個人事業の開業届と青色申告ってどうやるの?副業イラストレーター桧原朝美さんの体験談【前編】

地方新聞社に勤務しながら個人でもお仕事をするイラストレーター・桧原朝美さんに、開業届と青色申告について聞きました。

会社から独立したり、会社員のまま副業を始めたり、個人で収入を得ようとしたときに気になるのが「開業届って必要なの?」、「青色申告、白色申告って何?」など。それらの簡単な解説と、地方新聞社に勤務しながら個人でもお仕事をするイラストレーター・桧原朝美さんの体験談をご紹介します。

ライター

藤本 つばさ
日々成長していく怪獣君と仕事を頑張る旦那様、そして先輩ポメラニアンとのんびり楽しい日々を過ごしております。諸々資格取得を目指して奮闘中です。

「開業届」って何? 必ず出さないといけないの?

開業届とは、個人が新たに事業を開始したときに、まず税務署に提出する書類のことで、税務署に対して事業を開始したことを報告するものです。開業届は正確には「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、開業時のほか、廃業時、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転した場合などに提出します。事業の開始から1か月以内に、納税地を所轄する税務署に提出します。開業届を提出することにより、青色申告をすることが可能になるほか、屋号(お店の名前など)で銀行口座を開設したり、個人であってもきちんと正規の手続きにのっとって取引をしていることの証明になるなど、事業を営む上でのメリットがあります。開業届を出さずに事業を営んでいるケースも少なくありません。「開業届を出すと税務署に収入があることがバレるので損をする」、などの意見もありますが、開業届を出していなくても、収入があれば税金を収めなければいけないのです。個人でのお仕事をどのくらい続けていく意思があるのか、青色申告のメリットを享受できそうか、などを勘案して開業届が必要かどうかを考えてみるとよいでしょう。

確定申告、そして青色申告・白色申告とは?

会社員であれ、個人でビジネスをしている場合であれ、収入を得たら税金を納める必要があります。日本では、1年間の自身の所得金額と納税額を自分で算出し、納税するという「申告納税制度」が採用されています。会社勤めの方は会社の経理が代行して申告してくれていることが多いので、年末調整時にしか気にならないかもしれません。実はこの代行システム、先進国では珍しいもので、欧米人に言わせると「だから日本人は税金の使い道へのチェックが甘いのだ。」となるそうです。個人事業主の場合は自分で申告する必要があります。そこで前年1年間の所得の確定金額と納税額を申告することを「確定申告」といい、毎年2月から3月に税務署に必要書類を提出する必要があります。正しく申告するためには、1年間の収支を正確に帳簿に記録し、取引を証明する書類を保存する必要があります(よく「経費」として何かの支払いをしたときに領収証をもらうのは、このためです)。

「青色申告」「白色申告」というのは、個人が確定申告をする方式のことです。「青色申告」をするには事前の申請が必要ですが、帳簿の付け方によって10万円または65万円の所得控除のほか、節税につながるいくつかのメリットがあります。(確定申告および、「青色申告」、「白色申告」の比較についてはこちらの記事で解説しています。→青色申告と白色申告の違い、そのために必要な開業届けとは?

会社員の桧原さん、お役所相手の副業を機に開業届を提出

新聞社に勤めながら個人でもイラストやデザインの仕事をしている桧原さんですが、個人事業主の開業届を出すことにしたのは、町役場からの依頼がきっかけだったそうです。そこまでの経緯を聞いてみました。

会社員、転職、パートタイム、様々な雇用形態を経験し、ダブルワークを開始

チャンスに出会い、印刷会社勤務から新たなステージへ

専門学校卒業後、地元の印刷会社に就職した桧原さん。20代後半にさしかかった時、「このままここに勤め続けていて、本当に自分は満足なんだろうか…」と感じるようになり、思い切って退職を決意。ひとりで独立するか、印刷やデザイン関係の会社に再就職するかを模索していたところ、先輩のデザイナーから「地方新聞社で経験者の製作スタッフを探している」と声をかけられました。何かが桧原さんの背中をポンと押した瞬間でした。桧原さんはその地方新聞社に再就職し、制作スタッフに加わることに。再び正社員として勤務する身となりました。

産休・育休第一号としてワーキングマザーの道を切り開く

地方新聞社に勤務を始めて間もなく結婚。妊娠・出産のため産休・育休を取得することに。その会社で産休・育休を取得するのは、なんと桧原さんが1人目! 前例がなく、経理も右往左往。結局、桧原さんの妊娠が会社の就業規則改正に繋がったそうです。育児休暇は6ヶ月で、すぐに職場復帰を果たしました。しかしそれまでの働き方を自身で見直し、正社員としてではなく、パートタイムとしての復職でした。

ブログでの作品公開が副業につながった

桧原さんにはもともとイラストを描く才能があり、ブログを開設していくつかの作品を公開していました。好きなお笑い芸人やアーティストの似顔絵を描いたりしているうちに、ウェディングのウェルカムボードの依頼が来たり、チラシの製作やロゴデザインの依頼が来たり。1件の依頼における謝礼は微々たるもの。しかし、件数が増えていけば、結果大きな金額になります。「これって趣味の範囲と思っていいのかな?」と迷っていたところに、大きなお仕事が舞い込んだのです。

町保健センターからの依頼を機に、個人事業主としての開業を決意

町保健センターから「町内の子育て関連施設を紹介するパンフレット作成を一任したい」という公の依頼がきました。桧原さんのイラストレーター・編集者としての才能もさることながら、彼女がブログで地元密着型の情報発信を続けていたことが、担当者の目に留まったようです。

このお仕事が、桧原さんが起業する大きなターニングポイントとなりました。町役場とのお仕事、つまり、法人とのお仕事には入札制度がつきものです。入札に参加するには、開業届を出すことが必須条件でした。規模は小さいものの、今後も継続して町役場とのお仕事が決まっていた桧原さんは、開業届を出す=起業することを決めました。

混乱したけれどあっけなかった開業届の提出

結局、開業届は必要なの? あいまいな建前と実情に振り回される

桧原さんは開業届を提出するにあたり、商工会に相談してみました。すると「旦那さんも働いているし、子どももまだ小さいので、お小遣いかせぎ程度の仕事なら、開業届はまだださなくても良いのでは?」という返事をもらってしまいました。「(えー、規模が小さければ出さないほうがいいの? それとも出すべきなの??)」1円でももうけが出たら開業届を出すべき、という建前と、小規模であれば開業届を出さずに事業を営んでいる人もいる、という実情を前に、多少混乱してしまいました。けれど、原点回帰してみれば、開業の目的は「法人との取引」。色々な意見を振り切って、平成27年1月1日、無事に開業届を提出しました。

開業届の提出は簡単

開業届はA4用紙1枚で、住所や氏名に屋号、事業の概要を書くくらいで、特に難しいものではありません。桧原さんが実際に開業届を提出してみての感想は、「え、もう終わり? 帰っていいの?」だったそうです。開業届を提出した多くの人が、桧原さんと同じ感想を持っているようです。そのくらい、開業届を提出するのは簡単です。

開業2年目から青色申告を選択した桧原さん、全5回のセミナーはレベルが高すぎた?

青色を選んだわけ

青色申告をするには、申告の対象となる年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに開業した場合は、開業の日から2か月以内)に、「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。開業届を出した初年度は青色申告の届が間に合わず、白色申告をしていた桧原さん。2年目に青色申告を選んだのは、「白色申告の時は、会計ソフトの画面に出てくるお小遣い帳みたいな画面にちょこちょこ入力するだけでできたので、青色申告もそんなに難しくないのかな、控除もあるし、来年は青色申告してみよう」そんな軽い気持ちだったそうです。

税務署主催の恐怖の(役に立つ)セミナーの内容は?

「開業届を出したら、税務署からセミナーのお知らせが来たんです。全5回で、1コマ2時間くらい。」桧原さんが参加したのは「弥生会計16プロフェッショナル」という青色申告用の会計ソフトの使い方を教えてくれるセミナーで、これが非常にわかりにくいそう……。「おそらく、簿記の資格持ってるような人向けのカリキュラムなんでしょうね。初心者の自分には向かなかったみたいで、非常に苦労しました。」
セミナーは無料。参加しなくてもペナルティーはありません。桧原さんはセミナーに参加する一方、自己流の勉強もして、ソフトの使い方を習得中なんだとか。参考にしているのが、これらの書籍だそうです。

平成28年分確定申告に向けて

2016年分の確定申告の受付期間は、2017年2月16日から3月15日です。桧原さんは支出の記録や領収証やクレジットカードの明細の保存を普段から行っている他、今は確定申告に向けて決算整理(確定申告の際に提出する書類に記載する収支などの情報を集計すること)の準備中です。この後で実際に確定申告をするところまで密着し、後編で様子をご紹介したいと思います。お楽しみに!

Link

おすすめリンク