会社と個人の未来はどう変わる?新しい働き方の先駆者エコネットワークス代表 野澤健さんとの対話・後編
個人で仕事ができる時代の会社はどうなっていく?
世界中のパートナーとゆるやかなネットワークを築きながら、様々なプロジェクトを手がけてきたエコネットワークス代表の野澤健さんと、オンラインアウトソーシング(在宅ワーカー)サービス「HELP YOU」を運営するレインボー 代表の秋沢崇夫さん、運営マネージャーのTさんによる対話の後編です。
(新しい働き方の先駆者に聞く会社と個人の未来 エコネットワークス代表 野澤健さんとの対話・前編)
目次
ライター
“「個」が輝く”という理念のもと、様々な関わり方でチームを作っていく
秋沢: その60~70人のパートナーというのは、どうやってつながった人たちなんですか?
野澤: ひとつは、この組織がもともと日本のサステナビリティに関する情報を海外に発信するNPOのパートナー企業として生まれたという経緯があって、その団体つながりでというパターンです。ふたつ目は、ウェブサイトで環境に関することや自分たちの働き方について発信しているので、それを見て興味をもって問い合わせをしてくれる、というのがあります。こちらから探しに行くパターンもありますね。何かのプロジェクトで「この専門性が足りない」というときに、それができる人を探して一緒に仕事をし、それをきっかけに継続的につながっていく人がいます。
やつづか: それぞれの関わり方というのは、どうやって決まっていくのでしょう?
野澤: まず、僕らは“「個」が輝く”ということを大事にしていて、ひとりひとりが自分の強みやベースをしっかり持った上でエコネットワークスに関わって欲しいと思っています。 その人のやりたいことがあった上で、どこかで重なる部分があるから一緒に働くというスタンスです。なので、関わる濃さも人それぞれです。ある一定以上関わりたいという意思を持ってくださる人とは、 キャリアプランを一緒に考える1対1のミーティングを定期的にやっています。どのくらい時間が使えて、どれくらいの報酬を希望していて、現状のスキルとしてはどの辺りか。仕事と報酬は用意するものではなく一緒に作っていくというスタンスなので、今その人ができそうな仕事はどれくらいあって、これだけはある程度見通せるけど、足りてない分はどう一緒に作っていこうか、そんな話をしています。
報酬に関しては、案件単位、時間単位、固定給として定常的に支払うものなど、お支払いの体系を何種類か柔軟に組み合わせて、年間として希望額に達することを目指します。長期に目指すゴールを一緒に達成するという視点を持つためにも、単発の仕事で終わるのではなく、 継続的に関わる共同体という意識を持ちやすいよう、今のようなチーム作りをするようになったんです。
T: 本人の希望とすり合わせるというのは、うちも同じですね。最初に入ってくる段階で、どれぐらい稼いでいきたいか、どれだけの時間を使えて、どういう仕事をやっていきたいか、未来の働き方はどんな形にしていきたいのかというお話をして、そのあとでチームに入っていただくんです。チームに入ってからは、そこのリーダーとワーカーさんで密にコミュニケーションしています。
これからの会社は個人の自立のためのプラットフォームに
秋沢: 今後、雇用体系やパートナーとの関係性について、こうしていきたいという展望はありますか?
野澤: 『アライアンス』(リード・ホフマン、ベン・カスノーカ、クリス・イェ著 ダイヤモンド社)という本に出てくるような関係性はすごくいいな、と思います。2~3年先を見据えて会社と個人が目標に合意し、一緒に達成を目指す約束をした上で、それに対する一定の保障を会社がする。その目標は、個人にとっても自身の強みにつながるものになっている。そういう形でやっていきたいですね。フルタイムで年間数百万稼ぐとかでなくて、もっと小さな単位のパートナーシップでいいと思うんです。
やつづか: 企業はフルタイムの正社員に対しては将来のキャリアプランを一緒に考えて教育もしますけど、パートタイムになると途端にそういうサポートがなくなりますよね。関わる時間が少なくても、パートナーとして一緒にキャリアプランやライフプランを考えるという関係性が、もっとあってもいいですよね。
秋沢: 僕らも、「HELP YOU」で働いてくれている人とそういう関係性を築いていけると、みんなももっと注力してくれることが増えるんじゃないかな、と考えていて、キャリアアップや報酬アップの体系を考えているところです。
野澤: それと、今の組織の課題としてはどうしてもピラミッド型になってしまっているんですね。中心メンバーのところに来た相談から仕事が生まれて、パートナーの皆さんと一緒にやっていくんですけど、仕事が入ってくる流れやプロジェクトをマネジメントできるメンバーが限られているので、気を付けないとただ細分化された業務をこなすだけになってしまいがちです。会社の理念として「ひとりひとりが輝けるチーム」というのを掲げていて、そうなれる人を増やしていきたいというのが根本にあるんです。僕達は企業のサステナブルに関する支援をしていますけど、自分たち自身もサステナブルな方向に向かっていく実践者でありたくて、そこで大事なのは個人の自立です。経済的な面でも、社会の制度という面でも、 大きなシステムに組み込まれないで、自立して生きていく力を付ける、そのために、より多くの人にこの場を使って、やりたいことを実現して欲しいんです。
秋沢: 「HELP YOU」も、僕らの会社がいわゆる営業機能を持っていて、企業さんからもらう仕事とお金をワーカーさんたちに配分していくというピラミッド構造になっています。でも、 ワーカーさんの方でどんどん仕事を作っていけるようになると、自立性が高まりますね。
野澤: まさに、やりたいことはそれですね。今はお客さんが東京に集中していますが、パートナーが住んでいるそれぞれの地域だったり、ウェブ上だったりでお客さんを開拓して、エコネットワークスのプラットフォームを使って仕事をしてもらえればいいですね。さらに言えば、使わなくても、その人が自立していくきっかけになればそれでいいと思っています。そういう方向を目指して、仕事の作り方も、報酬のあり方も、いろいろなパターンを作って試行錯誤していきたいです。
自立した個人とつながり続ける組織とは
秋沢: 個人対個人で仕事をできるようになってきて、今後は会社が個人を縛れる範囲はほぼなくなっていくと思うんですよね。そうなると、「会社やプラットフォームに所属する意味って何?」というのが明確になっていないと、みんな離れていってしまうと思うんですよね。意味づけのひとつが、ひとりひとりではできないことだと思っていて。例えば、身につけたいスキルがあって、専門の講師を自分ひとりで雇ってくるのは難しいけど、会社が雇ってくれて学ぶ機会ができるとか。そういう 規模の経済を働かせることによってできることを会社の役割としてやっていき、そうじゃないことは個人でそれぞれやっていくみたいな、割と小さい政府みたいな考え方の方がいいかもしれないと考えています。
野澤: 会社が公共性とかインフラ的な部分を担うというのは、必要ですね。
T: この間ワーカーさんと話をしたのは、「HELP YOU」はクライアントさんからもらったお金から運営のフィーを抜いているけれども、そのフィーに何が含まれているのかをアシスタントさんたちはあまり意識していない、それをもっと分かるようにすべきだね、ということです。利益だけじゃなくて、福利厚生とか営業機能、チーム組成を運営側でやっていることだとか、あるいはチーム体制があるからひとりでは受けきれないボリュームの仕事に参加できるという付加価値みたいなものを、意外とみんな意識していないんですね。そういう 経営やチームとしての視点を伝えるということも、所属することの意味付けになるのかな、と思います。
野澤: そういう視点をメンバー全員が持てたら、すごく強いチームになりますね。そうなって欲しいけれどそこがなかなかすぐには伝わらないところですよね。
秋沢: あとは、契約だとか情報の非対称性で個人を縛るということが今後はできなくなってくると思うので、「何でここにいるのかな?」と疑問をもったときに、すぐに答えが出る制度とかシステムになっていないと、多分続かないですよね。もしかすると今までは会社が取り過ぎていたということになるかもしれないけれど、 何のためにこれだけフィーを取っているのか?というのも、透明になっていかざるをえないのだと思います。
やつづか: 「適正なフィーを取ってもらって構わないから、この会社、このプラットフォームが続いて欲しい」、「私たちが働く場を維持するためにちゃんと回してね」と思ってもらえるような存在にならないといけないんでしょうね。
秋沢: 働く人の支持を得られないと、簡単に辞められてしまいますからね。
野澤: 何をどこまで、透明性を持って開示するのかというのは、本当に大事なポイントだと思いますね。それも今後、良くしていきたいところです。
取材後記
Link