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男性中心の職場の中でがむしゃらに働いていた私は、今から思えば悪いロールモデルだった――。
昨年春まで23年間にわたって『クローズアップ現代』のキャスターを務め、プロフェッショナルな女性の代表のような存在の国谷裕子さんは、このように語りました。

12月18日にハフィントンポスト日本版の主催開催された「Work and Life これからのダイバーシティ――子育て・介護・働きかた」の基調講演でのお話をご紹介します。

 

『クローズアップ現代』が「女性と経済」の問題を見落とした理由

「私は、ダイバーシティに気づいていなかった――20年間の『クローズアップ現代』の現場で学んだこと」。

これが、国谷裕子さんの講演のタイトルです。世間の動きに相対するニュースの現場で働きながら、最近になるまでダイバーシティ、特に働く女性の問題に気づかなかったという国谷さん。その理由について、ご自身のキャリアを振り返りながら語られました。

番組のスタートから昨年春までの23年間、国谷さんがキャスターを務めた『クローズアップ現代』は、「扱うテーマに聖域は設けない」をモットーに国内外の様々な問題やトレンドを取り上げてきました。でも、「女性と経済」の問題について取り上げるようになったのはごく最近のことだそうです。

それはなぜか。国谷さんは番組制作に関わる人達のダイバーシティの問題を指摘します。

「社会のあらゆる問題を取り上げてきたはずなのに、どうして女性と経済について取り上げてこなかったのか? どうして私たちのレーダーに入ってこなかったのか? 答えは簡単で、『クローズアップ現代』の番組を担当する、いわゆる発言権・決定権のあるポジションに女性がいないということです。

女性たちも働いてはいますが、子育てをしながら働いている女性たちが活躍できるような状況にはなく、結果として(女性をテーマにしようという)提案がなかったということです」

NHKは、育休や短時間勤務制度も充実した企業です。でも、報道番組の制作現場は徹夜も当たり前で、子どもをもった女性はそういう部署には戻ってこない、という状況だったそうです。

 

強烈な挫折を経てがむしゃらに働いた。女性にとっては「悪いロールモデル」に

番組制作の現場に発言権のある女性がいなかったという話を聞いても、「国谷さんがいたでしょ?」と思われるかもしれません。ですが当時の国谷さんは、仕事と家庭を両立させたいと願う女性の視点を持っていなかったのだといいます。

「私は、男性中心の職場で、男性が決める打ち合わせ時間、番組の収録時間に従って、土日、夜遅く、朝早くも厭わず、なんでもイエスと答えていました。飲み会も、一緒に行きます。私はNHKの職員ではなくフリーという立場でしたので、なんとかしてがむしゃらに働いて認められたい。そういう状況でした。ですから、育児休暇明けの女性達が置かれているような状況に対しては、全く気が行かない、長時間労働に問題があるという認識すら持っていなかったというのが、私の状況でした」

国谷さんがそこまで頑張っていたのには、それ以前の強烈な挫折体験がありました。

『クローズアップ現代』開始の5年前、NHK総合で夜9時から放送されるニュース番組のキャスターに大抜擢されたものの、半年で降板という結果に終わったのです。21時からというゴールデンタイムのニュース番組で日本中に顔を知られた国谷さんは、「このままでは、恥ずかしくて社会の中で顔を上げて歩いていけない」とまで思いつめたそうです。しかし、その年に本放送が始まった衛生放送(BS)でニュース番組にチャレンジする機会を得ます。

「強烈な挫折、失敗があったので、なんとしてもキャスターとして認められるようになりたい。そうでなければ挫折を乗り越えられない」、そんな思いで、積極的に様々な経験を積んだそうです。

そして4年経った時、新しく始まる『クローズアップ現代』のキャスターに任命されたのです。一度大失敗したNHK総合でやり直すチャンスを得て「リベンジモード」だった国谷さんは、男性社会の中で認められるために、男性的に頑張ってきたのです。

「今振り返れば、女性たちからは『国谷さんのような働き方はできない』と思われる、本当に悪いロールモデルだったと思います」

 

女性活躍・ダイバーシティの重要性に気づき、番組のテーマにも取り入れるように

そんな国谷さんが「女性の働き方」の問題に目を向けるようになったのは、経済産業省から「APECで『女性と経済』をテーマにディスカッションするのでモデレーターをして欲しい」という依頼があったことがきっかけでした。その時は「女性と経済」と聞いてもピンとこなかった国谷さんですが、関連のシンポジウムに参加して熱い議論を聞くうちに、国や企業の競争力向上のためにいかにダイバーシティが重要かを知り、「目からウロコが2枚も3枚も落ちるような、圧倒される思いだった」という国谷さん。それ以降、様々な場所で勉強したり、女性たちとネットワークを作ったりし、外で得た情報を番組制作の現場に持ち帰り、テーマの提案をするようになったそうです。

「『なぜ女性が働くことが大事なのか』、『どうしたらもっと女性が活躍できるんだろうか』という課題に気づくのが遅くなってしまいましたが、その後は猛烈にキャッチアップしようと、番組でも伝えてきました」

 

女性が女性のままで活躍できる、ダイバーシティのある社会に

女性を賢いイルカとして扱う――。

これは、国谷さんがAPECの会議で出会った、ある日本企業の女性役員に教わった考え方だそうです。

女性の育成に真剣に取り組み、すでに女性が活躍しているその会社では、女性を「賢いイルカ」と見ています。その賢いイルカを、男性が大勢いるサメの群れの中に入れれば殺されるかもしれない。そのため、最初はサメの群れから隔離したところで成功体験を積むようにさせるのだということです。「チャレンジングな仕事を体験させ、メンタリングをしながら泳ぐ術を教え、自信を付けさせる。その後に、サメの群れの中に戻している」と、その女性役員は語ったそうです。

「私はサメの群れに投げ込まれたのかも」。国谷さんは、最初にNHKのゴールデンタイムのキャスターに抜擢されたときのことをそのように振り返ります。その後、 プレッシャーもスタッフも少ない中で自由に様々な経験を積むことができた衛星放送時代は、サメから隔離されて育成されていた状態で、この時代があったからこそ、『クローズアップ現代』というサメの群れに戻されても活躍できたのでしょう。ただ、「『クローズアップ現代』で働いていた自分は、いつの間にかサメに変身してしまって、悪いロールモデルになっていた」と苦笑いされるのでした。

女性をイルカ、男性をサメに例えるのは、男女の違いを過度に強調しているようにも感じますが、この例えを使っている企業も国谷さんもそういう意図ではなく、今の時点では圧倒的にサメに有利な環境であるということが言いたいのでしょう。女性が積極的に前に出ていくことをためらったり、企業の中での育成方法や上司からの指示の出し方が男女で異なってしまうなど、国谷さんは、 無意識のバイアスが人々の行動に影響していることを指摘しました。そして、本当にダイバーシティを進めるためには、男性的なあり方が優秀さにつながると無意識に思い込んでいるようなこと、 例えば「人を引っ張っていくのがリーダーだ」といった定義そのものから見直す必要があるという考えを語りました。

長時間労働を良しとするような男性的な働き方が目標とされず、女性も男性も生活と仕事が無理なく両立できるような世界になったら、「まずはサメから隔離して育成する」といったステップを踏まずとも、イルカはイルカのまま、伸び伸びと泳げるようになるのではないしょうか。そういう世界を実現するために必要なこととして、国谷さんは次のように述べ、講演を締めくくりました。

「女性たちには、つながって声をあげて欲しい。男性上司の方々には、声をあげる女性たちをめんどくさいとか、うるさい存在だと思わないで欲しい。ダイバーシティが進むことによって、みんなが活き活きと活躍できる社会になってほしいと思います」

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