地方移住って実際どう? 3児の父に聞いた、理想の生活のつくり方

株式会社ニットでディレクターとして活躍する小田寛之さんは、東京の会社で約20年勤めた後、フリーランスとして独立。「田舎で子育てをしたい」という思いから、地元の新潟県上越市にUターンしました。3人の子を持つ父として、どのように家族の生活を支えているのでしょうか。移住を決めてから現在に至るまでの経緯や思いを聞きました。

ライター

三代知香
飛騨在住のフリー編集者。会社員時代はIT企業でマーケティングやPM、自社ブログの編集長を経験。メディアの立ち上げ経験を生かし、「くらしと仕事」のアクセス解析や新人育成を通して成果向上に取り組むほか、インタビューライターとして働き方や地方活性化をテーマとした記事を手がける。1児の母。→執筆記事一覧

子どもとの時間を増やすため移住を決意

小田寛之さん 2019年よりニットで活躍するフリーランスのディレクター。ファッション系の専門学校を卒業後、東京のアパレル会社で20年ほど勤め、フリーランスとして独立。長男が小学校に上がるタイミングで、地元上越市へのUターンを決意しました。趣味は育児とスノーボードとサッカー。

ニットに入る前はどんな仕事をしていましたか?

東京にあるファッション系の会社で17〜18年働いていました。企画から、営業、プロダクトマネジメント(生産管理)、展示会の企画・運営まで、さまざまな業務に携わった経験があります。ニットに入る直前に勤めていた会社では、通販カタログのバイヤーや編集業務、ブランドの立ち上げも担当しました。

それほど多岐にわたる業務を担当するとなると、かなり忙しかったのではないですか?

そうですね。特に、ブランドの立ち上げをしていた頃は、並行して既存ブランドのマネジメントもしていたので、終電で帰ることも珍しくありませんでした。

子どもが3人いるのですが、特に平日は一緒にいられる時間がほとんどなくて心苦しかったですね。

東京から新潟への移住を決めたのはそれが理由ですか?

はい。ワンオペ育児で妻に負担をかけていたのもありますが、何より私自身が子どもと過ごしたいと強く思いました。

子どもの成長は早いですからね。あっという間に自立して親元を離れていってしまう。だからこそ、短い子ども時代をできるだけ一緒に過ごしたいんです。

それに、子育てをするなら田舎が良いと前々から思っていました。現在、実家住まいなのですが、ここなら大人の手も多いので子ども一人ひとりをきちんとケアできます。もちろん、子育てに正解はありませんが、私たち夫婦なりに子どもにとって良い環境を模索し、長男が小学校に上がるタイミングで移住を決めました。

移住するにあたって悩むことはなかったのでしょうか?

1年ほど悩みましたね。20年近く東京で働いていたこともあり、田舎で仕事が見つかるのか、見つかったとしても収入面で家族を支えられるのか。また、妻が都会育ちなので、田舎のくらしに適応できるかも不安でした。

でも、最終的には「何とかなるだろう」と腹をくくって一歩踏み出しました。仮にうまくいかなかったら、その時にどうするか考えたらいいんです。少し能天気ですかね(笑)。

多様な経験がディレクターの仕事にマッチ

自宅から海が近く、夏になると学校帰りに毎日海水浴をしているそうです。水質はAAだそうで、透き通った海で泳ぐのは気持ち良さそうですね。

「自分なら何とかできる」という自負があるのかもしれませんね。ニットにはどういう形で出会ったのですか?

友人の勧めで、パラレルワークをテーマとしたセミナーに参加し、そこで自由な働き方について知りました。その後、時間や場所に縛られず働ける会社を調べていた時に出会ったのがニットです。この会社ならフルリモート勤務だし、複業もできます。これまでに培ったスキルを生かせると思い、ディレクターとして応募しました。

社長秘書で個人事業主。自由な働き方の答えがパラレルワークだった

ニットでディレクターを務めてみていかがですか?

ジョインしてから1年半が経とうとしていますが、前職でさまざまな仕事に携わった経験が役立っていると感じます。

ディレクターの主な仕事は、クライアントとスタッフの間に入ってプロジェクトを回し、顧客満足度を高めることです。そのためには、クライアントの要望を汲みとり、きちんと言語化してスタッフに伝える能力が必要だと考えています。

私は、営業や編集などの経験を通じて、いかにクライアントやエンドユーザーの要望を成果物に反映させるかを学びました。例えば、私はライティングやデザインのプロではありませんので、クライアントがどんな文章やデザインを求めているかを<感性>ではなく<理屈>で説明するように心がけています。

前職で勉強したことが、今の仕事にも生かせているのは嬉しいですね。

▶︎ ニットでフリーランスとして働く

テキストのやりとりで大事なのは思いやり

どんなことで苦労しましたか?

リモートワークの場合テキストコミュニケーションが基本ですが、最初はうまくいかないこともありました。特に、文章で説明するのを嫌うタイプの方とやりとりした際には、具体的な情報を引き出すのに苦労しましたね。

そもそもテキストでのやりとりに抵抗がある方もいるので、そういう場合は最初からオンラインミーティングをするようにしています。

また、できるだけ相手にとってわかりやすく情報を伝えるのも重要です。箇条書きにしたり、記号や罫線を使ったりして、視覚的に相手が理解できるよう努めています。

テキストだと、どうしても冷たい印象になりがちなので、スタッフの方とやりとりをする際には仕事以外の話を交えるのも意識している点です。例えば、体調不良で休んだ方がいたら、復帰後には「体調は大丈夫ですか?」と一文添えるようにしています。

大雪の様子。車庫が埋まるくらい積もったそうです。

 

今年は大雪が降ったので、その様子を写真に収めて共有したこともありましたね。互いのプライベートや人柄が垣間見えると、同じ文章でも温かみを感じられると思うんです。

「お店を持ちたい」という夢を地元で実現

視界をさえぎる建物もなく、空が広いですね。

ニットの仕事に加え、ご自身でECサイトの運営もしていると伺いました。

はい、「たけなお商店」というサイトです。アパレル商品を扱うことも考えたのですが、せっかく地元に戻ってきたのなら地域の活性化に貢献したいと思い、私が住んでいる集落の米や味噌を販売しています。

自分で言うのも何ですが、これがおいしいんですよ。お米に関していうと「子どもがおやつに食べるくらい気に入っている」という声も頂いています。

たけなお商店」のサイトトップ。大枠はネットショップ作成サービスのテンプレートを使用し、写真やテキストなどは自分で作成したそうです。

おしゃれなサイトですね!

ありがとうございます! お米や味噌のECサイトというと、ほのぼのとしたイメージを持たれがちなので「差別化を図るため、真逆を突いたら面白いのでは?」と思い、こういうデザインにしてみました。

実は、もともと自分のお店を持ちたいという思いがあって、学生時代もビジネスについて学んでいたんです。ファッション系の専門学校だったのですが、デザインや縫製よりも経営に興味があって。今回、こういう形で実現できて良かったです。まだまだ生計を立てられるほどの収益は出せていませんが、これからですね。

やった分だけ報酬につながる面白さがある

会社員時代と比較して、収入面はいかがでしょう?

移住した当初は、年収ベースで3分の1程度でした。ただ、月収ベースだと会社員時代を上回ることもあるんですよ。例えば、ニットで追加の案件があると、その月の報酬は通常より高くなります。頑張った分だけ返ってくるのは、フリーランスという働き方の面白いところですね。

それに、フリーランスになったことで働き方の自由度はぐっと増しました。場所を選ばず働けるので、たまにカフェや車の中で仕事をして気分を変えています。一度、家族でスノーボードに行った時に、リフトの上で仕事をしたこともありましたね。

何より、子どもと過ごせる時間が圧倒的に増えました。これは何にも代え難いことだと思います。

家族と過ごす「時間」の価値を実感 地方会社員からフルリモートのフリーランスに転身

地方移住のコツはハードルを上げないこと

車で1時間ほど走った場所にスキー場があり、冬は毎週のように家族で滑っているそうです。

移住して良かったと思いますか?

もちろんです。3人の子どもと遊んでいる時に強くそう感じます。最近では、一番下の子もある程度大きくなったので、大好きなスノーボードを家族5人で楽しめるようになりました。

湧き水を汲む様子。手ですくって飲んだらおいしいでしょうね。

 

おいしい食べ物や水が手に入る環境になったのも良かったところですね。近くで湧き水が採れるので、軽トラにペットボトルを何十本も積んで定期的に汲みにいっています。一度湧き水のおいしさを知ってしまったら、もう水道水には戻れませんね。

最後に、これから地方移住を考えている人に向けてメッセージをお願いします。

あまり偉そうなことは言えませんが(笑)。自分のやりたいことに向かって素直に行動するのが良いのではないかと思います。

重要なのは、最初から自分で自分のハードルを上げすぎないことです。例えば、年収1,000万円を目標に移住計画を立ててしまったら、そのせいで実現が遠のくこともあるでしょう。ご家庭の事情を踏まえたうえで、まずは最低限くらしていける収入を目標に置き、そこから段々と上げていくのも一つの手です。

収入にこだわらなくても、生活コストを減らす方法もあります。例えば、私の場合は実家住まいを選んだので、東京でくらしていた頃より家賃や光熱費などの負担は減りました。

方法はいくらでもあるので、まずはきちんと情報収集をして「これなら自分でもやれそう!」というポイントを見つけるのが良いと思います。

日本三大夜桜の一つに数えられている、高田城址公園の春。

 

実は、東京から新潟へ引っ越す際に、保育園のパパ友から「自分も田舎でくらしたい」「羨ましい」などと声をかけられたんです。その時に、自分のやりたいことに対して一歩踏み出せないでいる方が多いと気が付きました。

もちろん、人にはそれぞれ事情があるので一概には言えませんが、踏み出せない理由は気持ちの面も大きいと感じます。だからこそ、私自身が一つの前例として、そうした方々の背中を後押しする存在になれたら嬉しいですね。

まとめ

「まずは行動してみる」性格と、最初からハードルを上げず段々と積み上げていくスタイルが、小田さんの理想とする生活を形づくりました。自分にとって一番大事なものは何か。本当にやりたいことは何か。そうした自分自身の思いと真摯に向き合い、それを叶えるために経験やスキルを生かしている小田さんは生き生きとして見えました。この記事を読んでいるあなたも、もしやりたいことがあるのなら「自分には無理だ」と決め付けず、できそうなことから始めてみてはいかがでしょう。

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