働き方は人生のブランディングにつながる「フリーランスの実態調査」【後編】
今後広がっていくであろう「フリーランス」という働き方。【前編】でレポートした実態調査の結果から見える、「フリーランスと企業」の関係、そして未来の働き方についてのパネルディスカッションをレポートします。
今年は「複業(副業)元年」とも呼ばれ、企業にも副業解禁の波が広がっている一方、フリーランスという働き方はまだまだ実態が曖昧なものでもあります。そこで、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、株式会社Waris、ランサーズ株式会社、日本政策金融公庫の4社がそれぞれ行った実態調査をもとに、広義のフリーランスの現状や今後の課題などを紐解く「フリーランスの多様な実態~4社調査比較~」が開催されました。各社からの実態調査の発表が行われた前半に続き、後半では法政大学の石山恒貴教授と帝京大学の中西穂高教授をゲストに迎えてパネルディスカッションが行われました。
目次
ライター
「フリーランス実態調査」から分かるフリーランスの現状とは
各社の「フリーランス実態調査」から、中西教授は「変革型フリーランス(※1)は企業のオープンイノベーションを担える存在である」ことに注目。(※1…変革型フリーランスとは、高い専門性を持ち、企業と対等な関係を築けるフリーランスのこと。会社員として10年以上のキャリアを持ち、企画やマネジメント業務などビジネス系の職務に従事している人が多い。リモートワークなどを活用して働いている)「変革型フリーランスは、会社員としての十分なキャリアも保有した上で、さまざまな会社との仕事を経験しています。その広い視野により、社内ではおよそ想像がつかない新しいアイデアを提案してくれる可能性があります。また、企業を越えた存在であるフリーランスがチームを組んで仕事をするケースも増えてきており、その中にはあっと驚くような面白い集団も現れ始めています。フリーランスはこれからの日本社会を良い方向へ変えてくれる存在になるのではないでしょうか」また、石山教授は今回の調査で「3つのことが明らかになった」と言います。
「1つには、日本企業で働くことにやりがいを感じていない会社員が非常に多く、対してフリーランスは仕事にやりがいを感じている人が非常に多いということ。これは、自分の能力を活かせるかどうかという違いによってもたらされているのだと思います。2つめは、多様性です。日本は1950年代から雇用が拡大したことで、今でも『雇用されて働くことはとてもいいことだ』という『雇用パラダイム』が根強く存在しています。しかし、ひとつめの『やりがい』にも表れているように、働き方にも多様性が求められるようになってきました。すると、雇用だけが望ましい働き方だと過度に考える『雇用パラダイム』は時代遅れの捉え方なのではないでしょうか。そして、3つめは『オープンイノベーションの存在』。企業が新しいプロジェクトを立ち上げた時に、同質の存在同士ではうまくいかないことが多いんです。イノベーションが叫ばれている現在、フリーランスを積極的に採用した異質性のあるメンバーを含むプロジェクト型の働き方が求められていると思います。さらに、今後こうした働き方が浸透すれば、企業という枠が溶けていくという、企業を取り巻く境界のあり方が再考されていくのではないかと予想しています」
「受け入れ体制」がまだまだ未熟―企業側の課題とは
労働者不足の解消や、イノベーション、自己実現などさまざまなメリットがあるフリーランスですが、調査結果からは「収入面が不安定」「何から始めればいいのか分からない」といった意見もあげられており、会社員からの転向にはまだまだ敷居が高いのが現状です。こうした課題を改善するためにどうすればいいのか。一番多かった意見は、「企業」へ対しての課題でした。石山教授は、「フリーランスへの正しい認識が不足している」と指摘します。「企業の認識が不足しているため、フリーランスと一緒に仕事をすることにメリットを感じられないんです。『副業解禁』も始まっていますが、企業は社員を送り出すことばかりに気を取られていて、外部の多様な才能ある人々を迎えることはおざなりになっています。今後は、企業が積極的にフリーランスと仕事をしていくことで、企業と協働するフリーランスのロールモデルを確立することが重要なのだと思います」。前半の調査結果にも表れていたのがこの企業の受け入れ体制。実際に、副業を容認していたとしても、フリーランスを受け入れる体制が整っている企業はごく一部です。中西教授は、この問題を「テレワークの課題と共通している」と言います。「目の前にいない人へ仕事を依頼するためには、業務指示を明確にする必要があります。それまでは何となく進められていた業務でも、いちいち確認しなければならない。これは企業にとってマイナスとして映ることでしょう。しかし、この作業は業務の見直しにつながり、より効果的な方法を探ることが可能になります。イノベーションは多様化の中から生まれるということ、そのためにはフリーランスという外からの風が必要だという認識を企業が一刻も早く持つことです」。また、「企業へ対等なパートナーシップを求める」と株式会社Warisの小崎さん。「仕事を発注する側である企業が、フリーランスを対等に見ていないケースが多いです。フリーランスは『よりよいものを作るパートナーである』という認識が企業には必要ですね。効果に不安があれば、小さいプロジェクトから仕事を一緒にしてみるのもいいかもしれません。また、先ほど中西教授からご指摘があったように、業務を明確に指示できない企業であれば、変革型フリーランスのようなキャリアのある相手に発注すると、明確化するための提案から仕事を始めてくれるので、効果をより感じやすくなると思います」。本来、企業とフリーランスがチームを組めば、今までにないメリットを感じられる存在になり得るはず。しかし、お互いの認識やそれまで当たり前だった業務形態が障壁となり、その土壌がまだまだ育っていないようです。そして、その中でも企業側の業務の明確化は大きな問題であり、早急に解決しなければならない課題です。また、企業側ばかりではなく、フリーランスも信頼を得る仕事をこなしていくことで、企業もフリーランスを導入しやすくなるのではないでしょうか。
二極化はなくなる?「人生100年時代」を考えた人生のブランディングを
企業や個人にまだまだ課題が残るフリーランスという働き方は、果たして今後は拡大されるのでしょうか。働き方は人生を大きく左右する重要な要素のひとつでもあります。中西教授は「『人生100年時代』を考えた人生のブランディングが大切」だと言います。「定年は60~65才。そこから第二の人生の準備を始めるのではなく、早いうちから人生のブランディングへ意識を持つことが大切です。企業で働くことは決して悪いことではありませんが、定年を迎えた時に果たして自分には何が残っているのでしょうか。人生は100年時代。自分がどんなことに満足感や充実感を得るか、常に外の世界へ目を向けておきましょう」石山教授からは、「二極化の解消」が行われるという予想も。「長期雇用はいいことではあるのですが、近い将来、雇用とフリーランスという働き方の二極化はなくなるのではないかと考えています。雇用もフリーランスも融合したような働き方が中心になり、企業という形態自体のあり方が再考され、新しい協働的な働き方が主流になるのではないでしょうか。その中で、現在のフリーランスという働き方は、未来のロールモデルのひとつになると思います」
大切なことは、いかに「満足感」を持った働き方ができるか
フリーランスは個人だけではなく企業にもメリットをもたらす働き方である一方、誰しもに適した働き方というわけではありません。しかし、パラレルキャリアを考えた時に有効な手段のひとつでもあります。そして、一番大切なことは働き方の種類ではなく、満足感を持って生きること。もしも、現在の仕事に充実感を得られなければ、自分の趣味や興味があることへ目を向けて、そこへ積極的に参加してみることで何か新しい発見があり、それが働き方を変えるきっかけになるかもしれません。
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