住みたい場所・やるべき仕事は人とのつながりから見えてくる 兵庫県丹波市の魅力を発信する湯山加奈子さんに地方移住のコツを聞きました

人との出会いをきっかけに、それまで縁のなかった土地へ移住した湯山加奈子さん。現在は地域の魅力を伝え、移住を支援する仕事に携わるように。その体験と移住希望者へのアドバイスを伺いました。

湯山加奈子さんは、兵庫県丹波市に移住し、現在は地域の魅力発信や移住支援の仕事に取り組んでいます。元々静岡出身、東京でIT系の仕事に就いていた湯山さんは、当初他の地域への移住はまったく考えていなかったといいます。人のつながりからトントン拍子に話が進み、丹波市へ移住を決意。ご自身の経験から、移住を考える人への生活・仕事についてアドバイスを教えていただきました。

 

ライター

鈴木せいら
札幌市出身。横浜国立大学大学院工学修士修了。2007年夏より、函館へ移住。制作会社でライティング・編集業務を行い、実用書・フリーペーパー等のコンテンツ制作を担当、2011年よりフリーランスに。現在、「HELP YOU」プロフェッショナルライター。理系の知識を活かしたサイエンスやアカデミー系の文章から暮らしにまつわるエッセイ、インタビューなど幅広く手がける。

人とのつながりが 仕事へのつながりに

湯山さんは、静岡のご出身で、東京でお仕事をされていた?

そうです。高専で機械制御と情報の勉強をして、卒業後1年半は地元静岡のポンプを作る会社で機械設計をやっていました。
ただ、作業着が嫌で、転職して2年ほどカーディーラーの事務をしました。

20代後半になる前に「パソコンで仕事ができるようになろう」と思い東京に行きました。「一からプログラムを教えます」という会社があったので研修を受け、すぐにいろんな現場に出向いて仕事をしました。そのうちリーマンショックが起きて、経験の浅いエンジニアの仕事は一気になくなって。それからベンチャー企業、派遣、フリーランスと30歳までの5、6年東京でエンジニアの仕事をしました。

その頃、周りの友達から「結婚して出産したら仕事がない」という話を聞くようになって。でも絵が得意とか企画立案が好きとか才能があるのにもったいなくて、「HPを作ったりする仕事が家でできたらいいんじゃないか」と思ったんですね。私は東京のテクノロジー系コミュニティーに入っていたのですが、そこでも「これからはもっと田舎の農業やおじいちゃんおばあちゃんとの交流、地方で活かされるITができたら良いのでは」と話したりしていました。ある時そのコミュニティーで広島旅行に行く機会があって、そこで丹波市の若手市議の方と知り合ったんです。
私の考えを話したら、「じゃあ一回丹波に遊びに来てよ」と言われたのが3年前の4月です。

 

じゃあ、丹波に行くことになったのは偶然なんですね。

そうなんです。私は、東京で働いていつか静岡に戻るつもりだったので、他の土地は全然考えていなくて。丹波に初めて遊びに行ったら、もう市役所にアポが入っていました(笑)そして、「ママさんたちが仕事につながるスキルを身につけられるパソコン教室を始めてはどうか」という話を市役所の方達にしてほしいと言われたんです。でもその話が本当に進むなら、私は「東京や静岡の人が『教室やります』って言っても丹波の人にはピンとこないんじゃないか?」と思いました。それで、「もし本当に教室をやるなら、一年か二年丹波に住みます」と言って移住することになりました。

 

よく決断できましたね。

遊びに行った時に、その市議の方が丹波市でママさんたちの子育て支援をしているNPO法人Tプラスファミリーサポートの代表の女性や、後で入社することになる「株式会社ご近所」の代表など、キーマンとどんどん繋げてくれて。「これはやった方がいいんだな」と思いました。じゃあ数年なら住んでもいい、ただすぐには無理だったので「秋以降なら移住できます」と返事をしました。

その後「住む家が見つかったので来てください」と連絡が来て(笑)6月に行ったら、空き家を「シェアハウスとしてここに住んだらいいから」って言われて。それからまた8月に行った時には、「『株式会社ご近所』っていうのをやるから一緒にやろう」と、話が進んでいました。「株式会社ご近所」は丹波の魅力を発信したり、企画、デザイン、PRなどをする会社です。

地方での意外な忙しさ 刺激を求めて、東京と行き来する生活

最初の一年間は丹波市の魅力発信事業をやって、並行してママさん向けパソコン教室をTプラスファミリーサポートさんや地元のIT事業者さんと行いました。そこで丹波のママさんたちとのつながりもできました。毎月やっていたら参加者も40人ぐらいに増えて。参加者の方は「チラシを作りたい」という人もいれば、「入力の仕事をしたい」という人もいて、様々。ですから、しばらくはデザインコースと基礎コース、入力コースと分かれてやっていました。今は、Tプラスファミリーサポートさんが教室を請け負ってくれています。

 

面白いですね。移住して新しいことを始めるというと、自分で事業計画を作るみたいなところから始めるのかと思ってたんですけど。

全然! 流れのままに、です(笑)

 

今もシェアハウスに住んで、東京と丹波を行ったり来たりなんですか?

今は丹波に賃貸のアパートを借りて住んでいます。最初の一年間は「ご近所」の社員で、その後はフリーランスとして「ご近所」の仕事もやるし、他も色々。その後、去年の5月から8か月ほど、東京で週3勤務のプログラマーの仕事をして、行ったり来たりしていました。丹波に用事がない時は、地元の静岡に帰って。丹波にずっといるとどうしても頼まれ仕事が多くなって断れないのと、いつも田舎だと刺激が欲しくなって(笑)
その時は、東京ではドミトリーを契約して泊まっていました。忙しかったけど、気持ちの切り替えができて良かったし、楽しかったです。

今はその契約が終わって?

今はフリーランスとして、NPO法人giftで県の移住環流プロジェクトと、丹波の市民に向けた「TAMBA地域づくり大学」という生涯学習の仕事をしています。また、神戸のNPOで、兵庫県の商工会会員さんにITアドバイザーの仕事もしています。

 

住む場所を探す? 仕事を探す? 地方移住したい人がまずやるべきことは

今地方への移住は注目されていますし、「くらしと仕事」の読者には旦那さんの転勤で地方へというケースの方も多いと思うのですが、地方に転居・移住した時に自分に合った仕事を見つけるコツはありますか?

パソコン教室に来ていたママさんたちも、他の土地から丹波にお嫁に来た人が多かったです。知り合いがいなくて子育てをしていると、家に閉じこもりがちになりますよね。パソコン教室もそうですが、丹波ではTプラスファミリーサポートさんや他のママさんグループがよくママさん向けのイベントを開いたりしていて、人とのネットワークを作りやすい環境ができていました。そうやって、人とつながってネットワークを持つことができるといいんじゃないかと思います。

 

積極的に移住したい人に向けては、好きな場所を見つけて移住するのが先か、仕事を見つけてからじゃないと厳しいのか、どうでしょう?

移住を考えている場所にちょくちょく遊びに行って、人とのつながりを作っていくところからでしょうか。「自分はこういうことができる」というスキルも、人のつながりを通して知ってもらうことで、仕事へとつながります。

 

人と会うことで「自分にできる仕事」が見えてくる

湯山さんのようにどこでもできるIT系の仕事を地方でする人もいるし、その場所に密着した、地元企業に就職するとか農業をやることを選ぶ人もいると思うんですけど、どっちを選んだらいいと思いますか?

やりたいことがあるならそれをやればいいと思うんですけど。仕事を探すっていうよりは、人に会って自分にできることは何だろう?と考えていくと、それが仕事につながってくるのでは。あとはどうしても住みたいと思う場所があるのであれば、仕事を選ばなければ何かしらできます。丹波でもいろんな企業の人と話す機会が多いのですが、どこも人手が足りてないんですよ。本当は仕事って見えてないだけで、いっぱいあるはず。

 

どういう人材が地元企業には求められていますか?

工場もあるし、接客もある。多分都市部の人が思ってるクリエイティブな仕事は、自分でつくっていける人にしか向いていないと思います。
どんな職種でも必要とされることができること、自分で考えて動く人を経営者の人は望んでいるようです。

忙しく駆りだされることで 移住後の土地に馴染んでいけた

都会と比べて地域性や人付き合いも多くなってくるかと思いますが、うまくやるコツはありますか?

丹波で生活し始めて「すごい忙しいな」と思ったんですよ。(株)ご近所の仕事もして、夜はだいたい付き合いがあって。それは(株)ご近所の社長が丹波にUターンした人なので、いろんな出会いをさせてあげよう、という考えがあったからというのもあったと思いますが。最初に住んでいたシェアハウスでは自治会にも入っていたので、その付き合いもあって。

 

自治会は、年齢層なんかはどんな感じでした? 元々地元の人が多いですか?

丹波市春日町古河という村だったのですが、自治会は地元の人たちばかりで、おじさんが多かったです。村の中で役をやってる人は50~70代。

 

そこで役割を与えられるわけですか?

特別な役割があるわけではないのですが、月に一回の奉仕作業は村みんなが出る決まりになっています。あとはお葬式の手伝いとか、新年会、お祭り。そういうものに顔を出して、村の人には可愛がってもらいました。あとは、自治会で村の農業を考える有志の団体ができて、そこで作ったスイカを畑で採るイベントをしたりしました。

 

今までお聞きしたようなことは、独身かファミリーか、男女の違いなどで変わってきますか?

変わってくると思います。丹波はシェアハウスが多く、私が行った時は既に二つ三つあって、若い男の子たちが住んでいました。3年経ってそのリーダー格だった男の子たちが結婚し、今はそれぞれが拠点を持って暮らしている感じです。ひとりで来る人はものすごく忙しく過ごしているケースが多いけど、結婚して家族で来る人たちは自分のペースを守って生活していたりもします。

 

移住先を決めるときのアドバイスはありますか?

あまり過大な理想を持って行くと、住んでからがっかりするんじゃないかという気がします。どうしても行きたい場所があるなら、「多少は色々なことがあっても受け入れよう」と覚悟を決めて行くのがいいと思います。特に行きたい場所がなければ、誰か知り合いができたとか、ちょっとしたきっかけを広げていけたらいいのではないでしょうか。

取材後記

「特に丹波が好きで住みだしたわけではなかった」と、さらりと話す湯山さん。ですが、人とのつながりができたことで「自分のやるべきこと」ができ、今では丹波が湯山さんにとってとても愛着のある場所になっているということが伝わってきました。移住を成功させるには、人とのつながり作りが大切で、地方での生活に理想を持ちすぎない方が良いようです。移住後のきっちりとした計画は、それほど必要ないかもしれません。丹波に興味を持った方は、田舎で暮らす魅力や丹波地域で自分らしく生きている人の生き方を伝えていく場「たんば・ひとアカデミー」というイベントに参加してみてはいかがでしょうか。大阪、神戸、京都、東京などで開催されています。