
“書く”だけじゃ戦えない。元総合職の「引き出し」で選ばれる、提案型フリーランスライター
生成AIツールが普及した今、人間の「提案力」が改めて問われています。
ライターも、もはや「文章が上手に書ける」だけでは、仕事を獲得するのが難しくなってきました。依頼された内容をそのまま書くのではなく、依頼の背景や意図まで汲み取り、主体的にコンテンツを形にする力が必要とされています。
実は、その「提案力」の支えの一つとなるのが、総合職の経験。職種理解や業界知識といった「引き出しの多さ」を生かしながら、クライアントの意図を正確に汲み取り、それを読者目線で伝えることができます。
今回は、営業事務、総務・庶務・秘書、広報、人事、PMなどの幅広い経験を強みに、オンラインアウトソーシング(※1)「HELP YOU」でフリーランスライターとして活躍するMさんをご紹介。総合職時代の経験が、フリーランスの現場でどのように生かされているのか、そのリアルに迫ります。
▶︎ 現役・元総合職も多数在籍、在宅フリーランス集団HELP YOU
※1 オンラインアウトソーシングとは在宅でインターネットを活用し、業務サポートを行うサービス。
目次
インタビュイー
ライター
サムネイル制作者:神原優子
昇格の壁が、ライターとしての強みを見直す転機に
──Mさんは、HELP YOU創業期の2016年にジョインし、フリーランスとしてのキャリアをスタートされたとのことですが、当初からライターだったのですか?
いえ、最初はライターではありませんでした。当時は、HELP YOUが運営する「くらしと仕事」の前身となるメディアの立ち上げ期で、私が最初に担当したのは、CMS(※2)にHTMLで記事を登録する業務です。前職の広報時代にホームページ制作を担当していた経験が、思いがけず役立ちましたね。
その後、コラム執筆やSNS文面の作成、記事に使用する画像の選定、筆耕(※3)など、徐々にライティング関連の業務を担当するようになっていきました。
※3 手書きの文字で宛名やメッセージなどを丁寧に書く業務。毛筆や万年筆などを使って、礼状や賞状などを清書する仕事を指す。
──産休・育休を経て復帰後、ライター領域で社内認定ポジション「パーソナル(※4)」にステップアップされたそうですね。社内でのスキルや実績が評価される、いわば昇給制度のような位置付けかと思いますが、どのような壁がありましたか?
実は、最初の申請では不合格でした。文章の読みやすさや、毛筆・硬筆といった手書きでのアウトプットも可能であること、チーム内でのコミュニケーション力などをアピールしたのですが、もう一歩届かなかったようです。
そこで、当時メンター(※5)と呼ばれていた方に相談し、申請時のアプローチを変えてみました。
指示された内容をそのまま文章にするだけでなく、自ら構成を考えて主体的に組み立てる力や、クライアントへの提案時に、案件の責任者であるディレクターを補佐する姿勢──そうした点を、自分の強みとして改めて伝えたんです。
その結果、再チャレンジの際には無事に通過しました。
※5 現在のヒューマンサクセス担当。HELP YOUで働くメンバーが、より生き生きと働けるよう支援・育成を担う役割。
顧客の要望に応える「提案力」でディレクターを補佐

会社員時代はお祝儀袋や香典袋に名前を書くことも多かったそう。
──どのようにディレクターを補佐しているのですか?
クライアントとのやり取りを直接担う機会は多くありませんが、ディレクターから「クライアントの要望を、どのように業務に落とし込むか」について相談を受けることがあります。
例えば、筆耕のご依頼で時折頂くご要望に「手紙にメールアドレスも記載したい」というものがあります。しかし、縦書きを基本とした手紙ではアルファベットの扱いが難しいため、文中には記載せず、代わりに名刺を同封する方法をご提案しています。その方が、受け取る側も毎回手紙を開かずに名刺を見るだけで連絡ができ、次のコミュニケーションにもつながりやすいためです。
単に「アルファベットは不可」「メールアドレスは載せられない」と伝えるのではなく、代替案を提示することで、ディレクターの判断や対応の補佐ができたらと考えています。
秘書経験で培った、依頼者の立場に寄り添う力
──そのような、提案を交えたサポートのスタイルはどのように形成されたのでしょう?
前職の秘書時代に培われたものです。経営者から指示を受けた際、指示の意図を細かく確認しようとしても、多忙のためすぐに回答を得られないことがありました。何度も聞き返すのは、相手の負担にもなります。
そこで、自分なりにある程度プランを立て、「このように進めようと思いますが、いかがでしょうか?」と確認するようにしていました。相手の手を煩わせずに判断してもらえるよう工夫していたその姿勢は、今のクライアントワークにも生かされています。
また、日々近くで経営者や重役の仕事に触れていたことで、判断の傾向や考え方の特徴を自然と捉えられるようになりました。クライアントがそうした立場の方であっても、相手の状況を想像しながら動けるのは、その経験があるからだと思います。
営業、バックオフィス──幅広い読者の視点で校正
──ライターの仕事では、クライアントだけでなく「読者」も意識する必要がありますよね。特に「読者視点」は、ライターにとって大きなテーマだと思います。
おっしゃる通り、ライターには、さまざまな視点に立って「読む」力が求められますよね。読者視点で自分の文章を見直す際には、総合職時代に幅広い職種を経験したことが、確実に役立っていると感じます。
例えば営業向けの記事であっても、それを支える営業事務や秘書、バックオフィスの方が読む可能性もあります。誰が読むかわからないからこそ、どのような立場の人が読んでも引っかかりがなく、傷つく表現になっていないかを常に意識しています。
特にSNSの文面作成では、炎上リスクの管理もライターの重要な役割の一つです。読む人への配慮が欠けていれば、それがそのまま炎上につながる可能性もある。だからこそ、最大限の注意を払って言葉を選ぶようにしています。
エンジニアと働いたIT業界での日々も執筆業の糧に

PM時代に培った「数値化」「深掘り」「整理」の習慣は、今のライティングにも生きている。(画像はイメージ)
──「傷つけない」文章を書くうえで、さまざまな立場の視点を知っていることは武器になりますね。
自分自身が経験していなくても、その立場の人の近くで仕事をしてきたことが役立つ場面もあります。
例えば、現在担当しているエンジニア向けの採用コンテンツ作成では、私自身にエンジニアとしての実務経験はありませんが、エンジニアと働いてきた経験が大いに生きています。
私はこれまでに2社を経験しましたが、そのうちの1社はITコンサルティング企業で、ITソリューションの提案からシステム構築までを担う会社でした。最初は営業サポートとして入社しましたが、次第にPM(プロジェクトマネージャー)としての業務も任されるようになりました。要件を整理し、仕様に落とし込み、エンジニアと連携しながらプロジェクトを形にしていく役割です。
そのなかで意識していたのは「理由」を明確にすることです。例えばUI設計(※6)では、ボタンの位置一つとっても「なぜそこにあるのか?」を説明できるようにしておく必要がありました。
よく「5Why」といわれますが、「なぜ」を繰り返し、本質にたどり着くまで突き詰める姿勢が求められる場面が多くありました。そうでなければ、クライアントに提案しても響きませんし、エンジニアに依頼をする際にも曖昧さが残り、業務が円滑に進まないからです。当時は社内で「なんで?」「なんで?」とよく質問されていて、夢に出てくるほどでした(笑)。
もちろん人によってスタイルは異なりますが、私が関わってきたエンジニアの方々は、そうした「理由の明確さ」や、定量・定性の両面で根拠を持つことを大切にしていた印象があります。
今の案件でエンジニア向けのコンテンツを作るときにも、そうした姿勢は意識しているポイントです。
また、IT業界特有の専門用語に抵抗がないのも、こうした過去の経験があるからこそだと感じています。
──やりがいを感じるのは、どのようなときですか?
これまでの経験が、今の仕事に確かに生きていると実感できたときです。
現在の案件は経営者の方から直接ご依頼いただいていて、秘書として経営者に近い距離で働いていた経験と、IT業界での実務経験、その両方が役立っています。過去の経験が自然にかけ合わさり、クライアントの力になれていると感じられることが、大きなやりがいにつながっていますね。
「伝える」でつながる、会社員時代とフリーの今
──Mさんほどの幅広いご経験があれば、ライター以外の選択肢も考えられると思います。800社の業務コンサルティング・サポートを行うHELP YOUでは、ライティングだけでなく、営業事務、総務・庶務・秘書、広報、人事など、前職の経験をそのまま生かせる案件も多くありますよね。その中で、なぜ「ライター」を選んだのでしょうか?
2つあります。1つは、ライティング案件は納期さえ守れば働く時間の自由度が高く、家庭の事情に合わせて動きやすいと考えたからです。
もう1つは、純粋に「伝える」仕事が、好きだからです。実は、新卒で就職活動をしていた頃は、ライティングの仕事は視野に入れていませんでした。当時は、学生時代に放送部に所属していたことから放送業界に興味を持ち、テレビ業界の会社に就職しました。
その後に転職したのはITコンサルティングの会社で、一見「伝える」仕事とは縁が薄いように思えるかもしれません。しかし、上司の勧めで広報を担当することになり、ホームページ制作やSNS運用、社内報の作成などを通して、文章で自社のことを伝える機会に多く恵まれました。そこで、文章で伝えることの楽しさに目覚めたのを覚えています。また、兼任していた人事の仕事では、新入社員向けの説明会を担当し、言葉で伝える役割を担っていました。
振り返ってみると、職種はさまざまでしたが、一貫して「伝える」仕事に携わってきたように感じます。
だからこそ、家庭の事情で在宅フリーランスに転向することになった時も、私にとって「ライター」という仕事は自然な選択肢でした。これまでのキャリアと地続きのものとして、すっと馴染んだんです。
もちろん、「書くこと」そのものも好きです。幼い頃から本を読むのが好きで、言葉一つひとつに興味を持つようになり、小学校の中学年には国語辞典や広辞苑などの辞書を読むのが楽しみになっていたほどでした。
8年続けられたのは、高め合える仲間がいるから
──最後に、HELP YOUでライターを続ける理由を教えてください。
ライター仲間と切磋琢磨できる環境があるからです。実は以前、HELP YOU以外の会社からもライティングの仕事を請け負っていたのですが、その際はメールでの納品連絡だけという形で、孤独感を覚えることもありました。
その点、HELP YOUでは一つの案件に対してチームで取り組むスタイルなので、他のライターの原稿や進め方から多くの刺激を受けることができます。そうした環境に加え、SEO(※7)やAIを活用したライティングにも独学で取り組むなど、日々学びを深めています。
記事を読む人によって「100点」の基準は異なるため、誰にとっても完璧な記事を書くのは簡単ではありません。でも、他のライターの視点やスタイルを取り入れながら、自分なりの「100点」に近付けていく努力はできる。そうした前向きな挑戦ができる環境が、ここにはあると感じています。
共に成長を目指す仲間がいる──それが、私がジョインから約8年半にわたってHELP YOUに在籍し続けている一番の理由です。
まとめ
経営者に近い立場で動いていた秘書としての経験や、ITプロジェクトに携わったPM経験など、多様な業務を通じて培った視点が、ライターという職業に説得力をもたらしています。
総合職として幅広い仕事を経験してきたけれど、「これ」といえる専門分野がない。在宅で働きたいけれど、自分に何ができるのかわからない。そんな方にとって、ライターという選択肢は、意外にもフィットするかもしれません。
あなたがこれまで積み重ねてきた経験は、きっとクライアント理解や読者理解というかたちで、文章の中に生きてきます。ライターという働き方の中に、あなたらしい武器を見つけてみてはいかがでしょうか。
▶︎ どんな経験も糧になる。フリーランスへの第一歩に、HELP YOU
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