏み倒しや価格破壊といったことに対してガイドラインを作るとか、疾病手当金や産休・育休、介護休業の間の所得補填といった雇用保険に代わる制度を検討してもらうとか、さまざまな課題に対して国に提唱したいと思っています。これまでも個人や団体、サークルで素晴らしい活動をしているフリーランスの方たちはたくさんいましたが、メディアに注目してもらい、政府や社会から耳を傾けてもらうためには“数の力”は必要だろうな、と。だから 協会は、みんなで社会を変えていくため、分かりやすく目印になる「旗」を掲げる場所。まず法人会員を集めようと思ったのは、社会の信頼や基盤を作るためです。

さまざまな人が集うオープンな場所に

現在はメルマガ会員だけ募集されていますが、個人の一般会員はどうなりますか?

設立後わずか3日間で、メルマガ会員は1500人ぐらいの登録がありました。一般会員は、もともと4月ごろに募集を開始すると発表していましたが、夏ごろになりそうです。思いのほか、設立発表後の反響が大きく、さまざまな企業さんからフリーランスの共助につながるサービスのご提案をいただいています。せっかくなら、できる限りの体制を整えてから個人会員の募集を始めたいと思っています。

なりすまし防止のため本人確認はちゃんとしますが、スキルやバックグラウンドなどの入会資格を設けることは考えていなくて、誰にでもオープンな組織にするつもりです。

 

ライターやデザイナーなど、いわゆるクリエイティブ職に限定したものではないのですよね?

「タスカジ」で働いている家事代行業の方もそうですし、私のような広報や人事といった文系スペシャリスト、エンジニア、ネイリストや音楽家、ダンサー、カウンセラー、ベビーシッターとか、プロ意識を持って仕事をしている人なら職種は分け隔てなく入会してもらいたいです。入会資格としてスキルは問いませんので、同じ職種でもビギナーから超プロフェッショナルまで、さまざまなレベルの人と出会い、刺激を受け合う場になれば良いなと思います。

 

パラレルキャリア(副業)の方も対象にされていますね。

国としても「パラレルキャリア・ジャパン」と銘打って副業・兼業を推進する姿勢を打ち出していますが、それは新規事業の創業に効果があると考えているから。長時間労働で会社に縛られているとイノベーションの芽は育たないと言われています。これからは就業時間以外のパラレルワークを積極的に促進することで、独立する人が増えたり、新しい産業も生まれたりするのではないでしょうか。パラレルワークを通して、人はものすごく成長します。主体的に動くことで裁量も責任も大きくなりますし、本業では出会えなかった人との出会いで気付くこともあるはずです。

 

フリーか会社員か、柔軟に選べるのが理想

– フリーランスとして一生懸命に頑張っているけれど、苦しい想いをしている人もいます。そのような方たちにアドバイスはありますか?

フリーランスで食べていくのは簡単なことではないですよね。活躍する人は、色々な仕事を掛け持ちして仕事の幅を広げたいとか、会社員よりもっと稼ぎたいとか、前向きな気持ちでフリーランスを選んだ人が多いのではないでしょうか。

スキルや経験値を客観的に分析して、その結果、自分はフリーランスでやっていきたい、と覚悟を決めたら、あとはもう自分の価値を信じてあげられるのは自分だけ。だからあまり、セルフディスカウントしないほうがいいと思います。

特に女性は、自分で自分を値付けすることに謙虚な方が多いのですが、それで不満を抱いたり、いっぱい・いっぱいになってしまって精神的に疲れたら、良いパフォーマンスが出ません。気持ちよくお仕事できる環境や条件は、自分を信じて、自分で作るしかない。もし、苦しい想いをしながら、低い価格でしか勝負できないのであれば、フリーランスを続けるのは厳しいということなので、また会社に戻るのもアリだと思います。スキルや経験は申し分なくても、やはりフリーランスに向いている人とそうでない人がいるのは事実です。その能力を生かせる道は、フリーランス以外にもあるかもしれません。

長時間労働抑制とか、リモートワーク・副業OK、ワークシェアリングなど働き方が変わってきていますが、もっと企業で多様な働き方ができるようになれば、非自発的な理由でフリーランスになる人も減ると思います。そういう意味で、フリーランス協会が目標に掲げる「誰もが自分らしく働ける社会」を実現する上で、フリーランスの環境整備と同じくらい、会社員の働き方改革も大切だと私は考えています。両輪ですよね。

 

協会のHPを拝見すると、「柔軟な働き方」で活躍できる社会に向けて、ムーブメントをおこしませんか、と呼びかけられています。平田さんの考える、柔軟な働き方とはどのようなものですか。

ただ、フリーランスが増えれば良い、と言っているわけではないんです。先ほど言ったように向き・不向きがありますから。それに人生のタイミングによって、フリーランスか、どこかに就職するか、その人にとって最適なワークスタイルや雇用形態って変わりますよね。なので、 目指すところは「雇用形態の流動性を高めるということ」。そのときどきの置かれた立場や環境で、フリーか会社員か、選べるのが理想的だな、と思います。

社会全体を変えるムーブメントを起こしたい

これからやりたいことはありますか?

プロフェッショナルフリーランスのための認証制度を作りたいと思っています。たとえばライター業界はすそ野が広がりすぎて需給バランスが崩れ、報酬のデフレが生じていますよね。スキルのばらつきも拡大し、発注者側もライターの実力を見極められないという問題が生じています。ランサーズのように認定制度を独自でちゃんと設けているプラットフォームもありますが、多くのプロフェッショナルフリーランスはどこのプラットフォームに属していないので、職種毎のプロの皆さんにとって納得できる認定制度を作り、認定者は名刺などにロゴを入れられるようにする、といったことを構想しています。

ライターなら、記事として公開されているものは編集の手が入っているので、本当の実力が分からないとよく言われています。なので、純粋に書いた原稿に対して評価できる仕組みがあればいいですよね。ある程度、実力が明らかになれば、このレベルの人に依頼するならいくらぐらい、といった報酬の相場も協会として提示できるようになるでしょう。

 

お仕事と子育てだけでもお忙しいでしょうに、大変ではないですか?

アイデアはどんどん出てくるのですが、いかんせん、みんなプロボノの“手弁当”でやっていることなので、人手は常に足りない感じです。それでも手伝いたいと言ってくれる人が増えてきているのを嬉しく思っています。

 

フリーランスだと住宅ローンなど融資が受けにくいとか、保育園に入りにくい、というような問題がありますよね。そのような社会の現実を、協会の設立によって変えていけると思いますか?

みんなにとってWin-Winの関係になればいいと思っているんです。たとえばローンの問題なら、与信管理がきちんとできるよう、会計ソフトを扱う企業と連携してフリーランスでも融資が受けられるようにするとか。

また“保活”については3月にハフィントンポスト日本版との共催で、「#フリーランスが保活に思うこと」というイベントを行い、大きな反響がありました。時間はかかると思いますが、少しずつ変えていけると信じています。だって、子どもといる時間を増やしたいからフリーになった、という人も多いのに、認可保育園で税金の恩恵を受けるためには週5で働いて、0歳から預けなければならない、なんて、だれも幸せになれないですよね。問題は保育園の数ではなく、子どもの保育の仕方の選択肢が少ないことにもあるんです。働き方が多様化しているのだから、保育の仕方も多様化して良いのではないでしょうか。

そういう意味では、いまフリーランスが抱えている問題をきっかけに、社会全体を変えることができるかもしれません。会社に勤めている人にとっても、働き方や子どもの預け先について、もっと選択肢が増えるのが大事だと思います。

 

協会をどのような組織にしていきたいか、お聞かせください。

協会をフリーランス全体にとってのプラットフォームにしたい、という当初からの想いは変わりません。組織として階層化するつもりはなく、意欲のある人がどんどん自由にプロジェクトを立ち上げ、活動できる場にしたい。ゆるやかで、オープンなつながりがたくさん生まれるような場所が理想です。もともと独立心旺盛な方が多いので、そういう形がフリーランスには合っていると思います。

私も今は言い出しっぺの責任で、代表という立場に就かせていただいていますが、「協会の顔」になるのではなく、どちらかといえば仲間を支える「サーバントリーダー」として、色々な人、色々な活動のハブになりたい。目標として掲げているマイルストーンは、いつかこの活動が自分の手を離れ、色々な人が全国で展開してくれるようなムーブメントにしていくことです。

取材後記

忙しいながらも、毎日ワクワクしている、という前向きな平田さん。4月から保育園に入園するお子さんを抱っこした、「カンガルースタイル」での取材となりましたが、子育てと自分の仕事だけではなく、フリーランス全体のために力を尽くしている姿に、私も一フリーランスとして感銘を受けました。ありがとうございました。

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