幸せにくらし、働くための第一歩。最低限の休息を確保する「インターバル規制」

長時間労働の解消に向けて、一つのポイントになる取り組みが「インターバル規制」。政府は導入に向けた環境整備を進める方向です。インターバル規制とはいったいどのようなものなのでしょうか? 

ライター

西谷じゅり
女性に求められる役割が多い中、仕事・家事・育児それぞれのフィールドをより楽しむために試行錯誤中。ライフスタイルに合った働き方を模索しています。趣味はピアノと読書。

働き方実現会議へ届けられる署名

今年の10月、ひとつの署名活動が始まったことをご存知でしょうか。それは「長時間労働を撲滅して、日本から過労死をなくそう」という内容のものです。電通の女性社員の自殺が過重労働によるものだという労災の認定を受け、日本中で大きな議論を呼んだことがきっかけとなりました。署名は活動開始から1週間を経過した頃には2万件、現在では4万件を超える賛同者が集まっています。

 

賛同者のコメントとしてこのような声が挙がっています。

 

・過労死がニュースになる日本はおかしい。過労死なんてものはなくさないといけない。

・今体調を崩して求職中です。私の勤める官公庁でもBLACKです。サービス残業が横行しています。

 

集まった署名は次回の働き方改革実現会議で安倍晋三首相に手渡すことを予定しており、それに先駆けて11月22日には、働き方改革担当の加藤大臣、厚生労働省担当の塩崎大臣に手渡されました。また11月25日には、この問題に対して単なる署名で終わらせず、しっかり議論をし、提言内容を取りまとめるための「緊急フォーラム」が開催されました。このフォーラムには200人以上の方が参加し、様々な識者が議論をしました。その中で、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵さんが今回のポイント、「何を訴える署名なのか、具体的にどういう規制をかけるよう訴えるべきなのか」について説明されています。

 

人間らしい生き方を守る長時間労働の撲滅、その具体的な方法は?

・労働時間に上限を設定する

・インターバル規制を義務化する

 

今回の署名活動では、この2点によって、企業が社員に長時間労働を課すことが許されている現状を変えていこうとしています。1点目について、「労働時間に上限を設定するためには、サブロク協定を見直す必要がある」という話は、最近よく耳にするかと思います。これはどういうことかというと、労働基準法の原則としては1日8時間、週に40時間という労働時間の上限が設定されています。しかし、特別な労使協定を結べば、この上限時間を超えて働くことが認められているのです(その規定が労働基準法36条にあるため、この労使協定を「36協定(さぶろくきょうてい)」と呼んでいます)。かつて過労死を起こした居酒屋チェーンでは、特別条項で月120時間までの残業が認められていたという状況を、小室さんは「80時間を超えると過労死に関係性が出て来ると言われている国で、労働基準監督署が何の問題もなくこの労使協定を受け取ってしまい、合法化されてしまう」と語っています。この現状を変えるため、特別条項の時間の方に上限を設けようというのです。

 

ヨーロッパで導入されているインターバル規制とは

そして2点目がインターバル規制の義務化です。スポーツなどで聞くことのあるインターバルとは、「間隔や合間」といった意味です。この間隔を勤務と勤務の間に設ける、つまり休息できる時間を確保しようという規制がインターバル規制です。この規制について、すでに導入しているEUと日本の現状を対比しながら、小室さんは下記のように解説されています。

 

EUの現状

当たり前のように運用されていて、前日帰宅して連続11時間の休息を取らないと翌日の業務を開始してはならないという風に決まっています。この11時間というのは、EUで11時間としているので、日本の場合それを何時間にするのかというのは考える余地があるでしょう。例外として、EUでも消防や警察の場合は11時間が事実上難しいのでその業界毎に労使で結んでいて、それが10時間だったり9時間だったりします。ただ何も結んでいない業界はありません。

 

日本の現状

日本ではインターバルを導入するかしないかも自由なので、インターバルを何も設けずに翌日の業務ができてしまいます。前日長時間運転をした運転手さんが、3・4時間寝ただけですぐ次のお客様を乗せて睡魔と戦いながら運転するなんていうことも日本の労働基準法ではできてしまう状態です。明日から残業をいきなりゼロにするような要求ではなく、働く人の命を守るために最低限のラインを作る規制であることを強調されていました。

 

人間らしい生き方を守るために、長時間労働の撲滅を

「仕事と家庭のどちらかを諦めてしまった人が日本にはいったいどれほどいるでしょうか。」署名発起人であるファザーリングジャパン理事、西村創一朗さんの言葉です。

 

長時間労働による労働者の苦しみははかりしれません。また、一緒に暮らしている家族がいれば労働者本人だけではなくパートナーや子どもにも大きな影を落とす問題でしょう。署名サイトには、夫の帰りが遅く子育てに一人で向き合うことへの不安や、第2子の出産を躊躇する妻の声も寄せられていました。つまり長時間労働は、日本の少子化の原因にもなっているのです。

 

緊急フォーラムでは、「父親を育児から遠ざけないために、ママの育児を孤立させないために、子どもたちの未来を過労死から守るために」と、長時間労働の撲滅が、働いている本人だけでなく、その家族の幸せにもつながる、ということが繰り返し訴えられていました。

 

署名に参加した人達の思いがしっかりと伝わり、私たちやこの先を担う子どもたちが仕事と家庭のどちらも諦めず、幸せに暮らしていけるような働き方改革が実現することを願います。

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