「私スタイル」の起業は三人三様。女性起業家たちが会社を作った理由と方法

3人の女性の経験談からは、起業のきっかけも方法も、それぞれであることが分かります。一方で、経営者ならではの孤独などの共通点も。苦労もあるけど喜びが大きい、身近なロールモデルたちのお話をご紹介します。

ライター

鈴木 せいら
札幌市出身。横浜国立大学大学院工学修士修了。2007年夏より、函館へ移住。制作会社でライティング・編集業務を行い、実用書・フリーペーパー等のコンテンツ制作を担当、2011年よりフリーランスに。現在、「HELP YOU」プロフェッショナルライター。理系の知識を活かしたサイエンスやアカデミー系の文章から暮らしにまつわるエッセイ、インタビューなど幅広く手がける。

ウーマンミーティング in Tokyo 起業にもいろいろなパターンが

起業している、あるいはこれから起業を目指すという女性を対象に、2016年12月3日に開催された「ウーマンミーティング in Tokyo」。「『私スタイル』の起業に向けて」というテーマで、パネルディスカッションが行われました。これは、ロールモデルとなる女性起業家たちを紹介し、起業の形にも様々なパターンがあることを知ってヒントにしてもらえればと開かれたものです。その内容をご紹介します。

ロールモデル社長たちに聞く 三人三様の起業スタイル

パネルディスカッションには独身の女性から子育て中のワーキングマザーまで、それぞれ経験も事業内容も異なる3人の先輩起業家が登壇しました。司会進行は、跡見女子学園大学の許 伸江先生です。まずは3人のプロフィールをご紹介します。

地域のママ向けの事業を展開する「CROSSASIA」篠原晋寧さん

株式会社「CROSSASIA」の篠原さんは、中国瀋陽生まれ。九州の短大・大学に通い、卒業後は8年間マーケティングリサーチの会社に勤務し、2012年12月に会社を立ち上げたそう。プライベートでは、6歳の一女のママでもあります。CROSSASIAでは、つくばエクスプレスの沿線に住む乳幼児ママをターゲットに絞り、育児情報検索サイト「mamaT」の運営、コミュニティ活動、ママの声を反映したマーケティングを行っています。さらに2017年2月からは、ママたちがキャリアを実現するためのプランニングと企業でのインターン研修を行う「職ママSchool」をスタートする予定。

生活を便利に楽しく変える「主婦発明家」鈴木未夏子さん

「ママのアイディア工房」株式会社は、その社名が示すとおり、未夏子さんの便利グッズ発明が起業のきっかけとなっています。大学卒業後に渡英、帰国してからは物流機器メーカー、インド綿輸入卸に勤務しましたが出産のため休業。0歳児のお世話をしながら、2009年に留学生専用のシェアハウス事業を立ち上げます。シェアハウス運営をしながら、0歳児・1歳児の育児をしていた未夏子さんは「こういうものがあれば良いのに」と、生活を楽しく便利に変える「発明」に目覚めていったそうです。なんと、一般社団法人発明学会コンクールで2010年から現在に至るまで7年連続受賞の記録を打ち立てているのだとか。2015年にお弁当袋とランチクロスがひとつになった「お弁当袋になっちゃう!!ランチクロス☆」を商品化、販売しています。

会社員時代に起業を決意。ベンチャーやコミュニティで必要な知識を吸収した鈴木万梨子さん

そして株式会社「TOE THE LINE」の万梨子さんは、2016年3月に起業したばかり。獨協大学外語学部でフランス語を専攻、在学中に1年休学して、フランスLycee Notre Damで日本現代文化を教える講師を経験しています。旅が好きで、東南アジアを中心にバックパックひとつで巡ったという万梨子さん。卒業後は6年半旅行会社のH.I.Sに勤務、団体旅行の企画・営業、添乗業務をしていたそうですが、ある時お客さんの話から起業を思いつきます。「行先に自分用のクローゼットが用意されていて、手ぶらで旅ができたら…」そんなサービスを作る目標を持ち、2015年1月に退職。その後、ITや金融について学ぶため、ベンチャー企業に。いざ起業を志すと、そのために必要な知識をまったく持っていないことに気づき、気持ちが沈んだといいます。ですがそこで終わらず、「きんゆう女子。」というコミュニティを立ち上げ、190人ほどのメンバーと共に兜町で金融についての勉強会を開催しているのだそうです。

起業を決心したきっかけは?

起業をしたいと考えて、一歩踏み出すことができたきっかけは?

篠原: 私は勤めていた会社で1年半育児休暇を取って、出産前と同じ職場・仕事内容で復帰できたのですが、「17時には帰らなくては」という制約の中で以前のように職務を果たすことが難しくなった。それで他の社員のサポート役に就くことになったのですが、ベテランの自分が新人のサポート役をすることに悩みました。「これが10年続くんだろうか?『つなぎの10年』と割り切る?」「毎日の仕事に喜びを感じながら働きたい?」どちらを選ぶかは、自分の中ですぐ結論が出ました。そこで、復帰後半年で独立を決め、B to Bのビジネスもできるようにと株式会社を作りました。

未夏子: 私は働くことが好きで、学生時代は掛け持ちでアルバイトし、イギリスでも父の貿易業で手伝えるところは手伝わせてもらいながら勉強していました。子どもがまだ小さく時間の制限があるので、自分で何か事業をやりたいと思ったんです。「場所を貸すことならできるかな」と考え、シェアハウス事業を始めました。

万梨子: 私は添乗の際にお客様で会社社長の方々に接し、仕事についてキラキラと語られる姿に「そういう生き方をしたい」と憧れていましたね。

起業して体験した失敗やつらかったこと……

失敗や辛かった経験はありますか?

篠原: 2年前、100人規模のママ向けイベントを開催した時のことです。スタッフも全員ママで、直前に全員がインフルエンザや胃腸炎になってしまい「動ける人が2人しかいない!」という状況に。あちこちに電話をして、なんとかお手伝いの人員を集めましたが、あの時は本当にきつかったです(笑)

未夏子: 私は、商品販売の初めてのお客様が決まり、中国に3000枚を発注したのですが、納品の2週間前になって全然作っていないことがわかったんです。「大きな工場なら、1週間で作れるはず!」と毎日電話をかけて、なんとか間に合わせることができました。

万梨子: 私はふたつあって、ひとつは法人口座を作ることでした。女性の起業を応援する社会の風潮がありますが、実際はまだまだなんだな…と心が折れました(笑) 銀行の対応が冷たくて、窓口で資料さえ見てもらえなかったり、「シェアオフィスだからだめです」と言われたり。結局、知人に取引のある銀行を紹介してもらいました。もうひとつは、仲間探し。女性起業家は見た目は華やかでも、孤独で寂しいもの。ですが起業したことによって、一生お付き合いができる人たちが見えてきたメリットも。

夫の反対を乗り越えて起業した人も。大切な仲間と支援者の存在

起業して、人とのつながりに変化はありましたか?

篠原: 起業を決めたとき、家族会議をしたんです。夫は大反対でした。「一社会人として、このプラン・状況で起業するより、今の会社勤務を続けた方が良いと思う」と。話し合いを繰り返して、全額自己資金ですること、今まで通り自分で使うお金を自分で負担することを条件に起業を認めてくれました。そんな厳しい夫ですが、一時資金繰りが悪くなった時に相談したところ、必要な数十万円を出資してくれました。やはり「一番の理解者は家族」だと思います。

未夏子: 先ほど社長は孤独だというお話がありましたが、SNSの利用や勉強会への参加で、横のつながりができています。別の業界であっても共感し、励まし合える

万梨子: 起業したことで、いろんな人が支援してくれている有難みを感じています。旅行業の時のつながりで企業が応援してくれたり。新しい世界に飛び込んだことで、新しい人脈、仲間もできました

起業、そして事業を成長させるときに利用できる支援機関やプログラム

起業に関連して支援機関を利用しましたか?

未夏子: 私は行政提供のサービスを駆使して起業したひとりなので(笑)例えば、武蔵小山創業支援センターは女性の起業に特化したサービスでは日本随一らしいのですが、アドバイザーがたくさんいて、格安で相談が受けられる。私は平成19年に品川に転入し、発明を1、2品始めた頃から相談させてもらっています。また、城南信用金庫でも「なんでも相談プラザ」という窓口があって、起業相談ができます。

こういう支援があれば、と思うことは?

篠原: 私は自己資金で事業をスタートしましたが、運営できる資金がないと事業を拡大していくのは難しい。誰もが直面する「資金繰り」という課題で、一般的に「資金繰り=借金する」としかイメージがないように思います。実際は、株式分配などの選択肢も。ですから、相談しやすく、固定観念を払拭できる情報提供の場があればと思います。

万梨子: 「こういうことをしたい」と発信していくと良いと思います。私の場合「埼玉ベンチャーピッチ」でプレゼンをさせて頂く機会がありました。政府の支援などもあるので、うまくマッチするといいと思います。そして、自分から支援を頼みに行く勇気も必要。

やりたいことをやる。でもひとりで抱え込まないで!

参加者へのメッセージをどうぞ。

篠原: ひとつは、「私には何ができるか」ではなく、「何をしたいか」を大切に。やりたいことを大きな目標に掲げてください。ふたつめは、家族に理解していただいた上で起業することを前提にした方が良いと思います。最後に、子どものいるママへ。女性はどうしても家事・育児をどうするか?という問題があります。「アウトソーシング」を利用することも念頭に置いたほうが思います。例えば家事の一部をアウトソーシングするとか、いろんなサービスを利用することで問題が解決する場合も。

未夏子: 「何かやりたいことがあるならやってみる」「仕事量が増えてしまったら自分一人で抱え込まない」ということでしょうか。自分の仕事も家族の世話も、やりたくてやっているのに仕事量が多すぎてパンクしそうになり「どうしよう」と思い詰めた時がありました。どうしようもなくなって、不貞寝。何故か目が覚めた時に「やらなきゃいけないことなんて何もない。あるのは、やりたいことだけ」とハッと気づくことができたんですね。そう思えたら、事がうまく進むようになりました。重く考えずにできる範囲のことをこなし、状況を見ていくと良いのかもしれません。

万梨子: ITを使いこなす力も、ぜひ身に着けてください。おすすめはFinTech(フィンテック)サービスを使いこなすことです。例えば、会計ツールやキャッシュフロー管理ツール、決裁サービスなどです。ほとんどが無料から利用できますし、間違いをなくし時間短縮につながります。また、精神面ではいろんな選択肢を持つこと。それによって、余裕が生まれてきます。

やりたいことがあるけれど、知識や資金がないという人は、頼れる先を探してみよう!

3人の先輩起業家のお話は、参考になったでしょうか?鈴木未夏子さんからは、行政提供のサービスを駆使してやってきたというお話がありました。「やってみたいな」と思うことがあっても、知識や経験、資金の面で自信が持てず、一歩が踏み出せないという方は、ぜひ身近にある支援機関や勉強会、起業アイデアコンテストなどを探してみてはいかがでしょうか。今回のイベントでは、経済産業省の委託で行われている経済産業省「女性起業家等支援ネットワーク構築事業」の紹介がありました。関東地域では「起業コンシェルジュサービス」といって、7名の女性先輩起業家に起業の相談をできるサービスを実施されていて、自分のやりたいことに近いことを一足先に始めている先輩に相談する機会が作れそうです。また、「女性起業家等支援ネットワーク構築事業」という形で、関東以外の各地域でも様々なサポートが提供されています。様々な情報を集めてみるというのも、大事な一歩。2017年は、ぜひ、一歩前進する年にしましょう。

Link

おすすめリンク