2017年9月14日 更新

我が子が「学童にいきたくない」と言い出した日 「子どもの権利」として放課後の居場所を【カエルチカラ・プロジェクトVol.2】

日本における子どもたちの「居場所」とは

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(この記事は「LAXIC」より転載、編集しています。)

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〔本原稿は、カエルチカラ・プロジェクトの一環として「なかのまどか言語化塾」に参加した女性たちが書いたものです。ライターや専門家ではなく、問題の当事者が当事者自身の言葉で発信することで、社会への問題提起や似たような立場に置かれた方々への情報共有を目指しています。編集協力:中野円佳〕

「学童に行きたくない」と息子が言い出した日

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「狭いと心も窮屈になる」

息子から名言が飛び出したのは小学3年生の6月。それまでお世話になっていた学童保育に「行きたくない」と言い出した。

学童保育は第二の家庭とも言われているが、息子が通っていたのは小学校の空き教室1.5部屋を利用したかなり窮屈な狭小学童。先生達の事務スペースも更衣室も無く、給湯室を含めて99㎡しかない。その施設面積から算出した定員は60名(99㎡÷1.65㎡/人)に設定されてはいたが、自治体の条例で定員を超えても3年生までは受け入れる仕組みで、多い時には80名近い子どもが在籍していた。

この年齢の子ども達がやる事と言えば、ゴロゴロしながら本や漫画を読んだり、大好きなレゴに夢中になって巨大な作品を作ったりすること。でも、それが出来るスペースはもちろん無く、おやつの時間には子ども同士の肩と背が触れ合う程にひしめいていて、限界を超えて子どもが詰め込まれていた。

保育園では2歳以上は1.98㎡/人の保育室の確保が義務付けられているのに対し、学童保育は1.65㎡/人が努力義務。その算出の仕方も保育園と比べ曖昧な上に、体も動きもダイナミックになっている小学生の方が狭いと言うのは何故なのか私には理解出来ない。そんな劣悪な環境だったので、息子の気持ちも手に取るように理解でき、学童保育退所を受け入れざるを得なかった。

行き場所がない

学童保育を退所後、息子は行き場を求めてウロウロする日々が続いた。友達と遊ぶ約束をしてきても時間すら決めず、待ち合わせ場所も広大な公園のどこと指定するでも無く下校してくる事がしばしば。公園へ行ったものの友達と会えずにトボトボと帰宅する事もあったし、会えるまでウロウロと歩き回り、そのうち違う友達に出会って遊ぶ、という事も多かった。

そんな繰り返しの日々の中、息子も逞しくなっていった側面もある。まず、友達と時間と場所を決めて遊べるようになった(当たり前のように感じるが、小学生男子にはかなりハードルが高い)。約束を取り付けられなかった時は学校配布の連絡網が活躍し、電話をして遊び相手を確保する事も出来るようになった。

しかし、冬を迎え、公園で遊ぶ事も限界を感じるほどの寒さがやってくると、「自宅で遊んでも良いか」と尋ねてきた。以前、マンションエントランスに子ども達が集まり学校に苦情が入った話を聞いていたので、その申し出を断ったら…と不安に感じ、私が在宅勤務をしている日限定でOKとした。すると、気づけば我が家が学童保育のようになっていた。

こっそり息子の部屋をのぞいてみると、押し入れの上段・下段それぞれに2,3名が、他にも4,5名の子ども達。ゲームをする子、レゴをする子、おやつを食べておしゃべりに興じる子、とそれはそれは楽しそうにそれぞれが過ごしていた。その人数に最初はギョッとしたものの、とても幸せな光景を久々に見た気分だった。

でも、本来ならこの光景は地域のどこかにあるべきもので、閉ざされた子ども部屋で繰り広げられるものでは無いのでは?と違和感を覚えた。 野球やサッカーを思う存分出来る公園も少なくなり、放課後、子どもが元気に遊びまわる姿を見る機会は減った。

息子が通う小学校の目の前にはザリガニや沢蟹が生息する小川があり、クワガタもハクビシンも居る自然豊かな山が公園としてあるものの、死角が多く危険との理由で小学生は子どもだけで立ち入る事を許されていない。そう考えると、その行き場の無さに愕然とした。

閉塞感ただよう環境

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そうなるとやはり、子ども達は学童に集うしかないように感じる。でも、 学童保育は共働きなど保育に欠けると認定された子しか所属できないので、子どものコミュニティの分断が引き起こされる。

さらに、息子の通っていた学童保育は希望すれば6年生まで入れる事に条例ではなっているものの、定員を超えても入れるのは3年生まで。必然的に4年生以上は学童保育待機児童となる。そうなった際には全児童対策事業「放課後子ども教室」に切り替えるよう促される。

学童保育と全児童対策事業の違いについて簡単に書くと、学童保育は地域とのつながりを大事にする歴史もあり、子ども達が小銭を握りしめてコンビニへおやつを買いに行ったり、公園や高齢者施設へ行ったり地域と関わりを持つ活動がある。一方、全児童対策事業では校門を出る事すら許されない。

中・高学年となり、興味関心は広い世界へと向いていくのが自然と思うが、夏休みなどの長期休業で1日の大半を過ごすのに学校から出る事すら許されない。そんな閉塞感漂う状況では行きたがらなくなるのは目に見えている。

では、児童館はと言うと、私が住む地区には残念ながら子どもの足でパッと行けるような場所に児童館は無い。無いなら作ってもらう事は出来ないかと、児童館新設を行政に何度も懇願しているものの良い返事は一向に来ない。

また最近では、総務省が打ち出した公共施設等総合管理計画の影響もあり、小学生は児童館を利用できず、未就学児と中高生の居場所として機能分化させようとする自治体もある。児童館からも小学生は追い出されそうになっている悲しい現実だ。

小学生は学校の中にだけ縛り付け、狭い世界で友達と仲良く遊べていればそれで良いのだろうか。私はそうは思わない。同級生はもちろん、上下学年の異年齢の子ども達、地域の様々な大人とのコミュニケーションを通し、人が備えておくべき「生き抜く力」を育む大切な時期では無いだろうか。

「夢のような居場所」はないのか

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その大切な時を安全安心だからと学校の中だけに押し留める事は、子ども達を守っているようでいて、大事な育ちの場を奪ってしまう事に繋がると感じている。学校でいじめられている子はきっと校門を入る事すら躊躇うに違いない。小学生の居場所が学校だけで良いはずが無い。

どこへも行き場が無く八方ふさがりに見える子ども達。どんな場があったら、子ども達は楽しい放課後を過ごす事が出来るのだろう。

パッと頭に浮かんだのは「ドラえもんに出て来る土管のある空地」。友達と遊びたいと思い立ち、行ってみれば誰かは必ず居るような開かれた安心感のある空間。寒さも暑さもドラえもんが道具を出してくれるからしのげてしまう。そんな夢のような居場所があったら…。

とは言えここは現実社会。ドラえもんは居ない。でも、そんな夢の場所に近い場所は存在しうるのだろうか。

池本美香 編著『子どもの放課後を考える~諸外国との比較で見る学童保育問題~』に、その夢の場所に近い、諸外国での子ども達の居場所について書かれていたので、かいつまんでご紹介したい。

諸外国の事例

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子育て先進国と言われているフランスでは、課外活動支援のひとつ「余暇センター」が地域社会や施設と連携し美術館訪問・遠足など多様なプログラムを提供する事で子ども達の育ちを支えているそうだ。

“余暇”と言われてもピンと来ないが、日本の学童で行われているような宿題の手助け、学習監督、外国語教育は余暇に相当せず、食事と休息の時間を含み、集団で生活しながら自然・社会・文化に関する諸活動を行うこととされており、2歳から17歳まで利用できる。給食も提供され、遠足などセンター外での活動の際はお弁当も支給される手厚い内容となっている。

日本と同じく少子化対策が急務となっているドイツでは「デイ施設」が設置されている。この「デイ施設」、元々幼稚園だったそう。3歳以上5歳まで対象の幼稚園が保育園機能・学童保育機能と拡充し年齢区分の無い施設となっている。

また、デイ施設以外にも「多世代の家」と呼ばれる乳幼児から高齢者まで、あらゆる年齢層が利用できる交流型施設の設置を政府が推進しているし、子どもから高齢者まであらゆる年齢層が受講できる「音楽学校」も子ども達の居場所の一つとなっているという。

「学力世界一」のフィンランドでは希望する全ての子どもが、親の就労に関わらず利用できる学童保育に加え、子どもの居場所として90年以上前から「レイッキプイスト(児童公園)」が定着している。職員が常駐し、無償で食事提供を行っているところもあるそうだ。

また、地域図書館も大事な居場所の一つとして位置づけられている。子ども達の社会的疎外の予防を目的としてさらなる放課後事業の拡充を目指しているそうで、その理念が何より素晴らしいと感じた。

なーんだ、諸外国では、子どもの“育ち”を第一に考えて、ちゃんと夢の場所を作ろうとしていたのか、と目から鱗だった。

なぜ日本でできないのか

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日本でも、プレイパークなど子どもの居場所づくりとして自治体毎に様々な取り組みをしているようだが、政府主導で子どもの“育ち”を第一に、日々の子ども達の居場所を確保していこうと言う動きはないように見える。

フランスの「余暇センター」、フィンランドの「レイッキプイスト」など、子ども達が自分のやりたい事を自由に選択でき、それを受容してもらえる場は日本では児童館がその役割を果たしているのかもしれない。でも、残念ながら前述した通り縮小傾向で全ての子に平等にその機会が与えられている訳でも無い。

そんな中、全ての子どもが利用出来るような場を、きちんと予算を割き整えられたなら、そこは土管のある空地となるであろう。一定の距離感を持った見守りがあり、その温かな見守りの元、豊かな放課後を過ごした子ども達は生き抜く力を育めるであろう。

温かな見守りを確保するには見守る側のソフト面の充実も大事だ。学童保育指導員の平均年収が約200万円。それは情熱を搾取する事で成り立っている事業と言わざるを得ないし、ボランティア頼みの事業も個人の情熱に頼る所が大きく持続可能とは言えない。楽しくイキイキと活躍している大人との継続した関わりを通してこそ、子ども達は将来に対して夢や希望を持つはずだ。

地域の中に点在する土管のある空地。様々な年代が集い、子ども達はそのコミュニケーションを通して学校では学べない大事な何かを得るだろうし、大人たちも子どもを介して緩やかに繋がれれば地域も活性化する。まさに一石二鳥だ。

その為に今すぐ出来る事。それは、 学校の中だけでなく、保育園、幼稚園、図書館、役所の出張所など、あらゆる所に子どもの居場所を確保する事。選択肢は多ければ多いほど、子ども達は自分で自分に適した居場所を見つけ出すだろう。自ら考え主体的に選ぶスキルは生き抜く力の一つになるはずだ。

「子どもの権利」としての居場所確保

先に紹介した諸外国では、子どもの居場所を考える事と保育を考えることが同義となっているようだ。また、 保育を受ける権利は「子どもの権利」として認められており、希望する全ての子どもが享受できる環境となっている。保護者の就労状況に左右される「親の権利」では無い。保育と聞いて、就労している保護者の元に居る保育に欠ける子ども達を想像しがちな日本とは捉え方が大きく異っている。

なぜそのような意識の差が生じているのかと言えば、政府が子どもの“育ち”を考える必要性を実感し、その育ちの場として保育を位置づけているからであろう。なぜ必要性を実感しているかと言えば、子どもの育ちを考える事は、国の未来を考える事だからだ。

OECDのデータによると、全教育期間に対する公財政支出の対GDP比は、日本は加盟国34か国中6年連続最下位。子育て世代なら痛感していると思うが、日本は子育てに関わる予算を割こうとしていない。 [OECD調査から読み解く日本の教育環境は?]

子ども達への投資は日本の未来への投資でもある。今、日本でも子ども達の居場所を“育ち“の視点から真剣に考えるべき時を迎えているのではないだろうか。地域のそこら中から子ども達の“のびのびと響き渡る”笑い声が絶えず聞こえてくるような、そんな未来であって欲しい。子ども達の声がしない地域に活気に満ちた明るい未来は無いはずだ。

*この文章内の学童クラブは放課後子ども総合プランの放課後児童健全育成事業を指します。また、全児童対策は同プラン内の放課後子供教室を指します。両事業の運用については各自治体により異なります。参考:放課後子ども総合プランについて

<参考:池本美香 編著『子どもの放課後を考える ー 諸外国との比較で見る学童保育問題』(勁草書房)>

(著者)渡邊寛子

福島県出身。東京都新宿区在住。大学卒業後、製薬会社の営業職(MR)として勤務。単身赴任中のMR(他社)の夫、小4男子、4歳女子、2歳男子の5人家族。長男出産後半年で復職後から時短にて勤務。長男の学童問題を契機に保育に興味を持ち、保育園・学童の保育の質向上の為に活動中。目の前の問題を言葉にして解決への一歩を踏み出すことを目指す“カエルチカラ・プロジェクト”の「なかのまどか言語化塾」一期生。

カエルチカラ・プロジェクト」は、目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすことを目指すプロジェクトです。

女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで、少しでも改善の一途につなげたい。「どうせ変わらない」という諦念、泣き寝入りから「問題を解決できる」「社会は変えられる」と信じることができる人が増えることを願っています。

発起人: WILL Lab 小安美和、研究機関勤務 大嶋寧子、ジャーナリスト 中野円佳

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