2017年7月27日 更新

リモートワークをしながら世界一周。伊佐知美さんの幸せなくらしと仕事を得る方法

「書き仕事」と「世界旅行」、2つの夢を叶えた先に見えたものとは?

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伊佐知美さんという女性をご存知でしょうか? 株式会社Waseiで「灯台もと暮らし」の編集長を務めるかたわら、地方に移住した女性達を取材して『移住女子』(新潮社)の執筆を手がけ、昨年は世界一周の旅に出たりと、「書く」ことを主体として、さまざまな分野で活躍されている女性です。今回は、自分の生き方を自分で決めて開拓していく伊佐さんへ、「幸せな暮らし方とは?」をテーマに、キャリアの変遷や価値観などをお伺いしてきました。

伊佐知美(灯台もと暮らし編集長 / フォトグラファー)

伊佐知美(灯台もと暮らし編集長 / フォトグラファー)

1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。2016年は世界一周しながらのリモートワークに挑戦。これまで国内47都道府県・海外30カ国ほどを旅しました。とにかく旅と文章とカメラと恋がすき。時折ポエムを書きます。

「好き」と「仕事」は両立する? 伊佐さんが世界一周旅行を始めるまで

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もともとは金融業界で働いていたという伊佐さんですが、現在の仕事に至るまでには、どんな経緯があったのでしょうか?

「『書き仕事をしたい』『世界を旅したい』という夢を、幼い頃からずっと持っていたんです。けれど、書く仕事がしたくても出版社には入れなかったし、ましてや世界を旅するなんて、一介の会社員には到底できませんでした。それに、私にとってこの2つはあまりにも軸が違いすぎて、両方を実現するにはどうしたらいいんだろう? と悩んでばかりいましたね。その後、結婚を機に退職をして専業主婦になったのですが、『書き仕事がしたい』という思いが捨てきれなくて、そこから入り口を探し始めたんです」

「書き仕事」の入り口として出版社に再就職をしたものの、当時の仕事は広告部でのアシスタントで、ライター業とは程遠い業務。そこで、仕事が終わった後、個人でライターの仕事を始めたそうです。

「いわゆる兼業ライターですね。スタート時は1本の原稿料が500円。それが、半年後には1本20000円ほどいただけるようになりました。このあたりから、『ライター業でも生活できるぞ』と思えるようになったんです。1本10000円の原稿を月に20本書けば、20万円は最低得られる、という計算になりますから」

夢のひとつである「書き仕事」が実現しつつあった伊佐さんですが、もうひとつの夢、「世界を旅したい」という思いもずっと変わらずにあったそうです。

「その間もずっと旅に出たくて仕方ありませんでした。私の世界一周旅行のコンセプトは、『好きな時に好きな場所へ、片道切符を買って向かうこと』。バックパッカーではなく、ある程度文化的な生活を維持しながら、いろんな国を訪ねてみたかったんです。それにはお金が必要ですし、闇雲に行くのは無謀ですから、何か仕事をしながら、できれば書き仕事をしながら世界を巡れないものかとずっと考えていましたね。そのうち、ライティングの仕事で成果が出るようになってきたので、それをしながら世界一周旅行へ行こうと決意しました」

その頃には出版社を退職して、現在の株式会社Waseiで働いていた伊佐さん。旅に出る決意をして、まず初めにとった行動は、なんと「退職願」の提出でした。

「旅に出ることを決意した時には、『辞めるしかない』と思って退職願を出しました。会社員が、『世界を旅したいので、お休みをください』なんてできるわけがないと思っていましたから。当時の仕事もとても大切だったけれど、旅に出ることのほうが私にはもっと大切なことだったんです。それに、20代のうちに旅に出ておきたかった。30代になると感性が変わるんじゃないかという気持ちと、今後の仕事を考えた時に、20代のうちに何らかの土台を作っておきたいと焦る気持ちがあったんです。土台といっても、『書くこと』と『旅』をかけ合わせた何か、という漠然としたイメージしかなくて、とにかく行動しなくちゃ! という思いが強かったですね」

伊佐さんの熱意が伝わったのか、代表取締役の鳥井弘文さんからは「辞めることはないんじゃない?」と退職を慰留されたそうです。

「『今後の女性のロールモデルになるかもしれないし、現在の仕事と旅が両立できる道を探しましょう』と言ってもらえました。そこから、具体的な仕事の話を始めたのですが、それが2015年の夏頃で、旅の出発は2016年の4月でしたから……準備期間は半年ほどですかね。周囲には特に反対されることもなく、『伊佐さんは、いずれ行くと思っていたよ』と言われました。特に強く主張をしていた覚えはないのですが、普段から言葉の端々に思いが溢れていたのかもしれません(笑)」

会社員として仕事を抱えながら、いよいよ「世界一周旅行」へ旅立つことに。その内容は相当ハードだったようで、「旅」と「仕事」の両立のために、いろいろな工夫もしていたと言います。

「旅の間には、『移住女子』の執筆作業もありましたし、『灯台もと暮らし』のメディア編集長としての仕事もありました。他にも連載や撮影、移住した女性への取材活動も各国でしていましたね。ですから、日本にいるスタッフとのコミュニケーションは密に取るようにしていました。1週間に1度は必ずミーティング、スマホにはチャットツールを入れて連携を取るなどもしていました。ちなみにミーティングは日本時間に合わせていたので、国によっては時差でとんでもない時間になったことも(笑)」

 

旅での出会いと経験を通して分かった自分にとって大切なもの

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オーストリア・ハルシュタットの山の上のカフェ。「Wi-Fiさくさく。現地の人とドイツ語・日本語を教え合いながら仕事をしていました」と伊佐さん。

膨大な仕事を抱えて10日に1度のペースで国や宿泊先を転々としながら、旅を続ける伊佐さんには、旅先でさまざまな出会いがあったようです。

「私は主にAirbnb(現地の人が提供する宿泊先を検索できるWebサイト)を利用していて、フィンランドではドイツ人の女性と同室になったんです。彼女は私と同じリモートワーカーで、『世界中を旅しながら仕事をしている』と伝えると、『とても幸せな働き方ね』と。それまではどの国でも、『面白い働き方だね』とか『Amazing!』と驚かれてばかりいたので、違う国で同じ働き方をする人と出会えたことは大きかったです。それ以外にも、歴史的な建造物を買い取り、そこでカフェを営む女性、写真術を活かして、人気のウェディングフォトグラファーになった女性、陶芸家の女性……とにかくたくさんの出会いがありました。それぞれに家族がいたり子どもがいたりと、生活環境に違いはありますが、みんな自立して楽しく働いているという共通点がありましたね。自分で選択して納得した生き方をしていました。あ……あともちろん、たまに恋も(笑)」

たくさんの出会いを繰り返す中で、伊佐さん自身にもさまざまな変化があったようです。

「まずは、『日常を築ける美しさ』に気付いたこと。旅の間は『身を守らなきゃ』という防衛本能が常に働いているので、精神的にとても疲れるんです。オーストラリアに滞在していた時に、友人の自宅へ泊めてもらったのですが、安心感からとてもリラックスすることができました。そこで、日常を送れることの素晴らしさに魅力を感じられるようになったんです。あとは、執着心が無くなったことですね。以前は、とにかくたくさんの荷物を持っていないと不安だったのですが、旅をしていくうちに『これは必要ないものだ』と気付けるようになりました。それに、行く先々で自分の価値観がどんどん変わってくる。荷物には限界がありますから、欲しいものがあれば、それまで持っていたものを捨てないと手に入れられない。これを繰り返していくうちに、自然と余計なものがどんどん剥がれ落ちて、『自分が本当に欲しいもの』が分かるようになりました」

それまでは、合計90Lもの荷物で移動していたそうですが、現在はたった30Lのスーツケースで、国内外問わず移動するようになったそうです。さらに、一時は「軸が違いすぎる」と感じていた「書き仕事」と「世界を旅したい」という2つの夢を実現することができた伊佐さんは、「好きを仕事にする楽しさ」を再認識したと言います。

「一番大きかったのは、こんな働き方も不可能じゃないんだって確信できたこと。以前は、『好きなことを仕事にできるのか』と疑問がありましたが、好きなことの先に道は拓けるんです。『書き仕事がしたい』『世界を旅したい』という夢を叶えたら、そこには自分の想像以上のものが広がっていました。世界中のさまざまな場所を見ることができたし、仕事を楽しみながら生きている人たちにも会えた。そして、帰国したらそれらがすべて仕事へつながりました」

 

「移住女子」たちに見る「好き」を仕事にするヒント

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伊佐さんが、世界を旅しながら執筆をしていた『移住女子』。取材のきっかけは、移住女子たちが開催するトークイベントに声をかけてもらったことだったそう。

「そもそも『移住女子』という言葉は、私が作ったものではなくて、地方へ移住された女性たちが作った言葉なんです。彼女たちは『自分らしい生き方をしよう』と、都会から離れ、さまざまな土地でオリジナリティのある生活や、新しい取り組みを企画、実行しています。移住に興味のある人や、実際に移住した人たちによる『移住女子サミット』というイベントも毎年開催しているんですよ」

『移住女子』では、登場する女性たちの移住の経緯、現在の取り組みなどが書かれています。自分の「好きなこと」に気付いて、そこへ向かっていく彼女たちのストーリーは、オリジナリティ溢れるものばかりで、「こんな生き方もできるんだな」と気付かせてくれます。

「『移住女子』は、決して移住を勧めるためのものではなくて、『それぞれ自分の夢を叶えられる場所に行きましょう』というメッセージを込めた本なんです。夢って一人ひとり違うもので、画一的ではないもの。自分の好きなことは何かを探して、そこへ向かって行動すると人生がもっと楽しくなるし、さらに仕事にすることで、ものすごく充実感を得られるよ、ということを伝えられたらいいなと思います。『自分の人生を自分で選択して納得して生きる』ことは、大変なことも多いですが、本当に楽しいことですから」

一時の流行や、「~でなければならない」という概念に縛りつけられて、知らず知らずのうちに自分の夢や好きなことを見失ってしまいがちな現代。「自分の人生を自分で選択して納得して生きる」ことは、この情報過多の時代にとても大切なことかもしれません。 しかし、実際に夢を叶えて好きなことを仕事にした伊佐さんでも、「こんなはずじゃなかった……」ということはたくさんあるようです。

「8割くらいは『こんなはずじゃなかった』って思ってます(笑)。実際に好きなことに足を踏み入れると、再発見もありましたし、ただ楽しいばかりではありません。むしろしんどいくらい。それに、現在は編集もやっていますから、企画や調整、進行管理や校正などの作業もあります。純粋なゼロイチの『書き仕事』は、もしかしたら1割くらいじゃないでしょうか。もっとライティングもしたいですし、『好きなことだけ書いていたい』という気持ちはもちろんあります。でも、誰かが求めているものを書かないと、仕事にはなりませんよね。『好きなことをする=嫌いなことをしない』わけではないですし、むしろ面倒なことのほうが多い。それでも、好きなことをするために、面倒くさいことほど絶対に手を抜かないようにしています」

さらに、納得できる仕事をするために、心がけていることがあるそうです。

「私は、『自分のやりたいこと』『得意なこと』『人に求めてもらう(喜ばれる、対価が発生する)こと』の交差点を探して、そこで仕事をすると決めています。この3つのどれかひとつが欠けてしまっても、満足感が薄くなってしまって、自分の中で納得感がなくなってしまいますから」

 

「納得して生きること」で切り開いていく「幸せな暮らし方」への道

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自分で人生を切り開きながら2つの夢を叶えた伊佐さんへ、「伊佐さんが考える幸せな暮らし方」をお伺いしたところ、「まだまだ模索中」とのこと。

「それでも、今は自分の未来を自分で組み立てていける実感があるから、昔よりはずっと満足しています。『幸せな暮らし方』はまだまだ模索中ですが、そこへ行くまでにどうすればいいのか、前よりは具体的に描けるようにはなりましたね。世界旅行は終えましたが、私は今でも国内を移動しながら暮らしているんです。近い将来、海外にも拠点がほしいなと。とは言え、『日常を築く美しさ』を知ったので、どのみち世界のどこかに本拠地は置く予定です。どんな選択をするとしても、それを『自分で選んだ』といえること。その自由を持続可能性のあるものにするために、実力をつけておくこと。これが大事なのかなと思っています」

自分の「好き」が明確であること、そこへ向かって惜しみない努力をすること。この2つが「幸せな暮らし」を得るうえで、とても大切なことではないでしょうか。

「私は、やりたいと思っていてもできなかった20代前半を過ごしてきました。もうずっと叶えたいのに叶えられない。それって、後悔すらできないんです。こうした期間があったからこそ、やって後悔するよりもやらないで後悔することが何より怖い。『残りの人生、今が一番若い』という言葉が私のモットーです。自分の『好き』に気付いたら、小さなことでもまずやり始めてみることが大切だと思います」

そう語る伊佐さんは、好きな仕事をしていく中で、もうひとつ大切なことは「仲間の存在」だと言います。

「自分のことだけだと、続けていくことに息切れしてしまうこともあります。仲間がいれば、誰かのために頑張れることもある。『好き』を仕事にすると、同じ仲間に出会えるんです。『移住女子』のコミュニティのように、それぞれがつながることで力になることもたくさんあります」

最後に、「幸せな暮らし」を見つけるためのヒントをお伺いしました。

「『好き』なことへ対して、きちんと発信をしていくことと、やり始めたらある程度は継続すること。あとは、いきなり飛び込むのではなく、少しずつ始めることです。夢だけでは食べていけませんから、徐々にスライドさせていくのがいいのではないでしょうか。『こうじゃなきゃ幸せではない』という定義はありません。自分の好きなことをやってみると、本当に人生が楽しくなります。多くの人とその気持ちを共有できたら嬉しいなと思います」

「これからもたくさんのことに挑戦していきたい」と楽しそうに語る伊佐さん。人生を自分の選択によって切り開き、「好き」を仕事にして生きていくことは、決して簡単なことではありません。しかし、自分の好きなことを見つけて、そこへ一歩踏み出してみることで、今までにはない新しい発見が待っているのではないでしょうか。

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