「わくわくbase」のふたりが教えてくれる、“自分の可能性を信じて、人生を切り拓く”ということ

教育コンサルティング会社で社会人教育にかかわっていた清宮香里さんと金木祥子さんは、そこで感じた疑問から、幼児教育の分野を探究することに。9カ国、50カ所以上の幼児教育の現場を視察し、2017年に保育所「わくわくbase」を創設しました。当時20代だった彼女たちが、疑問と好奇心を大事にして前に進む姿は、自己受容の大切さや、大人になると見失いがちなことを教えてくれます。

ライター

小笠原綾子
東京都北区在住。自分事と思える仕事や活動をしながら“複業”を実践中。ライター・編集者としてインタビュー記事作成や印刷物の制作をするほか、食をコミュニケーションツールに人と人をつなぐ場づくり、地域コミュニティ活動をしている。

自分の可能性を生かしきれていないのは“もったいない”

自宅で英語塾を営む両親の背中を見て育ち、学生時代から子どもの教育に関心があった清宮さんは、大学のゼミで日本と北欧の教育比較などをテーマに学んだそうです。そして、「子どもがのびのび育つには、その近くにいる大人が、いきいきと自分の人生を生きていることが大事」だと考え、企業で働く社会人を対象に取り組む、教育コンサルティング会社を就職先に選びます。

一方、大学で保育について学び、保育者になろうと考えていた金木さんは、保育園や幼稚園という“限定された”世界に入る前に、まずは広い社会を見てみようと、“人の成長”をキーワードに就職先を探します。そこで見つけたのが、清宮さんが勤めていた教育コンサルティング会社。

二人は同じ会社の先輩と後輩という関係で、企業研修の企画・運営、営業を担当していました。

 

清宮(写真左)ベンチャー企業だったこともあり、入社1、2年目は毎日、夜遅くまで働いていましたね。形がないものを売るのは難しいことだなと思いましたが、その難しさが面白くて。いっぱいうまくいかないことがあって、悔しくて、よく泣いていましたね(笑)。感動やうれしさで泣くことも。上司や先輩と「喜怒哀楽」を共有できる環境が、すごく好きでした。社会人として大切なことを学ばせていただき、今でも前職でのすべての出会いに感謝しています。

金木(写真右):私は就職活動のときから東海道線を利用していたんですが、神奈川から東京への通勤で疲れている人たちを見て、「死んだ魚のような目をしている人がたくさんいる。自分はそんな大人にはなりたくないな」と思っていたんです。でも社会人になって間もないある日、電車の窓に写った自分の顔を見て、「マズい、自分もそうなってる……」と思いました(笑)。入社1年目は要領をつかめず、夜遅くまで働くことが多かったんです。仕事はとても楽しく充実していたんですが、食事と睡眠が十分にとれていなくて。このとき、休息の大切さを痛感しましたね。

 

そんななか、ふたりは企業研修を通して、自己肯定感の低い人が多い現状を知ることに。

 

清宮せっかく小中高、そして大学で学んで社会に出てきたのに、自分の可能性を生かしきれていない人が多いことを知って、“もったいない”と思いました。働きがいを感じられなかったり、自分に自信をもてなかったりして、働くことを楽しめない人が結構いるんだなあと。もちろん、働くことがすべてではないけど、一日の大半の時間を働くことに使っているのに、やりがいや幸せを感じられないのは、とても“もったいない”ことだなって。

金木:新入社員研修のあとに出される分析レポートを見ると、どの企業もだいたい共通して、「主体性がない」「リスクを恐れる」といった傾向がみられました。

清宮それは本人というより、環境や教育に問題があるからではないかと、かねぼー(金木さん)とよく話していましたね。主体性や創造性を大切にする環境や教育のなかで生きてきたわけじゃないのに、社会に出たとたんに“主体的に行動して”と言われても、難しいよねって。

経験ゼロから手探り。「できる」と信じて前に進む

金木:ある日、タイ料理屋で二人でご飯を食べながら、「いきいきと楽しく働いて社会で活躍できる人を育てるためには、どんなことが大事なんだろう?」と話していて、掘り下げていったら、「幼児期の教育が大事」ということになったんです。そのとき、せいみー(清宮さん)が「森のようちえん(※)をやりたい!」と言い出して。「私、幼稚園の園長先生になれる資格、もってるよ!」「それじゃ、やろうよ!」って(笑)

(※)森のようちえん……北欧発祥の、自然環境を利用した幼児教育や子育て支援活動

 

「週3で、せいみーの家に入り浸って、教育について語り合っていましたね」と金木さん。二人は、幼児期の子どものために、何が大事なのかをリサーチし始めます。

 

金木:“わくわくワークショップ”という名前をつけて、どんな環境が、子どもだけでなく保護者や保育者、地域にとっていいのか、幼児期にどんなことを育むのが大事なのか、といった問いをもって、教育関係者や子育てママにインタビューしたり、自分たちの過去を洗いだしたりして考え続けました。2カ月くらいたったころに、何が本当にいい教育なのかを知るために、「いろんな国の教育現場を見に行ってみよう!」ということになったんです。

 

ふたりは休職制度を利用して3カ月で、ニュージーランド、カナダ、フィンランド、デンマーク、オランダ、ドイツ、インド、フィリピン、そして日本の9カ国、50カ所以上の幼児教育の現場を視察します。

 

清宮森のようちえん、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育といった、特徴的な教育を取り入れている施設を中心に選びました。イタリアのレッジョ・エミリア教育の現場も見たかったのですが、残念ながらタイミングが合わなくて。それ以外は、希望した施設を見学することができました。

金木:訪れたところすべてに共通しているのは、「みんなで折り紙をしましょう」みたいに、一斉に同じことをするのではなくて、一人ひとりの興味や、そのときにその子がやりたいことを尊重していることです。

 

視察した施設のなかで最も衝撃を受けたのは、北海道にある「札幌トモエようちえん」だったそうです。

 

清宮「お母さんの目が輝くことが子どもにとって大事」という想いから、子どもだけでなく、お母さんやお父さんも通って一緒に過ごす幼稚園で、大家族で子どもも大人も育ち合うような“場”なんですよ。食事をする時間も場所も決まっていなくて、どこで何をして遊ぶかも自由。自由な環境のなかで、責任をもつということを自然に学べるようになっているんです。保育者は一見、何もしていないように見えるんですが、子どもたち一人ひとりを尊重し、とっても丁寧に、そしてあたたかくかかわっていました。いろんなことが深すぎて、言葉にするのが難しいです。

 

会社に復帰したふたりは、保育施設を立ち上げるための新規事業部に配属されます。それから半年間、上司と一緒にプロジェクトを進めていくなかで、会社が考える方向性と自分たちが大切にしていることにギャップを感じるように。

 

金木:会社は“ナンバーワン”を目指す方向でしたが、私たちはそれよりも、自分たちの目指す幼児教育の場を実現したかったので、独立することにしました。

 

その後、ベンチャーを支援する会社の協力を得ることができ、2017年7月、「わくわくbase」創設を実現します。「『わくわく』することをベース(土台)に、自分の人生を切り拓いていける人を育てたい」という想いから、この名称にしたそうです。

ゼロから手探りで想いをカタチにするなかで、不安を感じたり、後ろ向きな気持ちになったりしたことはなかったのかとたずねると、こんな答えが返ってきました。

 

清宮「自分の可能性を信じる」ということを、私たちは前職のときから大切にしていたので、「できると信じて、やってみよう!」という感覚でしたね。物件がなかなか見つからないとか、見つかってもガスが使えないとか、小さな問題はたくさんありましたけど(笑)。ありがたいことに、トラブルがあるたびに、いろんな人が手を差し伸べてくれて、なんとかオープンすることができました。

 

現在は、拠点となる「わくわくbase亀戸」(東京都江東区亀戸)のほか、特別養護老人ホームのなかにある「保育室 たいようの家」(横浜市神奈川区羽沢町)も運営しています。

“今この瞬間を、全力で生きる”ことの大切さ

「わくわくbase」のコンセプトとしてふたりが考えたのは、「自然で遊ぶ・多様な人と関わる・体験から学ぶ」ということ。視察した幼児教育の現場から取り入れたいと思ったポイントを挙げてグルーピングし、この3つに絞り込んだそうです。

 

金木:「非認知能力」を育むことが大事だと考えています。IQや知識ではない、自分を信じる力、やり抜く力、協力する力といった能力です。「非認知能力」は、幼児期に自分で考えて行動したり、自分で選択してやり遂げたり、失敗したことから学んだりする体験によって高まります。そのために、この3つのキーワードはとても重要なんです。

 

なかでも、「自然で遊ぶ」ことを大切にしていて、「外遊び」の時間を大事にしています。

 

清宮健やかなこころとからだは、五感を刺激してくれる自然のなかで育まれやすいので、なるべく自然豊かな、四季を感じられる環境のなかで、子どもたちが思いっきり遊び込める時間をつくりたいと思っています。何でもおもちゃにできるんですよ、葉っぱも、土も、石も、枝も。「遊び」も自分でつくれます。季節や天気によっても違う「遊び」ができる。その子一人ひとりの興味のおもむくままに遊んでいます

 

最後に、日々子どもたちと接するなかで気づかされる、大人が忘れてしまいがちな、大切なことを話してくれました。

 

清宮毎日、いろんな場面で、子どもたちは“今この瞬間を、全力で生きている”ということを感じさせられますね。理屈抜きで、なりふり構わず行動するのを見ていて、すごいなあと尊敬したりもします。「いまはやめておこう」とか「あとで落ち着いたら……」ということは考えなくて、その瞬間に、自分がやりたいことを全力でやるし、悔しいときには思いっきり泣いて、うれしいときには思いっきり笑って、「喜怒哀楽」を素直に表現します。それって、私たち大人にとっても大切なことだと思います。

金木:大人になると、自分の「わくわく」する気持ちに気づけなかったり、気づいてもストッパーがかかってしまうことがあると思うんです。「喜怒哀楽」を大切にして、自分の「わくわく」に素直になってみると、物事がいい方向に展開したり、一緒に夢を実現してくれる仲間が現れたりするのかもしれません。だから、「わくわく」することをベース(土台)にして、「わくわく」しないことはやめよう、みたいな(笑)。

清宮人生、楽しいことばかりじゃないけど、いつも「わくわく」を大事にして、厳しい状況も面白がれる柔軟さをもっていたいし、子どもたちにも、いくつになってもずっと「わくわく」な気持ちを大切に、日々を過ごしていってほしいと願っています。

 

清宮 香里(せいみや・かおり)さん/写真左 わくわくbase株式会社 代表取締役

1986年生まれ。保育士。千葉県成田市生まれ、市川市在住。「自分の可能性を信じ、いきいきと生きることができる」人がもっと増えたらいいという想いをもち、大学卒業後は社会人向けの教育コンサルティング会社に就職。現在は「わくわくbase亀戸」にて、今を全力で生きる子どもたちや愉快な仲間(おとな)たちと共に、喜怒哀楽あふれる毎日を送る。“おとなも子どもと共に育つ”ことを大切にし、子どもたちだけでなく、自分たち保育者自身も成長し続けられる環境づくりを模索中。株式会社子育て支援代表・熊野英一氏と、わくわくbase株式会社の取締役・金木祥子と3人で、保育者のための学びの場「幼児教育ラボ」を主催。1歳の男児の母でもあり、休日は緑地や公園で共に自然を楽しんでいる。

金木 祥子(かねき・しょうこ)さん/写真右 わくわくbase株式会社 取締役

1987年生まれ。保育士。大阪生まれ、神奈川県茅ケ崎市育ち。4年制の保育士幼稚園教諭養成大学を卒業後、まずは広く社会を知りたいと考え、教育コンサルティング会社に就職。現在は「わくわくbase」が運営受託をしている「特別養護老人ホーム太陽の家横濱羽沢」内の「保育室 たいようの家」にて施設責任者を担う。自然豊かな環境で、施設や地域の人たちにあたたかく見守られながら、0~2歳児の園児10人とスタッフとともに、毎日新しい発見を楽しみながら過ごす。スタッフみんなで日々話し合い、試行錯誤しながら、子どもたちの学びの場をつくっている。休日は本を読んだり、趣味ではじめたバンジョーを弾いたりして過ごす。自分も人も場も成長し続けることに喜びを感じる

まとめ

経験ゼロから保育施設を立ち上げた清宮さんと金木さんは、これまで様々な困難を乗り越えてきたはず。ですが、ふたりとも“頑張ってきた”“努力してきた”という気負いをまったく感じさせず、ゆったりと自然体。それは、困難のなかにも「わくわく」を見いだし、“面白がって”問題を解決してきたからなのかもしれません。肩の力を抜いて「わくわく」に素直に、自分がやりたいこと・今できることを積み重ねていくことによって、人生が切り拓かれていくのではないでしょうか。