2018年1月4日 更新

友人や上司、子どもたちの存在に励まされ、仕事と乳がん治療を両立

手術と抗がん剤治療をしながら仕事を続けてこられた井上さんの経験を伺いました

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2人に1人ががんになる時代、医療の進歩で、がんは適切な治療を受ければ治る病気になってきました。しかし、がんに罹った後、どのように生きるかまでのケアはまだ十分にされていないのが実情です。

自身も乳がんを患った経験のある、一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事広瀬 眞奈美さんは、がん治療を経た方々の悩みとして「抗がん剤による脱毛などの見た目の変化」や、「がんの症状や後遺症、副作用がいつまで続くのかなどへの不安」を挙げます。そして、ご自身が主催する講座でも見た目のケアに関するものは特に関心を集めており、「見た目のケアは心の体力作りになる」と語っています。

今回は、乳がんの治療を行いながら仕事と子育ての両立を行い、自信の経験からお客様のアピアランス(見た目)ケアも行う、アデランス東日本カウンセリング室マネージャー井上美也子さんにお話を伺いました。

井上 美也子(株式会社アデランス 東日本カウンセリング...

井上 美也子(株式会社アデランス 東日本カウンセリング室 マネージャー)

2002年に美容師としてアデランスに入社。07年からカウンセラー。東京本店女性サロンの店長などを経て、13年から現職。3人の子供の母。埼玉県生まれ。

病院で仕事をしている人を見て、治療との両立が可能だと知った

- 2015年に乳がんと診断されたそうですが、その当時はどんなお仕事をされていたのですか?

お客様から髪と頭皮のお悩みを聞き、希望に沿った提案をするカウンセラーでした。その中で、お客様から医療用ウィッグの相談を受けることがあったのですが、「抗がん剤で髪が抜けると言われて相談に来ました」という言葉を出すまでに、どれだけ気持ちの整理が必要だったか……、それまでの私は全く想像することができていませんでした。

- 乳がんが分かったとき、仕事を続けると決めたのはなぜですか?

がん専門病院の待合室で、帽子にマスク、スーツ姿で仕事をしている人を見ていたからです。主治医から、治療との両立が可能なこと、仕事を続けている人が増えていることを聞き、決断しました。そういう意味でも、主治医とのコミュニケーションは大切だと思います。

私は正社員なので、治療中は有給消化をして休むことも可能でした。でも、2人に1人ががんになる時代がきて、働き方改革も進んでいる中、「自分も治療を続けながら働くことをしてみたい」と思いました。

また、シングルマザーなので、子どもに「仕事に対する責任や取り組む姿勢を見せたい」「体は病気になっても心は病気になってはいけないということを伝えたい」という思いもあって、それが心の支えにもなっていました。子どもたちからは特に何も言いませんが、いつか子どもたちに大切な人ができたときに「想い」が伝わるといいと思っています。

 

話しやすい上司やがん患者の友だちの存在が助けに

- 乳がんと診断されて、すぐ上司に相談されたそうですね。会社全体に話しやすい雰囲気があったのでしょうか?

ひとつには、ちょうど次年度に向けて異動の検討がされる時期だったので、治療のために異動や転勤はできないということを早めに伝えなければいけないと考えました。また、上司の方々が社員に対してのコミュニケーションに長けていて話しやすい雰囲気があり、「真っ先に相談しなくちゃ」と思えたのだと思います。実際にとても親身になってくださり、「セカンドオピニオンには必ず行きなさい」といったアドバイスをいただきました。

ただ、最初は限られた人にだけ事情を話し、他の人にはさとられないようにしていました。病気が分かったときに、仕事を続けたい人もいれば休みたい人もいる、病気をオープンにしたい人もいれば隠したい人もいるということを考え、そこは十分配慮するようにしました。

- 手術後仕事をすることに関しては、事前に想像できましたか?

インターネットで「術後退院してから10日くらいで復帰できる」と事前に情報を得ていたので、ある程度は想像していました。回復の目安は、術後3日後にラジオ体操をして1か月ぐらいで90度に腕が上がるようになる、とあったので、不安はありませんでした。インターネットや、がん患者の友達からの情報が参考になりました。

- 病室でも友達がたくさんできたそうですね。

入院中、4人部屋で仲良くなりました。年齢も環境もばらばらでしたが、友達ができたおかげで、入院生活は楽しかったです。

私より早く手術をしたほかの患者さんの様子を見て「こんなに元気なの?」「3日で歩けるの?」と驚き、励まされました。また、不安なことや孤独だと思うことも「大丈夫だよ」と言ってもらえる関係を築くことができ、友達ができて本当に良かったと思います。

- 社内外に相談できる人がいることは大切ですね。

病気になると心が不安定になりやすくなります。「なぜ私が」と自分を責めてしまったり、どんなに親しい友達でも「あなたはがんじゃないでしょ」と比べてしまったり。同じがん患者でさえも、ステージやがんの種類で比べてしまうことがあります。そうした気持ちを整理できたのは、周囲にいろんなタイプの友達がいたこと、まわりにネガティブなことを言う人がいなかったことが大きいと思います。

 

抗がん剤治療によって見た目が変わり、初めて気づいたこと

- 抗がん剤治療を始められるとき、職場でもオープンにしていこうと決められたそうですね?

はじめは手術とホルモン療法で終わると思っていたのですが、抗がん剤治療を追加することになりました。そうなると、どうしても見た目が変わるので、職場で隠していることはできないと考えたんです。

抗癌剤治療が決まって、病院からの帰りの電車の中で、すぐ上司に「ウィッグを作って頂けますか」というメールを出しました。治療を始めて脱毛がはじまり、シャンプーが怖いと感じることもありましたが、会社でウィッグをつくってもらったおかげで、おしゃれも外出も楽しむことができました。

これは、抗がん剤投与後の私の写真です。上司から「お客様がこの姿を見たときに元気になるから。お前が仕事をしているのを見て、笑顔になってくれるよ」と言われて、写真に残すことを決めました。

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これは、私のウィッグコレクションです。がんの友達に見せると、いつも「わたしもこんなものが欲しい」と言ってくれて、とても嬉しかったです。 ロングスタイルから、少しずつカットしてもらいボブ、ショートなど、スタイルを楽しみました。

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- 治療との両立が大変で、仕事を辞めようと思ったことはありますか?

一度だけ仕事を休もうかと思ったことがあります。朝メイクをしようと思ったら、眉毛がポロポロと落ちて、気づいたときにはまつ毛も鼻毛もなくなっていて。抗がん剤で髪の毛が抜けることはわかっていたけれど、眉毛が抜けることに関しては想像していませんでした。眉毛をどこに書いたらいいのかわからず、初めて心が折れそうになりました。でも、同年代のがん患者の友だちにLINEで聞いたら、すぐに解決できました。出勤できたのは、朝、急に「休む」と連絡を入れることは職場に一番迷惑をかけると思ったからです。

私がもし急に仕事を休んだら、後から病気と仕事を両立したいと思う、私に続く人の足を引っ張ってしまう。それだけは絶対にしてはいけないと思ったのです。

- 経験者として、職場の人に「こういう風に伝えたらいい」というアドバイスは?

自分がウィッグをして仕事をしてみて、声を掛けられない人が多いことに気づきました。なんて声をかけたらいいのか、分からないんだと思いました。知らないフリをする優しさもあることを知りました。

もし抗がん剤治療をオープンにするんだとしたら、自分から声をかけてしまった方が、相手に気遣いをさせないと感じました。自分自身も傷つきません。だから、「治療でウィッグをしているんだけど、不自然だったら教えて」「お客様に説明するのに必要だから、ウィッグを調整してくれない?」などと声をかけるようにしました。気心知れた人は向こうから声をかけてくれるので、「気を使わせているな」と感じた人には直接話しかけていました。

 

会社員として、母親としてがん患者に必要なサポートとは

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- 会社で「こんなサポートがあって助かった」ということはありますか?

私の職種は営業なのですが、チームのエースに乳がんの手術をすると打ち明けたとき、「遠くのお客様の面談は私が行きます。井上さんは近くをお願いします」と言ってくれました。 抗がん剤治療中の仕事では、チーム全体で夜遅くの面談をしなくてすむようにスケジュールをくんでくれました。メールやLINEで体調を気遣ってくれて、こんなに心強い人達がいるなら、大丈夫だと感じました。

- 小さいお子さんのいる方に、働くお母さんという視点でなにかアドバイスはありますか?

仕事は大人だけの世界で距離感が保たれますが、子ども同士は距離感が保ちにくいですよね。子ども同士のつながりのなかで、母親ががん患者だということをどういう風に思うかを考えなくてはなりません。

小学校の子どもに髪が抜けた姿を見せてよいのか、学校行事で母親がかつらをかぶっているのが分かっていじめられたらどうしよう、と悩む方は多くいます。子どもにもどこまで話すか、性格や年齢によっても変わってきます。もしママ友がいるなら、相談できる環境を作ることが大事だと思います。

- がんの当事者になって気付いたことはありましたか?

病気の治療をしながら仕事を続ける人の前例がなく、手探り状態だったので、自分から意見を言って、働きやすい環境を作っていかなければならないと感じました。会社は全力でサポートしてくれたと感じています。これからは、婦人科系の病気に男性にどこまで理解を深めてもらえるかが課題だと感じています。

- これからやりたいこと、目標はありますか?

病気のお客様は、みなさん孤独を抱えていると感じています。私自身、ブログを読み漁り、乳がん患者の発信するブログで元気をもらいました。しかしインターネットは情報が氾濫しすぎてしまっているので、本当に正しい知識を得るのは大変です。

自分の治療の経験から正しい知識を伝えられるよう、「乳がん体験者コーディネーター」の資格を取得しました。がん患者の「おしゃべりカフェ」など、患者同士でコミュニケーションや問題解決ができるような活動をサポートし、発信していきたいと考えています。 仕事の上でも、カウンセラーとしてお客様の心に寄り添うカウンセリングを心がけて、一人でも笑顔が増えるようにしていけたらと思います。

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