AI時代に価値ある仕事、幸せな家族の形とは?チームビルディング・グラフィックファシリテーター 山田夏子さん

仕事も家族も、ゼロから作り上げるところに価値が生まれる

イラストの力を使って会議をスムーズに進める「グラフィックファシリテーション」や、組織や家族のチームビルディングを行う「しごと総合研究所」には日々さまざまな依頼がやってきます。代表の山田夏子さんに、社会で、そして家庭でよりよく仕事や生活をするために必要なことを教えていただきました。

ライター

宮本さおり
地方紙記者を経てフリーに。ワークライフバランスや子育て、教育など、女性まわりの「バン記者」として活躍中。元記者ライターズユニット Smart Sense副代表

言葉のやり取りでは、実は伝わっていないことがある

グラフィックファシリテーションとはどんなものなのですか

山田: 会議などで出た声や場の雰囲気をイラストで板書するものです。 他者に言葉で自分の考えを伝えるのは実はとても難しいことで、言葉のニュアンスが全て伝わっているかといえば、そうでもないことが多いです。「グラフィックファシリテーション」はあいまいな言葉のニュアンスをイラストを使って見える化していきます。私はこれまでも組織開発やチームビルディングのプロジェクト依頼を受けて企業などで実施してきたのですが、はじめから「グラフィックファシリテーション」を取り入れていたわけではなく、いくつかのセッションをやるうちに、絵で見せたら分かりやすいのではないかと思いついたのがきっかけです。すでにアメリカなどではこうした手法は取り入れられていたのですが、日本では「ビジネスの場で絵ですか?」と、はじめは「この人、ふざけているのかな」と思われることもありました。左脳は建前(理論)、右脳は本音(感情)とよく言われますが、絵はどちらかと言えば右脳に働きかける効果があると感じています。

例えば、どんな場面でそう思われたのですか

山田: 言葉だけで進めて行くファシリテーションをした時は、参加者はファシリテーターから話を振られるのを待っています。自分から発言してくれることは少なかったように感じました。ところが、ここに、仲介役として「絵」を持ち込むと、参加者が途端に積極的に発言するようになったのです。「私のイメージはこうじゃなくて、ここがもう少し丸くて、こうなってて…」とか、「そこはもっとこういう感じ」とか。全員が参加している状態ができていったのです。参加者からは「言葉で言っても伝わらなかったものが図や絵を使ったおかげで共有できた」という感想もよく出ます。

出来上がったモノではなく、つくり出すことができるヒトに価値がある

山田さんはもともと絵を勉強されていたのですか?

山田: はい。武蔵野美術大学の彫刻科を卒業しています。観察して創るということが好きで、ずっと制作ばかりしていました。けれど将来を考えた時、彫刻で食べていける人はほんの一握りの人です。やはりどこかに就職をしなくてはと思い、バンタンデザイン研究所という教育機関に就職しました。ポップアート科の担任をしていた時は、学生たちの「自分のアートを表現したい!」という想いと「社会に役立つ」ということをどう繋げられるだろうか?そしてそれを、どう魅力的な授業に展開していくか?を、常に模索しながら教育にあたっていましたね。そのうちに、学生の教育だけでなく、スタッフの育成も任されるようになっていき、コーチングなどいろいろなことを学ばせていただきました。その後独立し、研修講師や組織開発のコンサルタントとして仕事をいただいています。

独立後も美大生など若者に対する講座もされているとのことですが、講師をしていて何か感じることはありますか

山田: クリエイティブ系の学生にありがちなことなのですが、自分が作った作品に価値を置きたくなる人が多いです。でも、実は価値はそこではなくて、その作品を生み出すことのできる「あなた自身にあるんだよ」ということを強く伝えるようにしています。何か出来上がったものが素晴らしいとか、そういうことではなくて、つくり出すその過程、ゼロから考え自分で作り上げることができる力こそが魅力的な価値になる時代だと思っているんです。誤解を恐れずにいうならば、何かモノを作ることはAIでもできる時代です。モノができることではなくて、そのモノを創造できることに価値があるんだと話しています。

家族の形にも答えはない。本音で語り合い、「うちの家族」なりの軸を作っていくことが大事。

ゼロからつくり上げることはチームも同じかもしれませんね。「家族」も、考えてみればゼロの状態から関係性が生まれて、日々作り上げていくものですよね

山田: 家族のためのチームビルディング講座も最近よくお受けしています。夫婦、家族というチームでいかにして生活を組み立てていくかということです。学生たちが「できあがった作品に価値がある」という考えに縛られているように、夫婦や家族の間でもある一定の価値観に縛られていることってあるような気がしています。「母親の役割を果たさなければ」とか、「男性たるもの、家族を養うだけの稼ぎがなければならない」とか、私たちはそういう様々な価値観に縛られている。何が普通で何が非常識かなんて、本当は各家庭によって違っていいものだと思うのです。大切なのは「うちの家族は、どうするのが一番幸せに暮らせるか」ということ。ここが軸になることが大切です。

また、家族であっても、ビジネスの場と同様に、お互いの気持ち、意見が伝わり合っていないことがあります。家族を継続するには時として、思いをぶつけあうことも必要でしょうし、吐きだす場がなければどちらかが我慢することが起こります。肝は、「本音で語り合える関係を築けているか」です。家族も会社も、これは同じことが言えますね。

山田さんの活動は、これから多様性が増していく社会の円滑剤として機能していくことでしょう。夫婦で会社を経営し、2児を育てる山田さん自身の家庭の様子をお伝えする、こちらの記事もご覧ください。