どうAIイラストと差をつける?フリークリエイターの「すごい配慮」

AIイラストの普及が進み、そのクオリティは日々向上しています。人間のクリエイターが顧客から選ばれ続けるためには、どのような価値を提供すればよいのでしょうか?

今回は、オンラインアウトソーシング(※1)「HELP YOU」でイラストレーター・デザイナーとして活躍中の在宅フリーランス、神原優子さんにインタビューしました。

神原さんには以前、私が執筆したWeb記事のイラストアイキャッチ制作をお願いしたことがあります。その際、私の頭の中にあるイメージを共有するために「ChatGPT(※2)」で作ったAIイラストをお渡ししたところ、仕上がってきた作品は想像を何歩も超えるものでした。

そこには、どのような工夫や配慮があったのでしょうか。詳しく話を聞きました。

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※1 オンラインアウトソーシングとは在宅でインターネットを活用し、業務サポートを行うサービス。
※2 OpenAI社が提供する生成AIツール。

インタビュイー

神原優子さん
新卒で公務員となったものの自分の生き方に違和感を抱き、約1年半後に退職。その後、美容室の受付バイトを経験したのち、現在は主にデザイン関係のフリーランスとして活動中。

ライター

三代知香
飛騨在住のフリー編集者。会社員時代はIT企業でマーケティングやPM、自社ブログの編集長を経験。メディアの立ち上げ経験を生かし、「くらしと仕事」のアクセス解析や新人育成を通して成果向上に取り組むほか、インタビューライターとして働き方や地方活性化をテーマとした記事を手がける。1児の母。→執筆記事一覧

指示通りなのに何か違う。AIイラスト活用の難しさ

インタビューに入る前に、実際のイラストアイキャッチの依頼内容と、その経緯についてご紹介します。

  • 記事のタイトル
    “書く”だけじゃ戦えない。元総合職の「引き出し」で選ばれる、提案型フリーランスライター
  • 記事の内容
    総合職時代に幅広い職種を経験したフリーランスメンバーのMさんが、その引き出しの多さをどのようにライター業に生かしているか、インタビューを通して紹介
  • 依頼事項
    • インタビュイーであるMさんの写真を参考にイラストを作ってほしいが、ディテールは拾わず良い塩梅でお願いしたい
    • 「“書く”だけじゃ戦えない」という強めのメッセージがタイトルに入っているものの、インタビュイー自身は清楚で落ち着いた雰囲気の方。水彩や色鉛筆調のタッチが似合いそう
    • インタビュイーは営業事務、総務・庶務・秘書、広報、人事、PMなど、幅広い職種を経験してきた人なので、イラストで「たくさんの職種を経験した感」を表現してほしい

「たくさんの職種を経験した感」は、言葉だけでは伝わりづらいと感じたため、ChatGPTで生成したイメージ画像を神原さんに共有しました。それがこちらです。

左から順に「秘書がメモをとっている様子」「PM(プロジェクトマネージャー)がフロー図を見ながらエンジニアと話し合っている様子」「人事が新卒社員向けに説明会を行っている様子」を描いています。

余談ですが、これはChatGPTに依頼して生成した最初の画像ではなく、この形にたどり着くまでには紆余曲折がありました。

大前提として、ChatGPTは非常に優れたツールです。イラストに関しても、素人の私が自分で描くよりはるかに上手で、しかも圧倒的に速い。ただ、依頼者である私の中で「すでに言語化できているイメージ」に対して忠実であるがゆえに、痒いところに今一歩手が届かない印象も受けました。

一方で、神原さんが手がけたイラストアイキャッチがこちら。

作品を見て驚いたのは、ChatGPTが生成したイメージ画像と構図が全く異なっていた点です。

どうしてこんな発想ができたのだろう?」「あのイメージ画像から、どうしてこんな作品が生まれたのだろう?

興味を引かれた私は、神原さんにその制作の裏側を聞くことにしました。

ここからは、神原さんへのインタビューの様子をお届けします。

参考画像に込められた依頼者の「意図」を汲み取る

三代:先日はイラストアイキャッチの制作、ありがとうございました!

実は依頼の際、ChatGPTで生成したイメージ画像をお渡しするかどうか、少し悩んだんです。というのも、あまりに具体的なイメージを共有すると、レイアウトや構図がそれに引っ張られてしまって、かえって自由な発想の妨げになるのではないかと思って。

神原さん:むしろ、助かりました!

今回「清楚で落ち着いた雰囲気」といったご要望でしたが、同じ言葉でも人によって受け取り方や解釈には違いがあります

もっとわかりやすい例を挙げると「可愛い」という表現。ひと口に「可愛い」といっても、ガーリー系、ナチュラル系、ポップ系など、さまざまなタイプがあります。もし私の解釈だけで進めてしまうと、いざ納品したときに「こういう可愛さじゃないんだよな……」とクライアントに思われてしまう可能性もゼロではありません。

だから、事前にイメージ画像を共有いただけたのは、とてもありがたかったです。「『清楚で落ち着いた雰囲気』というのは、添付された画像の方向性なんだな」と、すり合わせの精度がぐっと上がるので。

色を入れる前に、ラフの状態でイメージのすり合わせを行いました。

 

神原さん:確かに、イメージ画像の存在によって発想が多少引っ張られる可能性はあります。

ただ私の場合、イメージ画像をそのままレイアウトや構図の参考にするわけではありません。そこに込められた「意図」──つまり、どういう空気感を出したいのか、どんな印象を伝えたいのか、といった本質的な部分を抽出して、それを自分なりに消化したうえで改めて表現するようにしています。

もちろん、クライアントの中には「この画像に近付けてほしい」と、明確に寄せた仕上がりを希望される方もいらっしゃいます。でも、自由度のあるご依頼で、レイアウトや構図をそのままなぞってしまうと「それならChatGPTで十分だったね」となってしまいかねません。だから、そうした「余白」のあるケースでは自分の表現として再構築することを意識しています。

潜在的なイメージを拾い、ディテールで表現

三代:構図は最初からあのような形だったのですか?

神原さん:手前に女性を配置するのは最初から決まっていたのですが、背景で「たくさんの職種を経験した感」をどう表現するかについては、いくつかパターンを試しました。

日常から得たヒントで発想を広げる

神原さん:最終的なバージョンでは、オープンシェルフに人形が並び、それぞれが秘書や広報などの職業を象徴していますよね。

神原さん:でも、最初に作ったバージョンでは人形は登場しておらず、職業を表すようなモノを背景に散りばめていたんです。

神原さん:ただ、それがどうもしっくりこなくて……。煮詰まってしまい、いったんパソコンを閉じてリフレッシュすることにしました。

その時にやっていたゲームで、次のステージに進む演出として人形を動かす表現が出てきて「これだ!」と。そこから、現在の構図の着想につながりました。

今回は偶然ゲームからひらめきましたが、普段はミュシャやエミール・ガレの画集を眺めながら、モノの配置や画角のヒントを得ることも多いですね。

背景にも意味を持たせる、丁寧な設計

三代:オープンシェルフに置くという発想も、画集から得たものなんですか?

神原さん:いえ、シェルフに関しては、私自身が「将来引っ越したら置きたい家具リスト」に入っているものなんです(笑)。収納棚というより、置物やアートを飾るような用途を想定していて、イメージとしてはオシャレなカフェやコワーキングスペースにあるような雰囲気です。

今回の記事で取り上げられているMさんって、フリーランスのライターさんですよね。私の中で「フリーランスライター」というと、ちょっとオシャレな空間で仕事をしていそうなイメージがあって。背景の雰囲気から、ほんのりとでも「この人、フリーランスっぽいな」と感じてもらえたらいいなと思ってシェルフを選びました。

三代:背景で職業を演出する、というところまでは考えが及びませんでした。

ChatGPTは、依頼者の頭の中にすでに顕在化しているイメージは再現してくれますが、まだ言語化されていない感覚や曖昧なイメージまでは、少なくとも今の技術では、なかなか表現しきれない部分もあるように感じます。

その点で、人間のクリエイターの力は、やっぱりすごいなと改めて思いました。

依頼者の向こう側にいる人にも心を寄せる

三代:今回、記事のタイトルは「“書く”だけじゃ戦えない。元総合職の『引き出し』で選ばれる、提案型フリーランスライター」でした。ただ「戦えない」というフレーズがやや強く感じられて、Mさんの柔らかい雰囲気とは少しトーンが合わないように思いました。

そこで、イラストではその印象を中和するような柔らかさを出してほしいとお願いしましたよね。その辺りの調整はいかがでしたか?

神原さん:柔らかい雰囲気を表現しながらも、柔らかすぎないように調整するのは、特に意識したポイントでした。というのも、フリーランスって「自由でいいよね」とか「好きな仕事を気ままにやってる感じ」といった、ふわっとしたイメージを持たれることも多いと思うんです。

そのため、あまりに柔らかく仕上げすぎると、Mさんがこれまで積み上げてきた経験や、そこに至るまでの努力や苦労が、軽く見えてしまう気がして。私自身、原稿を読んだ時に「すごい方だな」「でも、その影にはきっと苦労もあったんだろうな」と想像しました。

そうした背景をないがしろにしたくなかったんです。

水彩の柔らかさや色味に込められた、尊敬の思い

神原さん:だから、雰囲気としては「優しく、でも芯のある」印象になるよう意識しました。

三代さんからの依頼に「水彩や色鉛筆調のタッチが似合いそう」というコメントがありましたが、水彩の表現にもさまざまな種類があります。例えば、輪郭を大きくぼかすか、はっきりさせるかによって、見る人の受ける印象は大きく変わります。

今回は、輪郭にある程度の明瞭さを持たせつつ、水彩部分をあえて少しはみ出させて描いたり、水彩色鉛筆のような手書き感を加えたりすることで、全体の柔らかさを調整しました。

色については、当初は淡い緑と茶色をベースにしていたのですが「若葉マークを想起させるかもしれない」と気が付き、最終的には信頼感を与える明るい青を選びました。さまざまな経歴を重ね、ライターとしてすでに地に足をつけているMさんに対しては「若葉マーク」のような初心者感を連想させる色はふさわしくないと考えたためです。

上:不採用になったイラスト、下:採用されたイラスト

 

三代:依頼者である私が考慮しきれていなかった点を、一つひとつ丁寧に検討し、それをイラストに落とし込んだのですね。私がChatGPTを使うなかでは、なかなか手が届かない部分かもしれません。

何よりMさんに対して、そこまで深い思いを持って向き合っていたことに感動しました……!

神原さん:ありがとうございます!

今回の記事は、ライターの三代さんとインタビュイーのMさん、2人の力によって生まれたものです。だからこそ、どちらの意思も丁寧に汲み取りたいという思いがありました。

依頼者は三代さんですが、Mさんが「自分が話した内容が書かれている記事なのに、イラストは自分のイメージと違う……」とモヤモヤし続けるような状態はきっとつらいはずで、それは避けなければならないと感じていました。

「既視感」のない、目留まりのいいデザインを

三代:クライアントワークに置き換えた場合、依頼主であるクライアントはもちろん、プロジェクトに関わっている人のことまで考えられるクリエイターは、一緒に仕事をするパートナーとしてとっても心強い存在なのではないかと想像しました。

ところで、左側にあるテキストのゾーンが何となく本の帯のように見えたのですが、そうした意図はありますか?

神原さん:そうですね。今回、記事ではMさんの「ストーリー」がつづられているように感じたので、本の表紙のイメージでデザインしてみました。最初はこの形ではなく、ネット記事でよく見かけるような横書きのテキストだったんです。でも、それもしっくりこなくて。

もっと「物語が始まりそうな雰囲気」にしたいと思いました。

三代:「ネット記事でよく見かける」デザインって、ともすれば多くの人にとって既視感があり、目に留まりづらくなる場合もありますよね。

神原さん:さまざまな記事が並ぶような場所では特に、似たような横書きのテキストや、似たようなタッチの絵は、どうしても埋もれてしまう可能性がありますね。

より多くの人に手に取ってもらうために

神原さん:Web記事にせよ書籍にせよ、最終的には「より多くの人にクリックしてもらう」「手に取ってもらう」ことがゴールです。そのゴールを実現するために、クライアントと相談しながら、ときには変化をつけて少し冒険することも意識しています。

Web記事のアイキャッチや書籍の表紙は「読むかどうか」「手に取るかどうか」を左右する大きな要素です。だから「世の中でよく見かけるもの」や「みんなと一緒のイラスト」ばかりを描いていてはダメだ、と自らに言い聞かせています。もちろん「よく見かける」ということは、それだけ多くの人にとって読みやすく、受け入れやすいという面もあるので、一概に良し悪しは語れないのですが。

三代:確かによく見かけるデザインには、それだけ多くの工夫や知恵が詰まっているもの。そうした良さを取り入れつつも、AIでコンテンツが量産できる時代だからこそ、独自性新規性を少しでも感じさせることが、いまのクリエイターには求められているのかもしれませんね。

依頼者の「表現」を尊重したコミュニケーション

三代:今回、普段はなかなか耳にすることのない、クリエイターの「意図」を知ることができて大変勉強になりました。

神原さん:普段は、イラストやデザインに込めたディテールの意図をあまり言葉で説明しすぎない方がいいというのが私の考えで、こうした機会はめったにありません。

三代:なぜですか?

神原さん:例えば先ほど、イラストに使う色について、最初は淡い緑を選んだものの「若葉マークを連想させる」と気付き、明るい青に変更したというお話がありましたよね。

この変更は私の中で完結したものでしたが、仮に「淡い緑で」と指定していたのが依頼者である三代さんだったとしたらどうでしょう。その場合、私が「それだと若葉マークの印象が強くなるので、明るい青にしました」と説明するのは、三代さんの感性や表現意図を否定してしまうことにつながりかねません。

だから私は、そのようなケースでは、まずご依頼通り「淡い緑」を使ったイラストを制作したうえで、もう一案として「明るい青」を使ったパターンもあわせてご提案するようにしています。2枚を横に並べて、最終的な判断は依頼者の感性に委ねる──そんな進め方を心がけています。

三代:依頼者の表現を尊重しつつ、その先にいる関係者への配慮も巡らせ、さらに「見る人にどう届くか」までを見据えてデザインする。その一連の「配慮」は、まさに人間のクリエイターならではの強みだと感じました。

完全在宅でデザイナーデビュー! 5年間で学んだ、フリーで食べていく秘けつとは

まとめ

神原さんのイラストアイキャッチには、想像を遥かに超える「配慮」が込められていました。

この記事で伝えたいのは「やっぱり人間はすごい」「AIイラストはダメだ」ということではありません。

これからの時代、生成AIという優れたツールと共に歩んでいくなかで、改めて「人間の価値とは何か」を問い直す──そんな思いから、この企画を立ち上げました。

私が与えた情報しか知り得ないChatGPTと、共に仕事を進めるなかで肌感覚から多くのことを読み取れる神原さん。そもそも両者を比較すること自体、適切ではないのかもしれませんし、単純に私の使い方が、ChatGPTの真価を引き出せていなかったという側面もあるでしょう。

それでもなお、今回のやり取りを通して強く感じたのは、神原さんのように作品に「思い」を込められる人間のクリエイターは、これからも間違いなく必要とされる存在だということです。その価値は、たとえ技術が進化しても、決して色あせることはないと思わずにはいられませんでした。

▶︎ AI時代でも必要とされる人材へ。在宅フリーランス集団HELP YOU

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