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心豊かな暮らしを求めてやって来る移住者の方々をサポートする、下川町産業活性化支援機構・広報担当の立花実咲さんにお話を伺いました。

立花実咲さん

1991年静岡県富士市生まれ。大学進学とともに上京し、在学中に1年休学して海外に旅に出る。帰国後、インターン先で出会ったメンバーと共にウェブメディア「灯台もと暮らし」を立ち上げ。卒業後は(株)Waseiに入社。2017年から北海道下川町の地域おこし協力隊に着任し、下川町のPRをしながらウェブや雑誌でライター、編集を行う。世界の文化人類学や言語に興味津々。

移住と起業をサポートする下川町産業活性化支援機構とは?

-下川町産業活性化支援機構(以下、機構)は、どういう運営体制なのですか?


立花実咲さん(以下、立花):機構の職員は私を含めて4人。この中で私ともうひとりの男性職員は、地域おこし協力隊(自治体の募集を受けて、任期の間、職員として地域で生活し協力活動を行う)です。



-それでは立花さんご自身も、移住していらしたのですか?


立花:そうです。静岡県出身で、下川に来るまでは東京で働いていました。



-機構では、移住だけではなく仕事探しや起業のサポートもされているようですが?


立花:機構の基本的な事業の柱として、

(1)総合移住促進機能

(2)地域総合商社機能

(3)起業塾

(4)地域人材バンク機能

の4つがあります。


この中で(2)の起業塾があるのは、産業を活性化させるための人手不足の解消と新規事業の立ち上げ支援が、当機構のミッションだからです。例えば2017年からスタートした「シモカワベアーズ」という取り組みでは、地域おこし協力隊制度を活用した起業家の呼び込みを行っています。協力隊としての3年の任期の間に起業して町で「なりわい」を作りたい人を募集しています。

起業塾の中には、今年からスタートした「北の寺子屋」と「森の寺子屋」の2つのプロジェクトもあります。「北の寺子屋」は札幌近郊在住の方で、道内のローカルで何かやりたい方を対象に、月に1回勉強会とヒアリングを実施しているもの。期間は半年で、もうすぐ最終回を迎えます。そして「森の寺子屋」は、下川町在住で何かやりたいという方を対象に月1回開催している勉強会です。森の寺子屋に関しては、自分の事業の中で新しいビジネスを始めたい方や、クラウドファンディングをやりたいという方、子ども食堂を開きたいという方、染め物の事業をやりたいという方もいらっしゃいます。

それを仕事としていきたいのか、趣味の延長でやってみたいのか、規模感は人それぞれです。もともと、下川町では何かやりたいことがある人を応援し合う風土があって、それを「見える化」できたらという思いで始めました。



-取り組み内容が広いですね。これらはすべて、現在の機構の運営体制になってからスタートされたことなんですか?


立花:役場だけではカバーしきれなかった、あるいは今までどの部署も担当していなかった仕組みを、機構の立ち上がりと同時に作りました。 「産業」は地域の生活基盤になるものですから、それを支援しようとすると関わりは多様になりますね。



-町の産業としては、何がメインなのでしょう?


立花:森づくりを行う林業と、木材の加工を含めた林産業が基幹産業としてあって。最近は農業も、新規就農者の方が少しずつ増えています。フルーツトマトやホワイトアスパラ、小麦の「はるゆたか」が生産されていますね。

「下川に住む人は、なんだかみんな楽しそう」笑顔で暮らす町の人たち

-移住された方たちは、その後定住しているようですか?


立花:私たち機構の窓口を通して来た方は、9割方ずっと町に住まれています。

町の人口の増減で見ると、自然動態(出生数・死亡数による増減)ではどうしてもマイナスになってしまいますが、社会動態と呼ばれる自分の意思で転入出する増減数で言うと、ここ数年プラスになっています。

下川での暮らしは、その方自身が能動的に行動されると、すごく面白いと感じられると思います。機構の方でも、月に1回「タノシモカフェ」という交流会を開いていて。最初は移住者カフェという名前だったんですけど、それだと移住した人しか行っちゃいけないような印象を覚えるということで。地元の人も、移住してきたばかりの人も、ワイワイ交流できるきっかけになったら、との思いで「タノシモカフェ」と名付けました。この場がきっかけで友達ができた、日常生活が楽しくなってきたという流れになれば、うれしいですね。



-移住して来る方に多いのは、ご夫婦やご家族でしょうか、それとも単身者の方ですか?


立花:最近、機構の窓口を通して来る方では、ご家族やご夫婦が多いですね。単身者の方からも、問い合わせはあります。お子さんがいらっしゃると、お父さんお母さんが熱心にその子の将来を考えられて、問い合わせの頻度も自然と多くなってくるようです。次第に町への愛着が湧いて、移住に結びつくのはご家族が多い印象ですね。



-「タノシモ」のサイトの中で、下川町のお母さんたちがコメントを寄せている「お母さんが、わたしらしく暮らせる秘密。」というページを拝見して、すごく良いなと思いました。


立花:機構にはもうひとり立花さんという女性がいて、お母さんなんです。それで、町内のお母さんたちがどんなふうにいきいき暮らしているのか分かったら、移住していらっしゃるお母さん方も安心するんじゃないかと。W立花で取材に行って(笑)、作ったページなんです。



-下川町として提案している、「こういう暮らしが実現できます」というコンセプトはあるのでしょうか?


立花:暮らしに対する理想は人それぞれですので、特に提案にしていません。ただ、タノシモ(下川町移住交流サポートのウェブサイト)のキャッチコピーになっている「下川に住む人は、なんだか、みんな楽しそう」という、雰囲気は伝えたいなと思っています。町として新しい人が来たり、今までになかったチャレンジをしたり、自分のやりたいことを実現していて「下川に住んでる人はきらきらしてる、楽しそうだよね」という姿を感じてもらえるような発信、イベントづくりをしていますね。

ヒュッゲな暮らしがここにある。下川町くらしごとツアー

立花:今年の夏、「ヒュッゲな暮らし」をタイトルにくらしごとツアーを開催しましたが、「ヒュッゲ」というのは、これまでずっと掲げてきたキーワードではないんです。ただ、下川町の人たちの暮らしを見ると、ヒュッゲの言葉を具現化したような生活を目指している人、「ヒュッゲ」な暮らしを実践している人が本当に多いんですよ。友達や家族との時間を大事にしながら、考えごとをしたり、語り合ったりしている。環境的にも北欧と近いものがあるので、ヒュッゲはしっくりくるね、と。



-参加者の方たちは、即移住とまではいかず、旅行よりはもう少し暮らし寄りの体験をしてみたい、という感覚だったのでしょうか?


立花:そういう方もいらっしゃいます。年4回くらしごとツアーをやっていて、参加者の方は、観光よりもうちょっとライフスタイルを知りたい、でもまだ移住は分からない、という雰囲気がありますね。本気で移住を検討されている方だと、問い合わせしてツアーの実施に関わらず、まず町を見に来てくださる方が結構いらっしゃるので。そういう方も、大歓迎です。



-くらしごとツアーの反応としては、参加者の方がまた下川町を訪れてくれるサイクルにつながっていますか?


立花:過去のくらしごとツアーに参加された方のうち、札幌からご夫婦が一組移住されました。その方は冒頭にお話した「シモカワベアーズ」の地域おこし協力隊として移住され、DIYやDIT(Do it togetherの略)のコンセプトで工房を作るべく、起業準備中です。


ヒュッケのイベントに関しては、2タイプのお客さまの層がいらした感じで。北海道に憧れがあって移住を検討している方と、もう一方はヒュッゲという言葉を知っていて、そのライフスタイルに憧れがある方。ヒュッゲの定義は分かるけど、実際にそれがどういう風に下川で実現されているのか知りたい、という声は多かったですね。

また、イベント開催後に「下川ってヒュッゲのイベントをやっていた町だよね」という声はたくさんの方から言われました。



-下川町の持つイメージが、ヒュッゲの言葉とぴったり重なったんでしょうね。

2019年2月に開催される「くらしごとツアー」の参加募集が開始しました!

お申し込みはこちら

【日程】2019年2月1日(金)~2月3日(日)

11自治体が協力して推進する「ローカルベンチャースクール事業」とは?

-全国の11自治体がメンバーになっている「ローカルベンチャー推進協議会」に下川町も参加されているのですね。北は北海道から南は宮崎県まで、11自治体はどのようにつながったのですか?


立花:東京のNPO法人ETIC.と岡山県の西粟倉村が運営を取りまとめていて、地方創生の一環として、地域の資源を活用して新しいなりわいを作ったり、既存の産業を刷新して新しい人材を取り込もうとしたり、そこに注力している自治体を募ったんです。その時に名乗りをあげたのが現メンバーの11自治体です。実際どうやって人材を呼び込んでいるのか、来てくれた起業家見習いの人たちをどうやって自治体がサポートしているかなどを、自治体同士で連携しながらノウハウを共有し合っています。この新しくなりわいを作ったり、既存事業を刷新していったりする人材のことを「ローカルベンチャー」と呼んでいて、ローカルベンチャー的な人を増やそうというのが推進協議会です。


11月には各自治体の町長市長が集まって、「ローカルベンチャーサミット」というイベントがあります。ここで事業の結果報告や進捗の共有をします。機構の事業の4本柱のうち、起業塾の取り組みが、このローカルベンチャー推進事業にリンクしています。

プレゲストハウスをオープン。個人として、立花さんの下川ぐらし。

-地域おこし協力隊として立花さんご自身が下川町に移住されたきっかけは何だったのですか?


立花:実は、私は下川に一度も来たことがないまま移住することを決めました。北海道に来るのも、下川が初めてでした。

現在も一緒に仕事をしているのですが、東京ではウェブメディア「灯台もと暮らし」の編集者として働いていたんです。機構の現在の上司が、会社のお問い合わせフォームに「下川町を取材しに来ませんか」と連絡をくれたことがきっかけで、別の編集部メンバーが下川を訪れて「良いところだった!」と。

そこで町のPRやブランディングの協力をしていくことになり、誰か編集者が下川町にいたら良いね、という話になり、私が立候補しました。ちょうどその頃、東京を離れて地域に入りたい気持ちが強くなっていたんです。それから協力隊の面接を受けて、2017年5月に移住してきました。

-立花さんの書かれた「プレゲストハウスとして、北海道下川町で民泊事業をはじめます」という記事を読みました。プレゲストハウスはもうオープンされている?


立花:はい。ゲストハウスと言っても民泊なのですが。人の集まる場所を作れば、その場がメディアの機能を持って町のPRにもなるということを周囲の方たちに説明し、応援していただいています。また、民泊については新しい法律が定められ、180日間しかお客様を受け入れてはいけないと決まっています。下川で宿泊事業を実施して、年間180日埋まるのだろうか?という実験も兼ねています。

これまで自分が旅をした時に、その町、その国の日常生活を体験したくてホストファミリーを自分で探して泊まり歩いてきたので、土地の暮らしを知りたいという需要はきっとあるだろうな、と感じました。



-宿泊状況はどうですか?


立花:思った以上にお客さまが来てくださって(笑)びっくりしています。



-今後、機構では冬のツアーも開催されるのですか?


立花:そうです。夏だけではなく、冬の寒さの厳しさと楽しさを知ってもらうために。くらしごとツアーで、みんなで雪はねをするのも楽しいよね、という案も出ています(笑)。下川の暮らしの良いところも悪いところも知ってもらった上で、下川を好きになってもらえたら。

取材後記

人が笑顔で楽しそうに暮らしているという下川町のお話をうかがううちに、私も訪れてみたくなりました。「出会ったばかりの人に結婚してくださいと言われても困りますよね。移住も同じで、いきなり『定住してください』と言うのは違うと思います」と語られる立花さんの言葉から、移住もひとつの旅のように、長い人生の1ページにとらえて良いのかな、と感じました。