人事、テクノロジー、脳の専門家が語る「生産性」と「ハッピー」の関係【後編】 

会社が社員個人の幸せを意識する時代がやってくる

「生産性の定義」について、ユニリーバ・ジャパンの取締役 人事総務本部長 島田由香さん、株式会社ジンズの井上一鷹さんのお話を紹介した前編
に続き、脳神経科学の専門家で株式会社DAncing Einsteinを経営する青砥瑞人さんの定義をお伝えします。

ライター

やつづか えり
『くらしと仕事』初代編集長です(〜2018年3月)。コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて働き方、ICT、子育てなどをテーマとしたインタビューを執筆しています。2013年に第一子を出産。

「生産性とは、成長の二階微分」の意味は?

 

アメリカの大学で脳神経科学を学び、その知見を教育分野に応用して人の成長に寄与しよう起業した青砥さんは、「アウトプット÷インプット」という生産性の定義に違和感しか感じないと言います。「大量生産、大量消費の時代においては、いかに少ない投資でいっぱいアウトプットを生み出していくのかということは、おそらく重要だったでしょう。でも今の、特に日本のような先進国においては、そういう時代ではなくなったんだろうな、と思います」青砥さんは、「自分/他人」、「主観/客観」という軸によって四象限に分かれた図を示しました。そして、「お前の生産性はどうだ」という主観的な評価にしても、営業成績のような数字の評価にしても、これまで生産性について語られるのは、図の下側にあたる他人の視点によるものばかりだと指摘。 自分でしっかり主観的に生産性というものを見ることも、非常に重要だと主張しました。そして、「自分ベクトルで見た時の生産性の定義」について脳神経科学者の立場からの仮説を披露しました。人が何かをする時の脳の状態には、恋人とケンカをしてしまったとか、空腹状態であるとか、仕事相手に対する感情、締め切りに対するプレッシャーなどなど、実に様々なことが影響を与えています。色々なことが生産性に関わってくるので、脳の観点から生産性を定義するというのは、とても難しいお題だそうですが、青砥さんが立てたのは、次のような仮説です。

生産性とは、成長の二階微分である

文系人間にはなかなか理解が難しい定義ですが、簡単に言えば 「ある瞬間にどれだけ多くのことを学べるか」ということのようです。下の写真の図では、赤線の傾きが生産性を表し、赤線の傾きが右肩上がりだと生産性が高い状態を表します。この生産性は学習の速度、成長の加速度と言い換えることもできます。よって、生産性を高めると、学習速度を高め、成長の加速度を高めることに繋がるというわけです。

他人の視点での生産性は、アウトプットばかりが評価の対象になりますが、自分視点の青砥さんの定義では、「何かを学んだ」というインプットがあれば、目に見えるアウトプットはなくても自分は成長している、つまり生産的であるということになります。そして、インプットがどう脳に影響を与え、その影響がどうアウトプットに影響するのか、そのインプットとアウトプットを繋ぐ、「脳プロセス」という過程に着目しています。この脳プロセスがまさに人の学習に大きく影響するのです。

それでは、脳の生産性、時間あたりの学習量に重要な要素は何か? 青砥さんは、「記憶処理」、「注意」、「情動状態」という3つの「脳プロセス」が、大きく影響すると考えています。記憶処理に関しては、大きく3つの観点に着目。まず、自己の記憶と外界情報との「差分」。次に、短時間で記憶処理するワーキングメモリの効率。最後に、長期記憶化された記憶の処理速度。例えば「差分」に関しては、アスリートのイメージトレーニングを例に挙げられました。あらかじめ脳内に理想イメージを作っておくと、実際に動いたパフォーマンスとの比較「差分」が脳内で認識され学習効果を高めてくれるそうです。注意については、脳が勝手に他のことを考えてしまう「マインドワンダリング」という状態への気付き、そして、自分の外側への注意と、自分の内側への注意、この3つの要素に着目。情報が溢れている現代では、自分の内面への気付きと、自分の内面である感情や思考に注意を向ける内省がより重要ではないか、ということです。それが、現代におけるマインドフルネスブームにも現れているのではないかとも。心が動いたこととそうでないこと、どちらが脳に情報として保存されているでしょうか? 3つ目の情動状態に関しては、(本来はより細分化されるということですが)簡潔に「ポジティブな情動」、「ネガティブ情動」とした場合、そのどちらの作用も、インプット、アウトプットの学びに非常に大きな役割をしているということです。これらの脳プロセスが人の学習を決め、それを時間微分すると生産性が導き出される、ということで出てきたのが、下の写真の数式です。

これはあくまで仮説で、個人の生産性というものがこの数式で表せるということを、これから証明したいと青砥さん。特に注目しているのは、赤枠で囲まれたポジティブな情動。この影響が、きっと生産性に大きな影響を与えるだろうというのです。「ハッピーであるということは本当に大事なんです。 幸福であるとパフォーマンスが高い、これは経験的にも言われていることで、僕はそれを最終的に証明したいと思っています」

いかにハッピーな状態で働けるかを追求する時代がやってくる!?

3人のお話には、共通して「個人の幸せ」が重用な要素として登場しました。普通、企業で生産性について話をするときには、なかなか出てこないキーワードだと思いますが、幸せじゃない状態やストレスが高い状態では仕事の能率が下がるということは、個人としては大いに思い当たることです。この勉強会では、3人のお話を聞いた後、会場の参加者も3?4人ずつのグループを作り、それぞれに「生産性の定義」を考えました。様々な定義が出てきましたが、やはり個人の幸せや、モチベーションに注目した考えが多かったように思います。この「Team WAA!」というコミュニティには、ユニリーバで始まったWAAの理念に共感した400名以上の方たちが参加し、毎月勉強会や情報交換をしています。企業の人事部やダイバーシティ推進などに関わる方が多いので、今後「個人の幸せ」を追求する企業が増えていくきっかけになるかもしれません。

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