くらしを大きく変える転勤。正社員は拒否できないのが普通?
年度の変わり目には、組織変更や異動でバタバタした人も多いのではないでしょうか。自分や家族に転勤を伴う異動があると、仕事の内容だけでなく生活までも大きく変わってしまいます。
「転勤の心配がない」という理由でパートや派遣といった働き方を選ぶ方もいることでしょう。では逆に、正社員だと必ず転勤の可能性があり、転勤を命令されたら応じなければいけないものなのでしょうか?
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ライター
転勤を拒否できるかどうかは「雇用契約」による
正社員は、職務内容や勤務地を限定せずに雇用されるのが一般的です。雇用契約書に「転勤を命ずる場合がある」とあれば、この条件を受け入れての就業となるので、転勤を断ることは非常に難しくなります。断れば、懲戒免職の可能性もあります。「不可能」ではなく「非常に難しい」理由は、労働基準法に転勤命令の有効・無効についての直接的な取り決めが無いからです。雇用契約書に転勤に関しての記載がなければ、交渉の余地があるのです(入社時に取り交わす「雇用契約書」に勤務地が明記されている場合は、それ以外の場所での勤務を命じることは契約違反になります)。
ただし、次のことに注意する必要があります。
- a.会社の事務所が1ヶ所しかないような場合でも、今後新たな支店を出したり、新規事業を始めたりして別の場所に人員が必要となることもありえます。
- b.単身赴任は、よほどの家庭的事情が無い限り拒否はできません。
育児や介護の状況によっては、会社側が配慮する必要あり
育児・介護休業法第26条
正社員で、雇用契約書に転勤の可能性が明記されていても、これを断ることができる場合があります。単身赴任の辞令であっても、です。その根拠となるのが「育児・介護休業法第26条」です。転勤によって、育児や介護を行うことが困難になる労働者に対しては、雇用者は、その状況に「配慮」しなければなりません。配慮、と言われてしまえば、気にかけるだけなのか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。「配慮しなければならない」とは「配慮義務がある」ということなのです。配慮を怠れば、義務違反として罰則が科せられる可能性があるのです。配慮する内容の例として挙げられているのは、以下のようなことです。
- 労働者の育児や介護の状況を把握すること。
- 労働者本人の意向をくみとること。
- 転勤した場合に、代わりに育児や介護をする人がいるのかどうかの確認をすること。
会社による「権利の濫用」にあたる場合は拒否できる
雇用契約書に転勤の可能性が明記されていて、労働者の側に「配慮」に相当する断る理由がないからといって、雇用者が好き勝手に転勤させることはできません。いじめや嫌がらせなど、合理的な理由でない異動・転勤命令は、会社側の「権利の濫用」にあたり、拒否することができるのです。また、業務上転勤の必要性があっても、労働者の生活が破綻してしまうほどの不利益が生じる場合の転勤命令も、権利の濫用にあたります。
人事権とは
そもそも、権利の濫用が生じてしまうのは、雇用者に「人事権」があるからです。人事権とは「労働契約に基づいた決定権限」のことです。ですので、雇用契約書の範囲を超えて行使することは、権利の濫用となります。労働者の採用、配置、異動(配転)、人事考課、昇進・昇格・降格、求職、解雇などが、人事権の範囲です。
転勤のない「限定正社員」も増えてきている
「限定社員」(=「地域限定社員」)とは、契約により「転勤が無い」という限定のある正社員のことです。このほかには、労働時間(残業など)や職種が限定されています。正社員ですので、労働契約の期間に定めがなく、定年まで働くことができます。福利厚生の点でも正社員と同じ扱いです。非正規社員から正社員へのステップアップとして、または育児や介護といった労働者の生活の変化に対応するために限定社員と正社員の間を行きできる制度として、正社員と非正規社員の中間的な雇用形態である限定社員を導入している企業もあります。
限定社員のデメリット
限定社員にもデメリットがあります。会社に人事権を委ねている正社員よりは賃金が低く設定されているのが一般的です。契約内容がすべてなので、契約内容以外の辞令を断ることができる反面、勤務地が撤退する等契約内容自体がなくなれば、雇用者が転属を考慮する必要がないので簡単に解雇される可能性もあります。
求人広告の注意点
「正社員募集」の中には限定社員のことを指しているものもあるので、注意が必要です。「転勤無しの正社員」も、限定社員のことなのかどうか、確認したほうが良いでしょう。
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