2016年11月14日 更新

治療と仕事の両立は身近な問題。女優・生稲晃子さんが「働き方改革実現会議」の議員を務める理由

がんや大病を患った場合に、仕事と生活はどうなるのか。現状と今後の可能性について解説します。

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政府は10月24日、第2回目となる「働き方改革実現会議」を開催しました。

この日の議題は主に5つです。

  1. 柔軟な働き方(テレワーク、多様な就業形態、副業等)の在り方
  2. 多様な選考・採用機会の提供
  3. 病気治療と仕事の両立<
  4. 障害者の就業環境整備の在り方
  5. 働き方に中立的な社会保障制度・税制の在り方及び女性が活躍しやすい環境整備(リーダー育成など)

その中でも安倍首相が「今回力を入れたいテーマ」としたのが、「病気の治療と仕事の両立」でした。日本では、身近な家族ががんになった人や、「いつかは自分もなるかもしれない」と思っている人はとても多いでしょう。しかし、がんになってしまったら、仕事と生活はどうなるのか、具体的に考えたことはあるでしょうか? 今回は、このことについて現状や今後の可能性について解説します。

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なぜ生稲晃子さんが起用されたのか

「働き方改革実現会議」には、元おニャン子クラブのメンバーで女優の生稲晃子さんが議員として参加しています。

生稲さんは、2011年に乳がんの告知を受けてから、2度の再発、再建も含めて5回の手術を受けています。女優として仕事を続け、子育てもしながらの治療でしたが、キャリアを失うことを恐れて5年間公表を控えていたそうです。このことについて、9月27日の「第1回働き方改革実現会議」の後、記者に向けて

「やはり、自分ががんであるということを隠しながら仕事をされている方たちがいっぱいいらっしゃる。告白してしまうことでキャリアというものを失ってしまう方たちが、それを恐れて黙って一生懸命、仕事と治療を続けていらっしゃる。
同じ経験をした者として心が痛むんですね。だから2人に1人ががんになるといわれているこの日本で、がんに対する偏見というのも、まだまだあるのかなと思うと、そのあたりがこれから改善されていただけたらと思って、そこで私が、何か自分の経験が生かせたらいいなというふうに思っているんです。」

と語られているように、ご自身の経験から、がんや大病を患っても働きやすい環境作りなどの面で意見を出すことが期待されています。

「がん」は日本人の2人に1人がなる身近な病気

がん情報サービスの『最新がん統計』によると、生涯でがんと診断される確率は、男性63%、女性47%です。

『がんに罹患する確率~累積罹患リスク』(2012年デー...

『がんに罹患する確率~累積罹患リスク』(2012年データに基づく)

2人に1人はがんになる可能性がある、とても身近な病気だということがわかります。

では何歳ぐらいからがんになるリスクが増えていくのでしょうか?

『がん罹患率~年齢による変化』

『がん罹患率~年齢による変化』

男女ともに50歳代から増加していることがわかります。働き盛りのうちに、また子供が大学進学等で教育費がかさむタイミングで罹患したら、治療と仕事の両立を望むケースも多いでしょう。

近年では医療の進歩により、生存率は大きく向上しました。がんにかかっても早期発見や適切な治療により治るケース、また、短期の入院や外来で治療を受けながら仕事や通常の生活を続ける人も増えています。「がんになっても働き続けることができる時代」に変化しつつあるのです。

闘病しながら働くための壁とは

しかしながら、一昔前の「不治の病」、「長く入院するもの」というイメージは未だに強く、職場でがんを公表して戦力外通告を言い渡されるケースも少なくありません。

政府は6月にまとめた「1億総活躍プラン」に「障害者、難病患者、がん患者等の活躍支援」を掲げており、治療と職業生活の両立支援を行っていくとしています。これは、医学的には治療しながら働くことはできるようになってきていますが、環境が整っていないことの裏返しといえるでしょう。

国のがん対策推進協議会委員の若尾直子さんも、がんを発症した時は職場に隠していたそうです。

2001年、ドラッグストアに薬剤師として勤務していた。子どもの教育費もかかるし、人生設計も狂うし、仕事を続けることが当然だったから、「がんの治療をするなら、少し仕事量減らしましょうか。フルタイムの勤務を半日にしたら」と言われるのが恐ろしくて、職場で言えなかった。

がんに関するアンケートで「現在の日本社会では、働きたいと思うがん患者を受け入れる職場環境になっている」について「非常にそう思う」「まあそう思う」という回答は2割程度です。若尾さんのがん発症当時から15年が経過していますが、がんになってしまった社員を積極的にサポートしていこうという企業側の意識はまだまだ低い状況であると言えるでしょう。

『がんと就労白書 2015-2016』

『がんと就労白書 2015-2016』

がん患者が仕事を続けていくために必要な職場のサポートとは?

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実際にがんになって、仕事を続けている人が利用している職場の支援制度としては、以下の様なものが挙がっています。

・傷病休暇の取得

・時短勤務の選択

・時間単位での有給休暇の取得

・特別傷病休暇制度(有給休暇外)

・社員全員ががん保険に加入

『がんと就労白書2015-2016』

『がんと就労白書2015-2016』

職場のサポートと言っても、社員の病状が詳しくわからなければどのような仕事ができるのか判断が非常に難しく、企業の負担も大きくなってしまいます。そこで、今回の会議で生稲さんは、職場のみではなく「主治医、会社、産業医・カウンセラーのトライアングル型のサポート体制」が必要であることを提言し、こう語っています。

まず、罹患した社員から、業務内容、勤務時間、通勤時間などを記載した書面を主治医に渡します。それを参考にして主治医が現在の症状とか治療内容、今できること、できないことなどを詳しく書いた意見書のようなものを作って患者である社員に戻します。それを会社に提出しまして、会社が産業医・心理カウンセラーと当人を交えてその意見書をもとに仕事と治療の両立ができるよう労働内容とか時間などを決定した書類を作成する。その治療状況によってそれぞれの書類というのは見直し、変更可能といったそういうものなんですけども、こういった体制を。ぜひシステム化していただきたい

企業と医療機関の連携に関しては、今回の会議で塩崎厚生労働大臣からも触れられており、厚生労働省が「医療機関向け企業連携マニュアル」を新たに策定し、研修を行うとのことです。

また、厚生労働書は2月に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。これは、事業場が、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎などの疾病を抱える労働者に対して、治療と職業生活が両立できるようにするための取組などをまとめたものです。このガイドラインには法的な拘束力はありません。しかし、今後は「1億総活躍プラン」や「働き方改革実現会議」での議論を経て、法制度が整えられていく可能性もあります。

実は、今の職場にも闘病中の方はいるかもしれません。無知による偏見をなくしていくためにも、身近な問題として注目していきたいところです。

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