女性のモチベーションの源、チャンスを切り開く条件とは?

『LEAN IN TOKYO 2017 スペシャルイベント』で見えてきた女性活躍の条件

国も企業も「女性活躍」を進めようと躍起になる一方、当の女性達からは「そこまで頑張りたくない」、「“仕事も家庭も”という価値観を押し付けないで」といった声が聞こえてきます。活躍したくないわけではないのです。持てる力を発揮して認められたい、職場の人やお客様に喜んでもらいたい、働くことを選んだなら、誰にもそういう気持ちはあるはずです。それでも「女性活躍」に反発がある背景には、「これだけやっているのに、もっと活躍しろというのか」という満たされない気持ちや、「家事や育児をしながら仕事も男性並みになんて、無理」、「安定した仕事に就けない状態で、活躍の土俵に立てない」といったあきらめの気持ちが見えます。そんな風にモヤモヤしている女性たち、彼女らをどう扱っていいか分からない男性たちにとって、たくさんのヒントが提供される場がありました。今年3月に開催された『LEAN IN TOKYO 2017 スペシャルイベント』です。多数のスピーカーのお話の中から、「女性のモチベーションの源」、「チャンスを切り開くために必要なこと」を教えてくれる言葉をご紹介します。

ライター

やつづか えり
『くらしと仕事』初代編集長です(〜2018年3月)。コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて働き方、ICT、子育てなどをテーマとしたインタビューを執筆しています。2013年に第一子を出産。

Facebook COOシェリル・サンドバーグさんの呼びかけで世界中に広がるコミュニティ

「Lean In Tokyo」は、FacebookのCOO シェリル・サンドバーグさんが、著書『LEAN IN』の最後に書いた「『リーン・イン・コミュニティ』に参加し、対話を続け、助け合おう」というメッセージに呼応して結成された、東京で活動する団体です。(書籍『LEAN IN』に関しては、こちらでご紹介しています。年末年始に読みたい「自分を変える」本10選 )「リーン・イン・コミュニティ」には、現時点で世界154カ国に3万もの小さな活動グループ(サークル)が属しているそうです。日本に限らず世界中に、LEAN INに共感する人々がいることがわかります。Lean in Tokyoが開いた今回のイベントでは、各界で活躍する女性たちの講演の他、会場の参加者同士での対話の時間も取られ、仲間づくりや一歩踏み出すきっかけを掴む場が提供されました。

『LEAN IN TOKYO 2017 スペシャルイベント』ゲストスピーカー(プログラム順)

・スペシャルスピーチ

ボッシュ株式会社 取締役副社長 森川典子氏

・ビデオメッセージ

インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢 代表理事小林りん氏

・パネルディスカッション

リクルートホールディングス ソーシャルエンタープライズ室室長 伊藤綾氏

日本たばこ産業株式会社 多様化推進室室長 金山和香氏

株式会社チェンジウェーブ代表取締役 佐々木裕子氏

アクセンチュア株式会社マネジングディレクター 秦純子氏

ジャーナリスト 治部れんげ氏(ファシリテーター)

・スペシャルスピーチ

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役 小室淑恵氏

男性とは違う、女性のモチベーションの源とは?

「女性リーダーや役員を増やそうとしても、昇進したがらない女性が多くて困る」という話をよく聞きます。それは、女性のモチベーションが何によって上がるのかが分かっていないために起きているすれ違いかもしれません。

自分の可能性を信じられること

男性にも言えることですが、人は「できそうに思えないこと」に対しては、ヤル気が出ません。逆に、「ちょっと大変かもしれないけれど、頑張ればできるかもしれない。できたら面白そう!」と思えることには、ヤル気がわきます。そのことがよく分かるのが、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんのエピソードです。

31歳で起業し、国会に呼ばれてプレゼンをされたり、ニュース番組に出演されたりと、ビジネスウーマンとして大活躍の小室さんですが、意外にも学生時代は専業主婦志望だったそうです。その理由は、当時「育児休業を取るような女性を、企業は迷惑だと思っている。企業は雇用機会均等法があるから仕方なく女性を雇用するのであって、本気で女性を求めているのではない」と考えていたから。「男子はいいなと。頑張ればその先には企業が両手を広げて待っていてくれる。でも、どんなに頑張っても女子は将来のトンネルが閉じている。じゃあ、なんで頑張るのか、とすごく虚しくなったんです。職業に就けなくて負けるのは嫌だから、だったら最初から仕事をしなければいいんだと考え、私は高校生くらいから『専業主婦になりたい』と周囲に言うようになりました」(小室さん)

そんな小室さんを変えたのは、大学に講演に来た猪口邦子さん(当時 上智大学法学部教授。現 参議院議員)のお話だったといいます。猪口さんは質問者から「二人の子どもを育てながらキャリアを築く大変さ」を問われ、「確かに大変だった」と認めた上で、「でも、あなたたちの世代は状況が大きく変わる」と語りかけたそうです。「猪口さんは、次のようにおっしゃったんです。『あなたたちが社会に出る頃は、共働き家庭と片働き家庭の割合がほぼ逆転しています。そうなると、働いて子育てする家庭向けの商品やサービスがより売れるようになる。でも、企業で意思決定をしている管理職はどういう人かというと、アメリカは5割が女性だけれども日本は1割に満たない。このままでは日本は、5倍以上のアイデアの差をつけられて負けるよね』と。『だから、ぜひあなたたちは……』と続いたので、私は『外資系に入れ』って言われるのかと思ったんです。でも猪口さんは、『ぜひ日本の企業に入ってあげてください。働いて子育てする自分がどんな商品やサービスが欲しいか、アイデア満載で入社して、このままでは負けてしまうと困っているであろう企業で活躍してあげて』って言われたんですね。

私はそのとき、全身に鳥肌が立ちました。今まで、女子は企業のご迷惑だと思っていたから拗ねていたのに、 企業が本気で、同情や義理じゃなくて、本当に女性を活躍させたいと思うんだったら、私だって仕事したかったのに!と思って。まだ自分の中にそういう気持ちがあることにすらびっくりしたんですけれども、それまでは社会に出るつもりがなかったので何も準備していない、このままじゃまずいとハッとして、人生変えようと決心したんです」(小室さん)

人生を変えるため、休学してアメリカを放浪した小室さんは、現地であるシングルマザーに出会いました。それがその後就職した資生堂での新規事業提案のアイデアのきっかけになり、ワーク・ライフバランス社の起業へとつながったのです。

アクセンチュアの秦さんは、昇進への意欲を見せない女性を部下に持つ人へのアドバイスとして、次のように語りました。

「自信がないと言っても、よく聞いてみると、みんな昇進意欲や成長意欲はあったりするんですよね。思うに、やっぱり女性はマイノリティなんです。働いている女性の比率が世界で80位とか、管理職比率は百十何位という国で昇進しようというのは、やっぱり勇気がいると思うんです。だから、『女性は昇進意欲がない』と捉えるのではなく、『何が不安なのか』を話せるようにしてあげてもらえるといいのかなと。なかなか難しいことだとは思いますが、そういうところまで話せると、いいメンターになれるのではないでしょうか」(秦さん)

これらのお話からは、まだまだ女性がマイノリティであるという環境が女性の不安の背景にあり、そのためにモチベーションが低いと見られてしまいがちであること、自信を引き出すには、女性に対して「きっとできるよ、期待してるよ!」と表明することや、女性の置かれた状況を理解して丁寧にコミュニケーションすることがカギになることが分かります。

望む生き方やWillと仕事とのつながり

女性のモチベーションの特徴について別の視点から語ったのは、チェンジウェーブ代表取締役の佐々木さんです。

「女性にとって、役職に就くことはほとんどドライバー(動機づけの要素)にならないんですね。何がドライバーになるかというと、 自分がやりたいことができるか、そのポジションにいったら望む人生を歩めるか女性にとってポジションって手段でしかないんです。(生きたい人生を実現する手段としてポジションを得るという)ストーリーが自分の中で描けると、今は自信がなくても、どうしてもそこにいきたいので頑張る。頑張ると実績も結果もついて、やりたいことが言えるようになる。サポーターもついてメンターもつくのでどんどんうまく回る、そういうサイクルで変わっていくのが、女性の場合はすごく正攻法なのかな、と感じます」(佐々木さん)

佐々木さんの話に、リクルートの伊藤さんも大きく頷いていました。「何年か前、リクルートでリーダーになっている女性たちに、“頑張れている源”は何かというインタビューをしたところ、2つの共通点がありました。ひとつは、仕事を通じて、自分が こういうふうに世の中を変えたいとか、もう少し小さいことでも、 自分の人生の中でこういうことをやりたいという思いです。リクルートではそれをWillと呼んでいるんですけど、どんなものでもいいからとにかくWillを持っているということが、共通していました」(伊藤さん)

仲間の存在

リクルートの女性リーダーたちに共通するモチベーションの源として、伊藤さんはもうひとつの要素も紹介されました。「ふたつめが、仲間がいるということです。さっき秦さんのお話にもありましたように、やっぱりどうしてもマイノリティーなりの辛さというのがあるわけですよね。その中で、 社内でも社外でも仲間がいるということが、頑張れているリーダーの共通項のふたつめでした。なので、女性リーダーの共通点というのはスキルとかカリスマ性とか、そういうことではないんですよね。きっと誰にでもwillの種があると信じることが大事だというのが、今私が考えていることです」(伊藤さん)

チャンスを切り拓く女性がしていること

「できるかも」という可能性を感じ、「やりたい」という気持ちが生まれた時、それを実行するにはどうすればいいのでしょうか? ここからは、チャンスを切り拓いてきた女性たちからの、一歩踏み出すためのアドバイスをご紹介します。

自分の人生についてじっくり考え、自分で決める

皆さんが共通して挙げたのが、自分にじっくり向き合い、自分の人生に対してオーナーシップを持つことの重要性です。日本たばこ産業の金山さんは、次のようなメッセージをくださいました。「ロールモデルが欲しいとか、先輩とか過去のうまくいったやり方みたいなものを知りたいという方は多いと思います。でもそうではなくて、 自分自身が何を求めていて、どうありたいのかというのを、しっかり考えていただきたい。今までのやり方と同じであっても、違っていても、ちゃんと意味付けをして『こうするんだ』と自分で決めて一歩一歩踏み出せば、それが自分のためにもなりますし、周りの人にも『こんなやり方があるんだ』、『こういう考え方があるんだ』と気づいてもらって巻き込んでいけると思います。ぜひ自分の心に、本当はどうしたいんだっけ?ということを問いかけて、日々過ごしてください。きっと楽しい人生になると思います」(金山さん)

やりたいことを表明する

ドイツのメーカーであるボッシュの日本法人で副社長を務める森川典子さんも、「自分の人生ですから、自分で決めましょう」と呼びかけました。そして決めたことに向かって一歩踏み出すために、「考えていることを言葉にすること」の大切さを強調しました。「考えていることを言葉に落とすんです。言葉にならないということは、考えがまだまとまってないか、何かあるんですよね。でも、言葉に落とすと今度はちゃんとそれを声に出して行動にできます。それがもし、なかなかできてないとしたらどうして? 『自信がないから』と言う人が多いかなと思います。でも、まずは今の等身大の自分でいいよねと思う。いいところも悪いところもひっくるめて今の私でしょ? いいじゃないですか。『こういうことを今言っていいのか分からない』って迷っている人が多いみたいですが、そんなの言ってみないと分からないですよ」(森川さん)

森川さんは、新卒で日本の商社に就職した後にアメリカでMBAを取得し、帰国後は大手会計事務所のアーサー・アンダーセン、モトローラを経て、現在はボッシュの副社長という華々しいキャリアをお持ちです。それは、森川さんが自分の可能性を信じていたことと、その時々でやりたいことを言葉に出してきたからのようです。一例として、モトローラ時代のこんなエピソードが明かされました。「私は上司に、海外で働きたい、それもアメリカ本社ではなく、今熱いアジアで働きたいということを告げました。すると、一年半後にシンガポールでの仕事のポジションに応募させてもらえたんですね。みなさん、自分のキャリアは、上司が考えてくれるものと捉えているようなところがあるように、たまに感じます。でも、 キャリアのオーナーシップは自分にあるんです。ですから、自分が何をやりたいかをまず考える。それをちゃんと上司に話す。私がこのとき上司に話さなかったら、シンガポールのポジションがあっても、北京にポジションがあっても、私にはお話がこなかった。当時は自然な行動だったんですけれども、あの時上司に言えたのは、今でも良かったなと思っています」(森川さん)

最後に森川さんは、「自分の可能性に蓋をしないで、覚悟を決め手一歩踏み出しましょう」と呼びかけて、講演を締めくくりました。

女性がのびのびと活躍できる社会を実現するためには一歩踏み出す勇気を持つ女性たちが増えること、同時に、女性の持つ可能性に期待し、手を差し伸べる上司や先輩、仲間たちの存在が不可欠、そんなことを教えられたイベントでした。

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