2017年9月8日 更新

個人事業の開業届と青色申告ってどうやるの?副業イラストレーター桧原朝美さんの体験談【後編】

初めての青色申告の様子を、詳細にリポートします!

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地方新聞社に勤務しながら、イラストレーター、デザイナーとして活躍する桧原朝美さん。前編では、起業に向けて様々な届け出をする様子を紹介しました。後編では、いよいよ初めての青色申告の模様をリポートしていきます。

 

イラストレーター・桧原朝美さん

イラストレーター・桧原朝美さん

 

申告当日までの道のり

 

会計ソフト、こんなふうに使っています

「毎月月末に、1か月分の領収証等を基に、会計ソフトに入力しています」

数ある会計ソフトの中で、桧原さんが採用しているのは「やよいの青色申告オンライン」。オンラインの名の通り、インターネットで利用できるいわゆる「クラウドサービス」で、アカウントを登録し、一定の使用料を支払うことで簡単に帳簿付けをスタートすることができるものです。

桧原さんが会計ソフト選びに重視したのは、価格だけではなく、パソコンとの相性だったそうです。というのも、仕事柄自前のパソコンはMac。対応しているソフトはそう多くはないんだとか。

「もちろん他のソフトもいくつか検討しました。MFクラウドとか、Freeeとか。でも、今は『やよい』で不自由していないし、当面変える気はないかな」

桧原さんより提供していただいた会計ソフトの画面

桧原さんより提供していただいた会計ソフトの画面

会計ソフトで帳簿付けする場合、ほとんどが「取引日を入力して、勘定科目を選択し、金額を入力する」という作業です。
前編でも触れましたが、面倒なのが「この取引の科目は何か?」を決定する作業です。星の数ほど…とは言いませんが、勘定科目はたくさんあり、そして取引のパターンもたくさんあります。この面倒な作業のサポートをしてくれるのも、会計ソフトの便利な機能です。
上記の画面では、右側に具体的例が、左側にそれが何の科目に該当するのかが表示されています。領収書や伝票を見ながら、これに沿って入力していけばいいわけです。
また、事業を継続して営んでいくと、よく使う科目、というのが絞られてきます。それらを「ホームページのお気に入り」のように「よく使う取引」として記憶させていくことも可能です。

 

手書きの帳簿派のお父さん

「桧原金物店」を営むお父さん

「桧原金物店」を営むお父さん

ところで、桧原さんのお父さんも生粋の自営業者。今回、娘さんが会計ソフトで帳簿付けをしていることについて、少しだけ感想を伺うことができました。

「もう何十年も手書きで帳簿付けしているから、特別不便だとは感じていませんよ」」

取材の中で、納戸に保管してあるお父さんの帳簿をこっそり見せていただきました。法律では7年保存、となっていますが、「47年」と書かれたノートも発見しました。苦楽を共にした相棒であり、自身の働いてきた歴史でもある帳簿、簡単に捨てられないというのは、「帳簿あるある」なのかもしれません。

 

決算整理を行う

帳簿付けにおいて、取引の記録は取引を行った日付で行うのが普通です。しかし、毎日の記録を正確にしていても、期末には帳簿の修正が必要になることがあります。また、1年に1回行うほうが現実的で、かつ効率的な場合もあります。次の8点は、決算整理にて修正が必要となる項目です。

  1. 現金過不足の処理
  2. 売上原価の算定
  3. 貸倒引当金の設定
  4. 売買目的有価証券の評価
  5. 減価償却費の計上
  6. 費用と収益の見越しと繰延べ
  7. 消耗品の処理
  8. 引出金の処理

例えば、「2.売上原価の算定」。
仕入れた商品が売れ残るケースを考えてみましょう。仕入れた商品を、「売れた商品」「売れ残った商品」に整理しなければいけません。「売れた商品」は当期の売上原価、「売れ残った商品」は繰越商品として来期に売り上げるものであることを記録していきます。
他にも、「消耗品を使ったものと使っていないものに分ける」といったような細かい作業もあります。

ちなみに、桧原さんは「デザイン」という職種のため、在庫の管理等はなく、実際に行ったのは「5.減価償却費の計上」、「7.消耗品の処理」の2点だったそうです。こちらも会計ソフトで処理できます。

 

青色申告決算書・確定申告書の作成

青色申告決算書

青色申告決算書には、次の4種類があります。

  1. 一般用…通常、多くの個人事業主はこちらの決算書を提出
  2. 農業所得用…農業を営んでいる個人事業主が提出
  3. 不動産所得用…不動産業を営んでいる個人事業主が提出
  4. 現金主義用…現金主義の申請を承認された個人事業主が提出
 (9760)

国税庁ホームページより青色申告決算書の様式がダウンロードできます(上は一般用)。
桧原さんより提供いただいた実際の青色申告決算書

桧原さんより提供いただいた実際の青色申告決算書

確定申告書

確定申告書は1式6枚で、この6枚には1枚目と2枚目の控えも含まれます。

桧原さんが利用している「やよいの青色申告オンライン」をはじめ、ほとんどのソフトに青色申告決算書と確定申告書の様式が入っています。日々の帳簿付けをしておけば、計算は自動で、プリントアウトもワンクリックで行うことができます。

なお、プリントアウトしたものを提出するのではなく、インターネットでデータを送って申告をすませる「e-Tax」という仕組みもあります。桧原さんもそのことは知っていたようですが…。

「自宅のパソコンで確定申告をしましょう、という通知も来たんですが…。自宅のパソコンで完結するには、e-Tax専用のカードとカードリーダーを用意しなければならないんです。カードを作るのは構わないんですが、わざわざ年に1回のことのために、カードリーダーをリースしたり購入したりする気にならなくて…。郵送か、税務署に直接行って申告することにしました」

 (9761)

こちらも国税庁のホームページより様式をダウンロードすることができます(上記は申告書B)。
「税務署からのお知らせがはがきで来たので、事前に税務署...

「税務署からのお知らせがはがきで来たので、事前に税務署で申告書をいただてきたんですが、会計ソフトを使用したら全く同じ様式が出てきたので、いただいた方は記念です」

桧原さんより提供していただいた実際の申告書Bと添付書類

桧原さんより提供していただいた実際の申告書Bと添付書類

確定申告の手引き(国税庁のホームページからダウンロードできます)には、各種控除について詳細に記載されています。
ちなみに桧原さんは勤務先の会社で年末調整を済ませていました。そこで受けた控除は、基礎控除、社会保険料控除、そして生命保険料控除。
青色申告することによって、青色申告特別控除も適用となりました。
控除にはこの他、医療費控除、小規模企業共済等掛金控除、地震保険料控除、寄付金控除、寡婦(夫)控除、勤労学生控除、障害者控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除があります。

もう一つ、桧原さんから興味深いお話が。

「実は、取材の依頼をいただいた1月中には、もう帳簿付けは終わっていたんです。勤め先から源泉徴収票も受け取っていましたし。ただ、ソフトの中の申告に関する書類が平成28年度版に更新されたのが1月末日で。それまでは確定申告の準備はストップしていました」

更新されてから申告の準備、バタバタしてしまいましたか? と伺ってみると、「ソフトの中に確定申告のフローがあったので、それに沿って作業できました」とのことです。

桧原さんより提供いただいた確定申告書の作成画面

桧原さんより提供いただいた確定申告書の作成画面

上の画面で、申告書のプレビューの赤くなっている部分が、入力している項目に関係している部分です。ここでは桧原さんが勤め先の源泉徴収票を基に、給与所得について入力しているのが分かります。
控除に関する項目を入力するステップも盛り込まれているので、該当する部分にチェックを入れていくだけで、控除の申請を行うことができます。
画面の上部にある9つの工程が終われば、準備完了。あとはプリントアウトするだけです。

桧原さんより提供いただいた会計ソフトの画面(提出書類完成時)

桧原さんより提供いただいた会計ソフトの画面(提出書類完成時)

 

いざ、確定申告!

確定申告は、通常最寄りの税務署で行うのが一般的です。また、郵送で行うことも可能です。その他、自宅のパソコンなどで行うe-Taxも普及しました。役場などに申告会場が特設されることもあります。国税庁のホームページで、署外申告会場を調べることができます。ただし、確定申告期間内常設しているとは限りませんので、ご注意ください。

 

税務署での申告を選んだ桧原さん

 (9748)

「2月16日が、偶然にも会社がお休みの日だったので、直接会場に出向くことにしました。」

パソコンで打ち出した確定申告書や添付書類、その他領収書をまとめた重量感のあるファイルを持参し、最寄りの税務署へ。
桧原さんは必要書類をパソコンで作成してから申告に臨みましたが、会場には「会場のパソコンで作成するコーナー」や、「会場にて手書きで作成するコーナー」なども設けられていたそうです。

「必要書類は全部持ってきた!さあ、何でも聞いてください!」という意気込みで、桧原さん、人生初の青色申告です!

「…3分くらいで『帰っていいですよ』と言われてしまいました。」

開業届の提出時と同じく、拍子抜けしてしまったそうです。提出書類数点をざっとチェックされ、完了。もっとも、桧原さんは勤め先で年末調整を済ませていたため、チェックする項目が少なかったのかもしれません。最後に、書類の一点を指して、「ここの金額が還付になると思っていてください」と言われたそうです。

※担当の職員さんがおっしゃった「還付」とは?

私たちは働いて給与(報酬)を得ています。そのうち、あらかじめ所得税として納める分を、源泉徴収という形で天引きされています。確定納税額を計算した際に、本来納めるべき税金が源泉徴収税額よりも少ない場合、つまり所得税を払いすぎてしまったときに返ってくるお金、それが還付金です。
給与所得のみの場合は、会社が年末調整をしてくれるので、確定申告をする必要はありませんが、高額な医療費が発生した場合や、住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合など、確定申告することによって還付申告ができるケースもあります。
(参考:還付申告|所得税|国税庁

桧原さんいわく、「イラストレーターやデザイナーは職業柄、源泉徴収の対象になる報酬が多い!」。
確定申告の書類をそろえる過程で、自身の事業には源泉徴収の対象になるもの(例:原稿料、挿絵、写真、デザインなど)が多いと気付いたそうです。

これから事業を開始しようと考えている方、また、事業を拡大しようと考えている方は、一度チェックしてみるといいかもしれませんね。(参考:報酬・料金等の源泉徴収事務|平成21年6月 源泉徴収のあらまし|国税庁

さて、確定申告で「還付がありますよ」と告げられた桧原さんのその後は?
申告からわずか数日後。還付通知書のハガキが届き、確認してみて「おおっ! 」と感動したそうです。

 

書類の保存期間と重要性

「平成28年度分の保管書類だけで、結構な量になりました。最長7年保管ということは、少なくともこのファイルが7冊になるんですね」

確定申告を無事に終えた桧原さん。どんな感想を持ちましたか?

「初めての青色申告、大きなミスなく終わってホッとしました。還付金もしっかり戻ってきたし、頑張ってよかったと思います。ただ、申告時にあんなに重いファイルを持って行ったのに、全く触れられなかったのは拍子抜けした感じになりました」

1年間、頑張って整理してきた領収書や伝票のファイル。見てもらえないのに、作成して5年、7年保管する意味はあるのでしょうか?

確定申告に関して保存する書類(控除額65万円の場合)は次の通りです。

  1. 帳簿:保管期限7年(総勘定元帳、出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など)
  2. 決算関係書類:保管期限7年(確定申告書、損益計算書、貸借対照表など)
  3. 現金預金取引等関係書類:保管期限7年(前々年分所得300万円以下の方は、5年)(預金通帳、領収書、借用書など)
  4. その他の書類:保管期限5年(注文書、請求書、納品書、見積書、検収書など)

確定申告が終われば、書類は不要になるのでは? なぜ5年、7年の保存が必要なのでしょうか。

例えば、作為的でないにしろ、申告の内容が間違っていた場合を考えてみましょう。その場合は、確定申告の期間が過ぎてからでも修正申告することになります。その際、根拠となる領収書や伝票など、取引の証明ができるものがなかったらどうでしょう。控除の対象となる証明ができなかったらどうでしょう。せっかく青色申告したのに、追加徴税が発生してしまいます。
また、事業規模が大きくないからまさか、と考えている方もいるかもしれませんが、過去の申告に対して税務調査が入ることも考えられます。
「5年、7年と決まっているから」仕方なく保存するのではなく、あなた自身の潔白を証明する大切な証拠であることを認識して、書類の保存に努めることが必要です。

 

確定申告は自分の仕事を冷静に見つめるチャンス

取材する中で、事業を営む人にとって、青色申告は必ずしも特別なことではないということが分かりました。

日々の取引を記録し、事業が健全に稼働しているかを定期的にチェックする。これは個人事業主だけでなく、すべての会社が行っていることです。
青色申告することによる特典は控除だけでなく、自身が抱えている事業を冷静に見つめる機会が持てるところにもあるのではないでしょうか。
また、事業が健全に稼働していることを公に認めてもらうことができれば、企業や自治体の入札に参加するなどの権利が与えられ、仕事の幅を広げることも可能です。

今回、初めて青色申告に挑戦した桧原さん。今後の活動について伺ってみました。

「私が関わっているのは町内の仕事がメインです。イラストレーションやデザインなどクリエイティブな仕事をやっている人や業者が少ない町なので、『こういうものも作れますか?』と、お仕事の打診がうれしいことにだんだん増えて来ています。打ち合わせから見積もり、取材、デザイン、制作、そして帳簿付けの仕事まで、全部1人でやらないといけないので、正直手が足りないくらいです。
でも、勤めている会社に籍がある以上、そちらもおろそかにはできないし、年齢的にも後進を育てていかなければいけません。今後も今の形でダブルワークを続けていくか、それともフリーランスとして活動していくかはまだ決めかねているところです。」

フリーランスのお仕事がある程度軌道に乗った今でも、自由に事業を営めるのは会社員として足をつけておける場所があるからだ、と語る桧原さん。
イラストレーター、デザイナーとして活躍しながら、会社員であり、母親であり、妻であり。
35歳にしてまだまだ可能性を模索する彼女を、応援したいと感じました。

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