残業時間の上限規制案発表。その中身と課題は?
2月の「働き方改革実現会議」で提示された内容と今後の方向性
政府は2月14日第7回「働き方改革実現会議」を開催し、長時間労働是正を目的に、時間外労働に関する新たな制度案を提示しました。これにより、働きやすい社会に変化していくのか――、規制案の内容や会議での議論を見てみましょう。
目次
時間外労働の上限規制案で何が変わるのか?
現在は1日8時間、1週間で40時間を超えて労働させることは労働基準法で禁止されています。しかし36協定を結べばそこで定めた時間まで時間外労働をさせることが可能なため、残業時間の上限は事実上ないものとなっています。
ここに、厳しい規制を設けようとしているのが今回の議論で、事務局の案は、原則 月45時間 かつ年360時間、特例として臨時的な事情がある場合に限り年720時間(月平均60時間)という限度を設けるというものです。また、現在は36協定の適用除外となる職種が
- 新技術、新商品等の研究開発業務
- 建設事業
- 自動車の運転業務
と定められているのですが、今回これらの職種についても実態を踏まえて対応のあり方を検討するとされました。
繁忙期は過労死ラインを超えてもOK?
この上限規制でわかりにくくなっているのが、単位が月であったり年であったりバラバラなところです。特例措置の720時間というのは1年のトータルであって平均すれば月60時間ですが、月ベースで60時間を超えてはいけない、ということにはなっていません。この案のままでは、繁忙期が限られた月の場合、その期間についてはかなりの時間残業をさせることができてしまうため、月間で最低限超えることのできない上限を設けることが検討されています。現在この上限を月100時間とするかどうかが争点の一つとなっていますが、「過労死ライン」と呼ばれる80時間を超えていることもあり慎重な議論が進められているところです。
「インターバル規制」導入検討の行方は?
昨年11月25日に行われた長時間労働是正に関する「緊急フォーラム」では株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵さんが「前日長時間運転をした運転手さんが、3・4時間寝ただけですぐ次のお客様を乗せて睡魔と戦いながら運転するなんていうことも日本の労働基準法ではできてしまう状態です」と過酷な運転業務について語られており、何らかの規制が必要であることを訴えています。
対応策として、勤務終了から次の勤務までに一定の時間を空けないといけないという「インターバル規制」を義務化するように求めており、安部首相もインターバル規制導入に「環境整備を進める」と明言し議論が進んでいるところではありましたが、今回の政府案の中には特に言及がありませんでした。これに対して労働組合の組織『東京連合』は15日のシンポジウムで残業時間の規制には賛成するものの、原則勤務の間を11時間空けるインターバル規制を導入するよう改めて求めました。
働き方改革実現会議の議員の一人である東京大学社会科学研究所 水町勇一郎教授も、こういったトラック・バスの運転手さんのケースについては、本人の健康は勿論、過重労働によって交通事故や災害を招きかねないため「公共の安全を確保する」という観点からも「労働者の健康の確保は重要な要請」とし、「これらの事業・業務も基本的には法律による上限規制の下に置きつつ、急激な労働時間短縮による手取り収入の減少や法潜脱行為の横行といった弊害が生じないようにするために、取引慣行の見直しや労働時間の短縮に向けた計画的取組みを進めるための一定の準備期間を設ける(法律の施行時期に差を設ける)ことなどが考えられるのではないか。」と述べています。
長時間労働をやめられれば、女性活躍の実現にも追い風
・働くママの4人に1人が昇進が望めない状況に固定されてしまう
出産後に復職した女性が、昇進が望めない立場に固定されてしまうという状態を経験した女性は4人に1人に上るそうです。アンケートをとった全体の1300人のうち、66.3%は短時間勤務を利用しており、現在の環境では労働時間がキャリアを積む上で欠かせない要素であることは間違いないと言えるでしょう。長時間労働の是正により、多様な働き方が認められれば、女性の活躍、ひいては生産性アップにも繋がるというのが白川さんの提言です。議員の中で、長時間働くことが当然の社会での弊害を女性の視点からまとめているのが、相模女子大客員教授の白河桃子さんです。
・営業の仕事についている女性は10年間で10分の1に減る
結婚や出産により、時間的な制約が入ると営業という仕事を続けていくことは難しいであろうと考える結果で、特に営業職に関しては長く働けないと致命的だという強い認識があることが明らかになっています。
多様な働き方に則した規制を
ただし、フレキシブルに働く場合の足枷にもなりかねないのが、この長時間労働是正の難しいところです。時代が進み、これまでの「会社に所属する働き方」から「プロジェクト単位、タスク単位での仕事に従事する働き方」に変わっていくかもしれない中では、このように一律的な規制はなじまないとするのが議員の一人であるフューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 金丸恭文氏の意見です。
「女性や高齢者が活躍しやすい社会、副業・兼業、テレワークも当たり前になる社会を鑑み、個々人の働き方の選択に応じたカスタマイズされた働き方ができるような多様で柔軟な働き方の制度の整備が必要」としています。長時間労働是正と生産性向上の仕組みづくり、それに加えて柔軟な働き方を可能にする改革と、多くの課題が残されています。
これらの議論を踏まえ、働き方改革実現会議では3月末までに実行計画決定を策定する予定ですそれを受けて法改正が進み、早ければ2019年度の施行に向けてたくさんの企業が対応を迫られることになります。私達の働き方に大きな影響を与える今回の規制案の行方に、今後も注目したいところです。
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