中小企業庁、中小企業への「しわ寄せ」防止対策を策定

経済産業省の外局である中小企業庁は6月26日、大企業から中小企業への「しわ寄せ」を防止するための「しわ寄せ防止総合対策」を発表しました。働き方改革で大企業の労働環境が改善された反面、そのしわ寄せが下請けなどの中小企業に及んでいる状況を是正しようというねらいがあります。今回発表された「しわ寄せ防止総合対策」の概要と、どんな行為が「しわ寄せ」に当たるのかについて解説します。

ライター

佐々木康弘
札幌市出身、函館市在住。大手旅行情報誌やニュースサイト、就活サイトなど多数の媒体と契約するフリーランスライター。店舗・商品・人物の取材記事やニュース・芸能記事作成、広告ライティングや企業紹介など幅広いジャンルで年間100万字以上を執筆するほか、校閲も行う。「HELP YOU」ではプロフェッショナルライターとして活動。

「しわ寄せ防止」の背景

中小企業庁が2018年12月に実施したアンケートにおいて、中小企業の6割が短納期での受注を強いられており、業種によっては8割以上と常態化している実態が明らかになりました。

これらの中小企業からは「取引先の大企業の時短対応のため、丸投げが増えた(建設業)」「大企業が残業を減らすために、下請の納期が厳しくなっている(機械製造業)」「親事業者の残業時間の制限により、親事業者内で処理できない仕事が増え、当社に回ってくる(自動車産業)」「親事業者内での業務量削減などの理由に、外注量や短納期発注が増加し、土日対応せざるを得ない状況(自動車産業)」といった声が寄せられました。働き方改革によって大企業が労働環境の改善に取り組んだ結果、中小企業にその「しわ寄せ」が及んでいるという構造です。

確かに大企業では時短に取り組んだ結果として残業が減ったのかもしれませんが、それを実現させるために中小企業で働く人々が犠牲になっているとしたら、働き方改革の実効性は乏しいものとなってしまいます。日本の労働者のうち大企業で働く人は約3割しかおらず、残りの7割は中小企業で働いているからです。

そこで政府はこうした現状を踏まえ、大企業の働き方改革によって中小企業が「しわ寄せ」を受けることがないよう、何らかの対策をすべきだとの認識に至りました。そこで策定されたのが、冒頭で紹介した「しわ寄せ防止総合対策」というわけです。

「しわ寄せ防止総合対策」の4つの柱とは

中小企業庁・厚生労働省・公正取引委員会の3者が連携して策定した今回の「しわ寄せ防止総合対策」は、以下の4つを柱としています。

1.関係法令等の周知広報

働き方改革関連法に関する説明会を全国の労働基準監督所で開き、一定時間以上の時間外・休日労働を行っている事業者に対して、労働基準法の改正内容や長時間労働を削減できた好事例などを説明します。

さらに、11月を「しわ寄せ防止キャンペーン月間」と位置づけ、集中的な取り組みを実施します。具体的には、大企業・中小企業の経営トップを対象としたセミナーを開き、(1)行ってはいけない「しわ寄せ」行為 (2)「しわ寄せ」改善事例などの周知を行います。

また、厚労省と労働局の幹部がそれぞれ大企業を訪問して経営トップに要請書を渡すなどして、「しわ寄せ」防止に向けた働きかけを行います。労働基準監督署も、監督指導や訪問支援の際に「しわ寄せ」防止の周知を図ります。

2.労働局・労基署等の窓口等における「しわ寄せ」情報の提供

下請けなどの中小企業から大企業の働き方改革に伴う「しわ寄せ」に関する相談が労働局・労基署などに寄せられた場合には、その情報を地方経済産業局に提供します。

3.労働局・労基署による「しわ寄せ」防止に向けた要請等・通報

労働局は管内の大企業を訪問し、「しわ寄せ」防止に向けた要請を重点的に実施します。

労働局・労基署が中小企業の法令違反(労働基準法など)を発見し、その背景に元請け企業による法令違反(下請法違反など)が疑われる場合には、公正取引委員会や中小企業庁に通報します。

4.公取委・中企庁による指導及び不当な行為事例の周知・広報

大企業の働き方改革に伴う中小企業への「しわ寄せ」行為の情報があった場合、

  • 下請法等違反の疑いのある「しわ寄せ」事案の情報に接した場合には、公正取引委員会と中小企業庁は下請法などに基づいて厳正に対応します。また、実際に行った指導事例や不当なしわ寄せ行為の事例について、業界団体や個別の企業へ広く周知・広報を図ります。

この中で注目すべきは、3と4です。これは、大企業などの元請け企業が時短実現のために下請け企業に無茶な仕事を押し付け、そのせいで下請け企業が労働基準法に違反してしまった場合、元請け企業も法的に追及されることを意味するからです。言い換えれば、「自分の会社さえ働き方改革を実現できれば、下請け企業の労働環境がどうなろうと知ったことではない」といった一部大企業の姿勢は、もはや通用しないものになります。もちろんすぐに効果が表れるとは思えませんが、働き方改革によって現れた「中小企業へのしわ寄せ」という名の弊害に対する大きな抑止力となるのは間違いないでしょう。

やってはいけない「しわ寄せ」の具体例

では、どんな行為が大企業から中小企業への「しわ寄せ」に当たるのでしょうか。中小企業庁は、今回発表した「しわ寄せ防止総合対策」において5つの項目を挙げています。ひとつずつご紹介します。なお、以下の各項目にある「発注者」は大企業などの元請け企業、「受注者」は中小企業などの下請け企業を指します。

1.買いたたき

  • 具体例1:短納期発注による買いたたき発注者が短納期発注を行ったため、受注者は休日対応や残業などで人件費のコストが大幅に増加した。しかし発注者は通常と同一の単価を一方的に定めた。
  • 具体例2:業務効率化の果実の摘み取り発注者は、受注者から製造原価計算や労務管理に関する資料などを提出させ、「利益率が高いので値下げに応じられるはず」と主張して著しく低い取引対価を一方的に定めた。これは、業務を効率化して利益率を高めた受注者の努力を無にするどころか奪い取る行為。

2.減額

  • 具体例:付加価値の不払い短納期発注は割増料金になると双方で定めていたのに、発注者が一方的に「予算が足りない」などと後から言い出し、通常の代金しか支払わなかった。

3.不当な給付内容の変更・やり直し

  • 具体例:直前キャンセル発注者は受注者に運送業務を依頼しており、毎週特定の曜日に受注者のトラックを数台待機させる契約をしていた。ところが当日になって「今日の配送は取りやめになった」と一方的にキャンセルし、その分の対価を支払わなかった。

4.受領拒否

  • 具体例:短納期発注による受領拒否発注者は発注後に一方的に納期を短く変更し、受注者は長時間勤務で対応したが、納期までに間に合うことができなかった。受注者はこれを理由に商品の受領を拒否した。

5.不当な経済上の利益提供要請

  • 具体例:働き方改革に向けた取り組みのしわ寄せ発注者は、商品発注に関するデータ入力業務を自ら行うべきであるにもかかわらず、受注者に無償で行わせた。

まとめ

これらの行為は働き方改革を阻害するだけでなく、下請法や独占禁止法で定める禁止行為に該当する可能性もあります。経営者や労働者の立場にある人は、こうした「しわ寄せ」行為を下請け企業に強いることがないように注意すべきなのはもちろんのこと、自分の働く会社が元請け企業などからの「しわ寄せ」を受けていないかどうかを普段から意識しておくべきだといえるでしょう。不当な「しわ寄せ」に対処するために、正しい知識を身に着けておきましょう。