「好き」をお金に変えて、マニアックに生きる。「遊び配達人」のクリハラ タツヤさんが、行動力で手に入れたもの

「お金を取るか、好きなことを取るか」で後者を選択し、好きなことに傾ける情熱をお金に変えるために試行錯誤してきた、「遊び配達人」のクリハラ タツヤさん。ボードゲームで「遊び」の楽しさや大切さを伝える“ボードゲームマニア”です。クリハラさんが行動することで得たこと、大切にしていることから、自分らしい働き方・生き方を実現するヒントが見えてきました。

ライター

小笠原綾子
東京都北区在住。自分事と思える仕事や活動をしながら“複業”を実践中。ライター・編集者としてインタビュー記事作成や印刷物の制作をするほか、食をコミュニケーションツールに人と人をつなぐ場づくり、地域コミュニティ活動をしている。

「遊び」を“配達”して、たくさんの人を楽しませたい

 

「東京って、どの街にも特色がありますよね。神保町は古本の街、高円寺は古着の街といったように。僕は、ボードゲームの街をつくりたいんですよ。その街のシンボルとして、まずはビルを建てて、1階はボードゲームカフェ、2階はショップ、3階はボードゲームの作家さん(制作者)のラボで、4階はイベントスペースで……」

自宅から持ってきたスーツケースいっぱいのボードゲームやDIYした遊び道具をテーブルに並べ、そう語るクリハラさん。「遊び配達人」という顔と、ボードゲームカフェ運営会社の営業・バイヤーという顔をもつ、“ボードゲームマニア”です。

「遊び配達人」としては、150以上ある遊び道具のコレクションの中から、依頼主の要望に合わせてセレクトして届ける「出張ボードゲーム」のほか、ボードゲーム作家の代理営業などをしています。ボードゲームカフェ運営会社の営業・バイヤーとしては、自分で築いてきたネットワークを生かして、世の中に紹介したいボードゲームを見つけて仕入れ、市場に流通させる仕事などをしています。現在は、個人での仕事と会社員としての仕事がグラデーションとなってシナジーを生みだし、バランスのとれた状態にあるとのこと。

そんなクリハラさんはなぜ、「遊び」と「ボードゲーム」にこだわっているのか。

今、世の中に『遊び』が不足していると感じています。仕事をパンパンに詰め込んだ生活を送っている人、公園でのボール遊びを禁止された子どもたち、習い事でスケジュールが埋まっている学生など、『遊び』から遠ざかっている人がたくさんいます。人生、それでいいのか? 無駄や余白も必要じゃない? って思うんですよ。

僕のイメージでは、『遊び』という大きな土台の上に、エンタメやスポーツなど、いろんなコンテンツが乗っかっていて、ボードゲームはそのうちの一つ。遊ぶことの楽しさを伝えやすくて、僕自身もいいなと思えるものってなんだろうと考えたとき、ボードゲームがぴったりだと思って。ボードゲームをきっかけに、遊ぶ時間をつくってほしい、余暇の時間を豊かなものにしてほしい、という想いがあります

履歴書だけで、僕の価値を判断してほしくなかった

クリハラさんがボードゲームに興味をもつきっかけとなったのは、友人のプレゼントを探していたときに雑貨店で見かけた、ゴブレット・キッズという木製のボードゲーム。

「当時、家具やインテリア用品、雑貨のバイヤーをしていたので、展示会やインテリアショップなどでいろんなプロダクトを見ていましたが、このボードゲームに出合ったとき、それまでに感じたことのない衝撃を受けたんですよね。なぜだかとても心を奪われてしまって。その場を離れてからも、ずっと気になっていました

この頃クリハラさんは、もっと自分が成長できる環境で働きたいと考え、転職活動をしていました。興味のある会社に片っ端から応募してみたものの、書類選考で落とされ、行き詰まりを感じていたそうです。

紙切れ一枚で、僕のよさがわかるわけがない。とにかく一度会ってほしいと思っていましたね(笑)

そこで思いついた名案が、クリハラさんの人生を大きく変えることに。

展示会で転職先を探してみようと思ったんです。展示会ならプロダクトを見ることもできるし、その会社の人の雰囲気もわかる。あわよくば社長と直接、話せるかもしれないと思って行ってみました。そしたら、雑貨店で見てからずっと気になっていた、あのボードゲームを見つけたんですよ。このとき『これだ!』と運命を感じて興奮し、その商品を扱っている知育玩具輸入会社の社長に『働かせてください!』と頼み込みました

そして、このチャンスを絶対に逃してはならないと、何度もその会社に連絡して採用までこぎつけます。

「僕はもう、必死だったんで、攻めましたよ。『後日、面談しましょう』と言われていたんですが、3日くらいたっても連絡がないから、『その後、いかがですか?』とメールして。返信がないから、また『その後、日程いかがですか?』『来週のいついつでしたら私は大丈夫です、面接お願いします』とメッセージを送ったり。それでも何の連絡もないので電話して、『メールを送っているんですが、面接していただけませんか?』と伝えて。
こうやって1カ月くらい連絡し続けて、やっと会ってもらうことができたんです。それで、面接はなくて、食事会だけで採用決定。後から聞いた話ですが、『しつこいくらい連絡してくるやつは、営業に向いているから』ってことだったみたいです(笑)

意味はないけど面白いこと、無駄なことが好き

 

念願かなって、ボードゲームを扱う知育玩具輸入会社の営業として転職を果たしたクリハラさんは、取引先の店舗の売り場で実演販売をするようになります。

「年間150日、実演販売しまくっていたら、“実演のマジシャン”ってあだ名をつけられました。一切、マジックはできないですけど、実演がマジックみたいだったからですかね(笑)。どんどん指名してもらえるようになって、結果を出すことができて。楽しい、得意だと思うことをして、商品を買ってくれたお客さんがハッピーになって、取引先もハッピーで、取引先から発注をもらう自分の会社もハッピーで、会社から評価してもらえる自分にハッピーが還ってくる、という循環がとてもよかった。

でも3年目くらいから、からだの不調を感じるようになっていったんです」

実演販売は、腰をかがめて接客するため腰に負担をかけ、喋り続けるため喉を痛めやすい仕事。1週間のうち、土日の2日間は実演販売をして、2日間代休を取り、残り3日間で営業や資料作成、実演販売の場所の確認や交渉をするといったスケジュール。それに加えて実演販売の準備、販促物やサンプルの用意、社内の定例ミーティングに参加したり企画を考えたりするなど多忙を極め、気がついたら24時間、仕事のことを考えていたそうです。

仕事一色に塗りつぶされた日々を送るなかで、突然気づいてハッとしたんですよ、遊び道具を提案しているのに、自分は全然、遊ベていないという矛盾に。それから、仕事では論理的であること、効率的であることをすごく求められていましたが、僕は無駄も大好きなんですよ。特に意味はないけど面白いとか、無駄なんだけどやっちゃうこととか。そういうところに面白さを感じている自分に改めて気づいたら、モチベーションを保てなくなって。まぁ、ビジネスマンとしてはダメな思想ですけど、なんでも計算して出すんじゃなくて、人生をもっとワクワクする方向に舵取りしたくなっていたんでしょうね」

こうしてクリハラさんは、知育玩具輸入会社を退職。知人からの誘いで、静岡にある“泊まれる公園”をコンセプトにした宿泊施設の立ち上げを経験した後、東京に戻り、「本当にやりたいことはなんなのか?」とモヤモヤしながら、就職活動とボードゲームのイベントをする日々を送ります。

まったくうまくいかない就職活動とは反対に、どんどん盛り上がり楽しくなっていくボードゲームのイベント。安定を取るか、好きなことを取るかで悩んでいたとき、友人から言われた「クリハラさんはボードゲームの人っていうセルフブランディングができあがっているから、ボードゲームに振り切ったほうがいいんじゃないのかな」という一言で心を決め、ボードゲームでお金を稼ぐ方法を、全力で考えるようになったそうです。

報酬に相当する価値を生みだせているか

 

「あの頃は時間がたくさんあったから、とにかくいろんな人に会いまくっていました」とクリハラさん。そんななかで出会ったのが、現在所属するボードゲームカフェ運営会社の社長。営業として雇ってもらいたいと考えたクリハラさんは、社長の心を動かすために行動します。

僕の強みは、ボードゲームの作家さんの代理営業をしていることや、ボードゲームのイベントを企画・開催していること。それを示すために、『無報酬でいいから、僕にやらせてもらえませんか?』と、企画を提案することから始めましたね。『Yes』と言ってもらうにはどうしたらいいかと考えたとき、とにかく結果を出して見せるしかないと思いました

幕張メッセで開催される大きなイベントに出店したり、東急ハンズの売り場に商品を置かせてもらったりして実績を出した結果、営業として採用してもらうことになります。

このように、自分で仕事をつくり、お金を稼ぐことにつなげてきたクリハラさんは、自分が企画したイベントに協力してくれた仲間に、報酬を支払うこともあるそうです。

「お金を払う側の立場を経験すると、雇用されていることのありがたさに気づきます。そうすると、簡単に『給料を上げてほしい』とは言えなくなります。仮に給料を月30万円もらっているとして、果たして自分はこの会社にそれだけの価値を生みだしているのか? 会社の後ろ盾なくしてこの30万円を生みだせるのか? と考えたとき、雇い主や依頼者への感謝や、お金を稼ぐことの大変さを実感できるんです」

行動することで「縁」が「円」になる

 

「その場にいる人たちを僕が楽しませていると実感したい。人が楽しんでいる景色を見たいんですよね。それが僕にとって、なによりうれしいことです」

と、クリハラさんは、自ら遊び道具を“配達”する理由について話します。そして、「こういう景色を見たい」とイメージしたとき、自分だけでは実現できないと思ったら、それを可能にしてくれる人に声をかけて、一緒にイベントをしているそうです。その一つが、出張料理人とコラボして開催している「食とボードゲーム」。

「お酒を飲んで食事しながらボードゲームをするのって、なんかいいなあと思って。出来合いのものを買ってきて食べるよりは、料理が好きで、おいしいご飯をつくれる人がいるんだったら、その人たちにお願いしたほうがいい。その人たちの活躍の場をつくることもできるし、その場所を運営している人のPRにもなるし、僕にとってもプラスになるから」

こうして、「遊び」や「ボードゲーム」に傾ける情熱をお金に変え、自分らしい働き方・生き方にたどり着いたクリハラさんが、大切にしていることとは?

「『行動』と『ご縁』を大切にしています。トライ&エラー&シンキングの繰り返しで成長することができ、いい出会いが生まれると思っています。『縁』が生まれ、『援』(助け合い)につながり、『円』(お金)になるかもしれない。自分が好きなことをしながら楽しく生きていくために、これからも、人との出会いやつながりを大切にしていきたいですね

クリハラ タツヤ さん クリハラ タツヤ 遊び配達人

1984年生まれ。ボードゲームカフェ運営会社で営業・バイヤーとして働きながら、「遊び配達人」として「出張ボードゲーム」を全国で開催するなど、ボードゲームを通じて「遊びの大切さ」を伝える。ボードゲーム作家の代理営業、オリジナルの遊具開発とレンタル、「遊び」と「学び」を結びつける企業向けワークショップをおこなうなど、幅広く活動。

 

 

まとめ

「好き」をお金に変えていくためには、自分が大切にしていることを明確にすることや、自分の市場価値を客観的に見極めることが大事だということがわかりました。そして、「遊び」や「無駄」を大切にして“遠まわり”するほうが、効率やスピードを重視して“ショートカット”するよりも、予期せぬことにふれるチャンスを増やし、新しい価値を生みだすことにつながるのではないでしょうか。