2017年9月8日 更新

事前連絡なしで働きたい日に働く。フリースケジュール制のパプアニューギニア海産工場長インタビュー

事前連絡なしに、出勤日・欠勤日を自分で決められる「フリースケジュール」という制度が話題になった「パプアニューギニア海産」の工場長 武藤北斗さんへのインタビューです。

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先日SNSで、こんなつぶやきが注目を集めました。

株式会社パプアニューギニア海産の工場長 武藤北斗さんの投書を紹介したTwitterのつぶやき。

大阪にある「パプアニューギニア海産」という会社の工場長による、朝日新聞への投書の内容に、多くの人が驚いたのです。

なぜなら、子育て中のパートさんが主に働いているというその工場では、「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」という制度をすでに3年も続けているそう。また、今年からは「嫌いな作業はやらなくてよい」という取り組みも始めたとのこと。(投書の内容は、パプアニューギニア海産のブログに全文掲載されています。→「好き」を尊重して働きやすく 朝日新聞声欄掲載

働く側にとっては、「なんて自由で気楽な会社!」と思えるかもしれませんが、「そんなことで仕事は回るの?」というのが多くの人が持つ疑問ですよね。(参考:Togetterで色々な人の反応がまとめられています。 「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」システムを確立した工場長の話にさまざまな声が集まる )

そこで、この投書をされた武藤北斗工場長に実情を聞いてみました。

 

株式会社パプアニューギニア海産 工場長の武藤北斗さん

株式会社パプアニューギニア海産 工場長の武藤北斗さん

 

事前連絡不要 いつ出勤・欠勤してもOK! の実態は

- パプアニューギニア海産さんは、もともと宮城県石巻で営業されていたところ、震災後に大阪に移られたそうですね?

はい。創業当時は東京だったのですが、震災の7年半前に宮城に移っていました。そして2011年の震災で工場は全懐しましたので、大阪に移転して会社を再建することにしたんです。

 

- 移転前の石巻では、何人くらいの会社だったんですか?

社長以外に社員は3人、パートさんが25人くらいですね。今は、社員2人にパートさんが10人くらいですので、だいたい半分くらいの人数でやっていることになります。

 

- エビの輸入、加工、販売をしている会社ということですが、パートさんの仕事はどういう内容なんでしょう?

原料であるエビは冷凍保存していますので、それを解凍してパン粉を付けてエビフライにしたり、むきエビとしてパック詰めにしたりといったことと、商品の発送の為の梱包や事務作業、工場の前にあるお店のスタッフも兼ねています。

 

- パートの方は、持ち場を分担するのではなく、すべての作業を覚えるのでしょうか?

そうです。作業自体は1〜2週間やれば覚えられるものです。作業をしながら「今はあっちの作業に回ったほうがいいな」とか、そういう風に気づけるようになるのには1〜2年かかりますけどね。

工場での作業の様子

工場での作業の様子

- エビフライを作ったり、むきエビにしたりという作業は、手作業で?

はい。元々「手作業を大事にしたオーガニック食品の販売」ということを大事にしていて、機械化などはしていないんです。それがあったからフリースケジュール制がやりやすかったということはありますね。

 

- 機械のペースに合わせるのではなく、人数によって作業量を調整できるということですね。
何人のパートさんが来られるかはその日になってみないと分からないということですが、皆さんどのくらいの頻度で出勤されているのでしょう?

「社会保険に入りたくないので週3〜4日」という人が多いですね。社会保険に加入している人は週4〜5日来る人もいますし、逆に月に2〜3回という人もいて、それぞれですよ。

 

- ブログには出勤人数が0人という日もあったと書かれていましたが、「明日は来てくれるだろうか?」と心配になりませんでした?

いや、逆に「明日はたくさんくるだろう」と予想して作業の準備をしたんですよ。実際は普通の人数で、その次の日は全員来ました(笑) でも、1週間単位で見るときれいに平均化されるので特に困ることはないです。「今日は何人」とか目くじら立てるほうが疲れるんです。

 

- 休みが重なる傾向というのはあるんですか?

みんな近隣から通っているので、運動会みたいな学校の行事はだいたい同じ頃にあって、そういう時期は来る人も少なくなったりしますね。ただ、全員に小学生の子どもがいるというわけでもないので、誰も来ないということはないです。あとは、すごく天気が悪い日とか。この間も台風で東京は大変だったみたいですけど、そんなときに一生懸命自転車をこいで来る必要は全くないですよ。ただ、それでも来る人はいるんです。今年のゴールデンウィークは月曜日だけぽつんと営業日で、まあ誰も来なくてもいいかと思いつつやっていたら3〜4人は来ましたね。それぞれ生活していく中で「これくらいのお給料をもらいたい」とか家庭の用事だとかがあって来る来ないを決めているので、僕らが予想するのにも限界があるわけです。

 

- なるほど。パートさんは時給制だから、稼ぎたい分だけ自分で調整しているということなんですね。
会社としては、「この日はどうしても来てほしい」ということもあるのでは?

「この時期は多めにでてもらえると嬉しい」とか、逆に「今はたくさん休んでもらって大丈夫」とか、そういうことは伝えています。みんなできる範囲で協力してくれていますね。出勤予定とか休む理由とかを聞くというのは、それだけでプレッシャーになっちゃうと思うので、しないようにしています。

 

「嫌いな作業はやらなくてよい」「帰る時間を選べる」…、パートの声も取り入れて働きやすい環境を試行錯誤

- 「嫌いな作業をやらなくてよい」という制度もすごいですよね。「全員が嫌いな作業」というのがないからうまくいっているということですが、たまたま出勤する人が少なかったりすると、誰もやりたがらない作業というのが出てきてしまうのでは?

可能性としてはありますね。そういうときはその部分を社員がやるか、来ている人にお願いしてやってもらいます。フリースケジュールにしてもこれにしても、そういう(「好きを尊重する」という)考え方でやっていますということが大事なのであって、絶対に嫌いな作業をさせない、ということではないんです。

月に1度、各自がとても好きな作業にマル印、とても嫌いな...

月に1度、各自がとても好きな作業にマル印、とても嫌いな作業にバツ印を付けるという形でアンケートを取っている。

- 他にも、「帰る時間を選べる」とか「体調が悪い場合はそれを表明する」とか、いろいろなことを試していらっしゃいますね。こういうアイデアはどこから出てくるんですか?

自分自身子どもがいますので、生活する中で気づくこともあれば、みんなから「こうしてみたい」と言われることもあります。思ったことを気軽に言えるような雰囲気を作るのが大事ですよね。なにか言われても、無理であれば「それはダメでしょ」と笑って不採用にするぐらいがいいと思ってます。

 

- なんでも「検討します」と受け入れるわけではないんですね。

「言ったことは絶対に取り上げる」だと責任が重くなるから気軽に言えないと思うんですよね。あと、「あなたが言ったということはみんなに黙って、試してみましょう」ということもありますよ。「あの人はでしゃばりだ」とか、そういう意見て絶対出てくると思うので。
そういう意味では、僕は人を信用していないということになるのかもしれないです。でも、今の良い状態はちょっとしたきっかけで崩れ始める可能性はあると思っているので、これをどう維持していくかということは常に考えているんです。
嫌いな作業をやらないというのも、それによってすごく品質があがるし、管理もしやすいので、僕としてはぜひとも続けたい。続けるためにはどうすればいいかをいつも考えています。

 

社員が無理してパートに優しくしているわけじゃない

- 品質が上がるというのは、具体的にはどういうことなんでしょう? 商品のできに違いが出たりするんですか?

商品の良し悪しは全然変わりますよ。お客さんからも、リアルに「良くなった」と言われます。

 

- 加工品の味って、そんなに変わるものですか?

どこのものかよく分からない原料で、薬品もたくさん使って、機械で作る、というのだと差は出ないかもしれないですが、うちはオーガニックにこだわって手作りでやっているので、いかに鮮度の高いまま商品にするかというところが、すごく味に関わってくる。チームワークが良くなると一気に味が良くなるんです。

 

- なるほど。チームワークが良くなったと感じるのはどんなときですか?

楽しく働いているかというのは、みんなの表情に出るし、声の張りとか動きも全然違います。これはここで働いている人にしか分からないことですが、工場に入った瞬間の雰囲気とか空気感が全然変わりましたね。僕も、すごく居心地が良くなりました。昔は、なんだかどんよりした感じで工場にいるのは嫌だな、と思ったり、自分も信用されていないような空気を感じたりしていたのですが、今は僕も従業員も、両方気持ちが良いのではないでしょうか。

 

- フリースケジュールで月に数回しか来ない人もいるということでしたが、そういう人はチームの輪に入りづらくなったりしませんか?

それは、なくはないでしょう。ただ、月に数回しか来なくてもOKにしているので、良いと言われていることをやりにくい雰囲気にはならないように、かなり気をつけています。例えばうちはよくミーティングをするんですけど、あまり来ない人がいる前で、僕が冗談半分で「この人は月に1回しか来ない時もあるけど、みんな優しくしてくださいね〜」と言ったり。そういう人が繁忙期にはいつもより多めに来てくれる人だったりするので、そういう面をみんなに伝えたり、いづらくなったりしないように、しつこく話すようにしています。

従業員とのミーティングの様子

従業員とのミーティングの様子

- フリースケジュールとか、嫌いな作業はやらないとか、パートの方は嬉しいでしょうけど、その分社員の方にしわ寄せが来ているということはないですか?

皆さんそう思わるようですけど、僕は管理する仕事が全部なくなったので、すごく助かっているんです。シフトを組むという仕事も必要ないし、誰かが休んだといってイライラすることもない。従業員が辞めなくなったから、求人広告を出す作業も経費もいらなくなりましたし、新人さんを教育する時間も取られません。何年も働いてくれていれば、みんな自然と上手に速くなっていくので、いいことばっかりですよね。

 

- もう一人の社員の方はどうですか?

彼はフリースケジュール制が始まってから入社したので、これが普通でしょうね。出勤した人数によって原料を調製するという仕事は大変と言えば大変かもしれないですけど、負担というよりは仕事の範囲内と捉えられるのではないでしょうか。

 

- 業績の面でも、効果が出ていますか?

売上は横ばいで人件費は下がっているので、効果は大きいですよ。うちの取り組みはもっと注目されてもいいと思うんですけど、マスコミさんに取り上げられないのは、「売上が右肩上がり」という分かりやすさがないから、面白くないんでしょうね(笑)

 

パートの時給に差はつけない。競争よりも安心して協力し合えることを重視

- フリースケジュール制を始めたのは、武藤さんが工場長になられた時からだそうですが、どういう理由があったのでしょう?

その当時、従業員が自分の会社を自慢できるような会社になっていないな、と感じていたんです。「こんなにいいんだよ」と人に言いたくなってしまうような会社になれば、みんなが気持ちよく働けるし、効率も上がるんじゃないかというアバウトなイメージがあって。

 

- 「何となく良さそうだな」と思っても、なかなか一気に変える勇気がある人は少ないのではないかと思いますが、うまくいくと確信していたんですか?

はい。それに、変えるなら一気に変えないとダメだと思ったんです。それまでやっていた工場長が辞めるということになって私に交代した日から、ガラッと変えました。その時点から全然違う会社になるような感じで、みんなに接しましたね。

 

- 以前はパートさんの入れ替わりが激しかったということですが、今はどうですか?

僕が工場長になったときはパートさんが13〜14人いたんですが、やっぱり僕のやり方に納得できない人もいて、何人か辞めました。それ以外の人は今にいたってもずっと残っていて、新しい人は入っていないという状況です。
だから、「フリースケジュール制を成り立たせるために、採用時点でかなり気をつけているんじゃないか」ということも言われるんですけど、そういうわけではないんです。フリースケジュールを始める前からいた人たちなので。

 

- 以前より人数は減ったけれど、売上は保てているということなんですね。

今の人数はちょうどいいと思っているんですけど、もうひとりふたり増えてもいいかな、という気もします。年末とかの忙しい時には「忙しいよ」とみんなに言ってあって、そうするとみんなができる範囲でちょっと多めに出てくれたりするんですね。カチッとシフトを決めていると、忙しい時に人を増やさないといけなくなるんですが、こういうやり方だから繁閑に適応できるんです。だから、少し増えても減っても、あまり関係ないわけです。

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- パートさんの時給については、技能をたくさん身につけたり、指導ができる立場になると昇給する制度をとっているところも多いですが、御社ではみなさん一律の時給なんですね。

世の中にはそういう評価の仕方があってもいいと思うけど、僕はやりたくないんです。時給に差を付けたり、特別な役割を作るから競争や争いが生まれると思っているので。
こう言うと社会主義的と言われたりしますけど、もしそうなら、社会主義の良い部分を使っているんだろうと思うんですよね。競争することよりも気持よく働くことを優先したいと思っている人たちにとっては、これは変なことじゃないはずです。 それに効率という面から考えると、ひとりの人がすごく早かったとして、その人がものすごく嫌な人だとすると、そういう人がいることで全体の作業がめちゃくちゃ遅れたりするんです。全体を見たら、その人がいないほうが効率が良かったりする。だから「作業が速い」ということは特に評価しません。
「速い上にすごく親切」という人がいたらそれはいいですけど、そういう人は速さを評価した昇給を望むわけではないと思いますしね。
パート長を作らないのも、みんなが「作ってほしくない」と言うからなんですよ。もし役職とかそれによる給料の違いを作ってしまうと、「あの人はパート長だから、この仕事をして当たり前」とか、「自分は給料が低いからやらなくていい」といったことが出てきてしまうので、そういうことにはしたくないと。

 

- ブログに「同一労働同一賃金」についての考えも書いてあって、とても興味深く読みました。同一労働同一賃金の論争から考えたこと

僕自身は政府が言っていること、やっていることが良くない方向に行っているんじゃないかと感じているんです。「非正規雇用」が悪役になってしまっているようですが、僕の中では非正規雇用そのものは悪いことではないし、非正規を正規に近づける意味はないと思っています。今の制度の中で、何らかの理由があって非正規を選ぶ人もいて、その人達が非正規雇用の利点をどう活かして働いていけるかを考えていかないといけないんじゃないでしょうか。
僕が投書をしたりしてうちのやり方を世間に伝えようとしているのは、今マイナスとして捉えられているようなことでも、逆の展開をするといくらでもプラスに変えられるということなんです。具体的なやり方は、それぞれの会社とか業種によって全然違うでしょうけど、固定概念を取り払っていくことが大事ですよね。従業員が働きにくくなっているような縛りだとか、そういうマイナス要素を取り除いていくことが重用だと思うんです。

 

- お忙しい中、詳しいお話をありがとうございました。もし何か言い残したことがあれば。

最後にお願いなのですが、是非うちの商品を買っていただきたいんです。うちに限らず、いろんな取り組みをしている会社さんがありますから、それがいいなと思ったら、ぜひそこの商品を買ってください。それが、良い取り組みを継続していくために必要なことなので、そういう応援の仕方もあるということを知っていただきたいですね。

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