北海道に住みながら東京の会社で働く。場所に制限されないリモートワークは働くママの味方

IT業界ではリモートワークの導入により、時間に制限のあるワーキングマザーが活躍できる場面が増えてきています。東京のラフノート株式会社でリモートワーカーとして働く中山亜子さんは、北海道に住む小学生の二人のママ。仕事が大好きな中山さんがフルタイム+残業のある働き方だった地元企業から、リモートワークができる会社へ転職した経緯や、今後の活動について伺いました。

インタビュアー(ライター)

サリー 富多
20歳の娘の母で、美人髪コンサル、ファッションスタイリスト、フォトグラファー。子育て真っ最中や、これから子どもを産みたい女性が自由に働けるよう、すでに実現している女性たちをご紹介していきます。

めちゃめちゃ苦労した、シングルマザーとしての再就職

“ラフノート株式会社

中山さんは北海道のご出身で、ご結婚や就職、起業をすべて道内でされていますが、北海道を離れる選択肢はなかったんですか?

なかったですね。北海道では、特に女性は外に出ていくというのが少なくて、結婚して旦那さんの転勤などで引っ越すとかがない限りは、実家のあるところで暮らす方が多い印象です。

今まで、5、6社の会社で就職の経験があるそうですが、転職のきっかけは、キャリアアップされたいという思いからですか?

はい。最初の職場が一般事務だったんですが、そこで働いている年上の女性たちが生活の為だけに働いていて、あまり仕事が好きじゃないように見えたんです。お酒を飲むことだけが生きがいみたいな感じになるのはすごく悲しいなと感じて。それで、自分は手に職を持ちたいと思い、ITの会社に就職したんです。

ITの専門知識は、専門学校で学んだんですか?

独学ですね。パソコンを触るのが好きだったので、プログラマーとして、初心者でも勉強させてもらえる会社をとにかく探して、独学と実践で覚えていきました。最初にキャリアを積ませてもらった会社はとてもいいところで、上司も素晴らしい人で、生き方、仕事に対する考え方も教えていただきました。とても居心地のいい会社だったので、逆に独立した時に一人で働けるだろか?と思い、転職したんです。

IT業界で働いている時にご結婚、出産をされたんですか?

はい。私は働くのが好き過ぎて、子育てと仕事の両立は絶対できないと思い、結婚して子どもが生まれて仕事を辞めたんですね。ブラック企業じゃないけど、それまでは残業100時間も受け入れて仕事をしていたので、その環境で時短にして子育てと両立させるのが考えられなくて。ある程度子育てが落ち着いたら復帰したいと思っていました。その後にパートナーが起業するということになって一緒に小樽に行きましたが、経営方針の違いでシングルになり、再就職しました。

再就職はスムーズにできましたか?

めちゃめちゃ苦労しましたね。子持ちで正社員採用は難しく、「子どもはどうするの?」とまず聞かれます。子持ちのシングルマザーよりも、独身の女性を雇いたい会社は多いです。履歴書はかなりの数を送りましたが、その段階で落とされる事が多かったですね。

最終的に決まった会社は、理解があったんですか?

はい。伸びていこうとしているベンチャー志向の会社だったので。こちらも、それまでとは違って履歴書や職務経歴書を工夫したんです。とにかく見てもらう、目に留めてもらうということを意識しました。自分でデザインして年表みたいなものもを作ってお送りしたら、それが社長の目に留まって、「これすごくいいね」と。そこからまた、フルタイムで働くことになりました。

その時お子さんはおいくつだったんですか?

小学校2年生と4年生でした。学童はすごく嫌がり、留守番していました。近くに私の両親が住んでいたので、晩ご飯を作ってもらったり、私が仕事で遅くなる時は子ども達に実家で過ごしてもらいました。近くに両親がいてとても助かりましたが、「宿題はやったの?もっとドリルをやりなさい」と、おじいちゃんおばあちゃんに言われる回数も増えてきて、それからあまり実家には行かなくなりました。一年半くらいその生活をしてきましたが、フルタイムで残業もあるので大変でした。仕事から帰ってくる時間が9時過ぎで、それからご飯を作ったりしていたら、子どもは待ちきれずに、ご飯も食べずこたつで寝てしまう事も多かったですね。小さいうちはおとなしく待っていてくれるけど、今後中学生になり、思春期を迎えた頃に親が家にいないと夜遊びをするかもしれない。その時、自分はちゃんと子どもと向き合えるのかと考え、ちゃんと働き方を変えないとダメだと思ったんです。

子育てのことを考え、リモートワークの道へ

“ラフノート株式会社

それで在宅で働ける会社を探し始めたんですね。一般的な就職サイトではなく、「Wantedly」で探したとのことですが、違いはありましたか?

他の一般的な就職のメディアって本当に正攻法しかないんです。履歴書を送り、面接、試用期間がある一般的な流れしかなくて、リモートワークできますとか、その人のバックグラウンド関係なく採用します、という会社はほぼなかったですね。Wantedly(ウォンテッドリー)では、お試しで働きながら価値観が合えば採用という会社も多かったのが、大きく違いました。

会社を探すにあたり、リモート可の他に気を付けていたことはありますか?

まず、リモートというキーワードを軸に、お試しで働かせてくれる会社を探しました。これまで色んな会社で働いてみて、求人広告の内容と実際が違うという場合もあるのは分かっていたので。まずは一緒に働いてみて、自分の働き方を見てもらい、私も会社内の雰囲気や働いている人たちを見てみると、そこで初めてお互いの価値観が合うかどうかがわかりますよね。

お試し期間はどれ位設けたんですか?

一応採用前提で、現職を辞めるまでお試しで働き、問題なければそのまま行きましょうという話になったので、会社を辞めるまでの2カ月は勤務時間の後や、会社の空き時間に働きました。

お試し期間の仕事と、本採用後フルタイムになってからの仕事の内容は違いますか?

フルタイムになったら量は多くなります。仕事は細かいタスクに分かれているので、誰がいつ入ってきても、必ずすぐできるタスクがあるんですね。最初はそういうタスクを任されたりしていました。フリーランスの方に仕事をお願いしたりもしているので、その方の他の仕事とのバランスも保てるような配慮ですね。

今の働き方になって課題や必要なスキルはありますか? 社内での学びや発見は?

リモートワークのためのツールを使いこなせるか、社内のコミュニケーションをちゃんと取れるかは大事です。あとはタスクを仕上げる、成果物を出す、など細かく決めるのが大切ですね。今、いい状態で廻る仕組みが社内でできているので、それを見ながら真似していく感じです。

子ども達は、母親が自宅で仕事をしているのが嬉しいようです

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仕事と育児のバランスは、前職と今とではかなり違いますか?

前職では8時間労働の他に残業もたまにありました。帰宅してから晩ご飯を作っていたので、寝るのは遅かったですね。それから、下の子が新体操をしていて遅くまで練習があり、付き添いをすると家に帰ってくるのが夜9時や10時という時もあったので、子どもとの時間が少なかったですね。今はリモートワークで働いているので、朝8時開始で5時には終わります。でも自宅でやっていると、終業後もつい働きすぎちゃうんです。一緒に働いている方たちの稼働時間が夜も多く、そのレスポンスや指示をしないといけないので、ずっとチャットワークを見てることも多いです。

逆に8時から5時の終業時間は、ずっと仕事に集中しているんですか?

子どもの学校の用事やイベントなどがある時は中抜けします。あとは子どもの習い事で地下鉄に乗って遠いところまで行かないとなので、それも付き添いをしています。練習している間、私は近くのカフェで仕事をしながら待っています。他の親御さんは車で送迎する方が多くて、その場合は一度家に帰ったりもできるのですが、私は車の免許を持っていないので、フルタイムの時、練習の間は長い時間(ときには6時間も!)何もせずにずっと体育館で待っていたんですよ。今はパソコンとインターネットさえあれば、どこでも仕事ができるので空き時間をすごく有効に使えますね

リモートワークに変わって、家事の時間も増えましたか?

今は仕事に集中しているので、母にご飯を作ってもらったりしています。今の働き方で余裕ができたらもっと色々やりたいと思うので、時間管理が今の課題です。

今は試行錯誤なんですね。でも帰ったらうちにお母さんがいる環境になり、お子さんたちの反応は何か変わりましたか?

とても喜んでいます。朝ちゃんと私に見送ってもらえて、帰ってきたときにも私が家にいるのはとても安心するみたいで嬉しいって言っています。話したい時に話せるし、「こんなことがあったんだよ」とか、親が仕事中だとは分かったうえで、話せるというのがいいみたいですね。

全国の女性に、「在宅ワーク・テレワーク」など色んな働き方の選択肢があることを知らせたい

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リモートワークを広めていくための「リモートワークジャーニー」という活動を始められましたね。始めた経緯や、これからやりたいことを教えてください。

リモートワークジャーニーは、ソニックガーデンという会社を経営していて『リモートチームでうまくいく』という本を出版された倉貫義人さんの、出版記念のイベントのお手伝いをする、というのが始まりでした。私自身リモートワークを始めて、もっと地方の方にもリモートワークを知ってほしいと思い、全国を回ってつないでいくものを何かやったらどうでしょうと提案しました。当初、地方のリモートワークを導入している企業やワーカーに登壇してもらったり、パネルディスカッションをしてもらおうと考えていましたが、それだと参加者は聞いて終わりになってしまうので、みんなでアイデアを出し合うフューチャーセッションという形式でやることになったんです。その中で、私自身もお話をすることになったんですが、それは以前、前職の同僚ママさんたちに私自身のリモートワークの話をしたらかなり影響があったからです。「通勤しなきゃいけない」、「札幌に住んでいるなら札幌の会社でいなくちゃいけない」という固定概念を捨てていい、と経験者の私が話すことで、「出勤しなくていいんだ?もしかしたら私にもできるかもしれない!」と会社を辞めて転職した人もいるんですよ。
困っていたり、課題として悩んでいる女性が多いので、背中を押してあげたり、こんな選択肢があるんだよと伝えられたらいいなという思いがすごく強くて。

今回のリモートワークジャーニーは札幌、東京、福岡の3ヶ所で行われましたが、今後も続けていくのですか?

はい、ずっと続けていくことを目標にしています。世の中の慣習が変わっていくのって、10年くらいかかるだろうと倉貫さんは言っているんですね。今後この活動を続けていき、企業側にも女性たちにもリモートワークをもっと認知してもらいたい。今のように、まずリモートワークを採用している企業を探さなくちゃいけないではなく、「自分はリモートワークで働こうか」という選択肢が当たり前にある、という形にしたいです。

取材後記

シングルマザーとしてフルタイムで働いていた時は、二人のお子さんの子育てとの両立も本当に難しかったと思います。ただ嘆くだけではなく、自分と価値観の合う会社を探し当てリモートワークを始めたバイタリティーを持つ中山さん。今後はその行動力でリモートワークジャーニーの活動を続け、全国の悩めるママさんの後押しはもちろん、リモートワークが当たり前の世の中を実現してくれそうですね。

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