2017年9月7日 更新

「残業代ゼロ制度」をめぐる議論から私たちが受け取るべきメッセージとは

注目の「高度プロフェッショナル制度」の内容とその意味について解説します

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iStock.com/Krzysztof Nahlik

最近、ニュースや新聞で目にする「残業代ゼロ法案」。

「働き方改革」「休み方改革」で、“長時間労働やめよう”、“生産性高めよう”、“ライフのクオリティも高めよう”と言われ、そこに、「残業代ゼロ法案」。

残業削減のタテマエのもと、残業代の概念すらもなくしてしまうということ?

――と、そのまま受け取ってしまうと何だか恐ろしげなこの法案、正式名称は、「高度プロフェッショナル制度」といいます。今回は、この法案の内容と、それが議論になっている理由を解説し、私たちとしてはそこからどんなメッセージを受け取るべきなのか、考えてみます。

 

 

 

高度プロフェッショナル制度、通称「残業代ゼロ法案」の中身

「高度プロフェッショナル制度」は、ある限定された対象者について、労働時間の管理や規制から外しましょうという法案です(「残業代ゼロ法案」は通称です。名付けた人は、この法案に対してすごく言いたいことがあるということですね)。

現在政府が検討している骨子案より、「高度プロフェッショナル制度」のポイントをまとめると、

● 時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにすることが目的(…というのが政府の主張ですが、「成果に応じて給料が支払われる」ことを約束する制度ではないため、報酬が上がらないままもっと働かされる、成果を求められる、という状況を懸念する声も多いです)

● 対象は、高度専門職(対象業務は具体的に限定、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、コンサルタント業務、アナリスト業務、研究開発業務などが挙げられていますが、まだ検討中)

● 年収要件は、1075万円以上

● 残業という概念なし(とはいっても、長時間労働防止、健康管理維持のために、勤務インターバルや勤務時間の上限、最低休日数などは盛り込まれる)

● 時間外・休日労働協定の締結や、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務などの適用は除外

にわかに「残業代ゼロ法案」と話題になる一方、職種は限定、年収制限もあり、実は対象となる方はかなり少ない印象です。

また、管理職(労働基準法上の管理監督者)や、裁量労働制の適用可能な企画業務や専門業務に従事する方など、既に労働時間の管理や規制から外れている対象は存在します。だから、「既に時間管理の枠外の方は一部存在しますけど、環境変化に沿って新たに対象を加えますよ、広げますよ。」が、法案のメッセージです。

 

時間に対しての給料と、成果に対しての給料の違い

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iStock.com/ChristianChan

この法案の内容と、それをとりまく状況を理解するために、人事制度(ここでは特に評価や報酬の支払い方の考え方)における時間と成果の捉え方についての話を少ししたいと思います。

どのような人事制度を作るかは、仕事内容とのマッチング(基本的にはこちらが主)と、会社としての方向性・価値観とで決まるのですが、こんな二つの考え方で整理されます。

ペイフォータイム(Pay for time):「働いた時間=成果との連動が強い」とし、働いた時間に対して、報酬を支払う

ペイフォーパフォーマンス(Pay for performance):働いた時間に関係なく、創出した成果の大きさに対して、報酬を支払う

私自身の経験で、もう少し具体的に説明します。

最初に勤めたリゾートホテルは、シフト制の勤務でした。仕事内容は、フロント周りの仕事(チェックイン、アウト、ゲストサービス、予約電話対応など)。

それぞれ、一定の型のあるオペレーショナルな仕事を時間単位で割り振られます。まずは、その場に居ることに必要性と発揮価値があり、その箱をより多く埋めればその分の対価が支払われます。経験やスキルによってもちろん成果に差が出ますが、それは時給の差に反映されました。

まさにペイフォータイムの仕事であり、職場です。

その後転職した先のコンサルティング会社は、ペイフォーパフォーマンスの世界でした。

コンサルタントとしての仕事は、型やオペレーションとはかけ離れた仕事で、一定時間かければよい仕事ができるという訳でなく、個々の経験、スキル、専門能力、発揮行動次第で成果が変わります

ずいぶんドライな言い方ですが、職場に長時間居ること自体には仕事の価値は認められず、必要な場面において出した成果こそすべて。「その仕事に投下した時間(量)ではなく、仕事の成果(質)に対して報酬を支払うよ。だから、生産性を上げるよう、より短い時間で良い仕事ができるよう、成長しましょう。」
と促されました。

正直、残業時間を気にして働く人はほとんどいませんでした。成果を出すために必要な時間を必要なだけ投下していました。

 

「残業代ゼロ法案」だと反対が起きている理由

「高度プロフェッショナル制度」は、「ペイフォーパフォーマンスがマッチする仕事を担う職種(個々の裁量の幅が大きい職場であることも前提)」についての話をしています。その中でも、むしろ時間管理や規制のない方が働きやすいし成果も出しやすいし、セルフマネジメントもしやすいだろうと感じている人たちに対して時間管理を外そうとする流れと、それに猛烈に反対する流れがある という構造です。

私はこの話題に触れ、法案の内容について調べる中で、最初は反対意見が過剰な反応にも感じましたし、何だか悪意のある通称を名付けたものだとも思いました。

でも、反対意見もわかります。この原稿を書いている間にも、長時間労働から心も身体も不調となり、自ら死を選ばれた方についての報道を目にしました。このようなことが起こってしまう現実がある以上、時間管理の概念を取り払うことの怖さは強く感じます。いかに優秀で、セルフマネジメント力があるとされる人材であったとしても、個人に任せすぎることの限界やリスクは残るでしょう。そもそも、労働時間が適切に管理されていない状況が多く見受けられる中で、やはり時間管理を取り外すような流れ自体に、「反対!」と、言いたくもなる。

 

未来の仕事のあり方に備えて受け取るべきメッセージは

ただ、少し未来に目を向ければ、

型のあるオペレーショナルな仕事、つまりペイフォータイムの考え方がマッチするような仕事は、今後AIが担っていく流れがあるのは事実です。私たちは、型のあるオペレーティブな仕事ではなく、もっと創造的な仕事に就いていくことになるのです。

この法案と、法案を取り巻く状況について考察するなかで、賛成反対の議論もありますが、その議論とは別に、一人ひとりが、時間、生産性、パフォーマンスに対する意識や行動を「変えていく必要があるよね」という大きな流れがあることを、受け取めていく必要があると感じています。

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髙橋 玲衣 髙橋 玲衣