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「起業」と聞くと、スキルや知識が豊富で、特別なキャリアを経てきた人がするものだというイメージがありませんか。しかし昨今では、起業はハードルの高いものではなくなりつつあり、女性起業家や、これから起業を考えている「起業予備軍」の女性が増えているそうです。

そのような背景を踏まえ、広域関東圏女性起業家サポートネットワークと経済産業省関東経済産業局主催のもと、起業に関心のある女性たちを対象としたイベント「ウーマンミーティングin Tokyo 私スタイルみつけよう!」が開催されました。

第一部では、大学で中小企業論やベンチャー経営論などの授業を担当するほか、中小企業とまちづくり、女性起業家、社会貢献活動などの研究を行っている跡見学園女子大学 マネジメント部マネジメント学科 准教授の許伸江さん による講演が行われ、現代の女性起業家の特徴や、なぜ女性が起業を選ぶのかなどが語られました。

女性たちが起業を選ぶ理由

跡見学園女子大学 マネジメント部マネジメント学科 准教授 許伸江さん

なぜ、女性が起業を選ぶのか。一番の大きな理由は、「ライフステージの変化」だと許さんは言います。

「夫婦の共働きが当たり前となりつつありますが、女性には出産や育児など大きなライフイベントがたくさん起こります。仕事の内容によっては、子育てをしながら以前と同じように働くことは難しく、結果、キャリアを先延ばしにする場合もあるでしょう。『仕事も育児も、もっと自分の裁量で上手にコントロールしたい』と考える女性たちが、柔軟な働き方を求めて起業をするケースが多く見受けられます」

気になるのは必要なキャリアや資金面ですが、許さんいわく、「現在は社会的にも起業がしやすい環境が整っている」とのこと。

「株式会社以外にも、少人数で出資をして事業を始められる合同会社など、会社形態も目的に応じたものを柔軟に選べるようになりました。さらに、資金調達についても、中小機構(中小企業の起業や成長を支援する独立行政法人中小企業基盤整備機構)や国・自治体による補助金・助成金や、日本政策金融公庫の融資等、多様な支援が活発になっていることに加えて、クラウドファンディングなど新しい調達方法も生まれています」

また、環境だけではなく個人の意識にも変化があるそうです。

「現代では、誰もが『潰れるはずがない』と思っていた大企業が潰れ、さらに、未曾有の大震災まで起こりました。こうした背景から、組織のために働くよりも、自分の家族や地元との絆の重要性を再認識し、より豊かな自己実現をしていきたいと考える人が増えてきているんです」

「一億総中流」と呼ばれていた時代には考えられなかったリスクや新しい価値観が、多様性を求める社会の変化とともに生み出されているようです。

 

注目される起業家予備軍「副業起業」とは?

それでは、すでに起業している女性たちはどんな分野で活躍をしているのでしょうか。データによれば、男性起業家と比べて、個人向けサービス分野での起業が圧倒的に多いそうです。

「飲食店や医療福祉、ネイルサロンなど、個人へ向けて自分ができる範囲内でのサービスを提供する傾向にあります。また、女性は、資金面でのリスクをなるべく避けようとする人が多いため、個人事業でスタートして、徐々に大きくしていくタイプが多く、起業スタイルは、地域に根付いた生活密着型が非常に多いです。」

昨今、女性起業家が増えているとはいっても、全体で見れば30%弱ほどしかありません。しかし、その一方で、この数字に含まれない「起業家予備軍」がどんどん増えていると言います。

「そもそも日本人は起業意識が薄く、起業に対する漠然とした不安を抱えがちです。リスクばかりが気になって、起業にビジネスチャンスを感じられなかったり、自分にはノウハウがないと敬遠してしまったり。しかし、本業だけだと不安を覚えている人や、趣味をビジネスに活かしたいと考える人が多いのもまた事実です」

そこで、リスクを極力減らすために「副業」から始める「副業起業」というスタイルが注目されているそうです。これがいわゆる「起業家予備軍」にあたる人たちになります。

「『副業起業』をしている人たちは、本業があっても自宅などで仕事が可能なクリエイティブ系の業種が多いです。政府が『働き方改革』の一環として、副業をテーマのひとつに取り入れていることもあって、個人間にも浸透しつつあります。最近では、会社をすっぱり辞めて起業の準備を始めるよりも、『副業起業』をしつつ、本業から徐々にスライドさせていくスタイルも選択肢の1つになっています」

こうしたスライド型の起業であれば、リスクは少なくて済みますし、起業に必要なノウハウも少しずつ学ぶことが可能です。また、「副業起業」が活性化することで、起業家が増え、多くの人が感じている起業家への高いハードルをさらに下げることにもつながるのだそうです。

 

女性起業家が気を付けたいこと

ライフステージに対して柔軟な働き方を望んだり、趣味をビジネスに活かしたいと考えたり、女性が起業する理由はさまざまですが、女性だからこそ気を付けたいポイントもあるそうです。

「起業するにあたって必要になるのが、社会的ネットワークです。女性はこのネットワークを作る時に、プライベートに偏る傾向があります。少数人数で集まって起業する場合にも、ママ友、趣味友達といった似たもの同士で集まりがち。ビジネスには、まったく違う視点を持った厳しい意見にも耳を傾けることが必要ですから、違う立場の人の協力や意見を取り入れることも重要です」

また、女性はライフステージの変化から、社内で大きな仕事に関わる前に退職する人も多いため、起業のアイデアはあっても事業化するノウハウが足りないというケースも多いそうです。

「キャリアが中断されることで、管理職登用される女性は男性に比べてまだまだ少ない。起業後の事業拡大を図るためには、長期的視野や金銭面において経験が豊富な男性や、すでに起業した男性からの意見を取り入れることも必要なのではないでしょうか」

女性起業家には気を付けておきたい部分がいくつかありますが、一方では、「女性が経営者になることで、社会的にもたくさんのメリットがある」と言います。

「女性起業家は、女性ならではの苦労を体験しているため、社員雇用をする時には、女性を多く採用しようとします。そして、女性が多い職場なら、女性が働きやすい環境が生まれます。さらに、事業内容が女性向けのケースが多いため、社会に女性が欲しいと思うサービスがたくさん提供されるようになります。すると、女性の消費が上がり、経済の活性化につながっていくんです」

 

女性起業家は新しい働き方のロールモデルのひとつ

許さんからは最後に、「自分らしく生きるための手段として、起業も選択肢の一つ。社会的にも個人的にも大きな意義があります。これからの社会では、男性と同じようなキャリアを積む必要はありませんし、同じように働くにはライフステージの変化が弊害となります。現代では、昔のように『男性と同じ働きをしないと、社会で置いてきぼりにされる』ということはなく、会社にしがみつく必要もなくなっていくと思います」と締めくくりました。

起業が特別なものではなく、働くための選択肢のひとつになれば、女性の新しい働き方が生まれ、家事や育児の両立で悩むことも少なくなるのではないでしょうか。現在は決してロールモデルが多いとは言えませんが、今後は、女性起業家がどんどん生まれ、そこからまた新しいビジネスモデルも誕生していくのかもしれません。

後編では、女性起業家3人が語った体験談をご紹介します)