事務職はキャリアにならない 転職で芽生えた焦燥感 そして、「母親」としての葛藤
「HELP YOU」の運営スタッフとして活躍している熊崎誠知子さん。自分の職歴に「ブランク」できるのが怖い。ライフステージの変化にともなって「母親」・「妻」・「個人」として生まれた葛藤。「在宅ワーク」という働き方が、「理想」だけでは難しい現実について、赤裸々に語っていただきました。
目次
インタビュイー
インタビュアー(ライター)
子どもを預けてまで仕事をするの?私の選択は「子どものそばで働ける環境」
お子さんを出産してからすぐにお仕事復帰について検討したそうですね。
子どもが6月に生まれなのですが、翌年の4月に保育園に預けたい場合は11月には申請をしなければ間に合わないスケジュールだったんです。だから、「子どもを預けて仕事をするか?」の選択を、否応にも迫られていました。まわりのママ友にも、「保育園にするの?幼稚園にするの?」「ぼやぼやしていると大変なことになっちゃうよ!」と発破をかけられていたというのもあります(笑)
ぎりぎりまでどうしようか悩んでいたのですが、やはり「子どもの成長を見守りたい」と思い、11月の申請は見送りました。
そのタイミングで姉から「子どものそばで働ける職場がある」という話を耳にしたんです。姉の知り合いに理学療法士がいて、そのかたはお子さんを職場に連れて仕事をしているのだとか。もう衝撃でした。「そんな働き方があるのか!」って(笑)
そこからインターネットで「子どものそばで仕事ができる」というのを検索して、「HELP YOU」に行き当たりました。最初から「在宅ワーク」を考えていたわけではないのですが、「子どものそばで働ける環境」に挑戦してみよう、と。
履歴書に「ブランク」を作ってはいけない 出産後に感じた重圧
出産後に復職しよう、と思ったきっかけは?
子どもが生まれたので将来のことを考えて貯蓄したいのが一番の理由です。次に、「社会に取り残されてしまうかもしれない」という漠然とした不安と焦りがありました。子どもが成長して一人前になって家を出るときに、自分は何者でもなくなってしまう。母でもなく、妻でもなく、「私」である意義が何か欲しかったのだと思います。特に趣味もなかったので(笑)やっぱり、仕事が好きだったので、自分自身が充実を感じられる仕事をしたかったんですね。
漠然とした不安と焦りの根源は?
私、実は一度離婚をしているんです(笑)そのときのパートナーは転勤が決まっていて、東京に移住したんです。前職では社長秘書を任せてもらっていたこともあり、自分の仕事に対して自負があったんです。着実にスキルアップ、キャリアアップしているなって。
しかし、東京で転職活動をしたときに、打ちのめされたんです。自分が培ってきた「事務スキル」がまったく評価されませんでした。反対に-評価されることも……。正社員の面接を受けた際に「事務の経験だけか……会社によってやり方が違うから色がついた子より新人を採ったほうがやりやすいんだよね」といったぼやきをいただいたことも。ああ、私が今までやってきたことって何にもつながっていなかったんだ……って。
加えて、パートナーが転勤族だったので正社員として雇用してもらうのがそもそも難しかった。仕事を探すことに苦労したことを覚えています。当時は子どももいなかったので、時間だけを持て余していましたね。派遣のような短期契約の仕事を繰り返していくごとに、職歴ばかりが増えていく。自分も採用事務を担当していたので、「職歴が多いひと、私が採用担当だったら採らないな……」と自虐的に考えていたこともありました。だからですかね、「せめて職歴だけは途絶えさせてはいけない!仕事をし続けなければ!」というひとつの目標ができたのは。
仕事をしている「私」は「いけないお母さん」?子どもとの絆のつくりかた
今年の春にお子さんを保育園に預けることなったそうですがどのような心境の変化でしょうか?
元々「HELP YOU」には「子どものそばで働ける」という理由で応募をしました。いざ仕事を開始してみると、母親としての葛藤が多かったんです。
例えば、子どもの寝かしつけをして夜間に仕事をしようとすると、夜泣きをしてしまうんですね。そんな時に直ぐに駆けつけてあげられないジレンマや、子どもが安心して過ごせる環境を提供できていない自分を責めました。
また、夜間に終わらなかったタスクは日中取り組むことになるのですが、テレビを見せながら「ほら、◎◎のキャラクターがでてきたよ~。」と子どもを誤魔化しながら仕事をしているのが辛かったです。
一緒にいてもきちんと向き合ってあげられていない。子どもとの絆が薄れているように感じました。
そうであれば、いまの環境で仕事をしている必要性がないな、と。それだったら、保育園に子どもを預けて、しっかり仕事をして、子どもが帰宅したら目一杯濃厚な時間を過ごそう。そういう風に考え方をシフトさせていったんです。
実際にお子さんを保育園に預けてみていかがでしたか?
最初はもっとくずるのかと思っていたんです。でも、思った以上にすんなり馴染んでくれて。子どもは子どもなりに母親である私のことを理解してくれていたのかなって。
また、嬉しい誤算も。入園時に「うちの息子は食事に興味がないようなので、ご飯食べないかもしれない」と先生にお伝えしていたのですが、実際は毎回完食をしているようで(笑)お昼寝もお友達と一緒に3時間しっかり取れていて、先生にいつも褒めてもらっています(笑)
もしかしたら、家で私と二人っきりの環境でよりも保育園というコミュニティに所属していたほうが「彼」の為なのかもしれないなって。2歳から3歳って自我が芽生え始めるころで、そういう時期だからこそ、家族以外とのコミュニケーションが重要なのかもしれません。家では自分は特別扱いされるけど、社会ではみんな一緒なんだよ、という。家以外にも安心できる場所があるんだ、という実感も。子どもにとって保育園は大切な学び場ですね。
だから、「保育園」という選択も間違いではなかったなと思えるんです。
在宅ワークだからといってすべてが順調ではない タスクマネジメントの重要性
実際に「HELP YOU」でお仕事してみていかがでしたか?
社内コミュニケーションが基本的にチャットの文化なのですが……「HELP YOU」で仕事をスタートさせてから1年ちょっとですが、未だに苦戦をしています(笑)
私には「依頼されたことはできるだけはやく処理する!」「その日の仕事はその日のうちに!」というモットーがあるのですが、これがなかなか難しく。何でかというと、集中作業をしている最中にチャットが飛んでくると、ついつい見ちゃうんですよね。だから、作業の中断が多くて、集中力も散漫になりますし、通常1時間で終わる仕事が3時間もかかってしまうことも。
また、タスクが増えてくると、マルチタスク管理をしなくてはいけなくて。意識があっちにいったりこっちにいったり……どれも中途半端になってしまって。さらに仕事が終わらないストレスが溜まっていく、という悪循環に陥ってしまいました。どうしたらこのループから抜け出せるんだろう……元の仕事のリズムに戻せるんだろう……と。
その打開策は見つけられましたか?
最終的に「私は在宅ワーク向いていないかもしれない……仕事を辞めたほうが良いかもしれない」と思い詰めるようになって。それをマネージャーに相談した際に「1週間の完全休暇」をいただきました。
「チャットの返信はすぐにしなくていい」「たいていのことはそんなに緊急度が高くない」と言葉では理解していながらも、なかなか行動には移せない。だから、休暇の1,2日目はちらちらとチャットを覗いていました(笑)すると、自分が業務にあたっていなくても仕事はスムーズに回っているんですよね。「なんだ、自分が休んでも仕事はちゃんと回るんだ!」会社としては当たり前のことなのですが、その気づきを休暇中に得ることができました……しかし、それはそれでちょっと寂しいのも本音です(笑)
1日15分の昼礼 週4の平日休み タスクの書き出し……やれることはとことん
休暇後にご自身のワークスタイルに変化はありましたか?
はい。まず、毎日15分~30分の昼礼がチームで設定されました。そこで1日の他メンバーへ情報共有やタスクの優先度などを確認するんですね。また、やらなければいけないタスクを「紙」に書きだして、終わったものに斜線を引くようになりました。あえてアナログな手法を用いていますが、やっぱりペンで書きだすことによって思考が整理されるんです。
次に「休憩」を意識するようになりました。今までは家で一人だったこともあり、昼食を抜かしてしまうことも少なくありませんでした。「これはいかん」と思ってちゃんと1時間の時間をとろう!と。昼食のついでに夕食の準備も一緒に済ませれば、夕方焦ることもありません。そして、1時間に一回は、立ち上がって「伸び」をする。
今までは当たり前のことが当たり前にできていなかったんだな、と実感したんです。自分のことを大切にできていなかった。なので、そこから見つめなおしてみようと。
私自身の「働き方改革」はまだまだ始まったばかり。トライ&エラーを繰り返して、自分の生活に寄り添った働き方を模索できたらな、と思います。
取材後記
ライフスタイルが多様化するのと同時にワークスタイルも多様化しています。一人一人が自分自身の「くらし」に根差した「働き方」を選択し、そして「自分流」にカスタマイズしていく時代です。何が「最良の選択」かは分かりません。しかし、常にチャレンジはできます。そんな勇気をこのインタビューからいただきました。
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