2016年9月21日 更新

保育付きシェアオフィス「マフィス」高田麻衣子さんが目指すママが働きやすい社会

東京・世田谷で保育サービス付きのシェアオフィス「マフィス馬事公苑」を運営するオクシイ株式会社代表取締役の高田麻衣子さんに、「くらしと仕事」編集長がインタビューしました。ご自身の体験からマフィスを立ち上げた経緯や、今後の展開について語っていただきました。

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オクシイ株式会社高田さん

ママを助ける保育付きシェアオフィス「マフィス」

やつづか :高田さんが経営される「マフィス馬事公苑」について、どんなサービスをしている場所なのか教えていただけますか?

高田さん(以降敬称略) :マフィスは、ワークスペースに保育スペースが隣接したママを助けるシェアオフィスです。保育では、0歳4カ月~未就学児のお子様をお預かりすることができます。
会員様にいちばん人気があるのは、月40時間までご利用いただける56,000円/月(保育料込み)の「フリーデスクSプラン」(入会金30,000円・年会費5,000円別途)です。
また、目的に合わせて託児を付けない、託児のみなど、ビジターでもご利用いただけます。

天井が吹き抜けで明るい保育スペース
天井が吹き抜けで明るい保育スペース

窓の外には馬事公苑の緑が茂るワークスペース
窓の外には馬事公苑の緑が茂るワークスペース

やつづか :どういった方の利用が多いのですか?

高田 :やはり住宅街の中にあるので、近隣に住むフリーランスのワーキングマザーのご利用が8割ほどです。
ですが、パパやおばあちゃんにも広く利用してほしいと考えて、あえてマフィスは「アシストオフィス」、ママをたすけるシェアオフィスと銘打っています。

皆さん職種は様々。弁護士・税理士・会計士といった士業、Webデザイナー、アプリ開発者、スタイリスト、デザイナー、雑誌のライターや翻訳家、食育スペシャリストなどの方々がいらっしゃいます。

やつづか :こちらでは、一度に何人ぐらいのお子さんを預かれるのですか?

高田 :マフィスには保育士が7人、サポートスタッフが2人いて、一度に10人ぐらいまでお子さんを預かることができます。朝から夜まで託児される方がいないので、短時間利用が組み合わさり、だいたい皆さんのご希望どおりにお預かりすることができていますね。

やつづか :保育の「質」について、気を付けていらっしゃることは?

高田 :普通の保育園同様ここでも保育日課が決まっていて、午前中お散歩に行って、お昼ご飯を食べて、お昼寝をしたら自由遊び…といった流れがあるのですが、一日ずっとマフィスにいる子はいないので、出はいりがあっても「さっきまで一緒に遊んでいた子がいない」と他の子が不安にならないよう配慮しています。

また、お預かりする子どもたちには「自分はここにいていいんだ」「先生たちもきちんと向き合って、話を聞いてくれる」という自己肯定感を育んで欲しいので、子どもの欲求を満たし安心感を醸成するコミュニケーションをとれるよう、外部コンサルタントの指導を受けています。
他に、東京学芸大こども未来研究所と協力して、こういった一時預かりを中心としたプログラム開発にも取り組んでいる最中です。

安心・安全がいちばん大事なこと。そうして育つと、精神的に安定した子どもに成長できると思うので、お母さん方と一緒に子育てすることを目指しています。

保育スペースの子ども

やつづか :ご自分のお子さんをここへ連れてくることはありますか?

高田 : ありますよ。土曜日などに連れてきます。下の娘に「マフィスのどこが好き?」と聞いてみたら、「ママを『おーい』って呼ぶと、『はーい』って顔を出してくれるところ」と言っていました。

やつづか :可愛いですね!

高田 :子どもたちの人格形成に大事な時期なので、「ながら」であしらってはいけないと思っています。

最近は、子連れでの出勤を認める企業も出てきて、「世の中の流れが変わってきたな」と良く捉えています。ですが、都心に連れて行かれて、会議中は「静かにしてなさい」と言われるとすると、子どもにとっては、どうでしょう?

自分のお母さんが「シゴトジン」になっていて、その間は家にいる時と同じことをしても叱られてしまう…子どもには、心の整理がつかないですよね。お母さんだって、子どもが落ち着かなくなると周囲に気を使ってしまいます。預けるなら、短時間でもちゃんと預け、子供たちの欲求を十分に満たしてあげた方がいいのでは、というのが持論なので、私自身はその選択ができる環境を提供したいと思っています。

マフィスが、職場でありながら保育園と自宅の中間のような、丁度いい存在になればと思っています。

子育てと仕事の両立の壁に直面し、マフィス立ち上げを決意

やつづか :マフィスの立ち上げ以前は、どういったお仕事をされていたんですか?

高田 :私は3回転職をしていて、ほとんどが不動産関係の会社です。3社目では10年勤めましたが、ちょうど会社がJASDACに上場するタイミングで、IRの仕事に就きました。3年で女性初の管理職になれたのですが、ほどなく妊娠がわかって。

出産1年後に復帰しましたが、営業支援の部署に異動になったため、新しいメンバーとの関係を築くのに苦労しました。子どもの体が小さく弱かったこともあり入退院を繰り返しましたので、「1歳で預けたのが早すぎた?」「この子にとって、私にとってベストな選択をしているのだろうか」と悩んだことも少なくありませんでした。

2人目を妊娠し、また産休・育休を経て復帰したのですが、そんな時に東日本大震災が起こって。メンタルが弱り、母乳も止まってしまった。仕事に対する迷いも出てきて、「子どもたちの健康を危険にさらしてまで、私は世の中に役立つ仕事、自分の人生を豊かにする経験をしているだろうか?」と。

「マフィス馬事公苑」を運営する高田麻衣子さん

やつづか :高田さん自身が、子育てと仕事の両立に悩まれたんですね。

高田 :このような大きな災害だけでなく日々の生活にも苦悩しました。子どもが二人になると大変さは足し算じゃなく、掛け算か乗数倍に大変になりました。自分が大変だということは、他の働くお母さんたちだってみんな大変。それで、「自分ができることで、世の中のお手伝いになるような解決策はないだろうか」と考えていた時に、家と保育園と駅と会社といった移動のムダを極力なくして、有効な時間を作るというのはどうだろう、そのソリューションになるような空間づくりなら私にもできるのでは、と思いました。

3年ほどの間、自宅に近いところで、保育園と職場がドッキングした空間が作れたらいいな、と考えていましたが物件探しと資金の壁にぶつかり、日々仕事と子育てに追われていたこともあり、考えたり諦めたりを繰り返していました。

やつづか :それが実現したきっかけは何だったのでしょうか。

高田 :いろんな条件がパチッとはまった瞬間があったんです。それが2014年4月頃のことでした。まず、国の金融緩和政策で持っていた金融資産の価格が上がり、開業資金ができました。
そして、たまたまネットで現在マフィスのある物件を見つけました。ここ、元は絵本美術館だったんですよ。そんなこともあって、子どもたちと過ごすのに最適の場所だと思いました。
あとは、ネガティブ要因なんですけど、そのまま会社にいても、子育てしていてこれ以上がむしゃらに働けない状態では、もう上へはいけないと感じ始めたんですね。
そして、息子の「小1の壁」。先生から、「息子さん、授業中寝ています。疲れているみたいですよ」と言われました。彼が当然に義務教育を受けるための、生活環境を整えてあげられていないと思いました。
そういう4つの要因があって、独立を決意、マフィスをここで始めることを決意しました。

きっとこれからは、マフィスのような施設の必要性が理解されて、段々増えていくと思います。その時に、「私もこういうのやりたかった」と言うのではなく、渦中にいたかったんです。

仲間づくりやステップアップの場にも

「くらしと仕事」やつづか編集長より高田麻衣子さんへのインタビューの様子

やつづか :マフィスをオープンしてみての反響はいかがでしたか?

高田 :すぐに大きな反響があった訳ではないのですが、この一年半の間に200名ほど見学にいらした方がいらっしゃいました。そのうち月極契約の方は約70数名いらっしゃるので、契約率が高いと思います。
ご利用されている会員様からは、「私のために作ってくれたような施設」と、喜んでいただいています。

やつづか :ここを利用される方同士の、交流はあるのでしょうか?

高田 :はい、会員さん同士、すごく仲良くなる方もいらっしゃいますよ。
保育園などのママ友とは違って、ここでは子どもは子ども、大人は大人としてそれぞれ出会うので、子どもの関係が切れたらママ同士も離れる、といったことがないんです。

やつづか :フリーランスの仕事をしていると、なかなか仲間ができにくいですよね。

高田 :それは、ぜひマフィスを利用していただいて(笑)
子どもが成長して、マフィスを卒業していくことは当然あります。また、ママの方がマフィスを使いながらご自分の仕事を増やして、準備期間ののち独立開業されたケースもあります。

やつづか :今後、どういった方に利用してほしいですか?

高田 :企業の社員さん、リモートワーカーの方にも利用していただきたいです。
企業に使っていただくためには、この一カ所だけでは物足りないと思うので、他の地域にもマフィスを広げていきたいと思っています。

短時間保育と仕事の機会提供が、待機児童問題解消にも有効

「くらしと仕事」やつづか編集長より高田麻衣子さんへのインタビューの様子

高田 :今後、職業紹介の分野に展開したいと考えていて。現在、マフィスの会員様はフリーランスの方がほとんどで、そうやって安定して自分で仕事を取れる人というのは限られていると思うんですね。

専業主婦の中にも特に働きたい意思のない人と、働きたいと思いながらも夫の転勤や子育てで10年ほどブランクがあり、「空いた時間に仕事がしたい」と思っている人のふたつに分かれると思います。
後者のような、「スキルを活かした仕事をしたい」と思いながらもたどり着けないでいる人たちと、優秀な人材を確保したい企業とのマッチングをしたいと考えています。

やつづか :待機児童の多いところでは、フルタイムで働いていないと、なかなか認可保育園には入れられないですものね。

高田 :子育て中は大変だから、短い拘束時間で働きたい、という人もいます。そうすると保育園には入れられなくて、結果働くことができない。もったいないですよね。

待機児童の分だけ施設を増やしていこうと考えると大変ですが、マフィスでは一度に託児できる子どもは10人、時間差で利用できる会員様は40名弱、4倍の託児の解決ができています。
こんな風に「ちょっと使いたい」人を受け入れる施設が増えていくと、加速度的に待機児童問題も解決できるのではないでしょうか。

主婦が働くことに対して、ゼロか100かではなく、人それぞれの取りたいバランスで仕事と子育てができれば、もっと多くの人が働けると思います。

やつづか :働くことと子育ての両立で困難を抱えている人への、アドバイスをいただけますか?

高田 :「無理をしないこと」でしょうか……。私自身が会員様から言われた言葉なのですが、
「女性はどこまでいっても、女性ならではの体の仕組み、ホルモンバランスなどに左右される生き物。男性と同じペースで仕事をこなすことはできない。
男性と同じ成果を出したければ、まず自分が女性であることをよく知ること。自分の体と向き合い、よく知って、その上で自分の仕事の繁閑を決めてください」と。
確かに、どんなに頑張っても気合が入らない時はありますよね。逆にギアが入る時は、創作意欲も湧くし、仕事の効率も上がる。それを認めると気持ちにゆとりが生まれて、子育てとのバランスもとりやすくなったと思います。

取材を終えて~編集長のひとこと

「マフィス馬事公苑」は、子どもたちのための可愛らしいスペースと、大人の女性向けのおしゃれなスペースがうまく共存した、とても素敵な場所でした。高田さんがおっしゃるとおり、短時間保育の利用が柔軟にでき、また長い通勤時間なしに働く環境が整うと、多くの働きたいお母さんたちの希望がかなえられるはず。マフィスのような場所がどんどん増えていくよう、高田さんにはこれからもがんばっていただきたいです!

高田麻衣子(オクシイ株式会社 代表取締役)

高田麻衣子(オクシイ株式会社 代表取締役)

1977年富山県生まれ。父も両祖父も起業家という家庭で育つ。
大阪市立大学生活科学部卒業後国内の不動産デベロッパーに数社で、仕入れ、企画、マンション販売、リーシングから、人事、教育、広報・IR、営業支援システム開発、教育プログラム開発など、フロントからバックまで全般的な業務に従事。プライベートでは1男1女の母。
一人でも多くの女性の自分らしい生き方をしてもらいたいと2014年8月独立。オクシイ株式会社を設立し、同年12月に、保育サービス付シェアオフィス「マフィス馬事公苑」を開業。

ママをたすけるシェアオフィス|Maffice(マフィス)馬事公苑

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