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日本では多くの会社で育休(育児休業)制度が整えられていますが、育休を取得し、そのまま離職してしまう人も少なくありません。離職しなかった場合でも、育休中には復職後のことにまで頭が回らず、復職後に仕事と育児の両立の大変さに直面し、続けていけるのかと悩む人も多いようです。

育休期間を「育児と両立しながら働くための準備期間」ととらえ、復職を支援するためのツールとして「育休手帳」を制作された国保祥子さん(静岡県立大学講師、株式会社ワークシフト研究所 COO 兼 所長)に、手帳を制作した経緯やオススメの使い方についてお話を伺いました。

国保祥子(経営学博士/株式会社ワークシフト研究所 COO 兼 所長/育休プチMBA代表)
静岡県立大学経営情報学部講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、早稲田大学WBS研究センター招聘研究員、上智大学非常勤講師。専門は組織マネジメント。民間企業や行政機関の経営人材育成プログラムの開発および導入に従事し、Learning Communityを使った意識変革や行動変容を得意分野とする。外資系IT企業での業務変革コンサルティング経験を経て、慶應ビジネススクールでMBAおよび博士号を取得。2011年、地域の社会人と学生が共に地域の課題を検討する「フューチャーセンター」を、2014年、育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA勉強会」を立ち上げる。2015年、企業や官公庁の組織開発プログラムやコンサルティングを手掛ける株式会社ワークシフト研究所を共同設立。1児の母。

復職のためのガイドラインを盛り込んだ「育休手帳」は、働き続ける親のための「母子手帳」のようなもの

- 昨年の「育休手帳2017」に続き、2018年版が発売されましたね。そもそもなぜ、「育休手帳」を作ることになったのでしょう?

2014年から、育休者向けの「育休プチMBA」という勉強会を重ねてきたのですが、その中で、育休から仕事に復帰する人たちのニーズ、今足りていないものが分かってきました。

また、客観的なデータとして第一子を出産したことがきっかけで離職してしまう人の離職時期を見たところ、産育休中と復職1年目が合わせて9割だったのです。育休中にそのまま仕事を辞めてしまったり、復職したものの1年目で心が折れたり、行きづまって辞めてしまう人が多いのですね。

イベントやワークショップなどでは、同じ育休中の仲間や個別の知識は手に入れられても、復職の前に何をどれくらいしておけばいいのか、準備のプロセスが見えてきません。自分から情報収集をしない人は、無防備に復職してしまい、仕事や育児に行き詰ってしまうこともあると感じました。

そうした人々を支えるために必要なのは、復職してやっていくためのガイドラインです。「いつか手帳を作りたいな」と漠然と考えていたのですが、弊社のメンバーに手帳を作るプロがいたので、「ガイドラインになる手帳をつくりましょう」と作成したいう経緯です。

「この手帳を見れば、復職に備えられる」というものを作りたいと思ったとき、参考になるものとして母子手帳がありました。母子手帳を見れば、赤ちゃんのために「いつ、なにをすればいいのか」がすぐに分かり、イメージがつきやすいですよね。母子手帳は子どものためのものですが、育休手帳は「働き続ける親のための手帳」に、という思いで作っています。

-「育休手帳」を手に取ってほしいのは、育休中の人と、復職して間もない人ですか?

育休中から、復職後数年間使えるイメージで作りました。出産前でも、その後のイメージを膨らませるために使えるので、ぜひ手に取ってほしいです。

- 2018年版で、変更や追加をしたところはありますか?

2017年度版を実際に使っていただいた方の声を元に、ブラッシュアップしました。例えば「復職準備リスト」や「復職スケジュール」、復職後の朝晩のタスクを可視化するページなどは、2018年版で追加したものです。生涯のマネープランを考えるページも、隣のページに教育費の目安などの情報を載せて充実させました。また、上司や夫、母など周囲の人を味方にするためにどう交渉するか、そのノウハウをまとめたページも追加しました。

- 交渉のノウハウを盛り込んでほしいという要望があったのですか?

はい。私が経営しているワークシフト研究所の講座に「交渉」というテーマがあり、とても人気があります。自分が定時に上がりたいとき、周囲に「帰ります」と言う伝え方を少し変えるだけで、雰囲気が全く変わりますよね。周りとの交渉ができると、いい関係が築きやすいので、ぜひ参考にしてほしいです。

 

「母親」だけになってほしくない、「自分」であることを忘れないで

-スケジュールのページに入っている「ひとこと」がいいですね。これは先生がひとつひとつ考えたのですか?

この「ひとこと」は2017年度版でも、励みになったという声が多かったです。これは去年とは別の内容を、時期なども考えてメッセージを入れています。

私が「ひとこと」を書くときに意識しているのは、固定概念を覆そうということです。母親の大変さの根っこには「性別役割意識」があると感じています。「母親だからこうしなくちゃいけない、これはしちゃいけない」という擦りこみが、母親を大変にしている要因です。母親である以前に「自分」であるということを忘れないことは、子どもにとってもいい影響があると、私は考えているのです。

- その考え方は、印象的な扉のページにも「約束」として書かれていますね。“わたしは、この手帳を使う時、「わたし」を大切に考え、「わたし」を優先することを誓います。”と。

女性たちに「母親」だけになってほしくない、「自分」であることを忘れないでほしいという思い、私が育休手帳を通じて伝えたいことです。それを伝えるために、扉のページにも「約束」として言葉を入れました。

「育休プチMBA」に来られる方は、比較的高学歴で、ちゃんとした会社に就職して、自身もしっかりしたお母様に育てられているケースが多いのです。手をかけられて大切に育てられてきたからこそ、「母親とはこうあるべき」という思いが強く、それができない罪悪感にさいなまれている人が多くいます。「できる限りやらないと後悔しそう」「子どもの可能性を延ばせないのでは?」と。

でも、親が働いていても、多少適当でも、子どもはちゃんと育ちます。手作りの料理ではなく、お弁当を買うお金を渡されていたけれど、不幸な感覚はなかった、そう言ってくれる女性もいますからね。ぜひ自分に自信をもってほしいです。

- 手帳をどういう風に使ってもらいたいですか? 育休中の方の中には、手帳を書く、じっくり考える時間が少ないと思うのですが、そういう人に対してアドバイスはありますか?

じっくり考えて書き込む時間がなくてもいいです。時間をかけることよりも、10分でも考えたということが大事です。ぱっと思いついたことを書いてみて、もちろん、後で考えが変わっても構いません。でも、書いたということで、ふとした時にそれを思い出して励みになったりしますよ。

 

働き続けるためのお守りに。パートナーや上司からのプレゼントもオススメ

- おススメの使い方は?

育休手帳が、働き続けるためのお守りになると嬉しいですね。だから、育休中に限らずすでに復職している人にも使って欲しいです。まだこれからという人には、妊娠が分かって母子手帳をもらうタイミングで、育休手帳も手に入れてもらえたら、と。

それから、周りの人がプレゼントするのもいいと思います。以前、妻にプレゼントするから、と育休手帳を買った男性がいました。この手帳をプレゼントするということは、「自分らしくいてください」というメッセージになります。パートナーからそう言われたら、嬉しいですよね。上司や会社の人も「あなたの復職や活躍をこれからも期待しています」というメッセージを伝えるために配ってくれると嬉しいです。

- 先の予定を書くだけでなく、日記のようなに記録のためのものとしても使えそうですね。

そうなんです。ウィークリーのページにある「深呼吸」は、リフレクション(振り返り)をするための欄です。スケジュールを書くだけでなくダイアリーとして読み返すのもオススメですよ。後から見返すと、自分が成長していることが分かって自信につながるはずです。復職後に他の人と比べて落ち込む人も多いですが、そうではなく、過去の自分と比べて、自分が成長していることに気づいて欲しいです。振り返りを繰り返し、長く使えば使うほど効果があるので、ぜひ使ってほしいです。

 

家族でお互いの仕事を応援する関係に

- 国保さんも3歳のお子さんを育てられていますが、仕事と両立する上で、どのように接していますか?

大学で教えているのですが、研究室内での発表の時などは、子ども同伴で行くことがあります。学生たちが一生懸命何かをやっていることが分かるのか、子どもは絶対に邪魔をしません。休憩時間になると、ワーっとにぎやかになります。小さくても、そういう判断は身についているなと感じています。

- 学生さんにもいい刺激になりますね

学生にも、「こういうやり方がある」「子育てと両立していける」というサンプルがあるのは大事だと思います。自分の人生を生きている女性は、学生にとってロールモデルになると思うので、身近にさまざまなサンプルが増えるといいですね。

- お子さんに、仕事の話はどんな風にしていますか?

気を付けているのは、「お仕事はあなたのママを奪うものではない」ということです。時々娘をシッターさんに任せて仕事に行くことがありますが「仕方ないから行く」という言い方はしません。「ママが行きたいから行くの。ママのことをいろんな人が待っている。終わったらいっぱい遊ぼうね」という言い方をしています。娘も我慢しているのかもしれませんが、別れる時に泣いたりはしません。娘自身も、ここは頑張りどころ、と分かっているようです。

娘にとって、お仕事は「みんなで応援するもの」という感覚があるようです。夫と私、それぞれの仕事があって、娘は保育園に行くという仕事があって、それぞれ応援し合う、という感じですね。

- 子どもには、大人は頑張って、楽しんで仕事をしていると思ってもらえたら素敵ですよね。そのためにも、「自分」であることを忘れないのが大切ですね。今日はありがとうございました。

 

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