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前回のコラムでは、今のフリーランスでの広報PR活動とPR会社社員という2つの肩書き=複業フリーランスをなぜ選んだのか、テレビ局報道記者時代からの変遷をお伝えしました。今日は、複業フリーランスになるまでに私が何をしてきたのか、大きな転換点となった産後の大学院での学び直しにフォーカスしてお伝えしたいと思います。

生後10ヶ月の娘と入学した大学院

出産後にテレビ局に復帰するのか、転職するのか。娘との時間を大切にしながら働きたい、という新たな思いが芽生えていたにも関わらず「これから具体的にどうするのか」、モヤモヤしている状態が続いていたのです。

そんな中で決めたことが、大学院に入ってこれまでのキャリアを俯瞰してから、次の道を考えよう、という選択でした。

2016年4月、当時娘が生後10ヶ月で入学した慶應大学大学院メディアデザイン研究科の修士課程。60人程の同学年に、ママ学生は私1人。約半数が20代で大学からの進学、残りの半数が海外からの留学生と社会人入学生といった構成でした。

想像以上にハードな大学院生生活。家族の協力で何とか乗り切る!

大学院生活は、特に最初の半年間が想像以上にハードな日々でした。まず、入学前に1泊2日のクラッシュコースと呼ばれる新入学生と全教員が参加する「合宿」があるのですが、ここで0歳児だった娘と初めて離れ離れとなり、2日間みっちり、朝から晩までグループワーク、ディスカッションをして大学院生のスタートラインに立ちました。まだ授乳期間中だったので、授業と授業の合間に搾乳しながら(笑)、1泊2日を乗り越えました。その間は、母と夫に娘を託し、家族の協力なしでは実現出来ないことを初日から痛感しました。


そして入学後の半年間は、基本的に平日は毎日必修の授業が朝から入っていて、授業後の夜にその日に出た課題をこなすのが慣例に。その大半がグループワークのため、夜まで大学院にみんなで残ることも度々ありました。

ところが私はといえば、娘の保育園のお迎えである午後5時までがタイムリミットなので、夜の活動にはめったに参加出来ません。タイムマネジメントにおいては20代の学生と圧倒的な違いがあることも痛感しましたが、逆に「限られた時間をどう活かすのか」「自分はどこで戦力になれるのか」と考える発想力が鍛えられたように思います。


とここまで書くと、何でそこまで大変な思いをして大学院に入ったのか。と突っ込まれそうなのですが(実際、学生や友人にもよく質問を受けました…)、私の中でこの2年間の大学院生活によって劇的な価値観の変化があったと思っています。では、何が私の変化に寄与したのでしょうか。

「学び直し」が変えた私の価値観 〜大学院生活を通して得た2つの学び〜

大学院での生活を通して得た大きなことのまず一つ目は、ママ学生として、20代の多様な価値観に触れられたこと。年齢的には、私と10歳以上離れた学生が大半なのですが、大学院という一つのコミュニティの中では、年齢差は全く関係ありません。さらに年齢だけでなく、キャリア、専門性、国籍などの違いを超えて、多様な価値観の中でフラットかつ真剣な議論が出来た経験は、私の人生の中で初めてのことだったように思います。

その結果、私は「自分が今まで見てきた世界は、何て狭いものだったんだろう」ということに気づいたんです。10年間マスコミの世界で全力疾走し、知らないうちに、「自分は記者という職業を通して、あらゆる世界を見てきたんだ」と、思い上がっていたところがあったのかもしれません。実際は、そうではないのに。


大学院の世界は、これまで見てきた世界とまるで違いました。皆が当たり前にMac Book1台を持ち歩き、場所を選ばず、どこでもITツールを使いこなし、イラレでデザインし、WEBページをサクっと作り、イノベーションを起こそうとしている。学生たちの「限界ライン」を引かない可能性を信じて突き進む姿勢に触れられたことで、私も次第に、「何か変革が起こせるかもしれない」と思い始めたんです。


そして、大学院生活での大きな学びの二つ目のポイントは、チームビルディングを学ぶことができたこと。

KMDの学生1人1人の専門性は実に多様で、例えば高専から進学した学生もいれば、デザインを学んできた学生もいれば、プログラミングが強い学生もいる。そして私のように社会人経験を経て入学した学生も。

ここまで多種多様な強みを持つメンバーと共に過ごせたことで、1人では到底実現しえなかったであろう未来を個々の強みを結集させることで現実に出来るんだ、ということに幾度となく感動させられました。これが私にとって一番大きな気づきだったかもしれないです。


テレビ局時代は、自分の評価、自分の達成欲ばかりに意識がいき、チームとして誰がどんな役割を果たしてくれるのか、自分はどんな役割を果たせるのか、そんな大事な発想が抜け落ちていたんだと思います。ようやく大学院を経て気づくことが出来ました。

こうして2年間の大学院生活を通して、企業に就職するのではなく、独立起業することへの意識が次第に高まっていきました。

独立を決意するも、「何をやるか」は曖昧だった…。

独立しよう、と決めてからは、すぐに行動に移さないと落ち着いていられず、積極的に起業に関わる出会い、学びの時間を取るようにしていきました。今振り返ると、研究活動と同時に起業に向けた準備も始めるという、非常に多忙な時期でした。

具体的には、ベビーシッターサービスのベンチャー企業で育休インターンをしたり、社会人サークルに入って産後女性の働き方を考えるワークショップを主催してみたり、東京都主催の起業セミナーに通ってみたり。

この時の最大の問題点は、独立しようという思いは確かなのに、何をやって独立するのかについては明確に定まっていなかった、ということなんです。これが今からまだ1年半前の出来事なんで、自分でも驚きですが(笑)。


でも、曖昧だったからこそ、大学院だけではなく、自分の「好き」や「やりたい」という気持ちにとにかく敏感に、正面から向き合ったのがこの時期だったように思います。

社会人になってからの私を振り返ると、テレビ局報道記者の仕事が好きで好きでたまらなかったのですが、だからこそ逆に、マスコミ以外の世界には全く見向きもしなかったですし、人間関係の広がりもマスコミ関係者だけに限られていました。

そんな私にとって、出産後の全ての出会いが刺激的で、思考の改革を起こしてくれたのです。その過程は決して全てが上手く進んでいった訳ではなく、「あれ、これは何か違うな」「私の強みを活かせてないな」という気持ちの違和感も感じながら、PDCAサイクルのように、「次はこうしてみよう」と微修正を繰り返してきました。


そんな中で2016年春に通い始めた起業塾で、意外なニーズに気付かせてもらいました。それが、テレビ局報道記者の経験を活かしたPRのお仕事だったんです。起業塾には、私と同じように、これから独立したいけれど、具体的なアクションプランが分からない方や、独立したばかりの方がたくさんいました。

起業時に誰しもが直面する問いとして、「どうやったら自らのサービス、商品をもっとたくさんのお客さんに知ってもらえるだろうか?」という課題があると思うのですが、起業塾でもやはりそのような会話が出てくる中で、自然と私がアドバイスする機会が増えていったんです。「こうしたらテレビや新聞が興味を持ってくれますよ」といった感じで。

そして、アドバイスをしていく過程で、「あれ、もしかしてこれは私の強みを活かせる仕事の領域なのかもしれない」とニーズありきで気付かせてもらったんです。こうして2017年春にベンチャー企業や個人事業主の方に特化したPRプランナー「INOmedia」として独立する決断に至りました。


こうして振り返ると、出産後から大学院入学、PRで独立を決意するまでに結構な紆余曲折があったんだな、ということが伝わったでしょうか。

産後モヤモヤしているママに今、伝えたいこと

今回は、出産後の大学院入学をメインにお伝えさせてもらいましたが、私自身、娘がまだ0歳の時に大学院入学を勢いで決めた割には、入ってから、本当に「学び直し」は私の未来にプラスに働くのだろうか。ただ2年間大学院に通って修士課程を終えて、就職先に困るなんてことがあるんじゃないだろうか。と不安でいっぱいになる時期もありました。


でも、今もし出産後のモヤモヤに直面している女性がいたら、はっきりお伝えしたいです。大人になり、ママになってからの「学び直し」は、間違いなくあなたのこれまでの価値観を変え、未だ見ぬ新たな選択肢を見せてくれると。

大学院に通っていた2年間、周囲には「旦那さんが偉いわね」とか「働けば良いのに、何で大学院に入るの?」といった質問をたくさん受けました。全ては純粋な疑問から出てきた質問だったのだと思います。そして、夫と家族の協力なくては実現しなかったことは確かです。でも、産後の女性が「学び直し」をするという選択は、まだまだスタンダートではないんだと、風当たりの強さを感じたのも事実です。


一方で、2016年の大学院入学当時から、この1、2年で随分社会の空気も変わってきたように思います。人生100年時代を見据え、国を挙げてのリカレント教育推進のニュースも度々耳にするようになりました。

だからこそ、ママたちにとってはチャンスではないでしょうか。ママだから、女性だから、妻だから・・・そんな肩書きを一旦胸にしまって、自分の「やりたい」「挑戦したい」思いと向き合って、次の一歩を踏み出して欲しいです。

次回の予告

次回は、独立フリーランスでPRの仕事をスタートしてから1年後、PR会社にも社員として入社し、「複業」を始めた今の生活について、仕事の回し方だけでなく、プライベートも含めたタイムマネジメントについてお伝えしたいと思います。

井上千絵 プロフィール(PRプランナー)
大学卒業後、テレビ局に入社。報道記者を9年間、宣伝・広報を2年担当し、出産を機に退職。その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で2年間学ぶ。在学中にPRプランナーとして独立し、現在はPR会社「ベンチャー広報」の社員としての顔ももち、「複業フリーランス」というスタイルで活躍している。


井上千絵さんのtwitter @sakai_chie

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