男女が家庭でも仕事でも活躍できる時代へ!~iction! FORUM 2016 パネル・ディスカッションより~
30年前に比べると、くらしを大事にしながら働こうという気運はかなり高まっている、「『両立』から『シェア』へ~家庭での”男性活躍”を応援しよう~」というテーマで行われたパネル・ディスカッションを聴いて、そのように感じました。
3月26日、「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をテーマとした「iction! FORUM 2016」に参加しました。基調講演のレポートに続き、パネル・ディスカッションの内容をご紹介します。
目次
ライター
家庭での「男性活躍」について、世代と国を超えたディスカッション
当日は3つのパネル・ディスカッションがありましたが、今回ご紹介するのは「『両立』から『シェア』へ?家庭での”男性活躍”を応援しよう?」というテーマで行われたものです。モデレーターは、共働き夫婦のキャリアや子育てに関する取材を多くされているジャーナリストの治部れんげさん。冒頭に「育児をしながら働くためには、男性の役割が重要。夫婦間でどのように責任をシェアし、楽しみながらやっていけるか、それを深掘りしていきたい」とテーマの趣旨を説明されました。パネリストは以下の方々です。(敬称略)
- 三井物産ロジスティクス・パートナーズ(株)代表取締役社長/NPO法人ファザーリング・ジャパン 理事 川島高之
- 認定NPO法人フローレンス 代表理事 駒崎弘樹
- グーグル(株) マーケティング部 ブランドマーケティングマネージャー Women Will プロジェクト リード 山本裕介
- 国立大学法人 東京農工大学 リーディング大学院 特任准教授 坂根シルック
このディスカッションがとても面白かったのですが、その理由のひとつは、パネリストの方々の年代が幅広く、またフィンランド出身の坂根シルックさんのように日本以外の労働環境や家庭環境をよくご存じの方もいらしたということがあると思います。そのおかげで、「女性が働く、男性が家事育児をする」ということに関する時代の変化や日本の現状というものがよく分かりました。
女性が仕事で、男性が家庭で活躍できる社会に変わりつつある日本
坂根シルックさんが日本でのキャリアをスタートさせたのが1985年。「男女雇用機会均等法」が施行される1年前です。シルックさんは、「その当時はセクハラ・パワハラ、寿退社が当たり前だった」、そして「育児をするお父さんを見かけることは本当に少なかった」 と発言されていました。夫が子どもを抱っこして買い物に行こうものなら「旦那さん、本当に偉いわね」と言われたそうです。その2年後の1987年に社会人になられたのが、「イクボス」の提唱者としてご活躍中の川島高之さん。川島さんは、子どもが生まれてからは共働きの妻と協力して家事・育児をすることを当然のこととしてやってきたものの、やはり当時はそういう男性は非常に珍しかった。会社で「子どもが熱を出したから帰る」「PTAの役員をやる」と言っても、「(男性がそんなことを言うなんて)意味がわからない」という反応をされたそうです。
駒崎さんは川島さんより10年ほど下の世代ですが、2004年に「フローレンス」という病児保育のNPOを立ち上げた当時は「男なのに」、「子どももいないのに」、なぜ保育の仕事を? という反応が多かったとのこと。今ほど、共働き夫婦を支える保育事業の重要性が認識されていなかったのですね。でも、最近は徐々に意識が変わってきて、同世代の男性の間では、「奥さんに家事育児を全部やってもらって、自分は長時間労働をしているなんて全然かっこよくない」という雰囲気になってきたと言います。さらに少し若い山本さんは、ミーティングなどの予定がなければ15時や16時でもさっさと家に帰り、子どもと遊んだりお風呂に入れたりしてから家で仕事をするなど、本当にフレキシブルに仕事と家庭のバランスをとっている様子。グーグルでは、すごく真面目な会議であってもマネージャーが子どもを膝に載せてテレビ会議に参加しているというようなことが、当たり前にあるそうで、「仕事の仕方はこうあるべし」という固定観念にとらわれず、個々人が一番効率が良いやり方ができればいいという、合理的で柔軟な文化が根付いているのですね。そういう意味でも、時代の先端をいっている企業のひとつなのだと思います。基調講演で大久保幸夫さんが、「この30年で働く環境はかなり良い方向に変化してきた」とおっしゃっていましたが、パネラーの皆さんそれぞれの経験談からも、そのことがよく分かりました。
本当に平等な社会を実現するには、人に決めてもらうのではなく自分で考えて工夫できること
シルックさんは、日本はずいぶん良い方向に変わってきたけれど、男女が本当に平等な社会にはまだなっていないと言います。日本には「恐妻家」という言葉がありますが、フィンランドにはそのような言葉はない、どうして奥さんが怖いのか、理解できないというお話が印象的でした。いわく、社会を平等にしていきたいのであれば女性も覚悟が必要で、今まで自分のテリトリーだと考えてきた家事や育児を、夫に本当の意味でシェアする、つまり口を挟まないで自由にやってもらう必要があるというのです。シルックさんによれば、日本がフィンランドと大きく違う点は「管理されることに慣れている社会」であること。日本人は学校時代も会社に入ってからも、与えられた役割を決められた方法でやるのが当たり前だと考えがちです。一方、フィンランドの人はやるべきことやそのやり方を自分で決め、納得できないことはやらないのが許される文化なのだそう。なんでも西洋化すればいいというわけではないけれど、仕事も家事・育児も、「あなたの役割はこれですよ」という枠組だけを決め、どうやるかは本人が工夫する自由を与えたほうが、残業削減や両立のしやすさにつながるのではないかというのが、シルックさんの考えです。
これに対しては川島さんも「正にその通り」と賛同されました。日本の管理職は部下の行動を管理しようとするけれど、多様な背景をもつ人材の一挙手一投足を管理するのは無理。これからは部下に裁量権を渡して自立を促していかないと立ちゆかなくなってしまうと警告します。
川島さんの会社ではフレックス勤務制度を導入し、子育て中の社員に限らず誰もが、仕事以外でも充実した時間を持つことが可能になっています。フレックス勤務を許す代わりに仕事で結果を出すことを求めることで、ひとりひとりが時間の使い方を考えて工夫することになり、その結果会社の業績も上がっているとのこと。ベストな「くらしと仕事」はどこかに待っているわけではなく、自分で試行錯誤して作っていくものだということですね。
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